“2.5次元舞台“にハマった35歳の男性ライターが、その魅力を伝えるべく熱弁をふるってみた──ゲームやアニメの世界が広がる至福のエンタメ

 ロビーに溢れ返る女性、女性、女性。バッグにペンライトを忍ばせ、オシャレにめかし込んだ女性たちが今日も劇場を賑わせている。
 2.5次元舞台【※】の主要な観客はほぼ女性。その中で男性の僕は、これが『ウォーリーをさがせ!』なら2秒で見つかるレベルで浮いている。
 だが、一抹の居心地の悪さも何のその。2.5次元舞台に通うことは、すっかり僕の日常になっている。

※2.5次元舞台
漫画・アニメ・ゲームを原作とする3次元の舞台コンテンツのこと。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会では、音楽や歌を伴わない作品でも“2.5次元ミュージカル”として扱っている。

 じつを言うと、最初は2.5次元舞台というものに若干偏見まじりの目を向けていた。日本人とは思えない派手な髪色のウィッグをつけ、色とりどりの照明を浴びながら舞台上で歌い踊るイケメンたち。これって本当に面白いのか……? そのうちシャンパンタワーとか出てくるんじゃないの……? 
 根っからの陰キャな僕は、まばゆすぎるその世界に対し卑屈な視線を送ることで、気にならずにはいられない心の平静を守っていた。

 それがいくつかの2.5次元舞台にふれるうちに少しずつ心が傾きはじめ、ある日、突然、その深すぎる沼にどぼんと浸かることになる。その決定打となったのが、舞台『メサイア-翡翠ノ章-』(2015年5月上演/CLIE)。

 高殿円の小説『メサイア 〜警備局特別公安五係〜』【※】を原作とする同作に僕は心が焼き尽くされるような苦しさと浄化を覚えた。

(画像はCLIE-TOWN / 【メサイアー翡翠ノ章ー】DVDより)

※小説『メサイア 〜警備局特別公安五係〜』
2010年に角川書店より発行された小説。著者は高殿円(たかどのまどか)。以降、メディアミックス化の原作・原案としてこの小説が軸になっている(現在は講談社より発行されている)。2011年に、月刊「月刊Asuka」にてコミカライズ作品『メサイア-聖域蝟集-』の連載が開始。現在は「メサイア・プロジェクト」として舞台、映画、ドラマCD、イベントなど多種多彩に展開されている。世界から軍隊が消えて10年がたった世界。かつての軍隊は諜報機関として姿を変えていた。両親が惨殺された海棠鋭利と御津見珀は、スパイ養成機関“チャーチ”にはいり、生徒(通称:サクラ)として鉄の掟を守ることになる。しかし、チャーチで相棒(メサイア)を組んだ存在との間では掟を破ることが許されており……。メサイア同士がみせる究極の絆が話題となり、今日まで多くのファンを虜にした作品。

 以来、どんどん2.5次元舞台に通う頻度が増え、ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」(2015年11月〜12月上演)で完全にハマり、今では2.5次元舞台がないと生きていけないただのオタクになり果てた。

 そこで、なぜ男の僕がそこまで2.5次元舞台にハマったのか。実体験をもとに2.5次元舞台の魅力を解説してみたい。

 「2.5次元舞台って、ゲームとなんの関係が?」と思う方もいるかもしれない。しかし、じつは原作がゲームの舞台作品は多いのだ。中にはチケットが発売すぐに売り切れ、“観たくても観られない”大人気作品まであり、ゲームとは切っても切れない関係にある
 だからこそ、「2.5次元舞台ってよくわからないんだよな」という方は、その魅力を知り、女性はもちろん男性たちも2.5次元舞台にハマっていただきたい。

カプコンから発売されている法廷バトルアドベンチャーゲーム『逆転裁判』シリーズも舞台化されている。「異議あり!」の名セリフももちろん健在。

文/横川良明


実写化と2.5次元舞台の違いは、脚色と忠実性

 2.5次元舞台の観客層は大別して2種類ある。まず、原作ファン。大好きな漫画やゲームが舞台でどのように描かれるのか。その全貌を見届けるべく、不安と期待を抱えながら劇場に足を運ぶファンたちだ。

 つぎに、推しが出演するから観劇しにきた俳優ファン。この場合、原作は舞台化されるまで知らなかったということも多く、観劇までの間に漫画を読んだりゲームをプレイしたり、予習に勤しむケースが多いのが特徴。ちなみに僕はこちら。

