今年で27年目となる、コナミデジタルエンタテインメントの人気野球ゲームシリーズ『実況パワフルプロ野球』。同作では多くのゲームモードが用意されているが、中でも人気が高いのが「サクセス」モードだ。そちらをベースに、さらに多くの人に野球の面白さをアピールする目的で作られたのが今回発表されたWEBアニメの「パワフルプロ野球 パワフル高校編」である。
通常のアニメではなく、あえてWEBアニメというフォーマットが選ばれた理由は、スマートフォンなどお手軽に動画を見る環境が増えてきたのが理由だ。今やスマホ1台あれば、いつでもどこでもYouTubeなどの動画サイトにアクセスすることができるので、時代にマッチした選択ともいえるだろう。
ゲーム内のサクセスに合わせて、ストーリーは4話で完結するように構成されている。YouTubeでは1本当たり10分程度の動画が多いが、それに合わせて1話当たりの時間も10分に収めて展開される。
第1話と第2話は3月20日に配信が開始され、以降3月27日に第3話が、4月3日に第4話が公開される。それに先駆けて、第1話と2話の先行試写会がメディア向けに開催された。本稿ではその模様をレポートする。
取材、文、撮影/高島おしゃむ
白石涼子さんや逢坂良太さんなど豪華声優陣が参加! 主題歌はオーイシマサヨシさんの「パワフルバディ」
まずは、アニメの基本情報について簡単にご紹介しておこう。原作・製作・著作はコナミデジタルエンタテインメントが担当しており、アニメーション製作はアニメ版の『ペルソナ5』や『約束のネバーランド』などでおなじみのCloverWorksが手がけている。監督は渡邉徹明氏だ。
主要キャストは、主役のパワプロ役に白石涼子さん、親友の星井スバル役に逢坂良太さんを起用。そのほか、大谷育江さん、日野聡さん、小野友樹さんといった強力な声優陣が脇を固めている。
また、主題歌はオーイシマサヨシさんが作詞・作曲・編集を担当した「パワフルバディ」を起用。にじさんじとパワプロのコラボ企画第1弾で審査員を務めた、にじさんじライバーの笠木咲さんがアニメ次回予告に出演している。
今回のアニメでは、パワフル高校を舞台に野球愛×友情×青春という青春スポーツアニメに欠かせない3つの要素が詰まったストーリーが展開されていく。小さい頃からプロ野球選手になることに憧れていた主人公のパワプロが、パワフル高校に進学。そこで、昔引っ越しで離ればなれになった親友「スバル」と再開することになる。
一緒に野球をやりたいと願ったパワプロだが、なにやらスバルの胸には傷のようなものがあるのか、以前のような野球に対する夢が失われていた。そこからふたたび野球への情熱が燃え上がっていき、ライバルたちと切磋琢磨していく姿が描かれていくといった感じである。
ネタバレ厳禁ということもありこれ以上の詳しい話は明かせないが、1話当たり10分ほどのWEBアニメということで、試写前の印象としてはライトな4コマ漫画のようなものをイメージしていた。しかしながら、作品自体は通常のアニメと何ら変わらないレベルの本格的な作りになっており、10分という尺の中にも多くの人間ドラマが詰め込まれている。
今回試写させてもらったのは、最初の第1話と2話なのだが、どちらかというと野球その物よりも人間関係に主軸を置いた物語になっていた。だが、主人公をとりまくキャラクターたちとのやりとりもイキイキとしており、ついつい続きが気になってしまう展開になっている。
オーイシマサヨシさんのエンディング曲も、作品世界と合っておりかなり楽しめたというのが率直な印象だ。できるなら、たった4話で終わらせずにもっといろいろと見たくなってしまう。
アニメ製作スタッフ陣への質疑応答
作品の試写終了後、監督の渡邉徹明氏、アニメ企画担当の林潤アシスタントプロデューサーとPR担当の白石裕真氏の3名による質疑応答が行われた。こちらでは、その一部を抜粋してご紹介する。
――キャラクターに対して建物のサイズ感など背景の描き方がマッチしていました。WEBアニメなので短い尺ですが、元々のサクセスのシーン切り替えなども意識されましたか?
