『ベルサイユのばら』(以下、『ベルばら』)【※】。1972年に『週刊マーガレット』(集英社)で連載が開始されてから、じつに47年に渡り人々に愛され続ける、伝説的なこの作品がなんと学園青春恋愛アドベンチャーゲームとしてリブートされた。
※『ベルサイユのばら』
1972年に『週刊マーガレット』(集英社)で連載を開始した池田理代子作の漫画作品。革命の犠牲となった悲劇の王妃マリー・アントワネット、女性でありながら軍人として生き、貴族でありながら民衆の革命に命を捧げた男装の麗人オスカル、身分の差を越えてオスカルと深い絆を結ぶアンドレ、王妃アントワネットと道ならぬ恋に落ちるスウェーデン貴族フェルゼンらの愛と葛藤を軸に、フランス革命の嵐吹き荒れる激動の時代を描いた。『ベルばら』ブームは社会現象となり、マーガレット読者層だけでなく多くの世代に愛されている。
題して『私立ベルばら学園 ~ベルサイユのばらRe*imagination~』(以下、『私立ベルばら学園』)。貴族の華やかさと民衆の苦しみに溢れた革命期フランスの『ベルばら』の世界は、果たして学園恋愛ゲームとどのように融合しているのだろうか?
体験版をプレイし、『ベルばら』の新たな世界に足を踏み入れてみた。
文/みけこ
『ベルサイユのばら』とメディアミックス
『ベルサイユのばら』は原作漫画のヒットはもちろんのこと、当時としては革新的なメディアミックスの展開により、少女たちだけでなく日本中の老若男女に知られることとなった。
漫画の連載が1972年にスタートし、2年後の1974年には宝塚歌劇団【※】で舞台化された。これが空前のヒットを巻き起こし、低迷していた宝塚歌劇団の人気を復活させたとも言われている。
※宝塚歌劇団
兵庫県宝塚市に本拠地を置くミュージカル劇団。出演者は全員未婚の女性で、男役も女性が男装して演じる。オリジナルミュージカルだけでなく、『ベルサイユのばら』や『メイちゃんの執事』『天は赤い河のほとり』などの漫画作品、さらには『戦国BASARA』『逆転裁判』などゲームの舞台化も意欲的に行なっている。
今でこそ当たり前になってきた漫画からの舞台化だが、日本初とも言える『ベルばら』舞台化は、手探りの中で行われ、見事に成功した。
『ベルばら』はその後もアニメ化や外国人キャストの起用と本物ヴェルサイユ宮殿ロケで話題となった実写映画化、『秘密結社鷹の爪』で知られるクリエイターFROGMANが手がけたアニメーション、『ベルサイユのマリモ』『ベルサイユの微生物』など、さまざまなメディアミックスが行われた。
また、オスカルやアンドレなどの登場キャラクターを三頭身にしたパロディ4コマ漫画『ベルばらKids』が2005年より朝日新聞にて掲載されたり、金の星社より絵本が発売されるなど、様々な展開が行われている。
原作をリスペクトしつつ、メディアの強みを生かして新しい表現に挑戦するーーメディアミックスにおいてこのことは当たり前でありながら実はとても難しい。しかし、『ベルばら』は、原作のもつ普遍的な魅力、作品に対するクリエイターのリスペクトによって、それを可能にしてきた。
その『ベルばら』が「オトメイト」とのコラボによりゲーム化された。
原作の『ベルばら』がフランス革命という激動の時代が描かれているのに対し、今回発売された『私立ベルばら学園』の舞台は、華やかで才能溢れるセレブが通う「芸術科」と、一般の生徒が通う「普通科」に別れている私立ベルローズ学園。
原作における「貴族」と「平民」の関係が、「芸術科」と「普通科」に置き換えられ、学園ものとしてうまく表現されている。
物語は、芸術科の有名劇団「劇団ソレイユ」の花形であり、学園で一番の人気を誇る「オスカルさま」こと真輝望(まき・のぞみ)が、劇団を電撃退団するところから始まる。
多額の寄付金を納める芸術科の生徒だけが所属し、多額の部費を払えないと部員でいられない「ソレイユ」での恵まれた環境やそれまでの名声を捨て、全ての生徒に開かれた劇団を新たに立ち上げる真輝望。
その姿はさながら原作「ベルサイユのばら」で、近衛隊の隊員の地位を捨て、貧しい平民ばかりの衛兵隊の隊長に自ら志願したオスカルのようである。
このように、本作では原作ファンがついニヤリとしてしまうような原作のエッセンスが各所にちりばめられている上に、『ベルばら』の雰囲気を学園ものとして存分に楽しめる。ぜひ原作漫画を読み込んだファンにも手に取ってもらいたい内容となっている。
