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『VA-11 Hall-A』『KINGDOM RUSH』が産まれた中南米のゲーム産業・市場を深掘り。ゲーム産業が熱い中南米でどのような市場やコミュニティが形成されているのか【CEDEC 2022】

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 現在開催中のオンラインゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2022」。初日の8月23日に行われた「中南米のゲーム産業・市場を深掘りする」というセッションでは、中南米のゲーム市場・産業についての最新の量的・質的情報を理解する目的で行われた。

 講演者はLUDiMUS株式会社の代表取締役社長である佐藤翔さん。LUDiMUS株式会社は2020年9月に設立された新しい企業で、コンテンツビジネスの海外進出をさまざまな形でサポートしている。

 佐藤さんは2022年に、ブラジルのゲーム開発者イベントで登壇したほか、中南米アメリカヒスパニック市場の実地調査をしているらしく、自ら現地に足を運んで中南米のゲーム市場をリサーチしている。

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文/tnhr


中南米の基礎知識

 本セッションはまず中南米市場の基礎知識の解説から始まった。中南米の人口は2022年時点で6.6億人で、東南アジアの6.2億人と同程度。ブラジルの人口は2.1億人、メキシコの人口は1.29億人で日本よりも多くなっている。また、人口の半分が25歳以下で以下の人口ピラミッドを見れば一目瞭然だ。

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 次は経済について。中南米全体のGDPは2021年時点で5兆ドル。日本一国と同程度で東南アジアの3.4兆ドルよりも規模が大きくなっている。国によって開きが大きいが、ひとり当たりGDPでは5000ドルを超える国が多い。また、チリ、ウルグアイに関しては10000ドルを超えている。

 一般に消費財のマーケティングにおいては、5000ドルを超えるタイミングと10000ドルを超えるタイミングが、売れる商品の幅や種類が広がるため非常に重要になっているとのこと。そのため中南米はそれらのボーダーを超えているため、一般の消費財を売る市場としては適切である。ただ、数値の通りにいかないのが中南米の難しさだとも合わせて解説された。

 また戦前において、アルゼンチンはひとり当たりGDPが世界トップ5位だったそうだ。さらに現在はハイパーインフレなどで経済的に苦しんでいるベネズエラも、70年代は日本よりひとり当たりのGDPが高かった時期があったとのこと。

 経済豊かだと文化産業に投資するようになる意識が芽生え、中南米はその発想が昔から根付いているため、かなり政府の文化支援が盛んであるのだ。

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 中南米の言語の分布は、東南アジアほどは複雑ではない。ブラジルはブラジル・ポルトガル語、それ以外の国で多いのはスペイン語で細かく方言があるのだが、基本的には伝わるという認識で良いそうだ。つまり、全部細かく分けてローカライズはする必要がないということになる。

 その他の言語はガイアナとベリーズとカリブ海の諸国は英語、スリナムはオランダ語、ハイチはフレンチ・クレオール(フランス語)という分布になっている。

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 ゲームプレイにあたって通信インフラ、SNSは非常に重要な要素になってくる。中南米では2大通信キャリアが市場を席捲しており、都市部の通信インフラ整備は東南アジアに比べてワンテンポ遅い傾向にある。

 クレジットカード保有率は多くの国で2割未満だが、ブラジルだけは4割と非常に高くなっている。また、SNSはYouTube、WhatsApp、Facebook、Instagramなどの人気が高くなっている。

 日本のコンテンツに関しては中南米では『聖闘士星矢』の人気が非常に高く、地元のゲームに関しても明らかに『聖闘士星矢』からの影響があるだろうと推測できる作品も多いそうだ。

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各国ゲーム市場の特性

 中南米では以下の画像のゲームが人気だ。家庭用ゲームであれば、サッカーが強いので『FIFA22』が人気。PCゲームであれば『League of Legends』、モバイルゲームであれば『Garena Free Fire』という『荒野行動』風のバトロワゲームだったりと、各プラットフォームごとに強いゲームが存在しているとのこと。

 Garenaというゲーム会社は東南アジアでよく目にする名前であるが、じつは中南米でも非常に人気が高い。ただ、人気がありすぎて現地の政治家がメキシコのマフィアの問題と結びつけて、良い印象を抱いていないという問題も起きているそうだ。

 『STUMBLE GUYS』『ROBLOX』も人気なゲームとして挙げられる。『STUMBLE GUYS』はどうみても『Fall Guys』のようなゲームに見えるのだが実際そういうゲームとのこと。このタイトルは2020年末に発売されたゲームであるが、2022年に急激にユーザーが増加、理由としては『Fall Guys』のビジネススキームが変わったことが影響しているそうだ。

 『Fall Guys』が基本無料になってユーザー層が増えたとき、PCや家庭用ゲーム機を持っていないユーザーが「自分もこのゲームをやりたい」と、モバイル版に対応している『STUMBLE GUYS』をプレイし始めた。

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 ブラジルのゲーム市場は2021年時点で3072億円で、中南米最大の市場となっている。人口の74.5%がなにかしらのゲームをプレイしており、女性比率は全体の51%で男性より多い。年齢のボリュームゾーンは20歳から24歳。49.9%のユーザーの月額所得が最低所得の10倍以上の中間層以上となっているが、低所得者もゲームを遊ぶ。

