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映画『花束みたいな恋をした』は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を「やがて萎れゆく花束」に見立てた、究極の実在性恋愛映画だった

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 突然ですがみなさん、映画にテレビゲームが一瞬映り込んでちょっと嬉しい瞬間ってありませんか?
 ゲーマーであれば何となく伝わりそうなこの心理。たとえば『シュガー・ラッシュ』『レディ・プレイヤー1』などの、そもそもテレビゲームをある程度の主題に組み込んでいる作品ならば登場するのは当然かもしれませんが、それよりも私は「全然ゲームと関係ない映画にチラッとゲームが映り込む」あの瞬間が好きなのです! 

 たとえば、柳楽優弥主演映画『ディストラクション・ベイビーズ』【※1】のゲームセンターのシーンでやたらと目立っている『MELTY BLOOD』の筐体!

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(画像はAmazon | ディストラクション・ベイビーズ 特別版(2枚組)[DVD] | 映画より)

※1「ディストラクション・ベイビーズ」
2016年公開のアクション……?映画。「柳楽優弥が手あたり次第通行人に殴りかかる」という狂気の映像が108分垂れ流されるグラセフじみた倫理観の映画。幸か不幸か、何とこの映画で先日ご結婚された菅田将暉・小松奈々夫妻が共演しており、世間では『糸』婚だと言われているものの個人的には『月姫リメイク』発売を祝した「ディストラクション・ベイビーズ婚」ではないかと睨んでいる。

 割と重要な話をしているシーンではあるのですが、こっちの気持ちは「あれ?メルブラじゃね?」に支配されもうメルブラの筐体にしか目がいかない。
 遠野志貴がナイフを振り回している時のあの「シパッ!シパッ!」という独特なSEがひたすら流れ続け、もう正直映画どころではない。

 そもそも映画のゲームセンターのシーンで遊ぶ格ゲーなんて大抵は『ストリートファイター』とか、『鉄拳』とか……ちょっとマニアックな所を攻めたとしても『GUILTY GEAR』『BLAZBLUE』辺りになりそうなもんですが、この映画はメルブラ。

 いや逆にこの映画以外にメルブラが登場する映画なんかあるのか?
 というかもうゲーセンのシーンで何故かメルブラをチョイスしてくる尖り方がこの映画そのものを物語っていると言っても過言ではないのですが……。

 ……とまあここまで書いておいて何ですが、今回紹介する映画は『ディストラクション・ベイビーズ』ではなく、タイトル通り『花束みたいな恋をした』なのです!

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(画像はAmazon | 花束みたいな恋をした 通常版 [DVD] | 映画より)

 何とこの映画にはあの世界的名作ゲーム、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が登場する!

  ま、まさかこの記事を読んでいてブレワイを遊んでいない方がいらっしゃるとは思えないのだが……もし未プレイならばこんな記事読んでないで今すぐブレワイを買え!!
 そのぐらい文句なしの傑作が『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。

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(画像はゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド ダウンロード版 | My Nintendo Store(マイニンテンドーストア)より)

 プレイヤーの「もしかしてここをこうやって動かせば突破出来るんじゃ……?」という大抵の思考に解答が用意されているゼルダ的謎解き要素を広大なハイラル地方のあちらこちらに散りばめた「オープンワールドゼルダ」としての完成度の高さは、『原神』などの後発のオープンワールド作品にも多大な影響を与えています。

 そんな……そんなオープンワールド界の特異点的タイトルとも言えるこの作品が、とんでもない使い方をされているのがこの『花束みたいな恋をした』とかいう映画なのです。
 
 そもそもこの『花束みたいな恋をした』とは何なのか……という説明からまず先にしましょう。

文/ジスマロック
編集/実存


押井守をキューピッドに産声を上げるサブカルクソカップル

 2021年1月29日に公開された菅田将暉と有村架純ダブル主演の恋愛映画。
 いかにも「大衆向け恋愛映画!」と言った感じのキャストとビジュアル。きっと付き合いたてのカップルも、シニアデーにやってきた熟年夫婦も、私のような画面端のメルブラばかり気になってしまうオタク野郎でも老若男女問わず楽しめるのでしょう。実際そうではないのですが。
 
