11月12日、九州産業大学にてゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2022」が開催されました。
今回はCygames代表取締役社長の渡邊耕一氏とサイバーコネクトツー代表取締役の松山洋氏が登壇した基調講演、「Cygames流!最高のコンテンツを作る極意」のレポートをお送りします。
松山氏をモデレーターとして、「どのようにして『Cygames』という会社を立ち上げたのか?」や「Cygamesが高クオリティかつヒットする作品を生み出す理由」について渡邊氏が語るセッションとなっています。
渡邊社長がゲーム業界に入ったきっかけは「ロボコン」!?
本セッションは「渡邊耕一とCygamesの歩み」と題し、渡邊氏のルーツを探るところからスタート。
渡邊氏は広島大学西洋哲学専攻を卒業後、新卒としてポリゴンマジック株式会社で6年間働き、その後シリコンスタジオ株式会社に入社。当時はシリコンスタジオにゲーム開発部が存在しておらず、渡邊氏がゲーム開発部を立ち上げたとのこと。
後にスクウェア・エニックスから発売された『ブレイブリーデフォルト フライングフェアリー』は、渡邊氏がシリコンスタジオ時代に企画書を同社に持ち込んで開発がスタートしたそうです。
ここで松山氏から「そもそも渡邊氏がゲーム業界に入ったきっかけとは?」という質問が出ました。渡邊氏は佐世保工業高等専門学校時代にロボコンに出場しており、その時に「チームで何かを制作する楽しさに惹かれた」と語りました。
高専時代に独学でプログラミングを学んでいた渡邊氏は、ロボコンでの経験を通じて「チームで何かを制作する仕事がしたい」と考えて、ゲーム業界に足を踏み入れることを決めたそうです。
渡邊社長が振り返るサイゲの歴史。東日本大震災を経て設立された「Cygames」
「渡邊耕一とCygamesの歩み」ではこれまで世に送り出したゲームなどの年表とともに、Cygamesの歴史を振り返るコーナーも。
2011年5月にサイバーエージェントの出資を受けて立ち上げられた株式会社Cygames。渡邊氏がシリコンスタジオから独立し、新たに会社を立ち上げたきっかけとして「東日本大震災」が起きたことが挙げられていました。
震災での被害を見て、「自分だって、明日死ぬこともあるかもしれない。だったらやるだけのことはやろう」と考え、そこから2か月後の2011年5月にCygamesが設立されました。松山氏からは「すごいスピードですね」と驚きの声があがる場面も。
そして設立から4か月後の2011年9月にCygames最初のタイトル『神撃のバハムート』が配信を開始。松山氏からの「設立から4か月でゲーム配信は早くない!?」というツッコミを挟みつつ、設立当初は5人くらいだったCygamesのメンバーも、『神撃のバハムート』がスタートしたころには約40人にのぼっていました。
次に配信が開始されたのは『戦国SAGA』と『アイドルマスター シンデレラガールズ』。『アイドルマスター シンデレラガールズ』はモバイルゲーム史の中でもかなり大きな存在となったタイトルですが、実は『神撃のバハムート』が配信されるよりも前に、バンダイナムコエンターテインメント(当時はバンダイナムコゲームス)から開発の依頼があったタイトルで、社内に相談した結果「むちゃくちゃやりたい」との声があがり開発がスタートしたとのこと。
続いてのタイトルは2012年4月にMobageで配信を開始した『聖闘士星矢 ギャラクシーカードバトル』。松山氏から「聖闘士星矢やってたんですね……」と驚きの反応が出ていたのですが、Cygamesがこのタイトル制作に携わっていたことを知らなかったという方も割といらっしゃるのではないでしょうか。お恥ずかしながら、筆者も今回のセッションで初めて知りました。
もともと、渡邊氏は「初めて買った週刊少年ジャンプに『聖闘士星矢』の第1話が載っていた」時から『聖闘士星矢』が好きだったらしく、各方面に「『聖闘士星矢』のゲームを作るなら自分に作らせて欲しい」とお願いをしていたのだとか。
当時はガラケーなので、画像やアニメーションの容量は100KBまでしか使えないという制限があったが、「六道輪廻」や「ギャラクシアンエクスプロージョン」などの技の演出を表現するために様々な工夫をしていたとのこと。会場では実際に『聖闘士星矢 ギャラクシーカードバトル』の技の動画が流れていたのですが、確かに当時のガラケーとは思えないほど豪華な演出が行われており、筆者も驚きました。
次は『グランブルーファンタジー』。今やCygamesを代表するタイトルのひとつですが、Cygamesを設立する以前から渡邊氏は皆葉英夫氏【※1】と「何かゲームを一緒に作りたい」と話していたそうです。