 プラットフォームの比率に関しては女性がモバイルが多め、男性はPCや家庭用ゲーム機が多めとなっているそうだ。

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 ブラジルは非常にゲームが普及しているが、正規でそれらを購入できるかはまた別の話。ブラジルで直接正規品が売られているとは限らないらしく、現地のゲーム雑誌を見ると明らかにヨーロッパから輸入されているゲームであることが多いとのこと。

 とくにパラグアイから非正規商品が非常に多いらしく、中南米でゲーム市場を理解するにはパラグアイという国は非常に重要な国になっているそうだ。

 パラグアイのシウダード デル エステというブラジルとの国境付近にある都市が重要で、ここに大きな卸しのゲーム屋がたくさん存在しているらしく、それが大きく影響している。また、アーケードっぽい非正規エミュレーターのゲーム機が中南米では多く売られているのが現状だそうだ。

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 中南米のスペイン語圏でもっとも大きな市場はメキシコで、2020年時点で約2100億円となっている。ゲームユーザーの数は全人口の57.4%と推測され、7000万人を超えている。

 ゲームユーザーの75%がモバイルゲームユーザーで、家庭用ゲーム機のユーザーが20%でPCゲームユーザーの6%よりも多くなっている。家庭用ゲームというとPSのユーザーの割合の方が多いことが多いのだが、メキシコの場合ではXboxのユーザーが多いとのこと。

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 ブラジルとメキシコは二大市場だが、それ以外の国であるコロンビア、アルゼンチン、ペルーでもゲーム市場は盛んである。とくにコロンビアが成長株である。ちなみに中米のカリブ海の国の市場の特性はアメリカに近いそうだ。

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 中南米はeスポーツが非常に盛んで、『Counter-Strike: Global Offensive』はブラジルのmibrというチームが非常に強く、『FIFA22』に関しても世界大会でブラジル人が優勝するまで成長している。

 『ストリートファイターV』ではドミニカ共和国の選手が非常に強く、MenaRDがCapcom Cup 2017で優勝したのも記憶に新しい。また、ブラジルのスラムを意味する言葉であるファヴェーラで『Garena Free Fire』の大会が開催され、所得の低い人へのイベントも打ち出しているそうだ。

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中南米のゲーム開発

 以下の画像は中南米のゲーム開発会社が関わっているゲームの一部なのだが、有名な作品もたくさん作られていることが分かる。

 ブラジルはゲーム産業が非常に伸びており現在はゲーム開発会社が1000以上も存在しているという。おもなタイトルに『Chroma Squad』『Blazing Chrome』『Dolmen』『Alchemist Adventure』が挙げられる。

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 イスパノアメリカという中南米のスペイン語話者を指す地域もゲーム開発が盛んだ。ベネズエラでは『VA-11 Hall-A』『N1RV Ann-A』というゲームが非常に有名だろう。

 ほかにはウルグアイから『KINGDOM RUSH』、チリが『Fallout Shelter』の開発に関わり、メキシコから『Kerbal Space Program 2』などの作品が産まれている。もちろん、XRやNFTゲームといった最近のジャンルのゲームもよく開発されているそうだ。

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 中南米はゲームイベントの数が多く、インディーゲーム開発者向けのイベントや東京ゲームショウのような大型イベントまで、さまざまなイベントが開催されているとのこと。

 とくにブラジルで開催されている「BIG FESTIVAL」、アルゼンチンの「Expo Eva」というイベントに注目するべきだという。

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域外企業の中南米市場での活動とまとめ

 最後は中南米域外企業の中南米市場での活動について。日本の企業は撤退と進出を繰り返しているらしい。

 アメリカのゲーム関連企業の中では、アメリカのラティングス市場(中南米にルーツを持つアメリカ在住者)をメキシコなどの中南米と一体とみなし、統合したマーケティングを行っているとのこと。

 中国企業はモバイルゲームで複数の成功例を出している。とくに『Saint Seiya : Legend of Justice』というモバイルゲームは、『聖闘士星矢』原作のゲームだが日本で開発はしておらず、中国の企業が中南米で展開している。また、韓国企業はPCのMMORPGにおいて、一定の存在感を保っているそうだ。

 先ほど出た言葉である「ラティングス」をひとつのターゲットにしたコミュニティや市場も形成されているらしく、今後も注目していくべきものだという。

まとめ

 中南米の市場は非正規輸入もあることから、まだ秩序が成り立っていないが、ゲーム市場規模は新興国のなかでは大きく、オンラインゲーム市場の成長が期待できる。また、人気の高い日本のIPも存在している。

 最近は直接投資のケースも増え、アーティスト人材の層の厚さもあってさまざまな分野で注目できるタイトルが出てきている。

 そして、中南米出身者はアメリカにおいても新しい市場セクターを形成しているため、中南米に進出しなくても、世界最大であるアメリカ市場のユーザー動向をはっきりと理解するためには、中南米市場の理解が必要になっているそうだ。

ライター
『プリパラ』、『妖怪ウォッチ』ありがとう。黙々とゲームに没頭する日々。こっそりと同人ゲーム、同人誌を作っています。ネオ昭和ビジュアルノベル『ふりかけ☆スペイシー』よろしくお願いします。
Twitter:@zombie_haruchan

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