『ブラックスター -Theater Starless-』や『暴走列伝 単車の虎』『Tokyo 7th シスターズ』を手掛けるDonutsがおもしろい試みを始めている。
その名も「Donuts安藤の『これからこうなる!2020』」。『拡散性ミリオンアーサー』「ブラックスター -Theater Starless-(ブラスタ)」をはじめ多くの人気ゲームを手掛けた安藤武博氏がMCを務め、ゲーム業界の最前線で活躍するゲームクリエイターをゲストに迎えて「ゲーム業界のこれから先」をテーマとした対談を行うイベントだ。
本イベントは、LIVE配信かつ完全クローズド制で展開しており、視聴するためには事前に申し込みを行い、配信URLを取得する必要がある。それゆえ、普段のトークイベントでは聞くことができないクリエイターたちの“ここだけトーク”が聞けるのが特色だ。
【これまでのゲスト】
第1回:高橋英士氏(株式会社エイリム 代表取締役社長)
第2回:馬場保仁氏(株式会社ファリアー 代表取締役)
第3回:柴貴正氏(株式会社スクウェア・エニックス プロデューサー)
第4回:山口修平氏(株式株式会社アカツキ Chief IP Producer)
第5回:中村たいら氏(株式会社ミクシィ デジタルエンターテイメント事業本部 コトダマン事業部 部長)
第6回:渡辺 範明 氏(株式会社ドロッセルマイヤー商會 代表)
放送の形式上、過去配信を視聴することは叶わない。しかし、見れないとわかるとさらに内容が気になってくるのが人間というものだろう。
そこで本記事では、過去に配信された放送から一部シーンをピックアップ。どのような対談がくり広げられてきたのか書き起こし形式で紹介していこう。
ライター/竹中プレジデント
ブロックチェーンゲーム配信という新しい試み(第1回より)
安藤氏:
ここからは、私と高橋さんならではの予定調和や台本いっさいなしのフリートークで“これからどうなっていくのか”というのをガンガンお話していこうと思います。
というわけで、そろそろエイリムさんで新しい仕掛けが出てくるんじゃないかと期待されている時期かなと思うんですが、どうなんですかそのあたりって?
高橋氏:
これからというわけではないんですが、今年の頭(2020年1月30日)にブロックチェーンゲーム『ブレイブ フロンティア ヒーローズ』を出しました。
きっかけは2019年の夏、gumiグループのブロックチェーンゲーム専門の会社であるダブルジャンプトーキョー【※】さんから「『ブレフロ』でコラボしませんか?」というお話があったんです。でもお話を聞いた当時、ブロックチェーンゲームについて僕自身詳しくなくて。
※2018年11月よりブロックチェーンゲーム『マイクリプトヒーローズ』をリリースしている。
安藤氏:
俺もいまだによくわかってないです。自分のところに貯めた資産が実際の通貨になって、ゲームにかけた労力が自分の資産になり得たりするものなのかな、くらいの知識しかないです。
高橋氏:
僕もそのときまで全然知らなくて。耳にはしていたけどノーマークだったんです。ブロックチェーンってもともと技術、システムの話なわけですが、僕らの業界って技術から入ったものってまあ上手くいかないじゃないですか。
安藤氏:
いかないですね~。これあるあるですよね。
高橋氏:
そうそう。なんだろこれ? っていうものができあがってしまうので。そういう意味でもそこまで興味を示していなかったんです。
安藤氏:
確かに。一方で事業を推進する起業家は、こういう技術がある、ここに金の匂いがする、やれや~、みたいな。
高橋氏:
そうそう。うちの國光【※】がそんな感じで(笑)。
※gumi 代表取締役社長 國光宏尚氏。
安藤氏:
あるあるですね!最初はそこまでモチベーション(ブロックチェーンゲームに対して)がなかったと。
高橋氏:
なかったです。なので、最初は「話聞くのはいいよ、興味ないことはないし」くらいでした。でも実際に話を聞いたらおもしろいことがいろいろ聞けたんです。
例えば、いまのガチャ形式のキャラクターゲームは、際限なくキャラクターを出していって、できるだけガチャを回してもらって売れたほうがいいというのがあるんですが、ブロックチェーンゲームはキャラクターを個数制限で売っていたんです。これがまず衝撃でした。
安藤氏:
なるほど。キャラそのものの流通量が決まっているんですね。
高橋氏:
そうです。このキャラは50体、このキャラは20体というのを決めたら、それをオークション形式で売るんです。
安藤氏:
そのキャラ自体がイケてるステータスを持っているとプレミアがついて価値が出てくるという。
高橋氏:
後で価値が出てくるというのも全然アリになっていて。その際、ゲームの提供者側からは再販はしないので、市場(ユーザー同士の売り買い)で入手するしかないんです。
安藤氏:
高級車みたいなイメージですね。フェラーリ限定50車みたいな。
高橋氏:
それを販売されているときに買うか買わないかは自由で、その価値が高くなるか低くなるかもユーザーのみなさん次第なところがあるんです。
安藤氏:
そこで目利きが要求されるわけなんですね。
リアルマネートレードが当たり前の時代がくる可能性(第1回より)
安藤氏:
どうしても新しいプラットフォームやサービスや技術が出てきたときって、そこに新しい独特の市場が起きるのでは?と思うことがありますよね。
高橋氏:
思いがちですね。
安藤氏:
最近だとVRがまさにそう。出てきたのが近かったこともあって、ブロックチェーンもVRと同じ感じかなと思っていたんですが、ちょっと違いますね。馴染んで意識しないようになっていくものってことですよね。
高橋氏:
そうですね。ブロックチェーンに関しては完全にそう捉えています。おそらくブロックチェーンゲームという言葉は過渡期で一瞬でなくなるし、これまで避けてきたリアルマネートレード展開が当たり前の未来がきて、プロゲーマー的な枠組みも広がるんじゃないかと。
例えば、『ウルティマオンライン』の時代、ゲーム内マネーを稼いだりレアアイテムをゲットして、リアルマネートレードをすることで月に10万くらい稼げる人がいて、中にはそれをバイトにしている人もいたんですよね。
それが認められていないからアンダーグラウンドな存在だったんですが、実際にいたことを考えると、認められる環境になればゲームがバイトになる。
安藤氏:
そういう意味でバイトになると。なるほど。ヤフオク、メルカリが出てきて、一般の人がいわゆるオンラインの楽市楽座的な場所で安く仕入れて高く売る動きがありますよね。
最初にヤフオクができたときの「こんなことやっていいんか?」ってうさんくさい印象が、今のブロックチェーンにはあるけど、レベルアップや薬草を取りに行くクエストを代行するバイトをしてもなんの後ろめたさもなくなる時代がやってくるんですね。
高橋氏:
くると思います。仮に大型のオンラインゲームが対応したとしたら、自分はログインしたらバリバリ戦闘したいので、細かい素材集めをお願いします、その分のギャラは払うからということも成立しちゃうんで。
ちょっと先の未来かもしれないのですが、法整備をはじめ細かい部分を詰めていければ、ガチャでさえ乗り越えられたので、できない理由はないと思います。
組織ではムードメーカーや一芸持ちが大事(第2回より)
馬場氏:
組織の中で、うまく笑いの神がおりてくる人がいてくれるとすごくありがたいんですよね。
安藤氏:
ムードメーカーみたいな。
馬場氏:
そう、ムードメーカー。ただ、ムードメーカーを嫌がる若い子が多いんです。でも、『パワプロ』でも“ムードメーカー”でプラスの能力でついているじゃないですか。親御さんが君に与えてくれた天賦の才だっていつも言うんです。何が嫌なんだと、笑顔になる組織はすごくいい組織だと。
しかしながら、ムードメーカーであることを採用する側がみんな見ているのかという話もあって。もったいないと思っているんです、ムードメーカーって後から教えられないスキルなんですよね。ものすごく大事なんです。
安藤氏:
めちゃめちゃ共感できる。まだDonutsでは実践していないんですが、スクエニのときは組織に必ずムードメーカーを入れるようにしていました。
理想の組織論って、全員がエースで4番であることを思い描く人が多いと思うんですが、全然間違っていて、全員がエースで4番になったら、組織は新選組になるんですよ。要は仲間同士で斬り合う。そんな中、ムードメーカーがいるとギスギスな雰囲気がなくなるんです。
プロスポーツもそうですよね。4番みたいな選手を揃える巨人やヤンキースが毎回優勝するわけでない。そこからヒントを得たんですが、実際に部門じたいが明るく前向きに仕事ができるということでおすすめですね。そういう人材がいたら積極的に採用して評価をしてあげるのは大事だと思いました。
馬場氏:
すごく貴重だと思います。加えて「それでいいんだ」って言ってあげないといけないんです。「何できるの?」「天然なだけじゃん」「ウケてるだけじゃん」って言ってしまう人が多いんですが、いやいや、そう簡単にできることじゃないですよと。
安藤氏:
能力ですよね。よく見ると、上手くいっている組織やプロスポーツ集団にはそういう役回りの人が必ずいるんですよね。
馬場氏:
一芸あればいいんですよ。今って、多くの企業さんが10点満点のレーダーチャートがあったらオール7点くらいの人をほしがるんですが、かなり、もったいないんです。
