『テイルズ オブ ヴェスペリア』などを担当したスタッフが開発を進めている、6月24日から発売予定のバンダイナムコエンターテイメントの『SCARLET NEXUS』(以下、スカーレットネクサス)だ。
ブレインパンク・アクションRPGと名付けられた本作は、完全新規のIPとして開発が進められており、体験版が配信されるまで全貌がなかなか見えてこないタイトルだった。
今回は発売が1周間前に迫ったということで、あらためてXbox Series X|S向けに配信された体験版の内容と手触りをレポートしてみたい。
文/悲野ヒコ
編集/ishigenn
ありそうでなかった、非常に手触りの良いアクションRPG
デモ版は本編の主人公であるユイト・スメラギ、もう一方の主人公であるカサネ・ランドールを選択して進められるもので、チュートリアルである入隊試験を経て、序盤のミッションをまるまるひとつ体験できるようになっている。
本作全体をプレイしたわけではないので全体の評価は勿論できないが、デモ版の内容だけを一言で表現すると「ありそうでなかった。非常に手触りの良い」アクションRPGという印象。
「超脳力」と命名された各種アビリティと近接武器で戦うスタイリッシュなアクションと言う、いかにもコンボアクション的なシステムを想像しがちではあるが、本作のアクションはボタン連打で手軽に可能なスタイリッシュさが演出できる戦闘というよりは、主人公固有の脳力や仲間から借りる脳力と敵の属性、地形効果等の習熟度によって形成されるスタイリッシュさを持つ。
たとえば主人公の脳力はサイコキネシス。物体を自在に動かせる脳力で周囲のオブジェクトを武器とした立ち回りをすることが可能だ。それは物理的なダメージソースでもあれば、弱点を突くことで敵のアーマーをブレイクさせる効果もある。さらにはステージギミックを利用して敵を状態異常にするという応用的な立ち回りまで多彩だ。
それだけではなく、主人公は仲間の「脳力」を併用することで想像を超える立ち回りが可能になる。たとえば武器に炎や雷を纏わせることでガソリンや水にまみれたエネミーに追加効果を発生させ、あるいは透明化によって敵に隠れてバックスタブを入れ、透明な敵や高速で移動する敵には透視、あるいは超高速の脳力で敵をスロー、あるいは視認することが可能になる。
脳力との組み合わせでスタイリッシュに敵を屠る
ひとつひとつの戦闘は通常攻撃ではなく、脳力とその組み合わせがスタイリッシュに敵を屠るためのムーブとして成立している。逆に言えば通常攻撃は主たる攻撃手段でありながら、さまざまな脳力によって弱体、あるいはスタンしている敵に対するフィニッシュと、ゲージ管理の役割を同時に担っている。
つまり通常攻撃を当てつつ脳力のゲージを溜め、脳力ゲージと仲間の脳力ゲージのバランス管理をしながら敵と戦うということで、初めてスタイリッシュさが生まれるという設計になっている。
必然的に使うボタンと確認するゲージインジケーターの数は多くはなるが、ひとつひとつの動きの必然性はかなり練りこまれており、煩雑さを感じさせないようによく考えられている。おそらくこの体験版を一回通しでプレイするだけで基本的な操作は違和感なく行えるようになっているはずだ。
良い意味で中二的な、ラノベ的、あるいはアニメや漫画で思い描くようなスタイリッシュさは決してボタン連打だけでは得られないが、ハードルは極力低く設定されており、見た目だけではなく「操作感」そのものからくるカタルシスは正直それだけで遊ぶ価値を感じさせる優れたものだ。
非常に面白く感じたのは仲間の脳力をひとつひとつ自分で使う、つまりその「仲間」=「脳力」というシステムの恩恵は戦闘だけではなく、戦闘を通じてしっかりとその仲間キャラクターの個性がプレイヤーに伝えることに非常に効果的に機能しているという部分だ。
一般論として、ビデオゲームにおいて、プレイアブルではないキャラクターに親近感を覚えるためにはストーリーライン上のフックが必要不可欠だが、本デモ版ではほぼさわり程度のストーリーしか追えないのに関わらず、少なくともこの「脳力」はこの「キャラクター」であるという刷り込みは充分になされた。
本作のテーマ「絆」も感じさせる優れた体験版、本編にも期待
本作のテーマのひとつに「絆」というキーワードが設定されているということだが、その表現手法として個性的なアビリティに一人のキャラクターを当てはめるという手法は強く寄与しているし、それだけをとっても本作のストーリーやキャラクター達がどういった関係性を築いていくのか興味を掻き立てる。
体験版を本編に誘うための導線として評価した場合、戦闘システム、世界観、キャラクター、エネミーデザインと、本作ならではのユニークさを余すところなく表現していると言えるし、こういった世界観を好む層だけではなく、苦手としている層も毛嫌いせずにプレイしてみて欲しいと思える出来だ。
少なくとも簡便ではないかもしれないが、さりとて複雑すぎもしない、知識と直観を両立させることで深みとスタイリッシュさを感じさせる独特かつ「習熟」させる意欲を沸かせる戦闘システムは間違いなく体験する価値がある。
『スカーレットネクサス』が新規IPとしてどれだけのボリュームと完成度、ストーリーテリングの確かさを持って発売され、どういった評価を受けるのか現段階で確かなことはひとつもないが、戦闘システムの練りこみを体験した限りではその他の部分に対しても強い期待感を持って発売を待っても良いだろう。