 ただ、2.5次元舞台を観たことがない人に、いきなり俳優を入り口に魅力を説明しても、やや取っかかりにかけると思うので、まずは原作ファンサイドからみた2.5次元舞台の魅力についてふれてみる。

 そもそも2.5次元舞台をざっくり定義づけると、「漫画、アニメ、ゲームなどを原作とした舞台作品」のこと。いわゆる平面の2次元コンテンツを、生身の役者という3次元によって表現することから自然発生的に「2.5次元」と呼ばれるようになったわけだが、まったくこのジャンルに知識のない人からすれば、「それって『漫画原作の映画やドラマ』とはどう違うの?」というのが、自然な疑問だと思う。

 だが、その答えにこそ2.5次元舞台の熱狂の一因が隠されている。そこでまずは2.5次元舞台と実写化作品の違いから、2.5次元舞台の魅力を探ってみよう。

(画像は一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会|JAPAN 2.5-DIMENSIONAL MUSICAL ASSOCIATIONより)

 まずわかりやすく2.5次元舞台と実写化作品の違いを示すために、どちらのジャンルでもコンテンツ化されている原作を題材に取り上げたい。最も顕著なのが、枢やなの人気コミック「黒執事」【※】だろう。

※「黒執事」
2006年から「月刊Gファンタジー」(スクウェア・エニックス刊)にて連載が開始された漫画。作者は枢やな。これまでにアニメ、映画、舞台化されている。また、海外にもファンが多い。作品の舞台は19世紀末の英国。ヴィクトリア女王の裏のしごとを請け負うアクの貴族ファントムハイブ家の執事であり悪魔のセバスチャン。呪われた運命に立ち向かう若い当主シエルとの契約のもと裏社会の事件を解決していく。セバスチャンの「あくまで執事ですから」というキメ台詞が有名。

 「黒執事」の実写化作品としては2014年、水嶋ヒロ、剛力彩芽らを迎えた映画『黒執事』
 一方、2.5次元舞台としては2009年に松下優也、阪本奨悟が主演を務めたミュージカル「黒執事」があり、その後も定期的にシリーズを重ね、直近では2017年末より2018年冬にかけて古川雄大、内川蓮生らによってミュージカル化されている。

  この両者の違いは非常に明快だ。

 まず主人公であるセバスチャン・ミカエリスのヴィジュアルについて。枢やなの描いたセバスチャンのヘアスタイルは、センターと両サイドの耳元に垂らした長い髪が特徴。

(画像は黒執事(1)|スクウェア・エニックス e-STORE | スクウェア・エニックス e-STOREより)

 ミュージカル「黒執事」でセバスチャンを演じた松下優也や古川雄大はこれを忠実に再現。衣装も限りなく漫画のイラストに近い燕尾服を身にまとっている。

 セバスチャンと契約を交わしているシエル・ファントムハイヴには、原作設定の年齢である12~13歳に近い俳優を抜擢し、ストーリーも原作の人気エピソードを切り取るかたちだ。

 一方、映画『黒執事』のセバスチャンは水嶋ヒロ本人の髪質を活かしたくせ毛。衣装も原作のイメージを発展させた近未来的なデザインになっている。

 また、シエル・ファントムハイヴに関しては、その役自体が無く、剛力彩芽演じる幻蜂清玄という男装の令嬢が登場。ストーリーも原作から約130年後を舞台とした完全オリジナルストーリーだ。

 このように原作の世界観をできる限り忠実に表現することに重きを置いたミュージカル「黒執事」の2.5次元舞台と、原作の世界観を借りてまた別の地平を目指した映画『黒執事』の実写化。これは決してどちらが良くて、どちらが悪いという話ではない。

 実写化は、脚色された世界観を味わえるだけでなく、俳優の個性が役に加わることで作品の幅が無限大に広がりを見せてくれる。
 また、原作から解釈を発展させていることもあり、初めて作品にふれる人も事前知識なく楽しむことができ、そこから原作を手に取る人もいる。
 とはいえ、原作ファンにとっては、オリジナル要素の追加、キャラクターの性別といった驚きの展開が待っていることもあり、実写化ニュースは驚きで包まれるものだ。

 一方、2.5次元舞台は一にも二にも原作重視。原作のあの名台詞を、あの名場面を、どうやって舞台上で表現するか。その一点につくり手たちの愛と情熱が注がれている。
 どの作品もすべてそうとはもちろん断言できないが、まずは原作ありき。必要以上の改変は行わず、原作の綿密な監修を受けながら製作が進められているため、その再現率は舌を巻くばかり。

