スポーツの祭典、平和の祭典、オリンピック。
クーベルタン男爵の呼びかけによって1896年に第1回大会がアテネで開催された近代オリンピックは、現在まで数多くの人々に感動をもたらしてきました。
この世界的なスポーツの祭典とテレビゲームの歴史は深く、1984年に開催されたロサンゼルスオリンピックをモチーフとしたアーケードゲーム『ハイパーオリンピック』は、ボタンの連打によってプレイキャラクターの走行スピードが上昇するという分かりやすいシステムで人気を集め、ファミリーコンピュータといった家庭用ゲーム機にも移植されました。
このボタン連打によって走行スピードが上昇するという『ハイパーオリンピック』のシステムは、その後のオリンピックゲームやスポーツゲームにも脈々と受け継がれており、セガが開発した、登場するキャラクターの濃さや種目の派手さが特徴的な、10種競技(デカスロン)を題材とするアーケードゲーム『デカスリート』にもその姿を見ることができます。
その後、数々のオリンピックゲームが登場する中、『デカスリート』のようなコミカルなキャラクターが登場する派手なスポーツゲームの流れを汲んだオリンピックゲームシリーズとして、セガと任天堂が共同開発した、ゲーム界の2大キャラクターであるマリオとソニックのコラボ作品『マリオ&ソニックシリーズ』がスタート。
このシリーズもこれまでのオリンピックゲーム同様、ボタン連打やWiiリモコンを振るといったような、直感的で分かりやすい操作方法で、シリーズ第1作目にあたる『マリオ&ソニック AT 北京オリンピックTM』は、Wii版とニンテンドーDS版を合わせて、全世界で1,000万本以上を出荷する大ヒットを記録しました。
そして、この『マリオ&ソニックシリーズ』のような直感的で分かりやすい操作システムを継承しつつ、リアル路線を取り入れて、セガから発売された東京オリンピックのゲームが、今回の本題である『東京2020オリンピック The Official Video Game™』です。
このゲームには、陸上競技・水泳・球技など幅広いジャンルの競技が収録されており、合計20の種目で遊ぶことができます。なお、スポーツクライミング・4x100mリレー・ラグビー・柔道の4種目は無料追加配信で、オンライン環境があれば入手可能となっています。
さて、ここまで話してきたような流れの中で制作された『東京2020オリンピック The Official Video Game™』にも、オリンピックゲームの伝統芸能と言っても過言ではない “ボタン連打” をメインに据えた種目が数多く収録されています。
しかし、たかがボタン連打とあなどってはいけません。操作が単純明快であるということは、裏を返せば、プレイヤーの実力・本気度が、直接結果に反映されるということ。生半可な心構えでは、猛者たちが集う決勝戦を勝ち抜き、金メダルという栄光を手にすることはできないのです。
連打は、多くのゲーム好きが子どもの頃に一度は技に磨きをかけたことがあるもの。かの有名な高橋名人が16連射で当時の少年達を虜にしたように、連打が速い人はヒーローになることができました。
しかし、連打とは不思議なもので、多くの人がいつしか本気で向き合うことをやめてしまう、蔑ろにされやすいものでもあります。
このゲームでは、あの頃の、あの当時の、 “本気の連打” ができるかどうか。それが勝敗を大きく左右します。連打を制すものこそが、オリンピックゲームを制すのです。
文/DuckHead
「こりゃ金メダルも余裕だな」と思いきやまさかの20種目全敗
それでは、早速プレイ開始……といきたい所ですが、その前にまずは自分だけのオリジナルキャラクター(アバター)を作製することができる ATHLETEモードへ。
本作に登場するパーツのバリエーションは、非常に豊富です。プレイヤーの創造力を如何なく発揮することで、かっこいい・美しい選手はもちろんのこと、歌舞伎役者・力士・ピエロといったような奇抜な見た目のキャラクターを作ることが可能となっています。
また、キャラクターコードを入力することで、他のプレイヤーが作成したキャラクターをゲームに登場させるなんてこともできるようですね。
さて、キャラクターの準備も整ったところでいよいよプレイ開始です。
本作の競技プレイモードには、オリンピックのメダルを目指して各競技に挑む “OLYMPIC GAMES” 、オンライン対戦で競技の上位ランクを目指す “RANK GAMES” 、各競技の練習が出来る “TRAINING” があります。
そこでまずは OLYMPIC GAMES をプレイし、金メダルの獲得を目指しつつ、一通り全ての種目で遊んでみることにしました。
20ある種目の操作方法は、どれも非常にシンプル。ゲームに慣れている人であれば、流し見程度でも把握することができるくらい簡単で、ゲーム初心者であったとしても、かなりの短時間で理解することができると思います。
中でも特にシンプルな操作で遊べるのが陸上100mで、この種目はオリンピックゲーム伝統のボタン連打ゲーとなっています。
また、基本操作が理解しやすいことに加え、ゲームプレイ中にも操作方法が表示されるため、操作方法をド忘れしてしまったとしても安心です。実際、物忘れの激しい私は、この機能にかなり助けられました。
しかしこのゲーム、操作を覚えること自体は非常に簡単なのですが、記録を出す・試合に勝つということを狙い始めると、それなりのテクニックが必要になってきます。操作方法がシンプルであるがゆえに、プレイヤーの実力がそのまま結果に反映されるため、小手先だけでは闘えなくなっていくのです。