たしかに扱いづらいかもしれまんが、ひとつの項目は12点だけど残りが3点でポンコツ感があっても、12点の能力を持っていることを「すごい」と捉えたほうがいいんです。
あとはその尖がった集団をまとめてマネジメントできる人がいればいいだけなんです。また、野球っぽいですね、まさに「マネーボール」にあったような話なので!(笑)
馬場さん流人材の見極めかた(第2回より)
安藤氏:
面接をして一緒に仕事をする人材を見極めますよね。馬場さんが面接でどこを見ているのか、学生のどこを見ると最終的にいい人だったよ。というのがあれば聞きたいです。
馬場氏:
ポイントはふたつあると思っていて、まずひとつは採用する側がマネジメント(育成)能力がある会社だったら、原石を採用すればいいんですよ。何かをやりきった経験があれば、知識を教えて、機会を与えて、サポートしていく。
文化醸成されていて、背中見せれる人が何人もいるならば、それでいいかと…でも、それは長くある伝統ある会社でないとなかなか難しいですよね
ゲーム業界って、安藤さんや僕ら世代が「楽しんだ時間」が長すぎたせいで、今の30代の人たちのチャンスを奪ったことがたくさんあって。そこがやはりかわいそうなんですよね。
ゲーム産業の成長であったりコストの関係で、会社がベテランばかりに仕事を与えてきたせいで、育成やマネジメントを自分で考え、責任もって実行してきた経験ある人が少ないと思うんです。なので、なかなか育てよう!と思っても、フレキシブルに今の学生にあわせたプランやスキームが捻出できない…その結果、OJTで!となってしまうかと…
なので、学生さんには、逆に組織が未成熟=また文化が固まり切ってない企業なら、自分の中に「ゲーム大好き」だとか「魂」のような信念を持っていないと続けられないと思うんです。
例えば、「自分はプログラマーではなく、ゲームプログラマーになるんだ!」と思う場合、じゃあその違いは何かと聞かれた際に答えられるようになってほしい。それができれば、あとは拙くてもひとつ強みが出てくれば後は磨けばいいだけなので。
安藤氏:
なるほど。組織側の問題があると。
馬場氏:
僕は採用する側の問題…というか、変化できる、課題解消にむけて動けることが多いんじゃないか?と思っています。画力は別かもしれないですが、技術は所詮教えられます。
先ほど言ったメンタルやムードメーカーなど教えられないものはすごい貴重な能力なので、そこを見極めてとればいい。同じような「理解しやすい人」ばかりを採っていては、イノベーティヴなものは生み出せませんからね。「かわってる」ことは「素晴らしい」ことなので。
はめどころ、などを気にして、同じような人ばかりを採用していると組織はしんどくなってくると思います。全員、宮本、川相(守備、バントの名手)採ってもヤバいじゃないですか?(笑)
安藤氏:
ヤバいですね。ずっとバントみたいな。
馬場氏:
そう。すごい選手で大好きな選手だけど点取らなきゃ野球始まらないし。
安藤氏:
それってどういうやりかたがあるんですか。いろいろな人の物差し(視点)を入れるのか、自分の中でバリエーションを増やしてイメージするか、それとも両方なのか。
馬場氏:
いろいろな会社さんにおつなぎするときは、精神論っぽいけど、「魂」のある子じゃないといけないと思っています。要は受け止める会社側がどうなるかわからないし、会社に入った後に世話ができないので。前職で採用するときには、「この子は誰に預ければいいのか?」というのを考えていました。
安藤氏:
組み合わせを考えながら面談に臨むという。(了)
ここで紹介したのは放送で語られたトーク内容のほんの一部。この先何を仕掛けるのか、どうタイトルを作っていくのか、さらにはクローズド制ならではぶっちゃけトークなど、普段なかなか聞くことができない貴重な話がくり広げられている。
LIVE配信は隔週水曜日20時より。第7回のゲストは株式会社ディー・エヌ・エーの佐々木悠氏。幸いにも視聴は無料で可能だ。気になる方がいたらぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
第7回 Donuts安藤の『これからこうなる!2020』
https://donuts-korekara-007.peatix.com/
<イベント開催概要>
日程: 2020年8月19日(水)20:00-21:30
形式:オンライン生配信(事前申し込み制)
対象:ゲームクリエイターの皆さん
これからゲームクリエイターを目指す皆さん
ゲーム業界に興味のある皆さん
定員:なし
費用:無料
会場:オンライン