日常のなかでは少ないものの、人生には選ばなければすべてを失うような重たい選択を迫られる場面が存在する。そんなときに私たちは「選択そのものに意識を集中させる」のではなく、モノや人、予想される結果などの“要因”へ意識を向けている。
また、人によって見える視野の広さやものの見方は異なるものだ。筆者は物事を決めるのに時間がかかるタイプで、こういった場面はあまり向いていない。
そんな筆者のもとに、セガが3月23日(水)に配信したiOS/Android用RPG『シン・クロニクル』のインプレッション依頼が舞い込んだ。作品のコンセプトは「あなたが 結末を選ぶRPG」。絶対迷うんだけどどうしよう……。
そんなわけで、今回はクローズドベータテストの結果を受けて大改修へ踏み切った『シン・クロニクル』のストーリーに関連するインプレッションを1章終盤までのネタバレを含む形式でお届けしようと思う。
本作では各章のクライマックスに、「運命の選択」と呼ばれる、“二度とやり直せない選択肢”が登場する。
本稿の執筆にあたって、筆者が選んだ結末とその理由を編集者へ伝えたところ、返ってきた感想の第一声は「冷血人間じゃん」であった。ひどい!
もちろん、筆者は自分が冷血人間だなんて思っていない。というか、「『最善』と『蛮勇』、どちらを選ぶか?」と問われたら普通は『最善』を選びませんか??
……と、こんなふうに本作で「選択」した理由を他人と話してみると、観点や判断基準がぜんぜん違ったりしていて面白いのである。しかも、本作では新キャラクターの獲得やバトル、育成などあらゆる要素がこうした選択の“要因”として立ち上がってくる。
ぜひ読者の皆さんも「どちらを選ぶか?」という判断を念頭に読んでいただければ幸いだ。
※本稿には『シン・クロニクル』メインストーリー1章終盤までのネタバレが含まれています。あらかじめご注意ください。
絶望的な状況から物語が始まり、運命は新たな出会いによって変わっていく
『シン・クロニクル』の物語は、大陸「ヘルドラ」の中央に開いた大穴“奈落”を舞台に、奈落から地上へと迫る魔物「黒の軍勢」と人類を守る「境界騎士団」の闘いを描いた作品だ。
主人公は不運にも初任務で奈落を囲む大障壁の抵抗戦に加わり、同じ騎士である「セラ」や出自不明の「クロエ」、そして世界のすべてを記録する運命の書「クロニクル」と出会う。
声優の悠木碧さんがひとりふた役で演じるセラとクロエは本作の中心的なヒロインキャラクターで、それぞれ理性・感性に基づいた異なる考えを持つ。
プレイヤーは近い未来に訪れる“滅びの運命”を変えながら、クロニクルを託した謎の存在に導かれて奈落の底を目指すことになる。
以上がざっくりとした本作のプロローグだ。物語が与える重圧のなかでもクロエやミュトスのような明るいキャラクターが活力を与え、セラのように落ち着いたキャラクターたちは冷静さを取り戻してくれるだろう。
序章では隊の初期メンバーとして、セラとクロエに加えて元闘士の「リオン」と訳アリの銃士「ビスケ」も入隊する。各界層ごとのガチャやストーリーにあわせて加入するキャラクターたちも選択の“要因”となるため、プレイヤーによって最大6人のパーティ編成やストーリーの見え方は異なってくる。
また、ガチャで登場する一部の“キーキャラクター”はメインストーリーにも影響のある特殊な個別ドラマがあるほか、ダンジョンでドロップする武器の「GRADE(品質)」を上昇させる能力を持っている。
