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90年代JRPGへの愛があふれる意欲作『Sea of Stars』は、懐かしいけど新しい21世紀の英雄譚。バトルや物語、ビジュアルに音楽、全てが高水準な作品の核には、神話的スケールと現代的視座が織りなすアンビバレンツな魅力があった

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 「古い革袋に新しいブドウ酒を入れてはいけない」という言葉があります。

有名な宗教の聖典にも記されたこの言葉の有効範囲は、もちろん単なるお酒の保管方法に限った話では留まりません。新しい事を成す際に、古い形式を固持しようとしてもうまくいかない、という意味がこの言葉には込められています。数千年の時を超え、いまなお口に出されることも多いこの言葉に深い含蓄があることは、論をまたないでしょう。

 ですが、さしもの救世主も『Sea of Stars』を前にしては、「この話はあくまでも例えであって、全てがその限りではない」と言うはずです。

 『Sea of Stars』は、カナダのゲーム会社・Sabotage Studioが開発し、2023年8月29日より発売されたRPGです。

 本作は新進気鋭のゲーム会社であるSabotage Studioが標榜する「Retro – inspired」の名に恥じぬ、見事なドット絵表現と古典的なコマンドバトルを軸とした作品です。とは言え、ただ古いだけであれば、冒頭に述べたような言葉の出る幕はありません。もはや歴史を感じると言っても良い懐かしいスタイルで、今ならではのことをやるからこそ、本作は「レトロ」ではなく「レトロ・インスパイアド」なのです。

 そのうえで、本作は90年代のJRPGを彷彿させる懐かしい要素と、21世紀を生きる現代のプレイヤーへの気配りをしっかり効かせた新しい要素を見事に融合させ、ひとつの作品として成立させてみせました。その有様はとても「懐古」の一言で片づけられるものではなく、言うなれば「懐新」とでも表現されるべきものです。

 今回は、古い革袋にたっぷりと採れたてのブドウ酒を注ぎながらも、破綻させることなく傑作に仕上げた本作の魅力を、なるべく核心的なネタバレはしないようにしつつ、皆様にお伝えできればと思います。ぜひ最後までお楽しみください。

文/うきゅう

※とは言え、ストーリーにもNPCにも見どころの多い本作ですからどうしても作品の内容への言及は避けられません。極力ネタバレを踏みたくない、楽しみをスポイルされたくない、という方はぜひ『Sea of Stars』を自らの手でプレイしたうえで、本稿をお読みいただければと思います。

 購入する前に作品の雰囲気は知りたいけど、ネタバレは避けたい……という方もご安心を。各種プラットフォームにて体験版『Sea of Stars』が配信されていますので、まずそちらをプレイしてみることをお勧めします。美しいドット絵と素晴らしい音楽、軽妙なキャラクターたちと刺激的なバトルシステムが、きっとみなさんを綺羅星のまたたく壮大な海へといざなってくれることでしょう。

古典的なターン制コマンドバトルにモダンな要素が華を添える

 さて、まずは『Sea of Stars』についての説明を済ませておきましょう。本作の舞台となる世界には、数百年の昔「フレッシュマンサー」と呼ばれる非常に危険な存在が現れました。フレッシュマンサーは強大な怪物を幾体も作り上げ、世界に様々な傷跡を残します。

 しかし、闇深ければ光もまた強くなるもの。夏至と冬至の日に生まれ、それぞれ太陽と月の魔力を使いこなす“至点の戦士”と呼ばれる存在が、怪物への唯一の対抗策として奮闘します。

 そんな至点の戦士たちの活躍もあってか、フレッシュマンサーはその姿を隠し、世界は滅びの危機を免れました。そこから長い時が流れ、至点の戦士たちはいまも、フレッシュマンサーの遺した危険な怪物たちとの戦いを繰り広げています。

 そんな中、ひとつの年の夏至と冬至で続けざまに生まれたふたりの“至点の子”、「ゼイル」と「ヴァレア」。強大な魔力を持ち、十年にも及ぶ訓練に明け暮れたふたりの若者が、至点の戦士として一人前になるための試練へ挑むところから、本作の物語は幕を開けます。

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太陽の力を使う「ゼイル」と月の力を使う「ヴァレア」、ふたりのキャラクターが主人公を務める。

