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ソニックが青いのはセガのロゴが青いから——セガを代表するキャラクター“ソニック”は、この30年間にどのように進化してきたのか『ソニックオリジンズ』発売を機に振り返る

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 今から30年以上前の1991年に誕生した、1匹の青いハリネズミがゲームの歴史を変えた。

 まず変えたのは、横スクロールアクションゲームのスピード感覚だ。そのハリネズミはダッシュすると、360度ループのフィールドを一回転して、そのまま駆け抜けることができた。さらには身体をボール状にすることで、プレイヤーが目で追うのも困難なほどの高速で突き進んでいくこともできた

 この高速ダッシュするハリネズミはさらに、世界の家庭用ゲーム市場、なかでも北米市場の様相を一変させた。

 1991年当時、世界の家庭用ゲーム市場を席巻していたのは任天堂のファミコン(NES)だ。セガはアーケードゲームで大成功を収めていたものの、家庭用ゲーム機では任天堂に後れを取っていた。メガドライブ(GENESIS)を1989年に北米で発売して、次世代機競争で一歩先んじていたセガは、1991年のクリスマスに、ファミコンの後継機であるスーパーファミコン(SNES)の北米発売を迎え撃つ形となった。そこで迎撃の先頭に立ったのが、青いハリネズミ「ソニック」だ。

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 『スーパーマリオワールド』を同梱して199ドルで販売されたSNESに対して、セガは『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』を同梱したGENESISを149ドルで販売。価格の安さに加えて、ソニックのスピード感を大々的にアピールすることで、大きな成功を収めた。そして翌1992年のクリスマスに『ソニック・ザ・ヘッジホッグ2』が発売されると、GENESISは16ビット家庭用ゲーム機で北米ナンバーワンの地位へと上り詰めることとなった。

 ゲームハードだけでなく、ゲームの主人公であるソニック自体も高い人気を集めている。海外では何度もTVアニメ化されて、ソニックだけでなく2作目で登場したテイルスや、3作目で登場したナックルズといった仲間のキャラクターまで広く知られるようになった。

 さらには初登場から約30年を経て、2020年にはハリウッドで実写映画『ソニック・ザ・ムービー』も制作された。そして、日本でも2022年8月19日に公開予定の続編『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は、米国の興行収入が1億6,274万ドルを達成し、ゲーム原作映画史上最高の興行収入記録を更新する大ヒットとなっている。

 ソニックはいったいなぜ、これほどの人気を獲得できたのか。しかもその人気は30年以上に渡って衰えず、今なお新たなファンを生んでいるのだろうか。2022年6月23日には、「ソニック」シリーズの原点であるメガドライブ/メガCD時代の4作品をデジタルリマスターした『ソニックオリジンズ』が発売された。このタイミングで改めて、音速で駆け抜ける青いハリネズミ、ソニックの魅力について考えてみよう

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文/伊藤誠之介

※この記事は『ソニックオリジンズ』の魅力をもっと知ってもらいたいセガさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


ソニックはハリネズミではなく、ヒゲ親父になるかもしれなかった!?

 ソニックは任天堂のマリオに対抗できるような、セガを代表する人気キャラクターにしたい、という意図で生み出された。このことは、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の開発スタッフである大島直人氏安原広和氏がソニックの誕生を振り返る、2018年に開催されたGDC(Game Developers Conference)のセッションで、はっきりとそう語られている。

 

 『オリンピック』関連のゲームや『スマブラ』で、ソニックとマリオが肩を並べて活躍している姿を見慣れている現在の我々からすれば、上記の話は当たり前のことのようにも思える。だが、ゲームメーカーやゲーム機を代表するような人気キャラを自ら「生み出したい」と意図して、それを言葉通りに実現させるというのは、じつは相当にスゴイことだ。それはその後のゲームハードの歩みを見ればよく分かる。

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(画像は東京2020年競技 | マリオ&ソニック AT 東京2020オリンピック(マリソニ)より)