一方で個別ドラマはキーキャラクター以外にも用意されており、スポットライトは各メンバーにきちんと当たるので、キーキャラクター以外にお気に入りがいる場合も安心してほしい。
例えば、悪王を殺した罪で国を追放された騎士「ガラハッド」は、自らの“正義”に答えを見出そうとするシリアスなキャラクターである。
一方、羊飼いとしての経歴を持つ「ククルーシ」は温和な性格ながらも、“風を読む”力で謎の疫病を止めようと奮闘する。どちらもキーキャラクターではない人物だが、筆者にとってはお気に入りのキャラクターだ。
バトルでも扱いやすいので、ガチャから登場した際は彼らを編成へ加えてみるとよいだろう。
“本当の選択”は2度の死線を超えた先にやってくる
内容の詳細は割愛するが、序章ではプロローグ以外に“滅びの運命”がもうひとつ存在しており、プレイヤーはクエストを通して基本的なゲームシステムや運命にまつわる「鍵の言葉」、そして鍵の言葉を力へ変える「運命の物語」などの流れを体験していくことになる。
2度目の選択ももちろん十分な質量を持つ物語なのだが、ここまでは『シン・クロニクル』がどのような作品なのかを説明するオリエンテーションとしての意味合いが強い。
本作における“選択の重さ”を実感できる場所は、第1界層「辺獄の森」で展開される。外辺から地下1500mにわたって木々の広がるこの森で、主人公らは別の探査隊を率いる「ギュンター」や幼き少女の騎士「アンネ」らと出会う。
本章ではゲストとしてギュンターとアンネがパーティへ加わり、最終的には“死喰らい”と呼ばれる界層ボスの撃破を目指す運びとなる。しかし、運命の選択を経て正式にパーティへ加入するのはどちらかひとりだけだ。
さて、ゲストキャラクターとして加わったギュンターやアンネもまた「鍵の言葉」となる暗い過去を持つ人物だ。ギュンターは特別な大隊で仲間を見捨てて逃げ帰り、ただひとりの生き残りとなった無力感と復讐心、自己犠牲の精神をもって“仲間を失う後悔の繰り返し”を避けようとしている。
一方、アンネは失った母親の背中へ投げかけた「大嫌い」のことばに対する深い悔悟の念と悲しみ、そして旅の薬師から聞いた“死者の声を聴く”言い伝えへの妄信を強さに変えて精霊の加護を受け、幼くして騎士となった経緯を持つ。
パーティメンバーによっては対応するキャラクターとギュンター・アンネのやり取りから新たなキャラクターの側面もキャンプで展開されるため、印象は違って見えることだろう。
そうして“死喰らい”と対峙する最終局面。プレイヤーは敵の集団に取り囲まれ、ギュンターかアンネ、どちらのアイデアで戦うのかを選ばなければならない状況へ追い込まれる。
ギュンターが通常の十倍以上の威力をもつ水銀の弾丸を撃ち込めば敵を倒せるかもしれないが、その威力のために撃ち手の命も失われる可能性がある。
つまり「ギュンターとアンネ、どちらを生かすか?」という重大な選択を突きつけられるのだ。
しかも選ばれなかったもう一方は死の運命に逆らえず、スマートフォン用RPGでよくある「ストーリー中で死んだ・別れた存在がガチャで再登場する」ような流れも発生しない。
……じっくりと考え抜いた結果、筆者はギュンターを助ける方を選んだ。
『最善』と『蛮勇』、どちらを選ぶか?
