ソ連の科学者によって教育ソフトとして開発された、落ち物パズルの金字塔『テトリス』。
上から落ちてくる、4つの正方形のブロックからなる “テトリミノ” をプレイエリアに配置していき、テトリミノで横1列のラインを隙間無く埋め尽くし、そのラインにあるテトリミノを消していく……そんな単純なルールでありながら、奥深いゲーム性・没入感を有するこのパズルゲームは、世界各国で大流行し、長きにわたって多くの人々に愛されてきました。
ちなみに、ゲームタイトルの “テトリス” は造語で、ゲーム中では4列のラインを同時に消去することを指します。
そんな『テトリス』は、家庭用ゲームにも進出し、元々は1人用ゲームだったテトリスを対戦ゲームに特化させた『テトリス武闘外伝』、奇想天外な形状のテトリミノを送り込んで対戦相手を妨害することが出来る『マジカルテトリスチャレンジ featuring ミッキー』、テトリスと並ぶ落ち物パズルの金字塔 『ぷよぷよシリーズ』とコラボした『ぷよテトシリーズ』など、独自のルールや世界観を持つ、さまざまな作品が製作されてきました。
そして、これらの派生作品のどれとも異なるひときわ異彩を放つ世界観・プレイ感を持った全く新しいテトリスが、2018年に発売された『テトリス エフェクト』でした。
『テトリス エフェクト』の衝撃から3年の時を経て、新要素を追加した拡張版『テトリス エフェクト・コネクテッド』が、10月8日に Nintendo Switchで発売されました。
なお、PS4などでリリースされた『テトリス エフェクト』も、『テトリス エフェクト・コネクテッド』へ無料アップデートすることが可能です。
そこで本稿では、『テトリス エフェクト・コネクテッド』の世界観と、新たに追加された要素についてレビューをしていきたいと思います。
文/DuckHead
さまざまな effect により見える、“テトリスの向こう側”
さて、『テトリス エフェクト』は、電脳世界を浮遊するハッカーを主人公とし、“シューティングゲームと音楽ゲームを融合したよう” と形容される独自の世界観を持つ『Rez』や、音楽に合わせてスライドするタイムラインに合わせて、2色のカラーブロックで2×2以上の四角を作って消していくというルールの、落ち物パズルと音楽ゲームと融合した『ルミネス』など、音楽とゲームを連動した名作で知られる水口哲也氏が手がけたテトリスです。
本作もまた、テトリスと音楽・映像の融合がキーとなるゲームであり、VRでテトリスがプレイできることも話題となりました。
テトリスを長時間プレイした後、目にする風景がテトリミノに見えたり、目を閉じるとテトリミノが落ちてくる光景が浮かんだりするなど、日常にテトリミノのイメージが表れる現象、“テトリス効果 (Tetris effect)”。
その名の由来とする本作は、その名が表すとおり、プレイヤーに強い没入感を与え、これまで慣れ親しんできたテトリスとは違う、“テトリスの向こう側” とも言うべき世界へと連れていってくれる、そんな作品に仕上がっています。
先述したように、これまでにはないような全く新しいプレイ感を持つテトリスを実現した本作ですが、基本的なルール自体は、昔から親しまれてきた『テトリス』と何ら変わりはありません。
それでいながら、本作のテトリスのプレイ感が全く新しいものとなっているのは、本作最大の肝である、テトリスの音楽・グラフィックとの連動に他ならないでしょう。
本作においてプレイヤーは、幻想的な音楽と映像に彩られた空間でテトリスをプレイしていくことになるのですが、テトリミノを消すことによって、画面の音楽や映像が変化するのは勿論のこと、テトリミノを動かす動作そのものにも効果音が連動しています。
このような、プレイ中の一挙手一投足が全て画面に反映される体験を続けていくうちに、プレイヤーにはゲームに対する没入感が生まれていき、最終的に、プレイヤー・映像・音楽・テトリスが一体となったようなプレイ感覚が生じてきます(少なくとも、私はそのような感覚に囚われました)。
つまり、自らのゲームプレイの effect(結果) が、画面上で effect(効果) を生み出し、それを体験したプレイヤーには、その effect(影響) として、強い没入感と、effect(感銘)が与えられ、Tetris effect (テトリス効果)が起こるというわけです。