 まず先に言ってしまいましょう。私はこの映画が大嫌いです。
 しかし嫌いでありながらも、この映画の凄さ──あまりに深い「実在感」へのこだわりは間違いなく本物だ、とも思うのです。
 実際、見た人はけっこう賛否両論となる映画のようで、電ファミの編集さんは「マジでいい映画ですよね、ボロボロ泣きました」と言ってました(原稿を読む前に言われてしまったので、その後ちょっと微妙な空気になったのは内緒)。

 それはさておき、この映画の恋は大学生の「麦(演:菅田将暉)」「絹(演:有村架純)」が終電を逃し、ふたりで入った深夜営業のカフェでたまたま押井守を見かけた事がきっかけで始まります。

 たまたま入ったカフェに押井守が居ることある?

 いや菅田将暉が言ってるんだから居ることはあるだろ!!!

 こんなことがあるならたまたま入ったセブンイレブンのイートインコーナーに富野由悠季監督が居たりするのかもしれないし、私の好きな『キラッと☆プリチャン』【※2】の博史池畠監督だってその辺のカフェに居るのかもしれない。
 私も菅田将暉と付き合おうかな……。

 私は以前『ぶらどらぶ』が面白かったので何かオススメの押井守監督作品ありませんか?」とTwitterのフォロワーに尋ねたところ、『天使のたまご』【※3】やもはや押井守監督作品でも何でもない『BLOOD-C』を投げ付けられたことがあるので、まだ「犬と立ち食いそばが好きな人ですよ!」と押井守を知らない人に我が物顔で語る麦くんの方がマシなのかもしれない。

※2「キラッと☆プリチャン」
タカラトミーとシンソフィアの共同開発により2018年より稼働していたアーケードゲームを原作にしたテレビアニメ。長く見続けることでジワジワとハマってくる独自の味わいがある作品なので、こんな映画を見るよりプリチャンを見ることを私はオススメする。

※3「天使のたまご」
1985年に制作された押井守が原案・脚本・監督を務めるOVA作品。何かもうとにかく「すごい」としか形容出来ない作品なため、注釈に書く必要もないかもしれないが、まだ見ていない人は是非一度眠気が限界に達した瞬間放たれるあの大音量の絶叫に腰を抜かしてほしい。

 そして押井守を恋のキューピッドにお互いのサブカル知識を披露しあい徐々に惹かれていった麦くんと絹ちゃんは、カフェで『ゴールデンカムイ』の話をしてふたりでイヤホン半分こしたり、『宝石の国』を読んでボロボロ泣いたりして、さらに親愛を深めていく。

  サブカルクソカップルの爆誕である。
 もしこれで読んでいた漫画が『チェンソーマン』とかだったら、私は「お前らがタツキを汚すな!!!」とPCのモニターに正拳突きを叩き込んでいたかもしれない。

 ただ漫画を読んで仲良くなっているだけならば私は何も言わない。私は人の色恋そのものが憎いわけではない。

 この映画の悪質なところは、麦くんと絹ちゃんは基本的に「◯◯(作品名)見ました?」「見ました~!衝撃的でしたよね~!」「◯◯(作品名)も見ました!?」と知識をひけらかし上澄みという名の薄氷の上でスケートを繰り返すばかりで、全く「ゴールデンカムイのここがこうで面白かった」と中身のある会話している姿を見せてくれないところである。

 いや……私は別に知識をひけらかして会話のラリーを続けることを悪いとは思わない。ゲームでも漫画でも何でも、「コミュニケーションの手段」として娯楽を楽しむことに何も非はないだろう。悪いのはこれを撮ってる監督だ!

 麦くんと絹ちゃんだってもしかしたらラッコ鍋で大盛り上がりしてるかもしれないだろ!!そんなシーンをひとつも見せず、ただただお互いのステータスを見せ合い確認し合うかのように作品知識だけをひけらかし続けるシーンばかり撮り続ける監督の悪意はなんなのだ!!

