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どのゲームでプロになりたいのか? どうやって強くなり自分をプロデュースするのか? 「プロゲーマー」や「eスポーツ」で何を“目標”にしているのかを考えるDeToNator特別講演をレポート

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 8月24日、ゲーム・マンガ・アニメ・声優の専門校「バンタンゲームアカデミー」は、プロゲーミングチーム「DeToNator」を招いて特別講演会を実施した。

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 この講演会は、ゲーム業界を始めとしたエンターテイメント業界志望の学生に向けて、バンタンゲームアカデミーが定期的に行っているもの。今回はDeToNatorの代表の江尻勝氏、同チームのストリーマーとして活躍中のSHAKA氏、YamatoN氏を招聘して、eスポーツ業界の今後や、DeToNatorの活動方針、プロとしての生き方についてなどを話していただいた。

  今回の講演は、以下の4つのテーマに設定されている。

・「日本のeスポーツの現在」
・「生き抜くためのブランディング。DeToNatorのビジネスモデルとは」
・「YamatoN氏・SHAKA氏の一日の迫る。現役からストーリーマーへの変化」
・「ゲームスキルを磨くだけではない!eスポーツ専攻の授業内容について」

 2009年に「Alliance of Valiant Arms」としてて設立され、eスポーツシーンで活動しているDeToNatorは、日本におけるプロゲーミングチームの先駆け的存在だ。2016年から海外拠点を構えて、海外のプロリーグに参戦。海外に拠点を構えて活動している日本唯一のゲーミングチームでもある。だからこそ彼らの過去の経験から得た思想や蓄積といったものは、今後のeスポーツシーンを考える上で指標になりうる。

 今回、上で挙げた4つのテーマについて、DeToNatorの方々は学生に向けて講演でどのように語ったのか、以下にレポートをお届けしよう。

文・取材/福山幸司
編集/ishigenn


テーマ1 「日本のeスポーツの現在」

 いきなり「日本のeスポーツの現在」とヘビーなテーマだが、「eスポーツ」という言葉自体について江尻氏は、良いも悪いも含めて「かなりの人に浸透している実感はある」と語り始めた。企業の人たちと会ったり、地方に行ったりしても、「eスポーツ」という言葉が登場するそうだ。

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DeToNator 代表 江尻勝氏

 しかしそこで江尻氏が強調するのは、もともとは「eスポーツ」という言葉がない時代からDeToNatorは活動しており、「DeToNatorは必ずしもeスポーツを目指しているわけではない」という点だ。これについてはSHAKA氏も同意し、そもそも根底のもとして「ゲームが好きで、ゲームの勝負が好きで、勝ちたかったらというのがある」と説明した。続いてYamatoN氏も、「ゲームの勝負で稼いだお金で海外に行ったり、交流をしていくなかで、eスポーツという競技シーンになった」と証言した。

 実際のところDeToNatorも、「eスポーツ」という言葉は人に説明するときは便利だと感じているが、自分たちでは普段はあまり使わないという。「eスポーツ」という言葉が生まれる前から活動しているDeToNatorは、「日本のeスポーツの現在」というよりも「日本で何を目標としているか」を意識することこそが重要だと説明する。

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左から江尻氏、SHAKA氏、YamatoN氏

 たとえば韓国や台湾、タイ、フィリピンの競技シーン、特に韓国チームの意気込みを見ていると、各国のチームからは「ストイックを超えて人生を賭けてる印象」を感じるという。韓国の『PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS』(『PUBG』)のチームは、勝つための意思の疎通や、そこに向かうチーム作りの構成が一級だ。こういった努力や探究心は、まだまだ日本との差を感じる部分はあるが、日本でもSHAKA氏とYamatoN氏はそれに匹敵するくらいゲームに向かい合う真面目さがある。

 また、そこから第二世代へと移るなかで、海外のトッププレイヤーの基準に合わせていかなければならない課題が生まれれていく。その基準に日本の選手が付いていくことこそが、DeToNatorは海外へと積極的に進出している理由となっている。

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 YamatoN氏は、韓国やアメリカの海外トッププレイヤーと交流した過去を挙げたが、そこに楽しさは皆無だったと振り返る。韓国では地道な反復練習など、細かい研究や技術を練習するまめな努力をしているプレイヤーが多いという。

 続けてSHAKA氏は、「勝つために必要なこととして、苦手なことも嫌なこともずっと練習しなければならない」と延べた。友達とゲームを遊んでいるときに比べて、チーム全体で勝ちを目指したときには、仲間を叱りつけなければならない場面があり、逆に叱られる場面もある。6時間ものあいだグレネードだけを投げ続けるといった、通常はやりたくないような練習も望んで継続できる才能も必要になってくる。