……簡潔にまとめるどころか、ちょっと自分でも何を言ってるのか分からなくなるレベルの、effect過多な文章が生まれてしまいましたが、それくらい、この『テトリス エフェクト』は、エフェクトに溢れた、これまでにない独自の世界観を構築した、通常のテトリスとは一線を画すゲームなのです。
また、本作のテトリスには、特有のシステムとして、“ZONE”システムがあります。
“ZONE”は、テトリミノを消すことで貯まっていくゲージを解放することで発動可能となる特殊状態で、テトリミノの自動落下が止まり、、テトリミノの消去を蓄積していくことが可能となります。そして、“ZONE”が終わると時の流れは通常に戻り、蓄積されていたテトリミノも一気に消去されます。
このシステムにより、より多くのラインをクリアしたことによるボーナスを獲得することができたり、ゲームオーバーのピンチを回避することができたりするのですが、これは、いわゆる「ゾーンに入った」と呼ばれる状態をほうふつとさせる演出であり、これもまた、ゲームへの没入感を高めてくれるひとつの要素といえるでしょう。
これまでにないテトリス体験を彩る、多彩なステージとゲームモード
さて、本作のメインモードとなるのが、Journey Mode(ジャーニーモード)。このモードは、それぞれに特有の音楽・効果音・背景・テトリミノで形作られたステージを、規定数のラインを消すことによりクリアしていくモードです。
これらのステージのモチーフとなっているのは、火山・砂漠・オーロラなどの自然現象、クラゲ・カメ・イルカなどの生き物、万華鏡・歯車・花火などの人工物、モダンジャズ・光と影・陰と陽などの概念……と多岐にわたり、モード名が示す通り、プレイヤーは音楽と映像で彩られたさまざまな世界を、テトリスを通じて旅していくこととなります。
しかし、Journey Modeは、規定のライン数を消してステージをクリアすると、すぐに次のステージへ移行してしまうため、「もう次のステージかぁ。もっと今のステージでテトリスを楽しみたかったのに」という気持ちになることもしばしば起こります。
そんな欲張りなプレイヤーの要望に応えるのが、Effect Mode(エフェクトモード)です。
このモードには、気楽に楽しめるゲームモードで構成される “RELAX”、歯ごたえのある難易度のゲームモードで構成される “FOCUS”、マラソンやスプリントなど、テトリスプレイヤーにはお馴染みのゲームモードで構成される “CLASSIC”、変則的なルールのゲームモードで構成された“ADVENTUROUS” の4つのカテゴリーに分かれた、バリエーションに富んださまざまなルールのテトリスが存在しています。
そして、このモードでは、一部のゲームモードを除いて、Journey Modeでプレイ可能なステージを自由に選択することができるため、その時の気分に合わせたゲームモードとステージで『テトリス エフェクト』を楽しむことができるのです。
このモードで用意されている多くのルールの中で、私が特に気に入っているのが “ミステリーモード” です。このゲームモードはさまざまなハプニングが起こる中で150のラインを消すことを目指すモードで、「巨大テトリミノが降ってくる」、「画面の上下が反転する」などの理不尽とも言えるハプニングが、プレイヤーに襲いかかってきます。
さらに、これらのハプニングに加えて、ラインを消していくとテトリミノの落下スピードも上昇していくので、かなりスリリングなゲーム展開を楽しむことが出来ます。ちょっと変わったテトリスを楽しみたい方にオススメのモードです。
中には、視点がプレイエリアを下から見上げたようなダイナミックなものになるという、四捨五入したら妨害ではなくなるであろうハプニングがあるのはご愛嬌。
チームメイトと “コネクテッド” してボス(魔物)と闘う協力対戦、“コネクテッド” モード
さて、ここからは『テトリス エフェクト・コネクテッド』で追加された新要素を見ていきたいと思います。
この拡張によって追加された新要素の中でも、特に重要なのが、マルチプレイの実装でしょう。もともと『テトリス エフェクト』は、1人プレイ用のテトリスとして発売されており、複数人でプレイを楽しむモードはありませんでした。
本作で追加されたマルチプレイモードでは、「つながった・連続している」などの意味を持つ“コネクテッド”の名が示すように、機種の垣根を越えた、クロスプラットフォームプレイを実現。
さらに試合結果によりプレイヤーのランクが上下するRANK MATCHや、ランクに関係なく有人と対戦することが出来るFRIEND MATCHで、世界中のプレイヤーと対戦することが可能となっています。
