この記事はeスポーツとストリーミング配信のデータ分析サイト「ESPORTS CHARTS」より公式に提供されている翻訳記事です。
eスポーツの最新データや、Twitchなどのゲーム配信界隈に関するさまざまな話題をお届けします。
インドといえば、西欧社会を幾度も驚かせる国として知られています。インドのゲーマーについても同じことがいえるでしょう。私たちはスパイスとクリケットの国、インドでのストリーミングとeスポーツ業界の現状を調査しました。
インドのゲーマーの嗜好は、欧米のゲーマーには理解が難しいユニークなものが多いです。インドは世界で2番目に人口の多い国であり、改めてその視聴者数の規模には驚かされます。さらに、インド経済は過去数十年間で奇跡的な成長を遂げており、その成長はインドの一般市民の関心に直接影響を与えています。
文責/Sergey Yakimenko
出典・翻訳/ESPORTS CHARTS
時にインド市場は中国市場より閉鎖的
インドの特殊性はかなり大規模なものであり、その人口の多さから全体の状況を把握することは非常に困難です。また、インドは情報に関してかなり閉鎖的な政策をとっているため、インド市場全体での指標を評価するのは難しい場合が多いです。
インドのeスポーツ大会の放送に使われているストリーミングプラットフォームは、他国ではあまり馴染みがないものも多いです。世界的に人気のあるYouTubeのほかにも、HotstarやAirtel Xstreamといったプラットフォームがもっとも人気を集めています。
これらのプラットフォームは多目的な利用が重要視されており、TwitchやかつてのMixerのようなゲーマー向けのものではありません。欧米のストリーミングサービスがひとつのテーマに特化する傾向にあるのに対し、インドでは可能な限り多くのジャンルがカバーされる傾向にあります。
市場の閉鎖性を示す例として、インドの主要なローカルストリーミングサービスのひとつであるHotstarは、ヨーロッパとその周辺諸国からはアクセスできません。大規模なeスポーツ大会の放送にも利用されており、例えばESL Gaming【※】の中継プラットフォームとしてHotstarが採用されましたが、大会中であっても西欧諸国からはアクセスできませんでした。
※ESL Gaming
ドイツのケルンに拠点を置くeスポーツ大会運営企業。2000年から現在まで運営が続く、業界でももっとも古いeスポーツ関連企業。
しかし、これは多様な背景を持つ多くの企業がインドに注目していることを物語っています。世界のトップブランドの特別仕様車やユニークなイベントなど、インドは数多くのイベントが開催されていることも知られています。
この関心は年々高まる傾向にあり、同時にインドの消費者はますます重要な存在となっています。
インドではモバイルゲームが主流
インドではPCゲームの人気が低く、モバイルeスポーツのファンがかなりの割合を占めています。その背景もあり、インドで最も人気のあるゲームはモバイル版『PUBG』である『PUBG Mobile』となっています。過去6ヶ月間、このTencentのバトルロイヤルゲームはインドeスポーツイベントの人気ランキングのトップを独占していました。
「PUBG Mobile World League 2020 East」は、この地域で最新の大規模な大会となりました。ヒンディー語での放送では、ピーク時に44万9000人の視聴者を集め、現時点でインドで最大の視聴者数を記録しました。特にこの記録により、同大会は全世界のモバイルeスポーツ業界全体で、「MPL IDシーズン5」と「Free Fire World Series 2019 Rio」に次いで3位の座に着きました。
さらに、インドの視聴者のおかげで、「PUBG MOBILE World League 2020 East」は最も人気のあるオンライントーナメントとなりました。このイベントについての興味深い内容の数々は、我々のブログで紹介しています。
インドでの他のモバイルeスポーツの代表格(『Arena of Valor』、『Free Fire』、「Mobile Legends』)の人気は、『PUBG Mobile』とほぼ同レベルです。『Call of Duty: Warzone』のバトルロワイヤルや『Counter-Strike: Global Offensive』(『CS:GO』)、『Dota 2』なども時折上位に入って来ます。一方、世界で最も人気のある種目である『League of Legends』は、インドではあまり人気を得られていません。
