5月27日は『ドラゴンクエスト』シリーズが生まれた日、「ドラゴンクエストの日」だ。
初代『ドラゴンクエスト』が発売されたのは1986年の5月27日、キャッチコピーは「今、新しい伝説が生まれようとしている」だった。ディレクターの中村光一氏とシナリオ担当の堀井雄二氏が、当時アメリカでブームを巻き起こしていた「RPG」というジャンルに感化されたことが開発のきっかけだったという。
キャラクターデザインは『ドラゴンボール』、『Dr.スランプ』で知られる漫画家の鳥山明氏。音楽をすぎやまこういち氏、プログラミング部分は中村光一氏の率いるチュンソフトが担当。本作は結果として日本におけるRPGというジャンルの知名度を大きく向上させ、以後のRPGブームの火付け役となった。
バッテリーバックアップといった記録機能がなく「復活の呪文」と呼ばれるパスワードを入力することで、終了したときの状態からプレイを再開する形式をとっている。なお、11作目の『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』では、本作の復活の呪文を用いることで強化されたキャラクターデータでゲームを始めることが可能である。
初代『ドラゴンクエスト』はナンバリングタイトルとしては唯一バッドエンディングが用意された作品でもあり、このバッドエンディング後の「アレフガルド」が『ドラゴンクエストビルダーズ アレフガルドを復活せよ』にて描かれている。
次作『ドラゴンクエストII 悪霊の神々』(以下、ドラゴンクエストII)の発売日は1987年1月26日と、現代では考えられないほどの驚異的なペースでリリースされた。キャッチコピーは「勇者の伝説が再びよみがえる」、フィールドマップのサイズは前作の6倍以上、全体を通したROMの要領は前作の2倍と、大きくボリュームアップを果たした。
最大の特徴は、常にひとりだけで旅をしていた初代『ドラゴンクエスト』と異なり、最大3人のパーティ制が実装されたことだろう。メンバーごとに得意とする分野が分かれ、各キャラクターの長所を活用して戦闘を繰り広げていくスタイルはのちのシリーズ作品にも強く受け継がれる基礎部分になったと言える。
そのほか「かいだん」や「とびら」、「とる」など多岐に分かれていたコマンドシステムが整理されたり、水上を移動できる「船」が登場したりといった進化が見られる。前作から引き続き「復活の呪文」によるパスワード制が用いられ、強力なデータで始められるもの、語呂合わせになっているものなどが話題を呼んだ。なお、本作の復活の呪文も『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』にて使用可能である。
約1年ほどの期間をあけた1988年2月10日、『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』(以下、ドラゴンクエストIII)が発売。「触れたら最後、日本全土がハルマゲドン」のキャッチコピーの通り、発売前日から販売店の前に徹夜の行列ができるなどの社会現象を巻き起こし、本作を狙った窃盗や恐喝までもが発生するほどの一大ブームとなった。
本作は初代『ドラゴンクエスト』、『ドラゴンクエストII』と並ぶ「ロト」シリーズの最終作にあたる。ゲームシステム面では仲間キャラクターの名前や職業、性別を自由にカスタマイズし、好みのパーティを編成することが可能である。編成を行う「ルイーダの酒場」や転職を行う「ダーマの神殿」は、以後のシリーズでも同様の機能を果たすおなじみのスポットとなった。
また、フィールドマップにて移動し続けることで「昼」と「夜」が交互に入れ替わっていく時間の要素が採用された。夜には商店など一部の町の機能が停止していたり、フィールドではモンスターの出現率が上がるといった変化もつけられている。
本作からはデータ保存方式が「復活の呪文」を用いたパスワード方式から、バッテリーバックアップ方式に変更された。「冒険の書」としてセーブできるようになり、パスワードを書き写す手間などが必要なくなった一方、接触不良や内臓電池の消耗によってデータが消失するトラブルも。データ消失時の「おきのどくですが」に始まるメッセージは、強烈なトラウマとして今なお語り継がれている。
1990年2月11日、のちに「天空」シリーズの第1弾として定められる『ドラゴンクエストIV 導かれし者たち』(以下、ドラゴンクエストIV)が発売された。本作の大きな特徴としては、仲間となるパーティメンバーごとに独立したストーリーが用意され、最終的には全員の道筋が交わり大きな物語を紡ぐオムニバス形式が取られたことが挙げられる。
また、5人以上の仲間キャラクターと同時に冒険し、旅の中で先頭にくわわるメンバーを変更する「馬車」システムをシリーズで初めて採用。さらに全員がそろっていく第五章ではAIが「ガンガンいこうぜ」や「いのちだいじに」といった命令に従い自動的にコマンドを選択する仕様となっている。