さて、このマルチプレイモードでは、ZONEシステムが導入された1対1の対戦モード “ZONEバトル”、『テトリス エフェクト』のルールで、ゲームオーバーまでの間に相手よりも高いスコアの獲得を目指す “スコアアタック”、その“スコアアタック”よりも更に厳しくなったルールの中で、相手よりも高いスコアを目指す、初代『テトリス』をモチーフとした、 “クラシック スコアアタック” といった対戦モードで遊ぶことができます。
そして、本作のマルチプレイの中でも特徴的なゲームモードが、“コネクテッド”。このゲームモードは、プレイヤー3人でチームを組み、AIが操るボス敵を倒すという、「3 vs 1の協力型テトリス」という非常に珍しいルールとなっています。
正直なところ、最初にこのゲームモードを聞いたとき、「テトリスの協力プレイをしたとして、チームメイトと協力している実感は得られるのか?」という疑問が真っ先に私の頭をよぎりました。
そもそも『テトリス』では、基本的に自分のプレイエリアが中心かつ全てであり、例えば、誰かと対戦をしていても、自分のプレイエリアのテトリミノを消していくことで精一杯になってしまい、対戦相手の画面を見ている余裕は中々ありません(私が下手なだけという可能性も高いですが)。
それと同様に、3vs1の協力プレイといっても、それは構図上だけの話であって、与えられたプレイエリアがひとりひとつずつであることに変わりはありません。となると、自分のプレイエリアだけで精一杯になってしまい、チームメイトのプレイエリアや、敵のプレイエリアを気にする余裕がなくなってしまうことは明白で、そのような状態の中で3vs1の勝負をしたとしても、個人で対戦をしている感覚と大きく変わるところはありません。
そして、協力プレイによくある「チームメイトを助ける」といった要素も個人プレイのテトリスでは考えにくく、仲間と協力して敵と戦っているという実感もないまま、「個人対戦をしているつもりだったが、どうやらこれは協力対戦だったらしい」といったようなプレイ感覚になってしまうのではないだろうかと思ったのです。
しかし、実際にプレイをしてみると、その考えは杞憂でした。このゲームモードには、 “コネクテッドZONE” という特有のシステムが存在しており、このシステムこそが、チームの協力感を非常に高めてくれるものだったのです。
“コネクテッドZONE” の発動条件は、シングルプレイの “ZONE” と似ていて、テトリミノを消していくことで貯まっていくゲージが満タンになることで発動します。
“コネクテッドZONE” が発動すると、3人のプレイエリア (本作では “マトリックス” と呼称されています)がひとつにつながった(コネクテッド)状態になり、これまでに積み上げたテトリミノが隙間無く配置された状態となり、“ZONE”と同様、消したテトリミノが蓄積されていくようになります。
そして、“コネクテッドZONE” の終了と共に、“コネクテッドZONE” 中に蓄積されたラインが一気に消去され、その量に応じて、1人側のプレイエリアを狭めることができます。基本的に、3人側が1人側に出来る攻撃はこれだけなので、3人側にとって、“コネクテッドZONE” は非常に重要な要素となってきます。
“3人のプレイエリアがひとつに繋がる”という部分だけでも、非常に独特な “コネクテッドZONE”ですが、このシステムが更に独特なのは、“3人のプレイヤーが1人ずつ順番にテトリミノを落としていく” ということ。
つまり、 “コネクテッドZONE” が発動している間は、ひとつに繋がったプレイエリアに3人が順番にテトリミノを落とし、3人で力を合わせてラインを消していくことになるのです。
こうなってきますと、チームメイトのテトリミノを見て、チームメイトがどこにテトリミノを置きたいと思っているのかを予測することも大事になってきますし、自分がテトリミノを置かないと、次のプレイヤーがテトリミノを配置することが出来ないため、素早い判断も求められます。
また、“コネクテッドZONE” 中は、置いた場所にあるテトリミノを全て下まで隙間なく押し込む、“Magic Mino” という、紫色に彩られたテトリミノも時折出現するため、自分やチームメイトのミスをカバーすることも可能となっており、チームメイトを助ける要素も盛り込まれています。