魅力と個性あふれるキャラクター
原作からインスピレーションを受けたキャラクターたちも、もちろん魅力のひとつだ。
「イメージキャラクター」つまり「元ネタ」が公式から発表されているのは以下の6名。いずれもエンディング有りキャラクターである。
真輝望(まき・のぞみ)/CV:森なな子
芸術科の『劇団ソレイユ』の男役スターだったが、突然退団し新たに『劇団ルミエール』を立ち上げる。「学園のオスカルさま」
(ちなみに真輝望を演じる森なな子は元宝塚歌劇団の男役。アニメ『キラキラ☆プリキュアアラモード』では声優としてボーイッシュなプリキュア、キュアショコラ/剣城あきらを演じ、多くのお友達をメロメロにした)
イメージキャラクター……オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ(軍人の家の跡取りとして、女性だが男のように育てられる。王妃アントワネットや貴族フェルゼンと友情を育む一方、平民の苦しい現状を知り、革命に身を投じる)
安藤礼二(あんどう・れいじ)/鈴村健一
普通科の生徒だが、真輝望とは幼馴染で常に行動を共にする。『劇団ルミエール』の裏方で立ち上げメンバー。
イメージキャラクター……アンドレ・グランディエ(平民だがオスカルと幼い頃から共に育ち、強い絆を育む)
有栖川マリ(ありすがわ・まり)/遠藤綾
芸術科の『劇団ソレイユ』の娘役スター。学園長の孫である明智優の婚約者。
イメージキャラクター……マリー・アントワネット(ルイ16世の王妃。若く奔放な少女から、誇り高い王妃へと成長する。スウェーデン貴族フェルゼンと秘密の愛を育む)
羽鳥・ユース・アクセル(はとり・ゆーす・あくせる)/諏訪部順一
芸術科の『劇団ソレイユ』の団員。スウェーデンからの留学生で真輝望の友人。
イメージキャラクター……ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン(スウェーデンの貴族。仮面舞踏会でアントワネットと出会い、道ならぬ恋に落ちる。オスカルの良き友人でもある)
衛藤晶(えとう・あきら)/小野友樹
問題児で有名な1年生。劇団ルミエールに入団する。
イメージキャラクター……アラン・ド・ソワソン(オスカルが隊長を務める衛兵隊の隊員。粗暴でオスカルに反抗する)
明智優(あけち・ゆう)/堀江瞬
学園長の孫で、大企業の御曹司。有栖川マリの婚約者。工作が趣味。
イメージキャラクター……ルイ16世(フランス国王。優しく内気で錠前づくりが趣味)
これ以外にも原作読者が見れば「もしかしてこのキャラクター?」と感じさせるキャラクターがちらほら。特に、主人公が出会う子犬「ル・ルー」は、原作のオスカルの姪のおてんば娘ル・ルーそっくりの愛らしさである。
対して主人公の山田凰寿華瑠(「オスカル」と読む・苗字のみ変更可能)は、二次元の推しキャラ「星空ヒカル」のアクキー(アクリルキーホルダー)を持ち歩き、隙あらば妄想を始める筋金入りのオタクというなかなか強烈なキャラクターである。
さらに、「オスカル」と読ませるキラキラネームと地味な自分とのギャップに悩んでいるという現代的な設定だ。
主人公・山田は一般生徒の通う普通科の生徒で有りながら、「学園のオスカル」真輝望に誘われて「劇団ルミエール」に参加し、芸術科のセレブである有栖川マリや明智優との交流も深めていく。
山田鳳寿華瑠は、どことなく原作のロザリー【※】を彷彿とさせる部分もあるが、時に妄想や心の声を垂れ流してしまうオタクの主人公はむしろプレイヤーの分身という事なのかもしれない。
※ロザリー・ラ・モリエール
パリの街で貧しい平民として暮らしていたが、とあるきっかけからオスカルの家に住むことになり、宮廷にも出入りしてアントワネットを始め王族や貴族とも交流を深めるようになる少女。健気で愛情深く、女性だとわかっていながらもオスカルに心を寄せ、恋心に苦しむ。
濃密な人間関係と夢のカップリング
原作漫画『ベルサイユのばら』の魅力のひとつに、多様な個性をもった登場人物たちの複雑で密な人間関係がある。
今回発売された『私立ベルばら学園』では、恋愛アドベンチャーゲームという特性を生かしてさまざまなカップリングのエンディングが用意されている。
このゲームの特徴は、主人公と男性キャラクターの恋愛だけではなく、男装の麗人である真輝望との恋愛ルートや、主人公が自分以外の二人のキャラクターの恋愛を応援するルートもあることだ。