 こうしてみると、実写化と2.5次元舞台はそもそも“伝えたいものが違う”ということがわかる。漫画やゲームなどの作品好きを公言する“原作ファン”たちが、2.5次元舞台の魅力にハマりっていくのは、ファンたちにとって舞台の作り手が同じ視線で作品を見て表現してくれるという安心感があるからなのかもしれない。

役者がキャラクターにどう“寄せるてくるか”という楽しみ

 さて、その忠実さから原作ファンを虜にする2.5次元舞台だが、アニメやゲームに登場する個性豊かなキャラクターを、舞台という限られた空間で役者がどう具現化するのか……。それを観るのも楽しみのひとつなのだ。 

 2.5次元舞台に出演する俳優たちは、まず原作を読み込み、自身の役を研究するところからスタートするという。
 2.5次元舞台ではこれを「寄せる」と呼ぶが、役を自分に寄せるのではなく、自分を役に寄せていくのが2.5次元舞台の基本的な演技スタイル。
 わかりやすく言うと、「自分が表現したいキャラクター」ではなく、「みんなが見たいキャラクター」に近づけていくようなところがある。

※男性にも女性にも大人気のスマホアプリゲーム『Fate/Grand Order』(TYPE-MOON)も「Fate/Grand Order THE STAGE」として舞台化され人気を博している。

 たとえば、映像作品のように、パブリックイメージの定着した有名俳優が役を演じると、どうしてもその俳優の色や個性が前に出てしまう。
 しかし、2.5次元舞台の俳優たちは、カメレオンというよりも、無色透明。舞台上で自分というものを消し、作品ごとに役に染まりきれる俳優ほど人気を集めていく。

 もちろん中にはこうした「寄せる」作業を重視していない人たちもたくさんいるし、独自の解釈をブレンドすることでより一層キャラクターの魅力を膨らませられる魅力的な俳優も数多くいるが、はっきりと言えるのは、2.5次元舞台のベースには「原作へのリスペクト」があること

 そして、舞台化などのメディアミックス展開が可能になるまでコンテンツを育て上げたのは、他ならぬファンであることをよく理解した上で、ファンの期待を裏切らない作品をつくることこそが、2.5次元舞台のスピリットだと彼らは心得ているように感じる。

※中国のオンラインゲーム会社NetEaseが配信をしているスマホアプリゲーム『陰陽師』。全世界で2億ダウンロードとファン層が広く、舞台は東京公演のほか、中国の深セン、上海、北京で公演された。

 原作を愛するファンと、原作にリスペクトを払う作り手。両者が高い熱量でマッチングしたことにより、昨今の2.5次元舞台ブームが生まれているのだ。

コマ割りもカット割りもない2.5次元の世界

 とはいえ、原作を忠実にトレースするだけなら、最初から原作を楽しめばいい。わざわざ3次元にする必要があるのか、という穿った見方もできる。確かに言われてみればその通りだろう。だが、そこにこそ2.5次元舞台の人気を解き明かす重要な手がかりがある。

 2.5次元舞台には、原作に忠実だからこそ到達できた、2次元では体験できない3次元ならではの感動があるのだ。

 漫画を読むとき、僕たちはコマの外に描かれている世界は想像するしかない。アニメになって連続的な動きが可能となったとしても、カット割りがある以上、僕たちの目にふれるのは画面の中だけ。そこにおさまりきらない世界がどうなっているかは、脳内で補完するより他なかった。

※カプコンの人気ゲーム『戦国BASARA』は舞台化10周年目を迎える。2019年7月に初演を迎える完全新作「斬劇『戦国BASARA』天政奉還」はシリーズ第16作目。

 しかし、コマ割りもカット割りもない舞台では、漫画やアニメで見ることのできなかった「コマとコマの間」や「画面の外」まで自分の目で楽しむことができる
 このキャラクターはこのときこんな表情をしていたのか。このキャラクターはこんなふうに動き、こんなふうに笑い泣くのか。2.5次元舞台には、今まで想像を膨らませるしかなかった「枠外の世界」が広がっている

 これは、漫画のみならずゲームでも同じことが言える。『戦国BASARA』『逆転裁判』(ともにカプコン)シリーズなど様々なゲーム作品が舞台化される中、安定的な人気を誇るのが、乙女ゲームと呼ばれるような恋愛要素を盛り込んだゲーム。
 その筆頭格が『薄桜鬼』シリーズ(オトメイト)【※】だろう。

