バーチャル・リアリティ、あるいはミックスド・リアリティ。これらの響きには得も言われぬかっこよさがある。これらの恩恵を得るために用いられるヘッド・マウント・ディスプレイ(HMD)も同様で、見るからに未来的だし、メタヴァース的でデジタルツイン的なのだ。
これに対して、我々が現状触れているテクノロジーはどれも「かっこよさ」とはほど遠い響きがある。
たとえば「スマホ」。なんて手頃で言いやすい言葉だろう。スマホ、スマホスマホ、スマホスマホスマホ。少し前まで使っていた「ケータイ」もさることながら、我々の生活になじんだテクノロジーはキャッチーで世俗的な言葉で親しみやすい。逆に、「バーチャル」で「メタヴァース」で「エックスアール」というと、かっこいい分どうしても我々の生活とは縁遠い「非日常」のように思えてしまう。
筆者は一人の平凡なVRユーザーとして、このギャップにもどかしさを覚えていた。筆者が初めてVRに触れたのは2016年の「PlayStation VR」で、画面酔いにのたうち回りながらも『Firewall Zero Hour』の銃撃戦や『Déraciné』のVRならではの無常的ストーリーに魅了され、VRの可能性に驚いた。
さらに2020年には当時約13万円した(現在は約16万円)ハイエンドHMD「Valve Index」を購入し、指の動きまで反映されるリアリティや、VRゲームとして初のAAA級の大作となった『Half-Life: Alyx』のクオリティに引き込まれた。
しかし、言ってしまえばVRは「感動」や「衝撃」こそあったものの、そこ止まりだったのだ。確かにVRは実に未来的で、魅力的だった。今までにない体験ばかりが詰め込まれ、作品も自分の期待を凌駕していた。事実、VRChatに触れてたくさん友達を作れた人や、clusterのワールドを作り始めた人など、「バーチャル」における非日常を日常にできた人は筆者の周囲にもいる。
とはいえ、残念ながら必ずしもすべての人がこの「非日常」を謳歌できたわけではないと思う。一部の高度なセンスや才能、技術、願望を持つ人はともかく、およそ10年以上続く、手のひらサイズのスマホでインスタントなコンテンツに慣れ切った「日常」を送る現代社会において、HMDがもたらす「非日常」はどうしても遠く感じてしまう。
前置きが長くなってしまったが、こうしたギャップに対して見事な「答え」となる製品が、ついに発売される。
それが2023年4月上旬の発売を予定している、HTC社の「VIVE XR Elite」だ。これは本当にすごい。筆者と電ファミニコゲーマー編集部は本製品を体験する機会に恵まれたのだが、まさに「非日常」と「日常」のミッシングリンクをつなげ、一時的な「感動」に留まらないもうひとつの感動が得られたからだ。
取材・文/Jini
※この記事は『VIVE XR Elite』の魅力をもっと知ってもらいたいHTCさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
VIVE XR Eliteのスペック
では具体的にVIVE XR Eliteとはどのような商品なのか、詳細なスペックは以下の通りである。
・解像度:片目1920 x 1920ピクセル(両目3840 x 1920ピクセル)
・ヘッドセットトラッキング:6DoFインサイドアウトトラッキング
・リフレッシュレート:90 Hz
・視野角(FOV):最大110°
・オーディオ:デュアルマイク(エコーキャンセレーション) 内蔵スピーカー
・プロセッサー:Qualcomm® Snapdragon™ XR2
・ストレージ&メモリ:128 GB / 12 GB
・センサー:4xトラッキングカメラ、16 MP RGB カメラ、深度センサー、加速度センサー、ジャイロスコープ、近接センサー
ざっと並べてみたが、HMDユーザーでもなければ正直「なんのこっちゃ」と思われるので、より詳細に解説していこう。
まず解像度。これはPCやスマホのディスプレイと同様で、大きいほど鮮明かつ美しく表現できる。そして片目1920 x 1920ピクセルは業界的には高水準で、ハイエンドのゲームをプレイする上でもまったく苦にならない。
またリフレッシュレートは画面を表示する上でのなめらかさ、視野角(FOV)は画面を表示できる角度を表す。これも次世代HMDとして十分高い水準であり、個人差があるものの画面酔いのリスクは低く抑えられるだろう。
もちろんスタンドアロンでも運用可能。PCへのHMDに搭載されたプロセッサーとメモリも申し分なく、映像鑑賞、ソーシャルVR、VRゲームいずれも、HMD単独で快適に楽しめる。一方、HTCらしくPCに接続する拡張性も残されており、有線であればUSB Type-Cで、無線であればWi-Fi 6Eでそれぞれ接続可能。PCの画面をストリーミングすることもできる。