 とはいえ、こういう描写にいきりたってしまうのは、半分は自分のせいでもあるのです。
 誰しも一度はこう……誰かに自分しか知らないようなマニアックな知識を披露して心の中で優位に立ちたい頃があったでしょう。
 
 私だって中2だか中3だかの頃、『Fate/Grand Order』をアプリのセールスランキングから見つけ型月にドハマりして型月wikiだけで得た知識をFateも何も知らない友人に振りかざして「月姫って知ってる!?」と聞いて回り「────あぁ、こいつらはもう俺には追いつけない……」と優越感に浸っていたことがあるので、まぁ~~~腹立つ!
 嫌な映画!お前さえ居なければ、こんな事思い出さずに済んだのに!!(クェス・パラヤ)
 
 もはやこの映画においては「共感性羞恥」という言葉など生ぬるい。
 『花束みたいな恋をした』では、かつてこういうムーブをしてしまった経験がある方にはもう正直ここには書き切れないほど「刺さってしまう」描写が多数存在します。ちなみに私は開始5分でちょっとイラっとしました。気になった方は是非見てみましょう。

 そして視聴者が苦しんでいる間もふたりは楽しい時間を過ごし、多摩川の近くに同居するための新居を構える。そしてここでついに『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が登場!!

 えっ? ゲーム出てこなさすぎ? こんな記事ゲームメディアに載せて許されるのかって?
 まぁまぁ……そう言わずここまで見たなら最後まで見てってくださいよ。

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先ほどからやたらと画像が少ないことにみなさまお気づきかもしれないが、この記事には「画像の掲載許可を取れなかった」という衝撃の難産エピソードがある。いやまあ確かに私も著作権の担当者だったら「いやこの記事に……なんかまあ……こう……うん……」と悩んでしまう。

満を持して登場するブレスオブザワイルドが、2人の「壁」になる

 この映画は現実の時間と同期しているような描写が多く、麦くんと絹ちゃんのふたりが付き合い始めたのが2015年。そしてブレワイは2017年発売のタイトルなので、ふたりが付き合い始めてからおよそ2年の時が経過している。
 実在の作品と映画内の時間経過を絡めることでリアリティがグッと増しているのは、この映画の良いところと言っていいでしょう。

 しかし……大学生から2年の時が経過するということは環境も大きく変化することを同時に意味する。イラストレーターを目指していた麦くん。親からの仕送りも断たれ、イラストの仕事は3カット1000円という雀の涙にも等しい金額しか入らなかったため、半ばイラストレーターの道を諦める形で就職を決意する。

 絹ちゃんは簿記の資格を取り、趣味と仕事を両立したハッピーライフを構築するも、麦くんは生活費を稼ぐために常に仕事に追われ続ける。やがて漫画も、映画も、小説も、何もかもが仕事の後回しになってしまう。
 
 就職した麦くんの「ゼルダは買ったけど、研修が意外に忙しくて、ゾーラの里で止まってる。」というセリフは特に印象的。

 「ゾーラの里からが面白いんでしょうが!!!」と麦くんの身体をビタロックで固定し獣王の大剣でボコボコに殴りデスマウンテンの遥か彼方まで吹っ飛ばしてやりたくなるが、研修が忙しいなら仕方がない。おとなになるってかなしいことなの……。

 そこからのふたりは、まるで厄災によって離れ離れになったリンクとゼルダ姫のように、どんどん心が引き剥がされていく。

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確か本編のあのシーンでテレビに映っていたブレワイはこの辺だったような……違うような……

  麦くんは仕事に追われ続け、精神をすり減らし、絹ちゃんから誕生日に貰ったワイヤレスイヤホンでリビングのブレワイの音をシャットアウトし、仕事に励む。

 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が仕事に追われる麦くんと趣味を大切にする絹ちゃんの間の「壁」としてそびえ立つ衝撃のシーン。

 確かにブレワイに協力プレイ機能とかないけどさあ……何もこんな使い方しなくたっていいだろ! 何でブレワイが映画に出てきたのにこんな気持ちにならなくちゃいけないんだ!?

 おい菅田! テレビ見ろ! そこ神獣ヴァ・ルッタ戦だから!!
 いっちゃん熱いとこだからテレビ見ろ!!!