OLYMPIC GAMES は、予選→準決勝→決勝と勝ち進めていき、金メダルを目指すモード。最終目標である金メダル獲得のためには、2回勝ち進んだ後に待ち構える決勝戦で1位になる必要があるわけですが、当然のことながら、勝ち進んでいくごとに相手選手が目に見えて強くなっていきます。
予選・準決勝を余裕綽々で勝ち進め、「こりゃ金メダルも余裕だな」と天狗がごとく伸びきった私の鼻は、決勝戦で急激に上昇した難易度を前にへし折られ、結局どの種目でも初見プレイで金メダルを獲得することはできませんでした。
難易度が上がったとは言っても、全く勝てるビジョンが見えない、いわゆる無理ゲーといった趣ではなく、「もうちょっと、あとちょっとだけ上手くプレイすることができていれば、勝てたんじゃないか」と思わされる絶妙な塩梅の難易度で、「1種目だけでもいいから金メダルを取りたい」と闘志に火がつきます。
20戦全敗というあまりにも不甲斐ない結果を鑑みつつ、金メダルを狙える種目の選抜を始めたわけですが、このOLYMPIC GAMES は、“たとえ決勝戦であったとしても、負けたら予選からやり直し” というシビアなルール。この選定は慎重に進める必要があります。
連打、ジャンプ、コース取りが肝となる自転車競技BMXで目指せ金メダル
CPUとペアを組みダブルスで挑む、ビーチバレー。
スタミナが0の状態で相手に掴まれると一本が確定するため、スタミナ管理を中心とする駆け引きがキモになる、柔道。
適切な速度でのボタン連打の継続と正確なタイミングでのバトンパスが勝負の鍵を握る、4×100mリレー。
次に掴むホールドの方向にスティックを倒して離すだけという、シンプル過ぎるともいえる操作法ながら、好タイムを出すことが意外と難しい、スポーツクライミング。
実はほとんどテレビゲーム化されていない球技、ラグビー。
……といった候補の中から、トライ&エラーの容易さ・連打の有無といった必須要素に加えて、個人的な好みを最大限考慮し、自転車競技のBMXで金メダルを目指すことにしました。
BMXはコースのタイムを競うレース競技で、ボタンの連打で速度を維持しつつスティックで自転車を操作し、ジャンプ台や段差ではタイミングよくボタンを押して大ジャンプを決めて、ゴールを目指します。
オリンピックゲーム伝統の連打もありながら、コース取りやジャンプといったテクニカルな要素もあるこの種目は、私に最も向いていると思えたのです。
こうして、「絶対にこの種目で金メダルを取るぞ!」と息巻いてBMXに挑むことになったわけですが、現実はそう甘くはなく、決勝戦敗退が連発。金メダルはおろか、表彰台に上がることもできないという状況が続き、最終的には準決勝敗退という事態にまで陥りました。
私は、いつから本気で連打をしなくなってしまったのだろう
余りにも高すぎる世界の壁を目の当たりにし、「BMXでは勝てないかもな。別の競技で金メダルを目指そうかな」と考え始めたその時、私は非常に重要なことに気がついたのです。
そう、本気の連打をためらっている自分がいるということに。
──私は、いつから本気で連打をしなくなってしまったのだろう。
──私は、なぜ本気で連打をしなくなってしまったのだろう。
ゲームのやりすぎでボタンが全く効かなくなってしまったコントローラーを、何台も見てきたせいだろうか。
それとも、「何を本気でボタン連打なんかしているんだ」と自分自身を冷めた目で見てしまうせいだろうか。
昔は何の抵抗もなく、あれほど本気で連打ができていたじゃないか。
たとえゲームの中であったとしても、オリンピックはオリンピック。金メダルを勝ち取るのは容易なことではない。
全力を出し切っても結果が伴うかどうかは分からない、厳しい世界。
連打はオリンピックゲームの伝統だなどと、一丁前に講釈だけは垂れ流しているくせに、実際のゲームでは本気で連打をしない。そんな人間に、金メダルが得られるはずもない。
金メダルは降ってくるものではなく、自らの力で掴み取るもの。
こんな簡単なことにも気がつけなかったとは。
──よし、本気の連打を見せつけてやろうじゃないか
……といった茶番を脳内で繰り広げつつ、金メダルを獲るために、基本操作よりテクニカルな“上級操作”と呼ばれる操作方法もしっかりと確認し、“妥協なき連打”を胸に掲げ、気持ちも新たに再びBMXに臨みます。
予選・準決勝と順調に勝ち進んでいき、決勝戦。ここまではいつも通り。ここからが本番、ここからが本当のBMXです。
そして、決勝のレースがスタート。緊張からか、スタートの合図にタイミングが合わず、完全に出遅れます。幸先の悪い滑り出し。弱すぎるメンタル。
この遅れを取り戻すには連打以外に道は無いと、本気の連打を決行。ものの数秒で親指のつけ根が痛みだし、年齢を重ねたこと、連打を怠ってきたことで連打に対する持久力が落ちているという事実にも気付かされます。
痛みが親指から手首にまで広がり、コースも中盤に差し掛かった頃、ようやく首位に躍り出ることができました。
当然、なおも手首は悲鳴を上げ続けていましたが、ここで手を抜いて負けるようなことがあれば、これまでの連打・努力が無意味になってしまうと、休むことなく連打を継続。
このリードを保ったまま、最後の直線へ。
しかし、ここでジャンプボタンの誤爆というくだらない操作ミスをしてしまい、大減速。どこまでも弱すぎるメンタル。
ここまで気丈に連打を続けてきてくれた右手にも限界が近づいており、「もはやこれまでか」という思いが頭をよぎりますが、横にライバルの姿は見えません。「頼む、このまま1位でゴールさせてくれ」と、祈るような思いで、ただひたすらに連打、連打、連打……!
