1991年にメガドライブ向けに発売された『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』にて初登場した「ソニック」は、昨年で30周年を迎え、セガを代表し象徴するキャラクターとして親しまれている。
そんなソニックが主人公の実写映画『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』が8月19日に公開される。この度、本メディア向け試写会にて本作を先行して鑑賞する機会を得た。
文/りつこ
高評価を受けた前作『ソニック・ザ・ムービー』からの続編
前作の『ソニック・ザ・ムービー』は先行して公開されたトレーラーにおけるソニックのビジュアルが物議をかもしたが、公開予定日を3か月遅らせてそれを改め、見事に『名探偵ピカチュウ』を凌駕するオープニング記録と観客からの高い評価を打ち立てた。
『ソニック・ザ・ムービー』の続編である『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は、日本に先だって3月31日より全世界で順次公開されている。
株式会社セガの発表によると、本作は全米でのオープニング3日間において7210万ドル(約94億円)と、前作を大幅に上回る好調なスタートを切ったという。記事執筆時点での累計の興行収入は4億ドル(日本円で約544億円)におよび、さらなる記録的な功績を挙げている。
結論から言ってしまうと、先行して視聴した本作は、原作をオマージュした「ソニック」たちのスペクタクルなアクションと共にキュートな彼らの成長を描くアクションコメディ作品となっていた。
とくに、本作ではソニックとロボトニックの戦いと「マスターエメラルド」を巡るトレジャーハント、アットホームなドラマが並走するシナリオを採用することで、家族全員で見れるアクションムービーとしての見ごたえを獲得している。
また前作で打ち出したオリジナルキャラクターである保安官のトムとソニックたちのお茶目な掛け合いや、ジム・キャリー演じるキャッチーで冷酷なロボトニックの怪演も健在だ。
なお、前述のとおりに『ソニック・ザ・ムービー』に登場したオリジナルキャラクターが、サブキャラクター含め登場するため、本作を視聴する前に前作をおさらいしておくと良いだろう。
これまでの『ソニック・ザ・ムービー』
まず、本作の前提となる『ソニック・ザ・ムービー』のおさらいをしておこう。
音速の青いハリネズミ「ソニック」は宇宙の遥かかなたでフクロウ族の「ロングクロー」と共に暮らしていた。しかしながら、突如エキドゥナ族の襲撃を受け、ワープ能力のある「ゴールドリング」を使用してアメリカの田舎町「グリーンヒルズ」に降り立つ。
ソニックは少し寂しい思いをしつつ、地球でひとり静かに暮らしていたものの、悪の天才科学者ドクター・ロボトニックに自身が持つ強大な力を察知され、その身を追われることとなる、というあらすじだ。
物語は、寂しい思いをしていたソニックが逃げ延びた先でグリーンヒルズの優しくお茶目な保安官トムと出会うことで、ソニックとロボトニックとの戦いと共に、ソニックとトムが信頼関係を築いて行く様が描かれた。
修正を経たフワフワで表情豊かなソニックの姿や、実写映像によるスケール感と迫力のVFXを駆使した最高にスピード感のある映像は無論好評であり、原作ファンにとっての最大の見どころであった。
いっぽう、同作のオリジナルキャラクターである保安官のトムの描写も『ソニック・ザ・ムービー』の物語において重要な役割をはたしていた。
全く犯罪が起こらず、平和な田舎町「グリーンヒルズ」で保安官を務めるトムは、夢見ていたサンフランシスコ市警察へ転職が決定していた。しかし、孤独で身寄りがなく幼いソニックと出会い、交流を重ねることで、最終的にソニックの傍に居るべくグリーンヒルズに残る決断をする。
この要素は、『ソニック・ザ・ムービー』に「困っている友達がいたら助ける」というファミリー向け映画らしいシンプルなコンセプトとドラマを与えていた。このオリジナルキャラクターを物語のキーパーソンとして扱う姿勢は、同作が新たな「ソニック」シリーズとしての作風を形作るひとつの要素となっていた。
保安官のトムにくわえて、トムのパートナーであるマディ、マディの姉であるレイチェルなど、ソニックとトムの家族や親戚、友人の会話も本作の特徴だ。固有名詞を多用したジョークや愛らしい会話により、クライマックスのアクションパート以外では終始シチュエーションコメディの様な心地よさが味わえるだろう。
戦いと冒険、ドラマとコメディが並走する『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』
本作は、前作のラストで「キノコ以外存在しない謎の惑星」に追放されたロボトニックが宇宙に信号を発信することでナックルズと出会う場面から幕を開ける。