 有村、お前はシド王子と結婚せえ。

 私は一体何を見せられているんだ? 何これ? 闇落ちした任天堂のCM?

 そこからもまだまだこの作品は畳みかけてくる。さらに仕事が忙しくなり、絹ちゃんとの関係もやや険悪になってきた麦くん。突如として仕事先のドライバーが荷物をトラックごと海に捨て去る事件が発生する。

 上司からの無茶振りでその事件の処理を任された麦くんは、「自分と同じ新潟出身・『誰でも出来る仕事なんかしたくなかった』という犯行動機」など、ドライバーと今の自分自身が重なることに気が付いてしまう。

 深夜。同僚には煽られ家にも帰らず真っ暗なオフィスの中ただひとり『パズル&ドラゴンズ』を遊ぶ麦くん。菅田、お前あんなにグラブってたじゃねえか!!

 『パズドラ』だって「仕事で人間が精神をすり減らしている」描写として使われるためにこの世に生を受けた訳じゃない。

 しかし、この映画で私は「菅田将暉と有村架純はやはり名俳優だ」ということを再確認した。大学時代の趣味に溺れる付き合いたての浮ついたカップルから、成人になり就職してやや冷めてきているカップルの変化を何の違和感もなく演じ切っている。

 そんなふたりの名演があるからこそ、この映画の悪辣さが極まった喧嘩シーンが余計に辛い。仕事に追われる麦くん、趣味と仕事を両立する絹ちゃん、両者のスタンスの違いはついにすれ違いを生む。

 絹ちゃんは頑張って取った簿記の資格を捨て、自分の好きなイベント企画会社に勤め始める。そのことを聞いていなかった麦くんはついにキレてしまう。もう男が悪いとか女が悪いとかそういう話じゃない……というか、両者に非があるような、どちらも悪くないようなモヤモヤ感をずっと残し続けるのがこの映画の嫌なところだ。

 そしてついに放たれるこの映画最大の名台詞(個人差があります)。

 「ゴールデンカムイも7巻で止まったままだし、宝石の国の話だって覚えてないし……息抜きにならないんだよ!!パズドラしか、やる気しないの」。

 何度聞いてもすさまじいセリフである。
 どんな作品に触れても頭に入らないし何も感じないぐらい精神が壊れかかっていても、これだけは遊べるゲーム、『パズル&ドラゴンズ』。

 ガンホーはどういう気持ちでこの映画に協力してんの???

 大学の頃、あんなに楽しかった創作物が、娯楽が、大人になって「受け入れられない物」になって襲いかかってくる恐ろしさ。
 この映画に協力した作品、どれひとつとして得してなくないですか?

 ……ここまでずっと『花束みたいな恋をした』に対して、「嫌い」だの「悪辣」だの罵詈雑言を浴びせ続けてきたが、それと同時にこの映画が持っている絶対的な面白さは間違いない。
 もう胃もたれするほど甘ったるいイチャイチャを見せつけられる前半から徐々に関係が冷え込む後半の落差と緊張感、これまで掲載してきた本編シーンを見ればよく分かる気合の入ったカットの数々。

 実際私はこの映画を見ていて、2時間画面に釘付けだった。本当に面白い映画は、どんなに心が「嫌な話!」と拒絶していたとしても、食い入るように見てしまうのかもしれない。
 流石に私だって、後半のあまりの社会的仕打ちの数々に「もう勘弁してくれ!麦くんと絹ちゃんを解放してやってくれ!」という気持ちになってしまったのだから、この映画には確実に人間の心を引き込む「力」がある。

  本当に麦くんと絹ちゃんは別れるのか!? それとも結婚するのか!?

 ……とこのまま宣伝に繋げたいところですが、残念なことに麦くんと絹ちゃんはこのまま別れます。まあ読者のみなさまの9割9部9厘は予想できていたことでしょう。

「花束」とは一体何なのか? この映画に救いはあるのか?

 この映画のタイトルが「花束みたいな恋を『する』」でも「花束みたいな恋を『してる』」でもなく、「花束みたいな恋を『した』」と過去形になっていることが、この映画の顛末の全てを物語っています。

 そう、この映画は男女が恋をして別れるところまでを描いた、「失恋映画」なのです。
 これ、何の事前情報もないまま見に行った若年カップルはどういう気持ちで映画館を出たんですか???