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 よく言われるのが、日本と海外との違いである「環境の差」だ。人数の差や、場所や機材、資金力などが該当する。しかし江尻氏は、海外が強いのはその環境があるからではないとも強調する。安易に海外の環境を羨むのではなく、どれだけ知恵を絞り時間をつかってゲームと向き合っていくか、その「覚悟」こそが重要と、江尻氏は言う。

 それについてはSHAKA氏も同意を示す。海外の選手たちにはゲーミングハウスがあり、給料もあるなどいいところが目立つが、海外の選手も地道な努力をしている。確かに「日本でやるのは厳しい。差がある」という雰囲気はあるが、はたして「環境が整っていれば強いのか」とまで言えるかどうかは違和感があるという。たとえば台湾は日本と似ている部分があるが、強いプレイヤーはいるように、環境が悪くても強い人はいる。海外を羨むだけではなく、その環境に対してどうのように考え、判断し、自分で吸収していくことを、一プレイヤー時代から意識してきたと語る。

 YamatoN氏は、環境を飛び越えていくことが大事で、英語ができ環境がないのであれば、アメリカに住んで特訓し、それを日本に持ち帰ることだってできるとアドバイスする。YamatoN氏のこういった思想は、海外に注力するDeToNatorの方針と一致するところだろう。

テーマ2 「生き抜くためのブランディング。DeToNatorのビジネスモデルとは」

 さて、次に設定されているのは、DeToNatorは実際のところどのような事業をやっているのかという点だ。代表の江尻氏いわく、「海外事業」、「配信・動画広告事業」、「選手プロモーション・イベント事業」、「アパレル・グッズ・オリジナル製品事業」、「育成・教育事業」の5つの事業に分かれているという。

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 たとえば東海テレビ、AbemaTV、サンリオとのイベント、Amazonとのキャンペーンといった実績例がある。東京ゲームショウ2019でも、SAMSUNGと共同で9月14日、15日に大きなイベントを開催予定だ。

 重要なのが、DeToNatorはあくまで「eスポーツ」を掲げている企業ではないということ。あくまで根幹は「ゲーム」であり、「eスポーツ」はその一部分と認識している。ほかにも配信(ストリーマー)、教育、コンサルティング、アパレル&グッズを展開をしているという。もし仮にほかの会社が「eスポーツ」だけでビジネス展開しようとすると、事業は厳しいのではないかと江尻氏は予測した。

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 ただ、「eスポーツ」を考えた場合、日本で活動したいのか海外で活動したいのか、そしてどのタイトルで活動するのかで、選手の方向性が決まることになる。選手以外の道なら、イベント運営、実況・解説、スタッフ、映像制作などがある。単にeスポーツで活躍したいというだけでなく、どのような目標があり、どのように継続していくのか見定めなくてはいけない。

 たとえば、韓国のチームは1日の時間をフルタイムで使っている。彼らより下回っていれば、それを上回るための努力をしなければいけないし、どういった努力をするのかと考える想像力も必要になってくる。自分が改革するビジョンと、達成できるまでの継続力、どこのチームでそれが実現できるのか、また海外に行くためのセルフプロデュースなどを考えなくてはいけない。世界のスピードは追いつけないほど早いので、自分自身でイメージして厳しく望まないといけない。

 そういった自身のセルフプロデュースの場として、YamatoN氏はYouTubeを挙げる。自分たちがタイトルを宣伝して、コミュニティを作っていき、さらに自分が輝けるステージを作る。あるいはゲームの腕前としても、上手いプレイヤーが登場したならば、さらにそのプレイヤーに対対抗して自分も上手くなっていゆく。このように、既存の環境に依存ではなく自分で環境を作り、自分がメディアとなってゲームを紹介することが大事だという。

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 ただしSHAKA氏は、自分をセルフプロデュースする中で、認識とずれたことが発信されることはつねにあり、齟齬が発生しやすいので、そのことは肝に銘じて発信しなければいけないと語る。たとえばTwitterなどでは、文字でコミュニケーションを取ると誤解を生み出すリスクがあるので、リスクを意識することによって事故が起きるのを減らしながら、自分を発信しなければいけない。

 江尻氏は、そういったブランディングで打ち出されるものが「我々がゲームと共に歩んでいく立場であること」だと強調する。感謝しながら盛り上げることで、ちゃんとしたコミュニティが成立するのため、そこで天狗になって「俺たちは出てやってる、ゲームをしてやっている」と開き直ることは悪手になる。運営もゲームも、みんなで協力して母数を大きくしていかなければならない。我々は矢面に立っている人間だからこそ、それがゲームや大会を開いていただていることに、感謝や敬意を忘れないようにしなければいけないと総括した。