そして2014年にテレビアニメ『神撃のバハムート』を放送開始し、2015年にはアニメ事業部を設立。実はこちらのアニメ事業部、渡邊氏のポリゴンマジック時代の同僚がアニメ業界の人間で、アニメを作りたいかと尋ねたところ「作りたい」ということでスタートした……とのことです。
さらには2016年にCygamesが運営するweb漫画配信サービス「サイコミ」を設立。こちらもCygames内に「漫画のチョイスが良い」スタッフがいたらしく、渡邊氏から直接「漫画やってみる?」と声をかけたのが始まりとなっているそうです。
※1皆葉英夫
『ファイナルファンタジーⅨ』や『ファイナルファンタジーⅫ』などのアートディレクターを担当。現在は株式会社CyDesignation代表取締役社長を務めつつ、『グランブルーファンタジー』のキャラクターデザインなどを担当している。
そして次は『シャドバ』こと『Shadowverse』。設立時から振り返ってきたCygamesの歩みですが、この辺りになると「あ、最近のタイトルだ」と感じます。実はこちらの『Shadowverse』も約2年の開発期間のうちに3回作り直しをしているようで、松山氏は「2年で3回ゲームを作り直している開発スピード」に驚いていました。
続いては『プリンセスコネクト!Re:Dive』について。こちらのタイトルは『プリンセスコネクト!』という前作が存在しており、渡邊氏によると「前作はゲームの運営をサイバーエージェントが担当し、Cygamesがイラストを担当していた」とのことですが、サービス終了後に改めてCygamesがゲーム全体を作り直したのがこの『プリンセスコネクト!Re:Dive』というわけです。
『プリンセスコネクト!Re:Dive』は渡邊氏が「スマホゲームのカットインの流れを変えた」と自負しており、もともとはよくある戦闘アニメーションくらいのものだったが、「毎回同じなので変えようよ」と提案したところ、渡邊氏の想像を上回るすごいものが出てきてしまったとのこと。
そしてついにアニメ版『ウマ娘 プリティーダービー』(第1期)が登場。渡邊氏も今作の完成度に驚き、「アニメの出来が良いからゲームももっと面白くしなければならない」と、ゲーム版を作り直し始めました。
結果的にゲーム版『ウマ娘 プリティーダービー』は計6年間をかけて制作し、その間に2回の作り直しを行ったそうです! 渡邊氏も「初期と別物です」と断言したほど、長い期間の制作を経てリリースへと至ったことが明かされました。
さらにゲーム版の印象的な「縦画面でプレイする」スタイルは開発中にスタッフの提案によって決まったそうで、当初は渡邊氏も「競馬はテレビだと横長の画面で放送されているし、縦長の画面だと奥行で見せるため、自分たちでレースの画を作り直す必要が出てくるけど大丈夫?」と開発スタッフに指摘したが、スタッフの意向で現在の形になったとのこと。
そして2021年、ついにリリースされたゲーム版『ウマ娘 プリティーダービー』。渡邊氏も「アニメーションが良すぎてちょっと引いたくらい」と、ゲーム版の進化した表現に驚いたそうです。
さらに「実はゲーム版『ウマ娘 プリティーダービー』はリリースの1年前には大体完成していたけど、1年かけて細かい部分をチューニングし続けていた」という衝撃の情報も語られました。松山氏はこれに対し、「1年間のチューニングがローンチ時の安定感に繋がっているのかもしれない」と開発者ならではの視点でのコメントをしていました。
Cygamesは何故最高のコンテンツを生み出せるのか?社長が語るプロデュース術、モノづくり、組織づくり
Cygamesの歴史の振り返りも終わり、今回のセッションのタイトルにもなっている「Cygames流!最高のコンテンツの作り方」について渡邊氏にお聞きするコーナーに。
「プロデュース術」「モノづくり」「組織づくり」の3つを渡邊氏が語りました。
まず最初は「Cygames流のプロデュース術」。
渡邊氏曰く、「なんとなくでやっている」とのこと。まさにシンプルイズベストな回答ですが、「なんとなくこういうのがあったらいいなあ」「うちのラインナップにこういうのが欲しいなあ」という思いからコンテンツ作りを始めているそうです。
「外から見れば戦略的に動いているように見えるかもしれないけど、本当はそんな感じです」と渡邊氏は答えました。自分の内側から湧き出るものを信じるのが渡邊社長流のプロデュース術なのかもしれません。
続いては「Cygames流のモノづくり」について。
ゲーム開発において、渡邊氏はとにかく「嫌なものをなくす」ことに注力しているそう。
