上の画像はNintendo Switchで2022年2月10日に発売される『オーシャンズハート』のキービジュアルだ。画面左下にはゲームの主人公であるキャラクターがおり、それと対比するかのように画面右側には広大な世界が描かれている。この構図、どこかで見覚えがないだろうか?
インターネットで「ファイナル構図」などと呼ばれるこの構図は、近年のオープンワールドゲームのパッケージ、あるいはタイトル画面などで非常に多く用いられている。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『原神』『クラフトピア』、そして『ファイナルソード』など……。
この構図がどこから来たのかにはさまざまな説があり、どのゲームが始めなのかも定かではない。しかし、昨今のトレンドに関して言えば、売上的にも知名度的にも、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の影響は大きいだろう。
もちろんそれが全てではないだろうが、少なくとも『オーシャンズハート』は、ゼルダの影響を多大に受けている。何故そんなことが分かるかって? それは作者がそう言っているからだ。
「これは『オーシャンズハート』というゼルダライクのゲームで、現在完成してパブリッシャーを探しているところです。探索に重点を置いた……というよりも、当初の予定を超えてワールドをだいぶ大きく作りすぎちゃったので、めっちゃ探索するゲームになっています。」
しかし、『オーシャンズハート』は『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』のような3Dオープンワールドアドベンチャーではない。
Max Mrazの手がける『オーシャンズハート』はもっと前のゼルダから影響を受けている……そう、2Dゼルダだ。
文/植田亮平
※この記事は『オーシャンズハート』の魅力をもっと知ってもらいたいNordcurrentさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
2Dゼルダへの愛
『オーシャンズハート』は2D時代のゼルダ、およそ『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』から『ゼルダの伝説 ふしぎのぼうし』あたりまでの作品に影響を受けている。
見下ろし方の画面で広大なフィールドを駆け回り、さまざまなアイテムを集めて物語を進めていくタイプのアドベンチャー、およびRPGは、「ゼルダライク」と呼ばれることが多い。中規模のインディメーカーや個人制作のゲームにおいては比較的ポピュラーなジャンルで、本作もまた、そんな「ゼルダライク」のひとつだ。
このジャンルの大きな特徴としては、剣による攻撃で行われるバトルや、ピクセルアートのビジュアル、マップの各所に点在するダンジョンなどが挙げられるだろう。
もちろんこれらは特徴であって必須ではないが、ほとんどの「ゼルダライク」は上記のような特徴を備えている。「その中でどう個性を出し差別化していくか」がこのジャンルの面白い部分だろう。
では『オーシャンズハート』の場合はどうだろうか。本作は、制作者であるMax Mraz氏が大のゼルダファンでもあることから、かなり本家ゼルダのシステムに近しいゲームデザインになっている。
剣による攻撃はもちろん、弓矢や爆弾などのアイテムを駆使しながら敵を倒したり、草や岩を敵に投げつけて攻撃したりといった戦闘システムと、全体的なゲームの流れ、先へ進み新しいアイテムを手に入れつつ探索や物語を進めていくという要素は、「ゼルダライク」の王道というよりも、かなり本家のゼルダを踏襲したシンプルなものになっている。
また、本作独自のアクションとして、ローリングによる敵の攻撃の回避がある。これはMax Mraz氏が『オーシャンズハート』以前に制作したゲームである『Yarntown』からきた要素だろう。
『Yarntown』は名作アクションRPG『BloodBorne』をゼルダ風にアレンジしたファンメイドゲームで、スタミナゲージや水銀弾での攻撃など『BloodBorne』のアクション要素を積極的に取り入れていた。
そんなアクション要素のひとつであるローリングが本作の『オーシャンズハート』に受け継がれているというわけだ(ちなみに『オーシャンズハート』にはスタミナゲージはない)。
また、ほかにも「ゼルダ」をオマージュした要素は多い。マップにあるダンジョンで手に入るユニークなアイテムや魔法を使えば、通れなかった場所が通れるようになったり、特定の敵に対して非常に有利な戦闘を行うことができる。
さらに、ライフがゼロになると自動で回復を行ってくれる「妖精のビン」のようなアイテムや、「妖精の泉」のような場所が存在するなど、ゼルダファンならニヤリとするような要素があちこちに存在する。ここまでインスパイア元が分かりやすいゲームも珍しい。
ストーリーと寄り道要素