これらの新システムはのちのシリーズ作品にも採用されているが、本作のファミリーコンピュータ版の発売時点では「1ターンにひとりしか入れ替えられない」、「『めいれいさせろ』がなく、仲間の行動を制御しにくい」などの不便な点も見られる。
1992年9月27日には、スーパーファミコンに向けて「天空」シリーズの第2弾となる『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』がリリース。システム面では会話や調査といったアクションをまとめてワンボタンで行える「便利ボタン」の実装、一部のモンスターを仲間にする機能の採用などが特徴となる。
『ドラゴンクエストIV』の馬車システムを継承し、仲間モンスターをふくめて最大8人までのパーティメンバーを「ルイーダの酒場」や「モンスターじいさん」にて編成できる。一方スーパーファミコン版では戦闘に参加するメンバーは最大3人までとなった。
ストーリー面では、物語中盤の「結婚」が大きな存在感を放つ。「ビアンカ」、「フローラ」といったヒロイン候補にはニンテンドーDS版にて「デボラ」も追加され、今なお多くのプレイヤー間でヒロイン論争が繰り広げられるほどのイベントとして名を馳せる。
1995年12月9日、スーパーファミコン向けに「天空」シリーズの3作目にあたる『ドラゴンクエストVI 幻の大地』が発売。前作同様にモンスターを仲間にするシステムを採用し、『ドラゴンクエストIII』以来となる転職システムも実装されている。
タイトルに冠された「幻の大地」の通り、ふたつの世界を行き来しながら物語を進めていく独特のスタイルが特徴だ。攻略の自由度も高く、シナリオ進行に従ってNPCたちの会話内容が変化していくなどの要素が見られる。
また、前作までの「預かり所」が廃止され、アイテムを大量に保管して持ち歩くことができる「ふくろ」システムが導入。同時に資産を預かる「ゴールド銀行」も新たに登場し、預けた分はパーティが全滅しても減額されない。これらふたつの新システムはのちのシリーズ作品や過去作品の移植版にも多く採用された。
続いて2000年8月26日に発売されたのが、『ドラゴンクエストVII エデンの戦士たち』。初代プレイステーション作品ということもあり、ストーリーは歴代作品と比較しても長く「モンスターパーク」などのやり込み要素も充実、一部には3Dポリゴンを使ったムービーシーンが収められている。
ゲーム開始時点では世界にはたったひとつの島しか存在せず、主人公一行は「ふしぎな石板」を集めて過去へおもむき、かつての村や町を救うごとに現代にもそれらの大地が現れていくという仕様になっている。地形こそ過去と現在でほぼ同一のものが用いられているが、イベントの進行によっては街が消失していたりといった変化も生じる。
馬車や仲間モンスターといった要素は盛り込まれず、ストーリー進行にともない同行するサブキャラクターを除けばパーティは常に4人以下で行動する。代わりに職業システムに複数の職業の経験を組みあわせた新たな特技を習得する「職歴」システムや、「モンスターの心」によって通常の職業では覚えられない特技を習得できる「モンスター職」といった要素が採用された。
2004年11月27日、プレイステーション2向けに『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』が発売された。見下ろし視点であった当時までのナンバリング作品と異なり、フィールド上では三人称視点の3Dグラフィックが採用されている。それにともないゲーム中のキャラクターモデルもアニメ風のリアルな頭身のものに変化し、戦闘画面でも彼らの動き回る姿を味わえる。
システム面では、戦闘時に攻撃力を高める「テンション」、メンバーごとに武器や個性に応じた特技、呪文を学んでいく「スキル」、アイテムを組み合わせて新たなアイテムを作る「れんきん」などの新要素が登場。いずれものちのシリーズ作品や外伝作品に引き継がれる重要な変化となった。
プレイステーション2版ではパーティメンバーは4人のみだが、条件を満たすことで「チーム呼び」として仲間にしたモンスターチームを呼び出すことができる。仲間にできるモンスターはフィールド上にてシンボルエンカウントでき、彼らが主役となるミニゲーム「モンスター・バトルロード」も用意されている。
その後、2009年7月11日にはニンテンドーDS向けに『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』が発売された。名前はもちろん、顔や髪形などを自由に設定できるキャラクターメイキングが主人公、仲間キャラクターともに用意され、「スキル」と「転職」を組みあわせた成長要素など、歴代作品にて登場してきた新システムを統合するような形になっている。