 たとえばプレイステーションでは、ゲーム機の顔となるようなキャラクターを生み出そうとこれまでに何度も試みられたものの、その決定打と言えるキャラクターは今なお登場していない。「『どこでもいっしょ』トロがいるじゃないか!」と反論する人がいるかもしれないが、それはあくまで日本国内に限られた話だ。トロは海外で「Sony Cat」と呼ばれていたりするものの、ソニックやマリオのようにワールドワイドでの展開を最初から意図されていたわけではない

 余談だが、PlayStation Networkのアバターとして配布されているアイコン画像などを見る限り、海外ではどうやら『The Last of Us』エリージョエル、そして『GOD OF WAR』クレイトスあたりが、PlayStationを代表するキャラクターとして認識されているようだ。たしかにそれらのゲームは大ヒットしているものの、日本的な感覚からすると、そうしたリアルな人物像をゲーム機を代表するマスコット的な「キャラクター」として受けとめるのは、正直やや違和感を覚えてしまう

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(画像はThe Last of Us Remastered | ゲームタイトル | PlayStationより)

 同様にXboxも、このゲーム機を代表するマスコット的なキャラクターはすぐには思い浮かばない。しいて挙げれば『Halo』シリーズのマスターチーフがそうした存在だと言えるとは思うが、先ほどの話と同じく、日本的な「キャラクター」のイメージとはやや異なる気がする(こちらはヘルメットで素顔が隠れているぶん、まだキャラクターとして受け入れやすいが……)。

 話をソニックに戻そう。今挙げたように、ゲームがヒットすればそれでいいわけではないという問題を乗り越えて、ソニックがメガドライブを、そしてセガを代表する人気キャラクターになれたのはなぜなのか。それはGDCでのセッションを聞く限り、キャラクターを作成する際にユーザーの好み、特にアメリカの一般的な人々の好みをリサーチしたことが大きく影響していると思われる。

 ソニックがヘッジホッグ、つまりハリネズミのキャラクターだというのはもちろん、ボール状に丸まって高速で移動するというゲーム中のアクションから逆算されたものだ。だがGDCのセッションによると、じつはハリネズミ以外にもアルマジロや犬、さらにはヒゲの生えた男(これはDr.エッグマンの元になったキャラであるらしい)といった主人公の候補となるキャラクターが複数考えられていたという。

 するとキャラクターデザインを担当した大島氏は、これらのキャラを描いたボードを持ってニューヨークのセントラルパークに立ち、そこにいたアメリカの人々にどのキャラが好きか、直接質問して回ったそうだ。その結果、相手の人種や性別を問わずいちばん人気が高かったのが、ハリネズミのキャラだったので、それがソニックの誕生につながった。

 ちなみに2番目に人気が高かったのは、ヒゲの男だったとのこと。このリサーチの結果次第では、セガを代表するキャラクターもマリオ同様のヒゲ親父になっていたかと思うと、なんとも興味深い(笑)。

ソニックのキャラクター性を表す3つの柱は、セガ自体のイメージから生まれた

 最初に触れたように、ソニックはただ単にゲームの主人公であるだけでなく、セガというゲームメーカーを象徴するキャラクターとなっている。それはある意味当然のことで、GDCのセッションによると当時の開発スタッフである大島氏や安原氏は、「セガという会社の名前を知らなくても、そのキャラクターを見ただけでどんな会社なのかイメージできる」存在を意図して、ソニックのデザインを考えていたのだという。

 たとえば、ソニックの身体はなぜ青いのか。それは「セガのロゴが青色だから」という理由だ(セガ社内では「ソニックブルー」と呼ばれているらしい)。さらに安原氏は、ソニックのキャラクター性には「COOL(カッコ良さ)」「チャレンジャー」「HISTORY(歴史)」という3つの重要な柱があると語っているが、この3つの柱は開発スタッフが、セガ自体のイメージがどういうものかを考えたなかで導き出されたとのこと。つまりソニックはある意味、セガという企業自体をキャラクター化したものだとも言えるだろう。