こうして筆者の探査隊はアンネの命と引き換えに、九死に一生を得たのだった。
さて、筆者が選んだこの「選択」だが、本稿の打ち合わせでその理由を編集者に伝えたところ、返ってきた感想は「冷血人間じゃん」であった。違う、違わないかもしれないけど待ってくれ。
ギュンターをあえて悪く表現するなら、かつて“蛮勇”を見込まれて大隊へ組み込まれたにも関わらず、39人の仲間を見殺しにして逃げ帰った臆病な男だ。しかし、選択時における臆病さは敵との距離が重要な銃士としての立ち回りや、指揮系統を維持する慎重さとして有益に働く。
また、彼は復讐心を抑え、騎士見習いの「アルス」と「モモ」を一人前になるまで育てあげた。“死喰らい”への対処法を求める自己犠牲の精神もアンネを含む“仲間を失いたくない”との想いに起因するもので、過去にきちんと向き合っていると感じた。
一方、アンネの場合は騎士となった理由や言い伝えを妄信する前提に母親の死が関係しており、常に過去を引きずっている傾向にある。自己犠牲の精神を嫌い、犠牲のない“最善”を目指し、理想を信じ続ける姿勢は素晴らしいものだ。
だが、彼女が取りがちな独断での行動は、隊を不要な危険へと巻き込むリスクを生じさせる。また、理想に固執する精神の未熟さは、背景を考慮すると単なる“若さゆえの過ち”では片付けられず、根深い問題になると判断した。
筆者の場合は以上の認識から、探査騎士隊として生き残る可能性が高いギュンターのアイデアを選択した。実際のゲーム内ではギュンター側が“最善”、アンネ側は“蛮勇”と表示される。
つまり、「ギュンターとアンネ、どちらを選ぶか?」という問いは「『最善』と『蛮勇』、どちらを選ぶか?」という問いでもあるのだ。
“蛮勇”には「“道理を考えずに行動する”」との意味合いも含まれているため、ことばの意味も含めて考えてしまうならば、“最善”を選びたくなってしまうのが自然ではないだろうか。
そう、筆者はあくまで“最善”の道を選択したつもりなのである。
……でも、よく考えるとアンネも「全員が助かる」アイデアを提案していて、減点方式かつ「集団」に基づいた評価軸から決めちゃった点はたしかに冷血人間っぽいんですけど???
ちなみに、編集者は「明らかに死に場所を探している感じの老兵と、まだまだ青いけど将来有望な少女だったら、人情的には後者を生かしてあげたくない?」と言っていた。
まあ、そう言われてみればわからないこともないが……。たしかに、アンネは一見頼りなく見えるところもあるけど、どこか応援してあげたくなる性格をしているのも事実だ。
と、こんなふうに「なぜその選択を下したのか」という理由について他人と話してみると、自分でも気づかなかった部分まで掘り下げられたり、自分では思いもしなかった観点にハッとさせられたりしてなかなか楽しい。
ここまでの判断材料を踏まえて、読者の皆さんはどちらを選ぶだろうか。
上記に述べた選択の理由について、もちろん同意できる点もできない点もどちらもあるだろう。
だが重要なのは、上述の選択はあくまで筆者がたどった物語から出てきた結論だ、ということである。
「正しい答え」はもちろん存在せず、プレイヤーごとに見える“要因”は異なる。
なぜならプレイヤーごとに異なるパーティの編成やキャラクターとのやりとりの如何によって、ギュンターとアンネへの印象もイメージも思い入れもさまざまに変わってくるからだ。
受け取り方や評価の軸もプレイヤー自身の人生観にあわせて少しづつ異なり、同じ結果を見ていても過程や決め手は異なる可能性はいくらでも存在する。
まさしく本作のキャッチコピーである「あなただけの、一度きりの物語を。」の真髄は、まさに第1界層の最後でプレイヤーを待っているわけだ。
正式に仲間となったキャラクターはその後の物語にも影響を及ぼす
第1界層の攻略が終わると、選択で生き残ったキャラクターは正式にパーティへ加入。つづく第2界層でのキーキャラクターとしてメインストーリーに貢献する。
また、ストーリーの攻略後には属性つきの武器を入手できるハードモードのクエスト「未踏域」も登場し、更なる展開への準備を促してくる。
また、生き残ったキャラクターは地上にて展開されるほかの騎士たちの個別エピソードにも関わってくるため、結末だけでなく、その後の物語にも新たな一面やプレイヤーごとの違いが生まれる。
本作はTwitter投稿などで貯まるポイントをアイテムに交換できる連動要素も用意されているので、拡散NGではないストーリーを共有して考察や感想、ディベートを楽しんでみるのもよいだろう。
以上がストーリーに主軸を置いた筆者の『シン・クロニクル』先行プレイインプレッションである。以上はあくまで筆者のプレイ体験であり、読者の方が遊ぶ際には異なる過程や思考を経てどちらかの結末に至るはずだ。