※『薄桜鬼』シリーズ
2008年にアイディアファクトリーから発売された、女性向け恋愛アドベンチャーゲーム。江戸時代末期の文久3年、蘭方医の娘・雪村千鶴は行方不明の父を捜しに、男の身なりをして江戸から京の街を尋ねる。“新選組”をモチーフとしながら“羅刹”と名付けられた鬼や吸血鬼の要素が組み込まれている。これまでに多数のゲームシリーズが発売されているほか、アニメ、舞台、劇場版、ドラマCDなど幅広く展開されている。

 2012年に「ミュージカル『薄桜鬼』斎藤 一 篇」として舞台化。その後もシリーズを重ね、2019年4月から最新作「ミュージカル『薄桜鬼 志譚』風間千景 篇」が上演されるなど、2.5次元舞台を語る上で欠かせないビッグタイトルのひとつだ。

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 ゲーム画面では動かないキャラクターが、舞台上で躍動感たっぷりに弾ける。そのダイナミックな臨場感は生ならでは。俳優たちもゲームはもちろんアニメも繰り返しチェックするなど役づくりに余念がない。

 だから、一挙手一投足にキャラクターらしさがにじみ出ており、熱烈なファンが観てもほとんど違和感を感じさせない。
 それどころかずっと大好きだったあのキャラクターが目の前で動いていることに心震え、終演後、しばらく現実世界に戻ってこられない中毒者たちを、毎公演、大量発生させている。

 舞台は、コマ割りもカット割りもない唯一のメディアだ。そのシーンで、どこを観るかは観客に委ねられている。
 純粋に話の進行を追い続けてもいいし、大好きなキャラクターを定点観測し続けてもいい。どんな楽しみ方も許されているのが、舞台の懐の広さ。

 リピートするたびに違う見方が楽しめるし、何なら客席の位置が変わるだけで新しい発見もできる。
 よく「目が足りない」というフレーズが賛辞として用いられるが、そんなふうに隅々まで見どころを散りばめているのが2.5次元の特徴。だから、ズブズブと底なし沼に溺れていく人たちが出てきたとしても、それは自然現象といえるのだ!

「再現された世界」から「更新されていく世界」を楽しむフェーズへ

 最近は2.5次元舞台、特にゲームを原作とした2.5次元舞台の楽しみ方そのものも変わってきているような印象がある。

 その流れを変えたのが、『刀剣乱舞-ONLINE-』【※】だ。

 大きく言うと、それまでの2.5次元舞台はストーリー性の高いゲームを原作に選ぶことが多かった。だが、『刀剣乱舞-ONLINE-』はゲームの原案そのものにかっちりとしたシナリオがあるわけではない
 歴史改変を目論む「歴史修正主義者」と戦い、歴史を守るという大枠の設定があるだけで、そこから先は審神者(さにわ)と呼ばれるプレイヤーごとに自由に解釈を楽しむことができる。

※『刀剣乱舞-ONLINE-』
DMM GAMESとニトロプラスによる、2015年1月14日にサービスを開始したPCブラウザゲーム。2016年3月にはスマホアプリ版も開始され、現在好評配信中。歴史に名だたる日本刀が戦士の姿となり、彼らを「刀剣男士(ルビ:とうけんだんし)」と呼ぶ。歴史の修正を目論む敵“歴史修正主義者”と死闘を繰り広げていく。

 この基本理念は2.5次元舞台でも貫かれている。現在、『刀剣乱舞-ONLINE-』の舞台化作品としては、舞台『刀剣乱舞』ミュージカル『刀剣乱舞』が同時展開しており、三日月宗近(みかづきむねちか)のように両作品に登場する刀剣男士もいるが、あくまで別々の本丸という解釈で、ファンたちは、つくり手ごとの解釈を各自で咀嚼し、堪能している。

 だから新作が発表されるたびに、ファンたちは「今度はどんな展開が待ち受けているのか」と大いに震え上がる。
 これまでは原作のストーリー再現が重視され、未知のストーリーに遭遇する面白さとは縁がなかったはずの2.5次元舞台だが、『刀剣乱舞』は新たな世界を打ち出した。

 幕が上がった先に何が起きるのか何もわからない状態で観客は観劇に臨む。そこには、これまでの「再現された世界」を楽しむだけではない、もうひとつの楽しみ方がある。
 それが、「更新されていく世界」を楽しむことだ。舞台『刀剣乱舞』やミュージカル『刀剣乱舞』に関して言えば、原作の持つ核の部分を大切に守りながら、どんどん作品世界を拡張しているように見える。

