私はウォーキングシミュレーターやポイントアンドクリック式のアドベンチャーゲームが大好きだ。特に、ナラティブ部分を環境ストーリーテリングで語るものとくれば、詳細には目もくれず購入ボタンを押すほどである。
さて、つい最近、そんな私の好みにぴったりと合うインディーゲームを発見した。
台湾の「Silver Lining Studio」が手がける『The Star Named EOS』である。
まだ正式なリリースはされておらず、私が遊んだのは本作の体験デモであったものの、短い時間ながら非常に濃密な体験が出来た。
そこで、私はこの記事で、同じアドベンチャーゲーム好きの同志達に、この素晴らしいゲームについて共有しようと思い立った。
今回は、『The Star Named EOS』を実際に遊んだ筆者が体験した、その一部始終をお伝えしようと思う。
文/植田亮平
美しい色彩と心地よい語り口
ゲームを起動してまず始まるのは、プレイヤーである主人公の回想だ。
美しい色彩の描かれた自然の風景をバックに、主人公である「Dei」の目線から、謎の女性と星を見上げるシーンが映される。この時点から既にゲームはスタートしており、このシーンはゲームのチュートリアル(チュートリアルと言ってもポイントアンドクリック方式なので超簡単)としての役割も持っている。
360°に広がる夕暮れのパノラマ風景と共に、女性の優しい語りがプレイヤーの心を一気にゲーム内世界に連れて行ってくれ、ゲーム開始から非常に素晴らしい雰囲気が展開される。こういうゲームはスタートが肝心である。その点この作品のオープニングアクトは、私の心を掴むのに十分なものであったと言わざるを得ない。
脱出ゲームの流れでストーリーは展開していく
さて、場面は移って、今度は主人公Deiの自室であろう部屋が画面いっぱいに映し出される。いよいよゲーム本編の始まりである。
何やら遠い場所にいるらしい母親から手紙が来ている。読んでみるとそこには一枚の写真と、「あなたならもっといい絵が撮れるわ」とのメッセージが書かれている。どうやらチュートリアルに出てきた謎の女性は主人公の母親で、しばらく会えていない様子だ。
しかしその後の手がかりはほとんど何も語られず、主人公の目的もいまいちハッキリしていない。目標を示すUIも、語り手もない。あるのはただ、手がかりと主人公Deiのわずかばかりの独白だけである。
この時点で私は直感的に、このゲームがウォーキングシミュレーターや脱出ゲームと同じタイプのストーリーテリング手法を用いていることを感じ取った。いわゆる「環境ストーリーテリング」である。
手紙やオブジェクトの残された空間を自由に探索させ、そこに残された手がかりから登場人物たちの関係をプレイヤーは解釈し、物語が表現される。2010年代後半、インディーのアドベンチャーゲームでかなり流行ったストーリーテリングの手法だ。なるほど、私はこういうのが大好きである。
いまさらになって言うが、このゲームのジャンルはSteamストアページのタグでは「パズル・アドベンチャー」となっている。それもそのはず、このゲーム、「触れるもののほとんどに何らかの謎解き要素が含まれている」のである。
ただオブジェクトを調べていくだけなら「ちょっと雰囲気のいいポイントアンドクリックゲーム」という感想に収まっていただろうが、本作は先の要素によって脱出ゲームのようなゲーム体験となっている。そう、『The Star Named EOS』は優れたアート作品であると同時に、しっかりとしたゲーム性もまた確保されているのだ。
難易度は比較的やさしいものに
肝心のパズルの難易度は易しめだと感じる。すくなくとも、特定の知識やローカライズによって難しくなる言葉の問題はなかったと記憶している。
パズルを解いていくうちに、導線の引き方もかなり優しくつくられているな、と感心した。
このようなシステムにありがちなものとして、いくつものヒントが無秩序に平行して与えられることで、かえってプレイヤーが混乱してしまうという問題がある。パズルAで得たヒントはBに使うのか、それともCに使うのか?というようなパターンだ。
その点、この作品は特定のパズルを解いて得たヒントが次のパズルに直接的に繋がっているので、次にどれを解けばいいかという迷いが生じにくい。その優しさは正直、こういった謎解きになれたゲーマーならあまりにも簡単に進めてしまうほどであろうが、これについては、あえてプレイヤーを詰ませずスムーズにストーリーを楽しんで欲しいという制作側の姿勢ゆえだろう。
写真を再現して記憶をたどる
そうしてパズルを次々と解いていくうちに、少しずつ主人公Deiと母親の関係、そして物語の導入がおぼろげながら見えてきた。Deiの母親は失踪しており、そしてDeiもまた、母親から送られてくる旅のスナップを手がかりに、その風景を追い求める旅を始めようとしていたのである。その後私はDeiの自室の金庫を開けることに成功する。その中にあったのは小さな写真用カメラだ。ここで、このゲームのメインとなる仕掛けの部分にようやくたどり着いた。
このカメラで何をするかというと、冒頭で主人公Deiに送られてきた母親からの写真、その写真を再現するのである。しかも、ただ同じ構図を撮るだけではなく、置いてある被写体まで再現しなければならない。
これはなかなか骨の折れる作業である。骨の折れる作業とは言ったが、実際のところ、これも母親の写真と見比べながら試行錯誤すれば詰まらずに解けるだろう。ここで、これまでのパズルで得た様々な小道具を用いることになる。ゲームとしても物語としてもよくできた仕掛けだと思う。
カメラは実際にスナップを撮るような感覚で遊べる。自由にカメラモードで遊んでいるような感じだ。
さて、こうして母親の写真を再現することに成功したわけだが、ここからDeiこと私は、これと同じように、母親の撮った風景を再現するべく、写真と記憶を追って旅に出ることになる。『The Star Named EOS』のはじまりはじまり、というわけだ。悲しいことに、ここで体験デモは終了するのだが。
雰囲気が良すぎる
以上が私が体験デモで遊んだ一部始終の紹介である。ここからは、筆者が個人的に素晴らしいと感じた、ゲーム全体の雰囲気の良さについて少し語ろうと思う。
このゲームの背景は全て手描きで書かれている。質感、色合い、画面全体のバランス、どれをとっても素晴らしい出来で、どこか心温まる。それでいてノスタルジックな雰囲気は、こういったゲームを好む筆者にとっては非常に優れたものに映った。私は「雰囲気ゲー」という言葉を非常にポジティブなものとして捉えているが、本作は私にとって最高級の雰囲気ゲーである。
また。ゲーム中に流れるBGMやストーリーの合間に挟まれる伴奏も素晴らしい。美しいピアノの旋律やストリングスの音色は、心地よい陽だまりや郷愁を思わせる。気になった方はぜひともトレーラーを見て聴いてみてほしい。
本作を手がける「Silver Lining Studio」は2021年に『Behind the Frame – とっておきの景色を』というアドベンチャーゲームも制作しているが。本作はその作品のエッセンスを継承している。暖かい色合いのタッチで描かれる美麗な手描きアートは、同作のファンにとっても非常に嬉しい要素だろう。
本作の紹介はここまでにとどめておくが、美しいアートとサウンド、そして暖かな雰囲気と謎解き、この中にどれか一つでも好きな要素があるのならば、本作をウィッシュリストに入れてリリースを待つのをおススメしたい。ローカライズも完璧なので、言語面での心配も不要だろう。『The Star Named EOS』はSteamにて近日登場だ。