『Free Fire』はライバルである『PUBG Mobile』に比べると、インドではあまり人気がありません。その理由として、『Free Fire』がほとんど南米に注力して来たのに対し、『PUBG Mobile』はリリース以降世界中(特にアジア圏)でのeスポーツを熱心にサポートしてきたことにあると思われます。
このようにインドではモバイルゲームが主流ですが、コンソールPCゲームのファンも存在します。その一例として、今年3月にTwitch Rivals【※】の一環として開催された『Call of Duty: Warzone』ストリーマーチャンピオンシップが挙げられます。これは、インドが熱心なバトルロワイヤルファンの多い国としての地位を改めて証明しています。
※Twitch RivalsはTwitchがホストするオンライン対戦イベント。Twitchストリーマーや元プロゲーマーなどが参加しさまざまなゲームのトーナメントが行われている。
世界中から注目を集めるインド市場
インドの面白さはこれだけではありません。世界のほぼすべてのトップチームがインドのファンに興味を持っており、いくつかのチームはすでにインドの視聴者の注目を集めるための第一歩を踏み出しています。
Fnatic、Team SoloMid(TSM)、Nova Esportsはインドで『PUBG Mobile』の選手団を組織しました。ブラジルと同じように、ひとつの種目が巨大なファンを持つことを考えるともっともな選択です。地元出身の選手を用意することで、その土地の新しいオーディエンスを引き付けることが容易になります。
また、OpTiC GamingはImmortalsとの合併の少し前に、インド事業部を開設しました。
開設当時、事業部は『CS:GO』の選手集めから着手しようとしていました。しかし、その直後にある選手のスキャンダルが勃発し、キャンペーンは突然終了してしまいました。
アメリカのソーダブランドであるマウンテンデューは、2017年から「Mountain Dew Arena」として知られる独自の『CS:GO』トーナメントを開催しています。
ESLは『CS:GO』、『PUBG Mobile』、『クラッシュ・オブ・クラン』、『FIFA』などで独自のインド・プレミアシップシリーズを開催しています。同時に、ドイツの主催団体によって大規模な『Dota 2』の大会「ESL One Mumbai 2019」が行われました。
さらに、ディズニーもHotstarというストリーミングプラットフォームに注目するようになりました。その結果、Hotstarはインド市場でのディズニーのサービス「Disney+」振興のため、同社に買収されたことが明らかになりました。
eスポーツ選手の多くは人気ブロガー
インドの『PUBG Mobile』プロプレイヤーは、欧米の大手eスポーツ組織をも凌駕する巨大なソーシャルネットワークのファンを持っています。元FnaticプレイヤーのScoutはYouTubeチャンネルだけでも300万人近くのファンがいます。
先日開催された「PUBG Mobile Streamers Showdown」では、Scoutの個人配信の方が公式配信よりも多くの視聴者を集め、ピーク時の視聴者数の差はわずか4%しかありませんでした。
この記事の執筆時点で、MortaLというeスポーツプレイヤーのYouTubeチャンネルの登録数は600万人近くに達しています。
一方、ヨーロッパで人気のある『Dota 2』や『CS:GO』などのゲームのスターはインドには不在です。そのため、これらのゲームはインド市場では人気がないようです。
公開情報からeスポーツ選手の収入を記録するEsports Earningsによると、インドのeスポーツプレイヤーの賞金ベースの収入はヨーロッパやアメリカに比べて劣っています。その一例として、インドで最も稼いだプレイヤーであるMortalが全キャリアを通じて稼いだ金額は、わずか2万ドル(約200万円)に過ぎません。
一方で、一般的な欧米のプレイヤーは1回の大会でそれと同程度の賞金を受け取っています。
「ESPORTS CHARTS」とは
「ESPORTS CHARTS」とは、eスポーツとストリーミングに関するあらゆるデータを収集・分析するサービスです。
たとえば「『Fortnite』の配信は世界でどれくらい視聴されている?」「日本のTwitchで、最も視聴されているゲームは何?」「いまアメリカで最も勢いのあるプロゲーマー/配信者は誰?」といった問いについて、公平な数字やデータを用いて裏付けることが可能です。
全世界の主要なeスポーツ配信のプラットフォームと連携しており、視聴数、最大同時接続数、言語別視聴数など、eスポーツチームやスポンサー、大会主催者からゲームメーカーまで、さまざまな視点からの分析に役立つデータを提供しています。