 これまでの2.5次元舞台同様、目の前に大好きなキャラクターが存在する歓喜に浸りつつ、つくり手に手を引かれるがまま、未知の世界を突き進むスリルとカタルシスを観客は味わえる。

 この「更新されていく」楽しさは、常にアップデートされていくため限界がない

 次はどんな世界を見せてくれるのか。ファンたちは舞台『刀剣乱舞』やミュージカル『刀剣乱舞』に対して常にそんな期待を寄せている。両作品の持つ今までにない熱量の高さは、こうした未知のものへのワクワクや予想のつかない物語が後押ししているのかもしれない。

 実際、今年のラインナップを見ても、スマホアプリゲームの『囚われのパルマ』(カプコン)【※】「舞台『囚われのパルマ ー失われた記憶ー』」として上演されることが決定している。
 同作はゲーム本編ではなく、主人公・ハルトがユーザーに出会うまでを描いたビハインドストーリーを舞台にすると言う。これも「再現」を楽しむというよりは、原作の世界をどう「更新」するかが焦点となるだろう。

  このように巨大化した2.5次元マーケットは、その楽しみ方も多様化・細分化しはじめている。

※『囚われのパルマ』
2016年8月30日にカプコンから配信されたスマートフォンゲーム(iOS/Android)。コンセプトは「ガラス越しの体感恋愛アドベンチャー」。スマートフォンの画面が面会室のガラスとなり、孤島に囚われた青年と言葉を交わすことで心が近づいていく。2018年12月18日に最新作『囚われのパルマ Refrain』が配信された。

推しがいるから、人生が楽しい

 さて、ここまでが原作ファンから見た2.5次元舞台の面白さだ。ただ、僕の場合は先述した通り、俳優が観劇のモチベーション。2.5次元舞台を通じて推し(おし)【※】ができたことで、どっぷり観劇沼に浸かる次第となった。

 いったい何がそんなに良いのか。

 まず、率直に言うと、顔がいい。そもそも女性人気の高いコンテンツだけに、ほとんどのキャラクターが眉目秀麗。それをファンのお墨付きを得て演じ上げるには、俳優にも一定以上の顔面偏差値が求められる。
 メインビジュアルの発表は、毎回、美のエレクトリカルパレード。顔面がいいということは、それだけで人に幸福をもたらすのだ。

※推し(おし)
“推しているキャスト”の略で、自身が“応援しているキャスト”の意味。

※リベル・エンタテインメントが配信するスマホアプリゲーム『A3!』はイケメン役者を育成するゲーム。2018年6月28日に「MANKAI STAGE『A3!』~SPRING & SUMMER 2018~」として初演舞台化され、現在も大ヒット舞台となっている。キャスティングされた俳優たちは、全員、顔がいい。

 だが、当然顔だけが推す理由ではない。僕は熱心な原作ファンというわけではないのでわからないけれど、自分の推しのキャラクターを完璧にこの世に召喚したことに感動し、演じた本人を推すようになったというのが、この界隈で原作ファンが俳優ファンにスライドする主たるパターンだ。

 では、僕が同性である男性俳優たちを熱心に推すようになったのはなぜかと言うと、シンプルに彼らの一途な役者魂に胸打たれたから。
 映画やドラマと違い、劇場は目の前に俳優がいて、客席との間を隔てるものは何もない。その分、役者から迸る熱や空気のうねりがダイレクトに自分の五感を揺さぶってくる。

 年をとると無難にやり過ごすことばかり長けていき、他人からありったけの感情をそのままぶつけられる機会なんてそうお目にかからない。そんな乾ききった心を、彼らの渾身のお芝居は全力でえぐってくれた。
 それは、初めてロックにふれたときのような衝撃だった。それは、初めて虹を見たときのような感動だった。気づいたら、上演前はone of themだった相手が、only oneの存在となっていた。

※手塚治虫の少年漫画「どろろ」も舞台化され、2019年3月2日より舞台「どろろ」が上演された。主人公の百鬼丸役には人気俳優の鈴木拡樹が起用されている。鈴木拡樹は、2019年1月7日よりTOKYO MX系列で放映されたTVアニメ「どろろ」でも百鬼丸を演じている。

 しかも舞台俳優の世界は、知れば知るほど泥臭い。その中で高みを目指す俳優たちの姿からは、アイドル的というよりむしろアスリート的なストイックさを強く感じる。
 一生懸命何かに打ち込む人を応援したくなる気持ちに性別は関係ない。まっすぐに俳優の道を突き進む彼らの肩越しに、僕は夢を見るようになった。