そのほか、細かい点だがオーディオ、コントローラー、IPD(瞳孔間距離)・視度調節などといった細部に関しても、VIVE XR Eliteは充実している。
まずオーディオはHMDに内蔵されたステレオスピーカーだがエコーキャンセレーションと指向性オーディオに対応しており、ヘッドフォンほどではないが静音性も高い。映画や音楽の視聴は無論のこと、ゲームプレイ時にも重要となる音の方角もしっかり聞き取れる。
またコントローラーは2ボタン+スティック+トリガー+システムボタンと、シンプルながら頑強なつくり。特にゲーマーにとってはコントローラーの出来栄えが重要だが、入力は実に直感的に行うことができた。
定番であるIPD(瞳孔間距離)調整は54~73mmまで可能。ユーザーそれぞれの体格に応じて適切なレンズに調整できる。細かな点だが、IPD調整用のダイヤルはゴーグル下部にあるので、装着しながら最適なIPDを探せるのもありがたい。
またVIVE XR Eliteのユニークな機能として、焦点距離ダイヤルが搭載される。これは要するにレンズ内に用意されたメガネのようなものだ。
個人的にこれは大変うれしい機能で、Valve Index(13万円)には同様の機能がなかったため、わざわざ非公式のVRメガネ(VRsatile / 1万3000円)を購入して使っていた。一応メガネを装着したままHMDを被る手段もあるが、これはHMDのレンズや部品を傷つけるおそれがあり(1敗)、ある程度の近視なら問題なく使える点は地味ながら嬉しい機能だ。
このようにXR Eliteは純粋なスペックという点で次世代HMDの最高水準を達成しつつ、スピーカー、コントローラー、レンズといった普段使いで気になる点においては、長年HMDを開発し続けてきたHTCらしい気の利かせ方で見事に対応した、非常に完成度の高いHMDだと言える。
なお、体験会ではいくつかゲームにも触れさせてもらった。まず本製品を事前予約することで無料で入手できる『Unplugged: Air Guitar』をプレイ。こちらは文字通りエアギターで遊ぶリズムゲームで、「ロックは勢いだぜ!」と話しかけてくる謎のおっさんに言われるがままジャンジャカとギターをならす。昨今はやりのロックバンドアニメの影響もあり、ついテンションが上がる。
次に、PCと無線接続してSteamVRのコンテンツも遊べるということで『Beat Saber』。VRゲームの鉄板中の鉄板で、もちろんXR Eliteでもプレイ可能。筆者が唯一まともにExpertに挑める「K/DA – POP/STARS」で腕を上下に振りまくる。映像が美しいのはもちろんだが、特にスピーカーのレベルに驚いた。
HMDはデフォルトスピーカーの音質があまり良くなく、かといってヘッドフォンもHMDの仕様上使えないという問題があったが、XR Eliteのスピーカーはヘッドフォンとまで言わずともクリアさと立体感で十分音楽鑑賞にも耐えうるレベルとなっていた。
最後に『Half-Life: Alyx』もプレイ。個人的にベストVRゲームにして2020年のGOTYである本作。実はSteamでのみ販売する都合上、他のHMDではやや強引なプロセスを経なければプレイできない本作だが、XR EliteであればシームレスにSteamVRにアクセスし、Steamストアで購入した本作をプレイすることができる。
もちろんVRゲーム最高峰のグラフィックスも余すことなく表現し、この傑作の魅力を十全に味わうことができた(正直、本作のためにValve Index(13万円)を買った筆者としては大変複雑な心境である)。
パススルー機能で繋がる「日常」と「非日常」
ここまでHMDとして、標準的な楽しみ方を紹介してきた。しかしここで、VIVE XR Eliteの購入を踏みとどまらせてしまうかもしれない点に触れなければならないだろう。
それはずばり、価格。本製品の販売価格は179000円(税込)となっており、これが多くの人にとって躊躇する点になることは、容易に想像できる。特に現状、市場でよく見るHMDのMeta Quest 2(約6万円)やPICO 4(約5万円)と比べても、その差は歴然だ。
ただ誤解のないよう前置きしておくと、現状、HMDはハイエンドクラスとミドルクラスで二極化しており、それぞれの機能や性能はかなり異なる。Meta Quest 2やPICO 4はいわゆるミドルクラスであり、HTC社のVIVEにも「Flow」(約6万円)というミドル製品は存在する。逆にハイエンドとしてはVIVE XR Eliteの他に、Meta Quest Pro(約16万円)も存在するため、単純に価格だけで比較することはできない。