たとえば「ここのラグが嫌」「ここのボタンを押すまでに2画面挟むのが嫌」などの、「ゲームを触っていて“嫌”と感じた部分をなくしていく」のが渡邊氏のスタイル。この手法が『プリンセスコネクト!Re:Dive』の完成度の高いホームのUIにも繋がっているのかもしれないと、筆者は感じました。CygamesでリリースされているゲームのUIは、必ず渡邊氏がチェックや開発を行っているとのこと。
最後は「Cygames流の組織づくり」。
渡邊氏は「組織づくりに明確な答えはないけれど、Cygamesは『仕事ができる人』『頑張っている人』『真面目な人』が居やすい組織を作っている」と語りました。一方、万人が居やすい環境ではないし、仕事に適当に取り組む人にとっては最低の環境でもある……と考えているそうです。
Cygamesは本社だけでなく、佐賀や大阪の各地にも拠点を持っている大規模な組織ですが、渡邊氏から「それぞれ独自性があっていいんじゃない?」と、統一感は求めない自由なスタイルであることも語られました。
ここまでのセッションの中で、気合を入れるべき部分は全力でやりつつ、一方、おおらかで自由な面もある渡邊氏流のコンテンツの作り方がわかってきた方も多いはず。松山氏と渡邊氏が「社長の下に優秀なブレインの方が多いんでしょうね(笑)」「そうなんでしょうね(笑)」と笑い合う場面もありました。
「作り直しを躊躇しない」渡邊社長への質問コーナー
そして最後は渡邊氏への質問コーナーへ。事前に用意されていた質問と、会場内の方から直接お聞きする2つのパターンの質問が行われました。
最初は「渡邊社長のタイトルへのかかわり方(どの程度ディレクションをしているか、どこまでやったらそれを人に任せ始めるのか)」という質問。
渡邊氏がひとつ目に挙げたのが、「Cygamesの全てのゲーム作品のアートディレクションを行っている」ということでした。これには正直筆者もかなり驚きました。
スタンディングデスクを使い、立ち作業でイラストの確認や修正を行っているという渡邊氏。『グランブルーファンタジー』でも『ウマ娘 プリティーダービー』でも、ゲーム内に登場するイラストなどは全て渡邊氏が一度チェックし、修正などを経てから実装されているとのこと。
一方、アート以外のゲーム部分のかかわり方はタイトルによって違うそうですが、最終的なテストプレイはかなりやりこむとのこと。先ほども挙げていたUIの触り心地などは細かくチェックしているそうです。
さらに「渡邊氏のチェック体制」についても語られました。リリース後の運営はある程度開発スタッフに任せているそうですが、リリース前の作品は必ず全てのプロジェクトで大体毎週チェックを行うのだとか。この細かくチェックする体制が各タイトルのローンチ時の完成度の高さに繋がっているのかもしれません。
続いては「多くのタイトルをリリースしつつ、高クオリティを維持できる体制はどうなっている?」という質問。
渡邊氏が第一に挙げたのは、「既にリリースしたタイトルから開発メンバーを抜かず、運用にも携わってもらう」ということでした。Cygamesでリリースされている作品の中で、「人を抜く」ということは基本的になく、新規タイトルの立ち上げ時には新たに人をいれるのだそうです。「そうじゃなかったら、スタッフ数が3500人にならないですよ」と熱く語る場面も。タイトルに初期から関わっているメンバーを信頼することが、「高クオリティの維持」に繋がっているのでしょう。
特にゲーム版『ウマ娘 プリティーダービー』は渡邊氏が確認していなかったところも完成度が高かった、とひとつの例として挙げていました。
続いては同じ「作り直し」についての質問なので、ふたつの質問を一度に紹介します。
「完成してからの『作り直し』について、躊躇することはあるか?」「作り直しが発生しないよう、ディレクションに関して注意していることは?」という質問です。
前者の「作り直しを躊躇するか?」という質問に対しては、キッパリ「しない」と答えた渡邊氏。作り直さず、売れなかった時の方がチーム全体が辛いからこそ、作り直しには躊躇をしないと決めているそうです。
後者の「作り直しが発生しないためのディレクション」についての質問。こちらもキッパリと「ないです」と答える渡邊氏。開発スタッフには「作り直しは必ずある」「作り直しを躊躇するな」と伝えているほど、クオリティアップのための調整を欠かさないのが渡邊氏のスタイル。
一方で、「作り直しを現場の責任にはしない」とも語りました。作り直しが決まった際には渡邊氏自ら「自分に責任がある」と開発スタッフに伝えているそうです。
そして最後に来場者からの質疑応答が行われ、基調講演は終了。
Cygamesはどのようにヒットを生み出しているのか、Cygamesはどのように高クオリティな作品を作っているのか、渡邊氏の「コンテンツの作り方」が語られた今回のセッション、いかがだったでしょうか。このレポートを通じて、Cygames及び渡邊氏のモノづくりの手法を知っていただければ幸いです。