先ほども述べましたように、基本的に自分のプレイエリアのことだけを考えて進めていくのが私のテトリスのプレイスタイルであるため、チームメイトのテトリミノを見て、「どこにテトリミノを置けば、チームメイトがプレイしやすくなるだろうか」、「チームメイトは今、どこにテトリミノを置こうとしているのだろうか」といったようなことを考えながら、3人でひとつのプレイエリアを協力して進めるという感覚は、これまでにはない初めての体験であり、非常に新鮮かつ楽しいものでした。
ちなみに、“コネクテッドZONE”で攻撃を仕掛ける3人側に対し、1人側は、テトリミノを消すことで、「テトリミノの回転禁止」、「2つのテトリミノがひとつにコネクテッドしたテトリミノを送る」、「巨大なテトリミノを送り込む」、「テトリミノを虫食い状態にする」……などといった、これまでの対戦テトリスゲームの流れを汲んだ妨害攻撃を仕掛けてきます。
これらの攻撃に耐えかね、味方が1人でもやられてしまうと、3人側の戦いは非常に厳しいものとなってきます。
単純計算しても、“コネクテッドZONE”の発動に必要なゲージを貯める人手が3分の1になるわけですから、なかなか“コネクテッドZONE”を発動することが出来ず、更に激しさを増す1人側の攻撃に押し切られ、全滅ということがほとんどです。
この、1人がやられてしまった時の絶望感も、協力感を高める一助となっているように思います。
ちなみに、やられてしまったプレイヤーは、REVIVE(リバイブ)状態となります。この状態では、BGMのクラップ音に合わせてボタンを押したり、生き残っているチームメイトが、テトリスやT-Spinを決めることで、REVIVEメーターを貯めることができ、メーターが満タンになると復活することが可能です。
ですが、私がプレイした中では、このルールを把握しているプレイヤーは少なく、ただただ静観するのみになっているプレイヤーが多く見られました。
かくいう私も、最初にプレイしたときにはこのルールをしっかりと把握しておらず、後になってチュートリアルを確認してから、復活ルールの存在を知りました。
チュートリアルを自分で見る以外に、このゲームがルールを教えてくれる機会はほぼ無いので、基本的なことではありますが、「基本はテトリスなんだから、ルールなんて見なくても大丈夫」とは思わずに、事前にチュートリアルを見てからマルチプレイに挑むのがオススメです。
また、通常の“コネクテッド”は、プレイヤー vs AIで対戦をするゲームモードですが、RANK MATCHで毎週末24時間限定で開催される “フルムーンイベント” では、プレイヤーがボスとしてプレイすることが可能となり、AI無しのプレイヤーのみで、3vs1の対戦を楽しむこともできます。
更に、Nintendo Switch版の『テトリス エフェクト・コネクテッド』には、2つのコントローラーが繋がったJoy-Conを使用するNintendo Switch版だからこそ実現した、 “EXTRA振動” が搭載されています。
これは、テトリミノを右に移動させると、右のJoy-Conが振動するといったような、Joy-Conの左右で異なる振動を体験することができる振動機能で、この機能を使用する際には、より強く、より鮮明に振動を感じることができる、Joy-Conを両手に持った状態でのプレイがオススメです。
『テトリス エフェクト』は、 PS4版のパッケージに書かれている通り、今まで誰も見たことも聞いたことも感じたことも無いテトリスゲームであり、正直なところ、いくら言葉を尽くしてその凄さを語ろうとしても、いくら画像を使って映像の美しさを伝えようとしても、実際にプレイをしたときに感じた想いをほとんど伝えることができていないように感じます。
そんな、これまでにしたことがないようなテトリス体験に、対戦プレイ・協力プレイの楽しさも加わった『テトリス エフェクト・コネクテッド』の真の面白さは、プレイした人にしか分かりません。このゲームは、テトリスファンだけでなく、普段ゲームをあまりプレイしない人にもオススメしたい作品です。
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取材にあたって電ファミ編集部は、開発中の『テトリス・エフェクト』をVRモードで体験したのだが、私たちはそこでデジャヴに遭遇した。『Rez Infinite』の「Area X」の、あの衝撃が再び甦ったのだ。
言葉では伝えづらいものを、あえて言葉で伝えることになるが──『テトリス・エフェクト』が、私たちを次なる新しいゲーム体験の境地へと連れていったことは確かである。