さて、本作のストーリーを軽く紹介しておこう。本作の主人公である「ティリア」は、平和船団に所属する父の背中を見ながら育った勇敢な少女である。彼女は両親の経営する酒場を手伝いながら、平穏に暮らしていた。
そんなある日、彼女の暮らす島に、凶暴な海賊たちが襲撃する。海賊にさらわれた親友「ヘイゼル」と、海賊たちの後を追って島を出た父を探し出すべく、彼女もまた、広大な海へと冒険の帆を上げる、というのが本作の導入部分である。
『ゼルダの伝説 風のタクト』から若干の影響を受けている、というのは考えすぎだろうか。とにかく、本作はタイトルが示す通り、さまざまな島が浮かぶ広大な海が舞台になっており、この海で大切な人を探すため、ティリアはさまざまな人と出会いながら島を冒険していく。
本作はメインストーリー以外にも多くのサブクエストが用意されている。ティリアの訪れる町々には多くの人が暮らしており、彼らとの出会いを通してティリアはさまざまな依頼をこなしていく。酒場の掲示板を見て悩める人を探したり、ふとした出会いから町全体を騒がせる大騒動に発展したり、対立する二人のいざこざに巻き込まれたりと、サブクエストの内容は非常にバラエティに富んでいる。
もちろんサブクエストをこなすタイミングは自由なので、興味がなければスルーしてもいい。一方で、サブクエストを通して行ったことのない遺跡を探索したり、見たこともない敵と戦ったりすることもできるので、この世界をより探索してみたいという方は積極的にサブクエストを受けてみるといいだろう。
また、冒頭で示したMax Mraz氏のツイートにも描かれている通り、このゲームは非常に探索に重点を置いたゲームでもある。サブクエストの有無にかかわらず、マップ全体にはメインストーリーと何ら関係ない探索ポイントも数多く存在する。
これら全てを回ろうとするとメインストーリーの倍ほどの時間がかかってくるので、ボリュームについて心配する必要はなさそうだ。
例えば、ゲーム中のある地点で寄り道をすれば、その先にある遺跡で鐘を鳴らしてゲーム全体の難易度をハードモードに変更することができる。一度クリアしてももう一度新しい体験が待っているということだ。
また、草原から寄り道して深い森に入っていけば、強力な敵とのバトルが楽しめる。湿地を抜けて海の遺跡を探検すれば、灯台を巡る海の言い伝えを辿ることもできる。もちろんこれらはすべて本編に関係しない探索要素だ。
移動に関してはお世辞にも便利にできているとは言えないが、多くの要素が探索可能なので、ぜひその足で巡ってみてほしい。
武器や防具、そして魔法の強化についても、探索要素と密接に結びついている。武器や防具を強化するにはサンゴ鉱石と呼ばれる素材と50クラウンの料金が必要だが、このサンゴ鉱石は基本的にザコ敵からドロップせず、サブクエストをこなしたり探索を行ったりすることによって手に入る。
また、冒険の途中で手に入る魔法は専用のサブクエストによって強化可能であり、強化すればするほど強力な魔法へと進化していく。ゲームを進めていくうえで、武器や防具、魔法の強化は欠かせない要素だ。
また、本作では冒険の途中で手に入った素材アイテムを用いて道具や薬をクラフトすることもできる。用いる素材の種類によってつくれるものは異なるので、道中では積極的に素材アイテムを集めていくことが重要だ。
薬のなかには自身の攻撃力を強化するもの、スピードを強化するものなどさまざまで、強敵と戦う際にはぜひとも活用していきたい。
本作は、2Dゼルダへのラブレターである
日本の古典的なゲーム作品が基になって独自のジャンルが形成されるというのは、インディゲームの歴史においてさほど珍しいことではない。「メトロイドヴァニア」や「ゼルダライク」もその例だ。
最も成功したインディゲームとして語られている『アンダーテール』も、その精神的な原点が『MOTHER』シリーズにあることはゲーマーの中であまりにも有名な話だ。もっとも、こうしたゲームジャンルというのは多くの競争の中で独自の進化を遂げたり、基となったゲームから大きく異なったものへと変化していくことが多い。
2Dプラットフォーマーが全て「マリオ」のオマージュ作品ではないのと同じように、ジャンルの歴史が進むにつれ、ある程度「始めの作品」の色は薄れていくものだ。
そんな中にあって、本作『オーシャンズハート』は、「ゼルダライク」ゲームの中でも基となったゲームのスタイルをかなり継承したゲームになっている。それはゲームデザインの面でも、作品全体に通じるテーマ性の面でもだ。
これらの多大なリスペクトは、ひとえに作者であるMax Mraz氏の2Dゼルダへの愛からくるものだ。バトルデザイン、ゲームフロー、ストーリー、そして主人公であるティリアの衣装デザインに至るまで、あらゆる要素から作者のゼルダ愛を窺い知ることができる。
私はそこまで熱心なゼルダファンではないのだが、そんな私でも「この作品の作者はきっとゼルダが好きなんだろうな」と分かるほどだ。であれば、この作品を総括するにあたっては次のように結論付けることも可能であろう。
まさしくこの作品は、Max Mraz氏から2Dゼルダ作品へのラブレターなのだと。