渡邉氏:
キャラクターや背景のなじみに関しては、技術スタッフやほかの作画スタッフを含めて打ち合わせを重ねました。初見の人が、そこが気になって見られないというようにならないようにしています。特に苦労したのは教室です。ゲームでもそうしたシーンが少しあったので、KONAMIさんから資料をいただきつつ画面に落とし込む工夫をしました。
場面転換に関しては、ゲーム原作にもあるように、アイキャッチを挟んでひとつのイベントが終わりました感を出しています。そこはゲームに忠実に再現しています。ゲームを遊んでいる人が、「あ、ちゃんとパワプロっぽいことやっているな」と思ってくれるといいなと。
――監督は、最初にこのオファーを受けたときに、どのように思われましたか?
渡邉氏:
僕自身も一パワプロユーザーとして、過去に作られた映像しか見たことがありませんでした。それを、オープニングとかではなくストーリーもあるアニメーションを作るということで、率直な印象としては面白そうだなと思いお受けしました。
また、一ファンとして動いているパワプロたちが見たかったというのもありますね。それを、自分の手で描けるなら、この上ない喜びだなと思い、前向きにオファーを受けた感じですね。
優れたアニメーターたちが作品のクォリティーを上げてくれた
――パワプロの作品自体の魅力はどのように感じられていますか?
渡邉氏:
小学生の頃から遊んでいて、シリーズを制覇しているわけではないですが(笑)。パワプロの独特な世界観であるサクセスというモードをたくさん遊んでいましたが、そこに出てくるキャラクターたちとパワプロくんとの関係性や、イベントごとに切磋琢磨して行く流れなど、自分の好きだった要素が見たいだろうなと思っているところを上手く落とし込めたらいいなという気持ちで取り組みました。
――今回の作業で難しく感じたところや楽しかったところを教えていただけますか?
渡邉氏:
難しかったのは、先ほどの対比感であったり、手がまるであったり足の関節や口がなかったりと、いろいろ制約された中で映像表現する必要があったところです。しゃべるときにクローズアップにしたりワンアクションを入れたりするなど、誰か話しているかわかるような工夫をしました。そうしつつも、どのアングルから見ても不自然感が出ないように頑張りました。
良かったところは、僕が想定している芝居の1個上、2個上にクォリティーを上げてくれるアニメーターさんがたくさんいたところです。アニメーターさん自身もパワプロが好きな方が多く、誤算なんですが自分が想定していなかった可愛い芝居が上がってきたカットがたくさんありました。それがすごく楽しかったですね。
現場のスタッフも楽しく作業できる作品はなかなか少ないので、僕自身を含めて現場のスタッフ一丸となって作品作りをしていました。
アニメ化の構想は2年前から
――アニメ化の構想はどれぐらい前からあったのでしょうか? また、なぜこのタイミングだったのでしょうか?
林氏:
2年前に、パワプロシリーズ25周年という節目のタイミングがありました。そのときに、これまでご愛顧いただいたお客様に対して何か驚きを与えつつ、今までにない展開で楽しさをお届けしたいと考えました。コンサートなどの取り組みも走っていましたが、そのときに今まで挑戦してこなかったアニメ化もいいんじゃないかという話しもありました。そのため、構想としては約2年で今回の取り組みにたどり着いたという形になります。
このタイミングでアニメ化をしたのは、パワプロシリーズは今年で27年目ですが、これまでずっと野球が好きなお客様に向けて本格的なゲームとしてお届けしてきました。その中のモードのひとつとしてサクセスに関しては、高校野球、大学野球、社会人野球、プロ野球と様々な野球シーンに登場人物が出てきます。それぞれに、夢があって友情や絆があるなど、青春のサクセスを描くものになっています。
この部分に関しては、お客様からも野球は詳しくなかったけど、このモードを遊んで好きになったという声も頂いていました。これを切り出してアニメ化することで、これまで興味を持っていた野球・ゲーム好きのお客さんだけではなく、もっと広く届けることができるのではないかと思って取り組みました。
――10分という枠のなかで、ゲームの要素なども取り入れられているかと思いますが、シーン設定でこだわられた部分はありますか?
渡邉氏:
ひとつひとつのシーンで、ドラマとして何を伝えなければいけないのかというところにフォーカスして、それがコア的に見える仕掛けをなるべく入れていきました。パワプロの世界観はキャラクターありきなので、そちらにフォーカスしてドラマを見せるということで、そうしたシーンを積み重ねていく工夫をしていきました。
主役のパワプロに声を付けるか悩んだ
――声優のキャストについてですが、今回は主役のパワプロ役を白石涼子さんが演じています。キャスティングでこだわられたところや、決め手になったところがあれば教えていただけますか?
