個人ゲーム開発者のむじ氏は6月26日、コナミデジタルエンタテインメントが主催するインディーゲーム展示会「Indie Games Connect 2022」にゲーム開発者チームのImage Laboとして出展した。
会場でプレイできたのが、「明かり」をたよりにたどり着いた夜の街を探索するという、現在開発中のアドベンチャーゲーム『Recolit』だ。今回は本作を試遊することができたため、そのゲーム内容をお伝えしよう
本作の主人公はなぜか宇宙服を着用しており、これもなぜかはわからないが宇宙船の不時着により夜の静かな郊外へと降り立つことになる。たどり着いた場所はごく普通の日本の住宅街だが、住民の姿はおぼろげであり、どことなく不思議だ。
プレイできた体験版では、明示されたシナリオにそって進行するのではなく、「明かり」に照らされた探索可能なエリアを徘徊していくこととなった。
マップ上にはホースやバケツ、百円玉、ブレーカーの鍵といったアイテムが配置されている。住民の要望にあわせてアイテムを使用すると、街に新たな「明かり」が灯る。そうやって探索可能な領域を拡張してゲームは進行していく。
本作は『アンリアルライフ』を擁するroom6のインディーゲームレーベル「ヨカゼ」の作品となっており、同レーベルの美学にマッチしたドット絵のビジュアルと抑制された環境音が夜の静寂を美しく描写する。
前述のとおりに、本作の探索に明確な目的は無く、ゲームプレイは現実における「散歩」のような手触りだ。かといって退屈ではなく、街を描き出す音やテキスト、ビジュアルの緻密なデザインにより、「ごく普通の街」の景色を新鮮な視点で立ち上げてくれるだろう。
たとえば、コンビニ前で佇む学生は、下校途中でコンビニに寄っている先輩を待っている。セリフ自体はかなりミニマルだが、断片的なセリフからは、学生ならではの手持無沙汰な態度が伺え、コミカルであり、リアリティも感じられる。
また、住民の要望は、いずれも絶妙なリアリティを喚起させるものとなっている。たとえば「孫が放置した観葉植物に水をあげる」ことや、「先輩をコンビニ前で待っているが、入るタイミングを失ってしまった学生にジュースを買ってあげる」など。また、それらは日常の再現性を高める以上に、普遍的なできごとを可愛げのある事物として描く姿勢が確認できる。
この姿勢は各キャラクターのテキスト以外にも、アイテムの説明文、ゲームに登場するモチーフの選択など、プレイヤーが接触するディテールの全てから感じ取れるだろう。
この日常を少しキュートに描くスタイルは、「実在するか分からない住民」、「宇宙飛行士である主人公」、「町中に突如出現するがらんどうの空間」など、ほんの少しの不思議な要素と相まって、「ごく普通の住宅街」での探索を「初めて訪れる場所の観光」のような体験に演出する。
本作のディテールの集積により「些細な出来事」を不思議に、魅力的に演出するスタイルは、開発者のむじ氏が手がけ、ブラウザ上でゲームプレイ可能なフリーゲーム『わだつみのこだま』や『春はやってこない』からも伺える。
この点に関してむじ氏に話を伺ったところ「ゲームを通して日常を描くことで、実際にプレイヤーが過ごす日常に新たな視点が実装される」ことを意図しているという。この態度は『わだつみのこだま』における「日用品を活用して音楽を奏でる」というゲームシステムや『Recolit』の作風に共通しており、むじ氏の作家性を形作る要素のひとつだと言えよう。
また、『Recolit』に限らず、むじ氏の作品において明確なシナリオのない、余白を残した語り口は印象的。この点に関しては『Vallhara』や『ナイトインザウッズ』の名前を挙げながら、「シナリオの起承転結ではなく、些細な要素のリアリティによって表現する」スタイルを意識し、アドベンチャーゲームを制作しているとのことだ。
本作の体験版はitch.ioでもプレイでき、Steamストアページも開設されている。興味がある読者は体験版をプレイして『Recolit』の正式版の発売を待とう。