ではハイエンドHMDにはどのような強みがあるのか。ハイエンドと一言に言っても、それぞれ用途や方向性に応じて様々なハイエンドモデルが存在するが、特にVIVE XR Eliteに搭載された目玉機能が「パススルー」と呼ばれるMR機能だ。
これはHMD前面に装着されたカメラを通じ現実の空間を視認できるというもの。ちょうどスマートフォンのカメラを起動して目の前の空間を見ている状態を想像してほしい、それがパススルーだ。これはVIVE XR Eliteのほか、Meta Quest ProやPlayStation VR2、Valve Indexにも搭載されており、現代HMDのトレンドのひとつになっている。
これだけを聞くと「え?MRだか何だかよくわからんけど、別にいらないかなぁ……」とか「なんでわざわざゴーグルつけながら現実を見ようとするの?ゴーグル外せばよくない?」と思うだろう。
正直、筆者でさえ心の中で若干そう侮っていたのだが、実際に筆者がVIVE XR Eliteのパススルー機能を使った瞬間、自然と「マジか……」と声を出すほどの感動があった。
そもそも、「ゴーグルを外す」という行為自体、HMDを日常的に使うと意外に面倒くさいのだ。というのも、HMDをつけようとすると「HMDを手に取る→目とレンズがあうようにHMDを前面に合わせる→ストラップなどで頭頂部か後頭部で固定→コントローラーを右手(左手)に握る→コントローラーを右手(左手)に握る」という、最低でも5つのプロセスが必須だった。
そしてこれを「同居人を視認したい」「コーヒーを飲みたい」「スマホの通知が気になる」などの理由で外す度に行うのだから本当に大変。逆にスマホは「スマホを手に取る」だけで即座にアクセスできるのだから、利便性に大きな差が出てしまう。
ところがパススルー機能を使うとどうだろう。HMDをつけたままコーヒーを飲めて、お代わりをつぐことすらできる。同居する家族とコミュニケーションもとれるし、子どもが何かやらかしてないか警戒することもできる。鼻水をティッシュで拭いて、それをゴミ箱に捨てることもできる。
それどころかスマホを起動してTwitterの通知を確認し、得体のしれないスパムをブロックすることすらできる。これはすごい。本当にすごい。
従来のHMDでは日常と非日常が分断され、それゆえに、「日常に戻らなければいけない瞬間」の度に多大な労力を割いていたのに、ついにHMDをつけたまま「日常」と「非日常」を反復横跳びできるのだ!
筆者にとって、この感動は初めてHMDを介して「非日常」へ飛び込んだ時以上のものだった。なぜか。確かに、HMDを介したヴァーチャル・リアリティへの没頭は魅力的だ。中には寝食をHMDと共に行い、少しでも生活をヴァーチャルな世界で過ごそうとするガチンコなオタクもいて、彼らのストイックさに憧れて筆者もHMDを購入した。
だがいざ使ってみると、いかに「非日常」に没頭したくとも「日常」に戻らざるを得ない時があり、その都度、煩雑なHMDを着脱する作業を行うと、筆者は「非日常」が遠いものに思えてしまった。だがそんな「日常」と「非日常」の間をこのVIVE XR Eliteはブリッジし、魅力的な理想郷であるヴァーチャルと退屈な現実である生活風景を自在に行き来できることで、ようやく自分のような生半なオタクでも「非日常」を手に入れられたのだ。
なお繰り返すように、パススルー機能はVIVE XR Eliteのみではない。しかし、VIVE XR Eliteのパススルー機能の視認性は極めて優れており、普段使いをするならVIVE XR Elite一択と言えるほど頭抜けているとすら感じた。
実際に筆者もPlayStation VR2とMeta Quest Proのパススルー機能を試してみたが、前者は白黒ゆえにさすがに実用性に欠け(価格を考えると仕方ないが)、後者はカラーといえど立体の表現が弱く特に近距離で像が歪んでしまう。また発色も極端でディスプレイや電飾を見ると白飛びしてしまった(ただしMeta Quest Proには独自のアプリケーションやトラッキング性能などの魅力もある)。
なぜこれらと比べてVIVE XR Eliteのパススルーは優れているのか。HTC NIPPONの児島社長にお聞きしたところによると、長年研究を重ねた独自のソフトウェアによって、より自然で立体的なパススルーを可能にしたのだという。さらにVIVE XR Eliteには現行の他社製品にはない深度センサーが搭載されており、今後のアップデートによりさらに対象物との距離を正確に表現できるという。まだ進化するのか……。