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 「COOL(カッコ良さ)」「チャレンジャー」「HISTORY(歴史)」という3つの柱は、最終的なソニックのキャラクター性に大きく影響している。大島氏はソニックのデザインにあたって「COOL」とは何なのか? と考えた上で、それは「媚びない」ことだと結論づけて、表情などにその性格を反映したという。他者に媚びないクールさと、もうひとつの柱であるチャレンジャーという要素が合わさって、ちょっと生意気な態度で、どんな困難にも不敵に笑って立ち向かっていく、今ではすっかりおなじみとなったソニックの性格が生まれたわけだ。

 ちなみに「歴史」という柱に関しては、1991年の時点では新たに生まれたばかりのソニックに、(ゲーム内での設定はともかく)キャラクターとしての歴史があるわけではないことが、開発スタッフとしては気になっていたようだ。

 そこで安原氏と大島氏は、あるパイロットが乗っている戦闘機のノーズアートとして描かれたのがソニックで、そのパイロットの奥さんが執筆した童話が『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の物語になっているという、架空のバックストーリーを考えたという。『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』のタイトル画面で、ソニックの背後に天使のような羽根を持つフレームが描かれているのは、このノーズアートをイメージしているそうだ。

 このように安原氏と大島氏は、セガという企業自体のイメージをソニックに重ね合わせた上で、そこに「他社に媚びないクールさ」や「戦闘機のノーズアート」といったアメリカン・カルチャー的な要素を加えて、ソニックのキャラクター性を具現化していった。ソニックが特にアメリカで絶大な人気を獲得できたのは、先に紹介したセントラルパークでのリサーチも含めて、こうしたアメリカの人々の好みを丁寧に採り入れていったことが大きいだろう。

「UFOキャッチャーのあの曲」としても知られるBGMはこうして生まれた

 これまでは、ソニックのキャラクター性がどのように生まれたのかを見てきたが、ソニックがゲームの主人公である以上、そのキャラクター性が『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』というゲームとどれだけマッチしていたか、ということが重要だ。

 冒頭で解説したように、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』はソニックが体を丸めてボール状になり、1991年当時の横スクロールアクションゲームではあり得ないぐらいの高速で、フィールドを駆け抜けることができる点がポイントになっている。

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 当時の人々を驚かせるほどの高速で駆け抜けるカッコ良さ、そして高速で駆け抜けるソニックをなんとかコントロールして、ゴールに到達するまでのタイムを縮めるチャレンジ。セガという会社をイメージして考えられたソニックのキャラクター性の大きな柱は、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の持つゲームのおもしろさとピッタリ一致している。そこにさらに、メガドライブならではのカラフルな色彩を駆使したフィールド画面や、ポップでノリの良いBGMといったゲームの諸要素が結合して、ソニックというキャラクターの総合的なイメージが形作られたのだ。

 『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』に関しては、音楽についても触れておくべきだろう。ゲーム1作目と2作目のBGMを、「ドリカム」こと「DREAMS COME TRUE」中村正人氏が作曲したというのは、今では広く知られているところだ。ただし今から30年以上も前の話なので、その経緯は曖昧になっているかもしれない。

 ドリカムの楽曲のようにボーカル曲ではなく、あくまでBGMの作曲ということで、「今では人気のアーティストが無名時代に手がけた仕事」といったイメージと受けとめている人もいるかもしれないが実際はそうではない。

 そしてソニックがこれから40年、50年と人気を維持していくにはいったい何が必要なのか、しっかりと見守っていきたい。

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ライター
過去には『電撃王』『電撃姫』『電撃オンライン』などで、クリエイターインタビューや業界分析記事を担当。また、アニメに関する著作も。現在は電ファミニコゲーマーで企画記事を執筆中。
Twitter:@ito_seinosuke

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