 そしてタイトルにあるもうひとつの言葉、「花束」
 これが一体何を指すのか……それは各々の解釈に委ねられるところなのですが、私としては『ゴールデンカムイ』に『宝石の国』、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』などの麦くんと絹ちゃんの生活を彩った作品ひとつひとつを「花」に見立てているのだと思います。

 そして花はいつか枯れる。それが造花やプリザーブドフラワーでない限り、そこに生命が存在している限り、いつかその色は失われ枯れ行くのが花の必定なのだ。

 それこそが7巻で止まった『ゴールデンカムイ』、2人で読んだのに内容も覚えていない『宝石の国』、2人で遊ぶつもりが結局は2人の溝を深めた『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』、最初は2人で半分こにしていたのに個別の物を使うようになったイヤホンと音楽。

 創作物という名の花を束ねた花束は大人になって、社会人になって、枯れてしまった。『花束みたいな恋をした』とは、そういうことなのだろう。

 ……ここまでの紹介を見ていて「そんなニーアのウェポンストーリーばりに救いがない絶望的な映画なら別に見たくないんですけど……」と思っている方も居るかもしれない。

 ちょ、ちょっと待ってください! もうちょっとだけ聞いてってくださいな!

 この映画にはもうひとつ特筆するべき点がある。
 それはもはや狂気的なほどに突き詰められた「実在性」だ。

 先ほど紹介した実在の作品と作中の時間経過を同期させることでリアリティを演出する平成ガメラ【※4】的手法だけにとどまらず、めっっっちゃくちゃどうでもいいところまでリアルさを追求して観客を「これは現実で本当に起きている恋だ……」とこの映画のステージに引きずり落としてくる。

※4「平成ガメラ」
1995年から公開された『ガメラ 大怪獣空中決戦』『ガメラ2 レギオン襲来』『ガメラ3 邪神覚醒』の三部作の呼称。実在するテレビ局による怪獣災害の報道や実在の企業が特撮のセットに組み込まれることで作品内のリアリティを高めている特撮史に残る傑作。こんな映画を見るよりも平成ガメラを見ることを私はオススメする。

 たとえば麦くんが3カット1000円という薄給に苦しむワンシーンのLINEのトーク画面。

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画像許可が取れなかったなりに花束本編の「ワンカット千円ですか?」「3カットで千円ですー」というLINEトーク画面をひとりで再現しようと試みている私の努力の痕跡を感じて欲しい。なにがなんだかよく分からない人はオデで満足してください。

 見て下さいよ、この会話自体はかなりキツい話をしているものの「3カットで千円ですー」と語尾を伸ばすことで何となく柔らかい印象を持たせようとしてくる小賢しい文面描写!
 
 先ほど紹介した深夜のパズドラのシーンも、『グラブル』『FGO』などではなく、仕事の空き時間に触りやすい『パズドラ』なのが労働に追われる麦くんの悲壮感をより強く演出している。

 『パズル&ドラゴンズ』や『モンスターストライク』などのソーシャルゲームがセールスランキング上位を保ち続けている理由のひとつには、もちろんゲーム自体の面白さもあるでしょうが、「社会人や学生が昼休みなどの合間合間の休みに気軽に触りやすい」という「生活に寄り添うゲーム」であることも大きいのではないでしょうか。 

 さらには「精神が追い詰められている時は“写経”のようにひとつのゲームに打ち込み続ける」という現実から逃れるべく無心で己に課したタスクを消化し続ける精神の保ち方もある。電ファミ内にも麦くんと近しい状況の記事があるので是非ご一読を。

『討鬼伝』を3000時間遊んで鬱から救われた元女流プロ雀士の話

 唯一この映画が『パズドラ』に貢献している面があるとすれば、「どんなに現実が逼迫していて精神が追い詰められたとしてもパズドラはいつでも待っているよ」とでも言わんばかりに過酷な現代社会に『パズドラ』という逃走経路を提示した点だろう。
 そんなことになる前に精神科に行け!!!!!