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テーマ3 「YamatoN氏・SHAKA氏の一日に迫る。現役からストーリーマーへの変化」

 続いて話は、SHAKA氏やYamatoN氏の両氏がゲームを上手くなるため、またストリーマーとして、どのような日々を送っているのかというテーマになった。ちなみにYamatoN氏は午前中から配信するが、SHAKA氏は夕方の配信が多い。YamatoN氏の場合は規則正しい生活だが、SHAKA氏の場合はスケジュールに合わせて臨機応変に変動するのだという。

 SHAKA氏は現役のころ、朝8時ごろに起きて仕事に行き、最速で夜8時で1時間ほどウォーミングアップして、9時くらいから2時くらいまで練習試合をしていたという。台湾のリーグに参加していたときは、夕方6時くらいに集まって、夜中の3時までがチーム練習、始発の朝6時くらいに帰るスケジュールだったという。さらにプラスして、そこから自主練習を積むこともある。

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 学生時代のYamatoN氏は、バイトをしながら練習をしていた日々を過ごしていたという。夜7時から朝3時までを毎日練習を繰り返しつつ、学業とバイトをこなす。そこで溜めたお金で多くの練習時間を確保していた。ただ、現在は規則正しく、朝起きて夜中までゲームをするスケジュールに変化している。

 学生時代はプレイ時間を確保しやすいため、動画を見たり、メモを取ったりして、いかに効率よく上手くなるかを追求していったそうだ。そういう日々を重ねていると、ある日、突然勝てるようになったりするので、根気よく続けるのが大切だと語った。

テーマ4 「ゲームスキルを磨くだけではない!eスポーツ専攻の授業内容について」

 江尻氏はeスポーツを学校で学ぶメリットとして、自宅だとだらけしてしまう、優れた講師が教えてもらうだけでも貴重だと説明する。ネット越しではなく、実際にプレイヤーと対面できて、たくさん人から色んな意見を得ることを、学校で学ぶメリットとして挙げた。

 また「eスポーツに関係するこんな授業があったほうがいいのではないか?」というアイディアのひとつとして、YamatoN氏は「言語の授業は絶対入れる」と挙げた。『PUBG』だと韓国語、『フォートナイト』だったら英語という風に、自分が上手くなりたいゲームによって違ってくるという。試合しながら英語を聞き取るのは難しいので、ゲームに特化した言語を学んでいいと提案した。

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 それを受けて、SHAKA氏は英語は汎用性が高いが、中国と韓国は近い国なので交流する機会が多いので、中国語や韓国語の授業も選択肢としてありえると伝える。

 それ以外の取り組みとして、「判断力」の授業があってもいいかもしれないとYamatoN氏は提案した。目の前にある正解を選ぶ瞬間的な判断と、もっとマクロで見た大局的な判断がゲーミングには求められるという。たとえばカードゲームでは大局的な判断が重要だし、バトルロワイヤル系だと、そもそもその場所に行くべきではなかったという判断力が重要になってくる。

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 SHAKA氏は、負けた瞬間の判断を反省する人が多いが、「そこに行かないべきだった」とか、「3人でやるべきだった」とか、大局的な判断や反省が重要だと話した。バトルロワイヤル系はマップや武器が大きいので、シチュエーションが多く、同じパターンがほとんどない。より良い正解にいけるのかが、プレイスキルに直結するので、そういう判断力を養える授業があるのはいいのではないかと同意した。

 最後に、DeToNatorとバンタンゲームアカデミーと共同の取り組みの告知があり、年明けに韓国チームやコーチ陣を呼んで『PUBG』の練習を疑似体験をしてもらう授業があることが明らかにされた。成績の優秀な方を対象に、二泊三日で体験してもらう授業を予定しているとのこと。

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 こうした2時間に及ぶ特別講義は学生たちは熱心に聞き入られ、幕を閉じた。時折、地道な努力やコミにケーションの取り方など、競技シーンの厳しさがたくさん触れられたが、こうした講義はeスポーツだけではなく、ゲーム業界を目指し、いずれはゲームクリエイターのプロフェッショナルな立場になる学生たちにとって、有益だったに違いない。今回の特別講義を通して、学生たちはDeToNator流の「プロとしてのあり方」というメッセージを受け取ったのではないだろうか。

ライター
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福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman
編集
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ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn

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