 推しの存在は、日常にハリと輝きをもたらす。推しの舞台のチケット代になると思えば、口うるさい上司の小言も、気の合わない取引先の嫌味も、にこやかにスルーできるというもの。
 それまでは真っ白だった週末の予定も、観劇だイベントだであっという間に真っ黒になるし、疲労困憊で帰ってきた夜も推しのツイートを見ればHPもMPも完全回復。推しは、使ってもなくならない最強のエリクサーなのだ。

6人の役者たち「演じること」への喜びと情熱を横川良明がインタビューした一冊。
(画像は役者たちの現在地 | 横川 良明 |本 | 通販 | Amazonより)

 さらに、2.5次元を主戦場とした舞台俳優を推す楽しさのひとつには、現場に通う楽しさがセットになっている。

 チケットを取ることで、直接会いに行ける感覚を味わえるのもドキドキするし、そうやってお金を落とすことで、推しの芸能活動に何かしらの貢献を果たせているような気分になれるのもひそかに嬉しい。舞台俳優は、推すという行為を非常にわかりやすく具体化できるので、爽快だ

 だから、推しの次回作が決まったら、まずは予定を空け、チケット確保に骨身を砕く。チケットが取れたら取れたで今度は原作の予習にも余念がない。自分ひとりなら絶対興味を持たなかったであろう世界に、推しをきっかけに踏み込めるのも楽しさのひとつだ。

 もちろん上演中はフィクションの世界だけど、それでも万が一推しの目に入ると思ったら、見るからに変な恰好はできない。来たるべき本番に備えてコンディションを整えたり、新しい服を揃えたり。決戦モードに向けて少しずつ自分のギアが上がっていく高揚感は、推しがいてこそ。

 要は、推しを応援するという行為そのものがひとつのエンターテイメントであり、幸福なのだ。2.5次元舞台は、そんな自分だけの推しと出会わせてくれる始まりの場所でもある。

ブームの背景を示すように、専門学校では2.5次元俳優を育てるコースも登場している。
(画像は2.5次元演劇科 | アニメ・声優・マンガ・イラストの専門学校 代々木アニメーション学院より)

 これだけの文字数を使ってつらつらと述べてみたけれど、結局、なぜ2.5次元舞台が今これほど大きな人気を集めているかと言ったら、そこに愛があるからだと僕は結論づけたい。

 原作者の、原作に対する愛。
 製作者の、原作に対する愛。
 俳優の、原作に対する愛。
 スタッフの、原作に対する愛。
 そして観客の原作や推しに対する愛。

 劇場という限定された空間に、これだけの愛が凝縮している。そして、その強力な愛は他者にも伝播する。居住地も職場もまったく違う、これまでは何の接点もなかった者同士が、作品や推しという共通点で意気投合したり。
 普段はつい眉間に皺の寄りがちだった自分が、劇場という空間でならほんの少しだけ他者に優しくできたり。同じものを好きというのは、それだけで不思議な連帯感を生む。家族にも職場の人たちにも見せない顔を、同じ観劇仲間には見せられる。そういう人も少なくないはずだ。

 観劇は「ハレ」の場。劇場という祝祭空間に出かけることで、幸福感が高まったり、明日への活力を得たり。少なくとも僕は2.5次元舞台とそれに関連するたくさんの若手俳優たちの舞台に出かけることで、今までよりずっと毎日が楽しくなった。
 堂々と好きなものを満喫できているおかげで前向きになれたし、自分らしさを受け入れられるようにもなった。

 音楽ファンにとってのフェスやライブ、サッカーファンにとってのスタジアム。観劇とは、つまりそういうものだ。部屋を出て、知らないたくさんの誰かと、同じ時間、同じ場所で、共有体験をする。
 今この瞬間、ここにいる人たちは、向いている方向はそれぞれかもしれないけど、確かにひとつのことを感じているはず。その一体感は、確実に僕を幸せにしてくれる。
 そしてそれは、部屋なんか出なくても簡単にコンテンツを消費できて、顔を合わせなくても人とつながり合えるこの時代において、特別面倒で、だけど特別尊いことのように思えるのだ。

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ライター
ライター。『ゲキオシ!』編集長。 東住吉高校演劇部コーチ。「少年眼鏡」主宰。2019年にKADOKAWAより自身初のインタビュー本となる「役者たちの現在地」を執筆。
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