言われてみれば確かに色や光が自然なだけでなく、特に距離感まで把握できるような立体的な表現がすごい。実際、装着したまま歩き回ったり、遠くのモノを拾うことも難なくできた。
そのうえ、パススルーはただ現実空間をHMD上に表示するだけでなく、AR的、つまりパススルーの上にさまざまな情報を追加できる。たとえばPCと連携して、現実のキーボードを叩きながら、ディスプレイの代わりにHMD上にブラウザやアプリを表示するといったビジネス用途に加え、そのほかMRアプリを使って、購入予定の家具の3Dモデルを現実空間に配置してコーディネートを考えてみたり、バーチャルライブの映像をダウンロードして自分の部屋を即興のライブ会場に変えたり、もちろんさまざまなMRゲームにも対応している。
実際、HTCが「新時代の生産性」と打ち出しているように、娯楽のみならずビジネス目的でもこのパススルー機能は有用だ。あまり荷物を増やしたくない外出先でも、これ一つで処理と出力を、それも画面全体に広がる大画面で展開することができるし、家庭内であれば既に用意したデスク環境を取り込みつつ、さらに情報量を増やすといったこともできる。
VIVE XR Eliteは文字通り「VR」ではなく「XR」のデバイスであり、その目的として「日常」と「非日常」を、「遊び」と「仕事」をシームレスに行き来することができる点で、本当に誰でも無駄なく使えてしまう、極めて高い汎用性を有したデバイスと言えるだろう。
驚異的なモビリティから生ずる「準スマホ的日常」の極地
もうひとつ、VIVE XR Eliteの魅力を語りたい。
それは「軽さ」だ。「え?それだけ?」と思われたかもしれない。
だが本当に、本当にこの「軽さ」というのは重要なのだ。どんなに先進的な技術や、ハイレベルなスペックより、むしろ「軽さ」こそ大事なのではないかと、少なくとも筆者は数年のHMD経験で学んでいる。同時にこの「軽さ」という点で他社製品を圧倒してしまったVIVE XR Eliteは、パススルーと同程度か、むしろそれ以上にHMDというハードウェアのあり方を変えてしまうかもしれないと感じた。
ではVIVE XR Elite、一体どれほど軽いのだろうか。公式によればVIVE XR Eliteの重量は「625g」。うーん、軽い。同価格帯のMeta Quest Proが722gであるのに対し14%も軽く、筆者が使ってきたValve Indexが748gなのと比べても100g以上軽い。ただ他のミドルクラスのものであれば600gを下回るものもあり、スペックや機能という点で勝っていると言え、少なくとも重量だけが感動的に軽いわけではない。
しかしVIVE XR Eliteは「第二形態」を残していたのだ。なんと、本体バッテリー部分(後頭部にあたる)を取り外すと「メガネモード」となり、この状態では「273g」に。
この「第二形態」は本当にすごい。すごいというかヤバイ。まじでヤバイよ、マジヤバイ。だって273gだよ。軽さで話題になった新型のQuest 2でも503g。話の分かるヤツだ。
けどXR Eliteはヤバイ。それよりも軽い。軽すぎ。もう装着してることすら忘れかけるくらい軽い。ヤバすぎ。それでスタンドアロンでハイエンドでXRに対応してんの。怖い。
失敬。若干テンションがおかしくなってしまったが、何度も言うようにHMDにとって「軽さ」は本当に大事だ。
ハイエンドのValve Indexを使い続けたからこそ本当にこの点は痛感した。まずValve Indexほど重いHMDとなれば、まず装着して30分経つことなく頭頂部に負担を感じ、さらに30分経つ頃には首がはっきりと悲鳴をあげはじめる。もちろん肩も同時進行だ。正直、これだけでHMDを起動する前に少し躊躇してしまう。
もちろん、ある程度HMDに慣れたユーザーや、多少重くとも性能が大切だと考えるユーザーであれば、この重量はそこまで問題ないかもしれない。実際、Valve Indexをはじめ重量級のHMDでしか体験できない魅力(4k解像度の視聴やライトハウスのフルトラなど)もあるため、重量だけが全てではない。
しかし、冒頭で述べたように「非日常」を「日常」にするには、身体的な負担が少ないという点でも重量は大切だと思う。我々の身近にあるデバイスの多くも、いかに性能と軽量を両立するか日夜メーカーが研究開発を行った成果であり、スマートフォンもその一つと言えるだろう。ちなみに、iPhone 14の重量は172g、Proは206g、Pro Maxは240gだ。……あれ?VIVE XR Eliteの重量ってもうスマホとそこまで変わらないのか? これ、冷静に考えるとシンギュラリティでは。