主人公と恋愛対象キャラクターはもちろんのこと、定番のオスカルとアンドレに当たる真輝望と安藤礼二、フェルゼンとアントワネットにあたるアクセルと有栖川マリのカップルはもちろん、原作では見ることのできなかったフェルゼンとオスカルに当たるアクセルと真輝望のエンディング、さらにルイ16世をイメージした明智優と有栖川マリのエンディングも存在する。
原作を読んで「もしもこのキャラクターどうしが結ばれていれば……」と思っていた読者の夢のエンディングが見られるかもしれない。
体験版を終えた感想として、
原作でも存在感を示し、密かなファンも多いジェローデル【※】をイメージしたメインキャラクターがいないことが個人的には意外であった。ジェローデルを彷彿とさせるキャラクターは用意されているので、ストーリーにどのように絡んでくるのかが楽しみなところだ。
※ジェローデル
オスカルの部下として登場し、オスカルに想いを寄せる貴族の青年。
体験版では、芝居の小道具として主人公・山田が明智優から借りた豪華なネックレスが何者かに盗まれてしまう事件【※】が描かれる。これも原作ファンやフランス革命期の事件を知る人ならぴんと来るキーワードだろう。
※「首飾り事件」(『ベルサイユのばら』)
高価なダイヤの首飾りを巡って、ロザリーの野心的な姉、ジャンヌが起こした詐欺事件。
この事件を通して、主人公は学園の華やかさだけではなく、芸術科と普通科の格差や添えに対するキャラクターたちの想いに触れることになりそうだ。
原作ではオスカルやロザリーがフランスの身分制度や貧富の差、貴族と平民それぞれが抱える苦悩を知り、革命の荒波に飛び込んでゆくが、ゲームでも普通科と芸術科の葛藤を通して、主人公、真輝望、安藤礼二、有栖川マリらが、それぞれの視点から何を観て、何を感じ、どう動いていくのか……といった骨太の物語が展開されるのではないかと期待している。
他にも体験版には謎の幽霊シャルルや、お尋ね者の大学生花野ラヴィアンローズなど不思議なキャラクターも多く登場し、先の読めない伏線が多くちりばめられている。製品版でどのようなストーリーとなるのか、非常に気になる。
体験版では恋愛要素はまだほとんど登場せず、学園の世界観とキャラクターの紹介という印象ではあるが、細部に『ベルばら』らしさを感じさせつつも学園と青春という舞台でキャラクターたちが生き生きと動いていた。
確かに、時代の転換期に爆発する革命のエネルギーと、さまざまな人間と出会い自分を確立していく青春のエネルギーはよく似ているかもしれない。
『私立ベルばら学園 ~ベルサイユのばらRe*imagination~』では原作ファンであれば原作へのオマージュを楽しみつつ、これまでには描かれていなかったさまざまなカップリングのストーリーを楽しむことができる。
しかしそれだけでなく、『ベルばら』をよく知らないファンもフルボイスかつ美しいイラストで彩られた華やかな世界観と濃密な人間関係を楽しめる作品となっている。
Nintendo Switchというハードは女性向けゲームのプレイヤーや『ベルばら』原作のファン層にはまだまだ馴染み深いとは言えないかもしれないが、世代を超えてさまざまな人に触れてもらいたい作品であると感じた。
私立ベルばら学園 〜ベルサイユのばらRe*imagination〜
原作 :池田理代子「ベルサイユのばら」
企画協力:パワーアンビシャスディレクター :寺嶋桃子
イラストレーター :東狐もず
ストーリーエディター :遠野チハル
キャラクターライティング:野々村友紀子
シナリオライティング :ウサギリスメーカー :アイディアファクトリー
ブランド :オトメイト
対応機種 :Nintendo Switch
ジャンル :学園青春恋愛AVG
プレイ人数 :1人
発売予定日 :2019年5月23日
価格(税込):通常版:6,300円(税抜)/6,804円(税込)
限定版:8,300円(税抜)/8,964円(税込)
DL版:6,300円(税抜)/6,804円(税込)
CERO :「B」(12才以上対象)
【あわせて読みたい】
“女性向けゲーム”約20年の歴史とその分化や進化。はじまりの『アンジェリーク』からVR・ARまで【乙女ゲーム、BLゲーム、育成ゲーム】“女性ターゲット”にとどまらず“女性向けジャンル”を生み出し、牽引し続けている乙女ゲーム、育成ゲーム、BLゲームにおける、約20年の歴史とその分化や進化に触れ、振り返る。