 そんなキツいリアリティがこれでもと詰め込まれているこの映画に唯一救いがあるとするならば、「別れを決めた後の方が麦くんと絹ちゃんはどことなく楽しそう」という点である。

 この映画を見て恋愛とか、大人とか、やがて冷めていく何かへの愛について考えられるほど私は大人じゃないし大人になりたくもない。
 それでも、学生から始まって、恋愛して、働いて、その果てに花の枯れた「大人」になるのではなく、別れを切り出して初めて「大人」になった2人が何だか熟年夫婦のように楽しそうにしているところに私は「救い」を感じました。

 付き合うことだけが恋の幸せではなく、別れを決めた後にも恋の幸せはある。
 そんな切り口の映画があってもいい。この映画のそういう気概はたまらなく好きです。
 
 ただ、その「別れが決まった後の方が何か楽しそう」ってとこまでこの映画の計算され尽くした実在性に組み込まれてそうなのが余計腹立つんですけどね!?

 ……さあ皆さん、『花束みたいな恋をした』がちょっとは見てみたくなったんじゃないでしょうか? これで本当に早く見たくてたまらない人が居たら多分変態だと思います。
 
 サブスクの『花束みたいな恋をした』はU-NEXT独占配信とややハードルが高いのでお近くのレンタルショップに駆け込むのもひとつの手でしょう。

邦キチを読め!!!

 ……と、もう記事が終わりそうな気配を漂わせていますが、実はまだ終わらない。

  突然ですがみなさん、『邦キチ!映子さん』という作品はご存知でしょうか?

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(画像はスピネル | 邦キチ! 映子さん – 服部昇大 | 珠玉の女性向け作品を集めた無料漫画サイトより)

 「邦吉映子」という邦画ばかり見ている変な女の子が、『魔女の宅急便(実写版)』『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』など、ちょっと変わった邦画や旬の邦画を紹介する映画紹介マンガなのですが、コチラの方でも何とこの『花束みたいな恋をした』が紹介されています。

 この花束回に限っては邦キチが主人公という訳ではなく、年間で見た映画の本数を誇るタイプの「池ちゃん」が実質的な主人公。

 『花束みたいな恋をした』の紹介と、池ちゃんの「映画の感想を書いてもイマイチ面白くならない」という悩みを半分半分で進めていく構成になっていて、自分はこの池ちゃん回を見てから『花束』を視聴しました。

 初めてこの回を見た時の感想は「池ちゃんが半分メインだったからそれほど『花束』推し回って訳でもないな」という感じだったのですが、『花束』を見た後だと池ちゃん回の見え方が大きく変わる!

 何故この回の主人公が池ちゃんなのか?

 何故この回の舞台はファミレスなのか?

 『花束』の核心に踏み込むことなく池ちゃん個人のストーリーを展開し、かつ『花束』を見た人間にはこの回が一体何を言いたいのか伝わるようになっている服部昇大先生の技量に恐れおののくしかない。

 冒頭で紹介した『ディストラクション・ベイビーズ』も実はこの邦キチから知った映画なので、もしここで初めて邦キチを知った方が居るとしたら是非過去の話も読んでみてほしい。
 『花束』ファンには『邦キチ!映子さん』の池ちゃん回を読んでほしいし、邦キチファンには『花束みたいな恋をした』を見て、池ちゃん回の構成の上手さを味わってほしい。どちらの方向から入ってもめちゃくちゃ面白いはずです。

 邦キチが気に入った方は単行本も買ってみて下さい! ブレワイまだ買ってない人はブレワイを買え!! そして花束が気になった方はU-NEXTかお近くのレンタルショップへ!!!

 今家族になったら、俺と絹ちゃん絶対上手く行くと思う!
 子ども作ってさ、パパって呼んで、ママって呼んで。俺想像出来るもん。3人か4人で手繋ぎながらハイラル城歩こうよ! マスターバイク押してゲルドの街行こうよ! 邦キチ買って、ディストラクション・ベイビーズ見て、ユアストーリー見て! 時間かけてさ、長い時間一緒に生きて!!

ライター
転生したらスポンジだった件
Twitter:@yomooog

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