実際、筆者はHTC NIPPONへの独占的な取材の中でおよそ3時間にわたってVIVE XR Eliteを装着しっぱなしだったのだが、目や脳への疲労感はともかく、少なくとも首、肩など重量に起因する痛みはほとんどなかった。これは重量もさることながら、メガネの「つる」や、顔面へのクッションとなる「ガスケット」など、エルゴノミクスに基づいて設計された細部による点も大きいと思う。
なお、バッテリーを装着した状態での稼働時間は最大で2時間だが、ホットスワップ機能によりHMDを稼働させたままあらかじめ充電しておいた予備のバッテリーと交換し、さらに稼働時間をのばすことができる。これにより外出先でも安心して利用可能だ。またバッテリーを外した状態では、PCへの接続と同じくUSB Type-Cケーブルで給電可能。
そしてもうひとつ、VIVE XR Eliteは「軽い」だけではなく「小さい」という点も大きなメリットだ。他社製品と比べても大きさは30~60%ほど小さく、さらにバッテリーを外したメガネ状態では、メガネの「つる」を折りたたむことで本当にさらにコンパクト化できる。
これによってカバンに入れて持ち運ぶことも、机のちょっとしたスペースに一時的に置くこともできる。他のHMDだと置き場に困るのだが、この小ささなら置き場に困ることはないだろう。
また手軽さという点では、VIVE XR Eliteは「ハンドトラッキング」に対応している点にも触れておきたい。ハンドトラッキングとはコントローラーを使わず、手だけでも操作できる機能のこと。
これ自体は珍しいわけではないのだが、前述の「軽さ」「小ささ」にこのハンドトラッキングを加える点が大きい。いくらハンドトラッキングに対応していても、そもそもHMDの取り回しが悪ければコントローラーを使えばよいとなるからだ。さらに前述のパススルー機能もハンドトラッキングに対応しているので、手だけで利用エリアを定めたり、ジェスチャーを使うこともできる。
このようにVIVE XR Eliteは「軽い」「小さい」「ハントラ」の3要素により、HMDとして異次元の機動力を実現している。
正直、この方向性は本当にHTCの慧眼だと思う。繰り返すように、少なくないユーザーにとっては大切なことは、どんな「非日常」を味わえるかより、どれほど「日常」の一部にHMDを用いられるかという点であり、VIVE XR Eliteはこの点で、間違いなく業界最高峰の「日常性」を獲得しているのだ。
それこそスマートフォンほどではないかもしれないが、タブレットなどそれに準ずる日常的なデバイスに比肩するほどVIVE XR Eliteは馴染む。日々何時間もHMDを利用するユーザーにとっても無論のこと、一度HMDを購入したものの首や肩への負担のために敬遠している人にとっても、このモビリティはぜひ一度体験してほしい。
日常と非日常を繋ぐミッシングリンクとして
VIVE XR Eliteは日常と非日常を繋ぐミッシングリンクである。本機に触れた筆者がまず感じたのはこの点だった。
ヴァーチャルやメタヴァースがバズワードとなって久しい現代、ある意味、そうした横文字を使うことで強調されてきた「非日常」に対し、筆者自身も魅力を覚え、実際にいろいろ試してきた一方、多くの人々はスマホやタブレットの「日常」で十分と考えており、「非日常」と「日常」の分断を実感せずにいられなかった。
目の前に虚構の世界が広がり、自分の手と目でその世界へ没頭し、同じように没頭している人々と会話したり、戦ったり、何かを共有する「非日常」の喜び。さまざまな企業やコミュニティの尽力によって、あと一歩というところまで接近したこの「非日常」は、数ある企業の中でも長きにわたりVIVEシリーズを供給し続け、ユーザーに寄り添おうと試みてきたHTC社のVIVE XR Eliteによって「日常」となるかもしれない。
それはまさに、解像度やセンサーで第一線のスペックを維持しながらも、焦点距離ダイヤルなどでかゆいところに手を届かせつつ、シームレスに現実と虚構を切り替える高精度なパススルー機能や、軽い・小さい・ハントラの三点による圧倒的な取り回しやすさによって、いつでも、どこでも、誰でも「非日常」へ没頭する「日常」を作り出すことに成功しているからだ。
確かに約18万円の価格は決して安くない。しかし、スマートフォンにしろ、タブレットにしろ、PCにしろ優れたものは高価でも当然売れているし、10~20万円の価格帯も珍しくない。同じHMDの中でも、VIVE XR Eliteはその性能と機能を鑑みれば、決して高いわけではない。
あしたの非日常を、あなたの日常に。VIVE XR Eliteは多くの人にとっての「非日常」を「日常」へと変えるかもしれない。