前作でロボトニックとの戦いを経たソニックは、モンタナ州の田舎町「グリーンヒルズ」にてこっそりヒーロー活動をしながら静かに暮らしていた。しかしながら、突如ナックルズと「キノコだらけの惑星」に飛ばしたはずのロボトニックが自宅に襲来。ナックルズの強力な力に圧倒されたソニックは、地球にやってきたテイルスのサポートで一命を取り留める。
ナックルズは、ナックルズが属する「エキドゥナ属」とソニックの育ての親であるロングクローが属するフクロウ属との「マスターエメラルド」を巡る因縁をしてソニックを狙っており、ソニックはナックルズと出会うことで、自身が「マスターエメラルド」へ導く地図を持っていたことに気付く。こうして本作では、「マスターエメラルド」を巡る冒険と、どうやらナックルズを利用しようと企んでいるロボトニックとの戦いが物語を展開させていく。
冒険や戦いを中心に進行する物語には、ソニックのヒーローになりたい焦燥感、テイルスがかつてのソニックの様に感じる孤独、ナックルズのが抱える因縁と原作以上の頑固さを解きほぐしていくドラマが随所に散りばめられている。前作におけるトムとソニックの交流が描いたドラマを、今作では原作でおなじみのソニックやテイルス、ナックルスたちを中心に描かれる。
なかでも、ソニックと彼を慕うテイルスと、テイルスを気遣うソニックの関係性や、ナックルズが種族間の対立の歴史や教えを超えてソニックに惹かれ、ソニックもまた自身を襲ったナックルズの事情を理解し、手を差し伸べ合う描写は、持ち出した「友情」や「愛情」というテーマを誠実に描こうとする姿勢が伺えるだろう。
こうして記述するとシリアスな作品の様に感じられるが、前作に続きほとんどのシーンにおいてなんらかのキュートな出来事やジョーク、奇行がともなっているため、ハラハラした緊張感を感じながらも安心して視聴可能だ。
特に、前述の通りにナックルズは真面目だが頭は固いという原作に依拠したキャラクター性をややコメディタッチに脚色したハリモグラとして描かれており、パワフルでちょっとおバカな、可愛らしいナックルズを楽しめるだろう。
また、前作は田舎町であるグリーンヒルズとサンフランシスコを舞台としていたが、今作では「マスターエメラルド」を追い求める冒険により、シベリアやハワイ、遺跡や謎の無人島など、大きくロケーションが切り替わる。
そのため、バラエティに富んだアクションが展開され、戦闘に既視感を覚え、退屈する暇のない映像となっている。クライマックスは再び舞台を「グリーンヒル」に移すものの、最もスケール感が拡大した強大な力の衝突が待ち受けているため要注目だ。
このように、『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は前作で打ち出したアットホームなコメディと音速のアクションをベースに、更なる冒険とスケール、そしてソニックたちが織りなすドラマを展開する大ボリュームのエンターテイメント作品となっているのだ。
先の読めないスリルのあるアクションとコメディ、ダイナミックな物語の結末は、ぜひご自身の目で確認されたい。
エンドロールに登場する新キャラクターと続編を予感させる構成
本作には、前作でロボトニックを派遣し、一連の出来事が終わるころにはレストランの商品券で事件をもみ消した人物である「ウォルターズ副議長」が登場する。
彼が登場する場面はハワイで執り行われるマディ(トムのパートナー)の姉「レイチェル」の結婚式となっており、レイチェルの結婚式と、それを発端に巻き起こるトラブルは一定の尺を要して描かれる。
このシーンは本作が約2時間の映画であるため、サブキャラクターに対して、一見時間を要しすぎているようにも感じられる。
しかしながら、本作のエンドロール後に挿入されるシーンでは、「ウォルターズ副議長」はいまだ『ソニック・ザ・ムービー』に登場していない“あのキャラクター”と共に登場する。
また、前作のエンドロールの挿入シーンではテイルスが登場し、実際に『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』に登場したことも踏まえると、この蛇足ともとれる「ウォルターズ副議長」と彼が率いる軍事組織GUNのフックアップは、次回作の布石として導入した要素であると読み取ることも可能だ。
2022年2月には映画の次回作やナックルズを主役としたスピンオフテレビシリーズの制作も発表されており、本シリーズの新たな作品が制作される可能性は決して低くないはずだ。
“あのキャラクター”の詳細が気になる読者はぜひエンドロールまで本作を楽しもう。
『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』と、シリーズ最新作『ソニック フロンティア』の発売を控える「ソニック」シリーズの更なる展開に期待してやまない。
『ソニック・ザ・ムービー/ソニック VS ナックルズ』は8月19日(金)より公開される。
前作の『ソニック・ザ・ムービー』はAmazon Prime Videoの見放題サービスなどで視聴可能なため、未だ視聴していない方は映画館に行くまえに予習しておこう。