そして、レース終了。
結果は……自己ベストをマークして1位。
ようやく念願の金メダルを獲得することができました。
連打こそオリンピックゲームの華。
連打を制するものがオリンピックゲームを制す。
「やっと金メダルだ…」
冷房の効いた室内にいながら、ボタン連打で流した汗をぬぐうその姿は、客観的に見れば滑稽な光景であることに疑いは無いでしょう。
しかし、この41秒のレースで得られた充実感・達成感は、言葉にできないものがありました。
ボタン連打を必要としない種目の方が圧倒的に多い本作の中で、わざわざ連打が主軸となる種目を選んだ甲斐があったというものです。
そして、苦労して掴み取った金メダルの余韻に浸りつつ、何気なく陸上100m走をプレイしてみたところ
アッサリ金メダル
その流れでなんとなく200m個人メドレーにも挑戦し……
アッサリ金メダル
あそこまで金メダルを取るのに苦労したのは、「シンプルにBMXが私に向いていなかっただけなのではないか」という疑念がわき上がってきましたが、私は、「この2つの金メダルはBMXで成長した結果手に入れられたものである」と、かたくなに信じることを、心に決めたのでありました。
──後に、実はBMXがそこまでガムシャラに連打をしなくてもいい競技だったということに気がつくことになるのですが、それはまた別のお話──
かわいらしいミライトワや着ぐるみ感満載のソニックの姿でなぎ倒そう
それでは最後に、プレイヤーキャラクターが身につけるウェアを種目ごとに選ぶことができる、WEARモードをご紹介したいと思います。
このウェアの種類もまた豊富で、かっこいいユニフォームから、スーツ・ハッピ・忍装束といったスポーツとは結びつかないようなものまで、さまざまな衣装が用意されています(これらのウェアは、ゲームを遊ぶことで獲得できるポイントで購入可能)。
ゲームに花を添えるこれらの個性的なウェアの中でも、一際異彩を放っているのが、東京2020オリンピックのマスコットキャラクターである「ミライトワ」と「ソニック」のウェアです。
かわいらしいミライトワが、柔道やボクシングといった格闘技で対戦相手をなぎ倒していくさま、ラグビーで強烈なタックルを決めるさまは、かなりのインパクトがあります(逆もまた然り)。
そしてソニックは、ゲームに登場する時のような見た目ではなく、どうも中に人が入っていそうな、非常に着ぐるみ感が溢れるデザインとなっています。キャラクターではなく、ウェアとしての登場ですから、当然といえば当然なのですが。
さて、このソニックウェアを見て、「着ぐるみソニックじゃ満足できない」「普通のソニックはいないのか」と感じた方に朗報です。
冒頭で紹介しました『マリオ&ソニックシリーズ』の最新作『マリオ&ソニック AT 東京2020オリンピックTM』がNintendo Switchにて発売中です。
本作では、マリオとソニックの世界観でアレンジされた、現実には存在しない “ドリーム競技” や、1964年に開催された東京オリンピックをモチーフとした、ファミコン時代のドット絵で描かれたキャラクター(ソニック陣営はメガドライブのドット)による競技といった、リアル路線の『東京2020オリンピック The Official Video Game™』にはないゲームモードで遊ぶことができます。
もちろん、こちらのソフトにも “連打” ございます。
さて、時間の流れは速いもので、東京オリンピックの閉会までの日数は、残すところあとわずかになりました。
しかし、ゲームの世界のオリンピックに終わりはありません。
この夏は、冷房の効いた部屋で連打に熱中し、汗を流してみるのも良いのではないでしょうか。