戦闘は通常のものもふくめシンボルエンカウント方式となり、新たに「ひっさつ」コマンドが追加。確率で発生する「必殺チャージ」が起こらなければ使えないが、職業に応じた強力なアクションが行える。またパーティ全員が必殺技を使える状態になると、さらに強力な「超必殺技」も発動できるようになる。
ナンバリングタイトルとしては初めてマルチプレイ要素が導入され、「DSワイヤレスプレイ」によるマルチプレイや「すれちがい通信」による宝の地図の交換なども人気を集めた。また「竜王」や「バラモス」といった歴代の名だたるボスキャラクターに挑む地図も登場した。
2012年8月2日、Wii向けに『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オンライン』(以下、ドラゴンクエストX)がサービス開始。のちには追加ディスクや大型アップデートも配信され、本作はVer.1との立ち位置になっている。タイトルの通り、ナンバリングタイトルとしては初のMMORPG作品である。
「エルフ」や「オーガ」、「プクリポ」などの種族から選び、髪型や体形などのパーツを組み合わせたキャラクターメイキングや、釣りにスロット、ハウジング、季節イベントなど数多くのコンテンツが用意されている。オンライン作品でありながらCPU制御の「サポートなかま」を借りてゲームを進める、ひとりでのプレイも楽しめる。
戦闘システムには歴代シリーズ作品と比較して大幅な変革が行われ、すべての敵と仲間が素早さに応じて動くリアルタイム方式に。コマンド入力とは別に戦闘フィールド上を自由に動かすことができ、キャラクター同士の位置関係によって行動の結果も変化する。また各キャラクターには「重さ」があり、重いキャラクターが相手を押し返すといった要素も生まれた。
2022年夏には、インターネット接続の必要がないスタンドアローン版『ドラゴンクエストX 目覚めし五つの種族 オフライン』がNintendo Switch、PS4、PS5、PC(Steam)向けに発売予定となっている。2022年秋には大型拡張ダウンロードコンテンツ『ドラゴンクエストX 眠れる勇者と導きの盟友 オフライン』も配信される予定だ。
そして2017年7月29日、PS4とニンテンドー3DS向けに『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて』が発売開始。本作は『ドラゴンクエストX』とは異なり、スタンドアローンのRPGとなった。戦闘もターン制に戻り、シリーズの30周年を意識した過去作品のオマージュのような要素も目立つ。
戦闘中に一時的に能力が向上する「ゾーン」や、ゾーン状態のメンバーが複数人いる場合に使用できる「れんけい」などの要素が新たに追加された。転職システムは採用されておらず、パーティメンバーはそれぞれ固有のキャラクター性能を持つ。スキルシステムも大きく変更され、「スキルパネル」から順番に習得していく形式となっている。
そして、初代『ドラゴンクエスト』や『ドラゴンクエストII』の「復活の呪文」がゲーム内に実装。通常のセーブとは別に、おおまかな進行状況をパスワードとして表示させ、入力して読み込むことができる。
このほか『不思議のダンジョン』シリーズの『トルネコの大冒険』や、モンスターの育成に焦点をあてた『ドラゴンクエストモンスターズ』シリーズ、アクションRPGとなった『ドラゴンクエストヒーローズ』シリーズ、サンドボックス要素をくわえた『ドラゴンクエストビルダーズ』シリーズ、基本プレイ無料のデジタルカードゲーム『ドラゴンクエスト ライバルズ』など、数多くの外伝、派生作品が生み出された。
『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のようにマンガやアニメなどゲーム以外のメディアにおいても展開しており、まさに日本を代表するRPGのひとつと言えるだろう。
2021年5月27日に配信された「『ドラゴンクエスト』35周年記念特番」ではナンバリング最新作となる『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』が発表された。記事執筆時点では発売時期やプラットフォーム、ゲームの詳細については一切明らかにされていない。
シリーズの生みの親である堀井雄二氏は本作について「ダークな感じ、大人向けのドラゴンクエストになっている」と明言。シナリオについても「選択を迫られるもの」、「自分の生き方を決める」ような内容になるという。
これまでの『ドラゴンクエスト』シリーズとは一線を画すような、ダークな雰囲気を漂わせる『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』。この大御所シリーズの今後の展開にも、大いに注目していきたい。