林氏:
主役を演じた白石涼子さんは女性声優の方ですが、少年役で定評があります。サクセスのパワプロくんは、プレイするお客様の分身のような存在と捉えられている方が多いので、声をどう付けたらいいのかという部分に関しては弊社内でも悩みました。
初期は、パワプロくんは声が付くとお客様のイメージと合わないということで、声なしにするという話しも出ていました。そこは、CloverWorksさんとご相談して、監督からもアニメーションとして作るからには主人公が話せないのは難しいという説明もあり、この機会に声を付けた作品にすることが決まりました。
今回はパワフル高校を舞台にしたアニメーションになっていました。シナリオによってもパワプロくんの動きが違うところがありますが、そうした中で、パワフル高校のパワプロくんは挫折しているスバルくんを引っぱりながらチームをまとめて甲子園を目指す熱血タイプです。そのイメージにあったのが白石さんだったところから、決めさせていただきました。
渡邉氏:
先にゲームの方で決まっていた矢部明雄役の大石育江さんのこともあったので、起用するなら同じ女性の方がバランスを取りやすいと考えました。他のキャラクターに関しても、初期の頃からユーザーになじみのあるキャラクターもいるので、インパクトがありつつも技量があり、ある程度名前が売れている方にしたほうがファンも納得するのではないかと考えて、僕の方からも提案しました。
――試合の描写の見所はどこでしょうか? また、サクセスシリーズは他にもありますが、他の高校をピックアップしてアニメ化する構想などがあれば教えてください。
渡邉氏:
全4話構成にした理由は、ゲームのアプリも4話構成だからですが、試合は3話から本格的に始まります。1、2話とはがらりと雰囲気が変わります。ゲームのサクセスも、終盤に試合が立て続けに入り、急にシリアスな展開になります(笑)。それを再現しつつ、野球をしているパワプロくんたちの姿もフォーカスした作りになっています。
白石氏:
今回は「パワフル高校編」ということで取り上げていますが、主人公のパワプロと相棒のスバルなど、人間模様が野球の王道ストーリーとして描かれていることから採用しています。2014年12月にアプリがリリースされ、初めて採用されたシナリオが「パワフル高校」だったことも、大きなポイントです。今後の展開については未定です。
――小ネタがちょくちょく出てきますが、こんなところに注目して欲しいというシーンがあれば教えてください。
渡邉氏:
往年のファンがわかるようなものを仕掛けているつもりです。変化球などに関しても、ゲームからのエフェクトを再現しています。個人的に注目して欲しいのはエンディングですね。その話数に登場したキャラクターが追加されていくようにしています。
――パワプロくんの動きを再現するときに、難しかったところやこだわったところはありますか?
渡邉氏:
KONAMIさんからゲームのモーションデータを参考に頂いて、それを元にアニメ上で再現するための工夫を作画スタッフと綿密な打ち合わせをしました。実際のプロ野球や高校野球の動画を見たり、都内にある市民球場を取材したりして、会場の広さ感などをどう落とし込むのかといったところも、時間をかけています。
苦労した点でいうと、どんな仕組みでボールが変化するのかというところですね。そうしたところも考えながら作っていきました。
――最後にファンに向けてメッセージをお願いします。
渡邉氏:
私自身もひとりのパワプロユーザーとして、取り組みさせていただきました。KONAMIさんも、もっとパワプロを世間に広めたいということもあり、その力になれればと思いました。今後も増えていくであろう学校やシチュエーションもありますので、このコンテンツの世界が広がるといいなと思います。アニメーションとしては、アプリのストーリーとは若干世界線が違いますが、どの世代のパワプロユーザーが見てもニッコリできる内容にしています。なので、安心して見てください。
林氏:
アニメ化の企画として、お客様にお届けできるところに着地できたことを非常に嬉しく思っています。27年間続けてきたタイトルというところで、アニメで見てみたいという声も、前々から多数頂いていました。今回ようやくそのひとつに答えることができました。どんな反応が返ってくるのか、楽しみでもあり不安でもありますが、4話構成でひとつのシナリオで歴代ファンからアプリのファンまで、楽しんでいただける仕掛けはできる限り散りばめたつもりですので、楽しんでいただければと思います。
白石氏:
アプリのパワフル高校をプレイしたことがある方にとっては、このシーンはというところも詰め込まれていますので、ぜひご期待いただければなと思います。
――ありがとうございました。
WEBアニメの配信は3月20日の19時からだが、YouTubeのKONAMI公式チャンネルでいつでも見ることが可能だ。まずは、忘れないうちにチャンネル登録を済ませておくことをオススメする。