 実にヒロイックなあらすじとともに幕を上げる本作は、冒頭にも軽く述べたように「レトロ・インスパイアド」、つまり古典的な作品からの影響を公言してはばかりません。

 シンボルエンカウントを採用し、フィールドマップでの接触を経てシームレスに戦闘画面へと遷移する様は『クロノ・トリガー』を思わせますし、タイミングよくボタンを押すことで攻撃・防御の効果を増加させるバトルシステムは『スーパーマリオRPG』のアクションコマンドさながらです。

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2023年11月にはリメイク版も発売される『スーパーマリオRPG』に登場する、印象的なバトルシステム「アクションコマンド」。(画像はVC スーパーマリオRPGより)

 一方で、本作は上記のような90年代を代表するRPGだけでなく、「新しい」時代のRPGからも要素を受け継いでいます。本作の戦闘において、その事実がもっとも分かりやすいのは、「ロック」と呼ばれる仕組みでしょう。

 ロックは、「回復」や「全体攻撃」、「増援を呼ぶ」など、敵が特定の行動を取る前にある種の予告として表示されるアイコンです。そこには打撃/斬撃の物理攻撃属性2種類や太陽/月などの属性攻撃4種の組み合わせが表示され、指定された属性を当てることでロックを壊し、敵の行動を弱体化させることができます。

 また、敵が動き出すまでのカウントダウンがゼロになる前の段階で全てのロックを破壊することで、敵の予告行動を阻止し、一時的にではありますが一方的に攻撃を続けることができるんですね。

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敵の特殊行動を予告する「ロック」。敵の行動カウントがゼロになる前に示された属性の攻撃を当て、行動を阻止しよう。

 このロックの仕組みを一目みた瞬間に、私は2018年にスクウェア・エニックスから発売された『OCTOPATH TRAVELER』(以下、『オクトラ』と表記)の戦闘システム「ブレイク」を思い出しました。

 『オクトラ』をご存じない方へ向けて説明しますと、ブレイクというのは『オクトラ』の敵キャラクターそれぞれに設定されたシールド値がゼロになった際に発生する現象です。本作同様、敵ごとに設定された弱点属性へと攻撃を与えることでシールド値は減少していき、ゼロになると現ターンと次ターンに予定されていた敵の行動がキャンセルされます。

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敵のシールドが派手に砕ける様は、何度味わっても気持ちいい。(画像はオクトパストラベラー_ABOUT_コマンドバトル|Youtubeより)

 ロックは相手の特定行動にのみ発生し、またロックを破壊する要素は弱点属性とは限らずいくつかのパターンがあるのですが、構造的にはほとんど同じと言っても良いでしょう。もちろん、同じシステムを搭載しているということが作品の価値を下げることはありません。良いゲームシステムというのは研究され、模倣され、改良されていくものです。

 これはゲームに限らず、全ての文化・技術がそうではないでしょうか。かつて天才的な物理学者アイザック・ニュートンが手紙に記したように、誰もが「巨人の肩の上に立つ」ことで、さらに遠くの景色を見ることができるのです。

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17世紀から18世紀にかけて活躍したアイザック・ニュートンは、万有引力の発見者として知られる。本項に引用した「巨人の肩の上に立つ」の初出はさらに古く、12世紀の哲学者ベルナルドゥスの発言とされる。(画像はアイザック・ニュートン、業績と人物|ナショナル ジオグラフィック日本語版サイトより)

 単なるコピーとインスパイアの違いを敢えて求めるなら、この精神性にこそ依拠するのかもしれません。さらに遠くの景色を見る。それは、先人たちの積み立てた知見・財産の上に胡坐をかくのでなく、自らもまた後輩たちを支える巨人となるべく、新たなものを生みだそうとする意欲そのものがもたらすものでしょう。

 本作のバトルにおける、意欲。それは、「生マナ」というシステムに見ることができるかもしれません。生マナは、キャラクターが通常攻撃をおこなうことで発生する要素であり、各キャラクターは戦場に散らばった生マナを吸収することで、自身の次の通常攻撃にひとつキャラクター固有の属性を付与したり、使用するスキルのダメージ量や回復量を増やすことができます。

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キャラクターと敵の間に5つほど並んでいる人魂のようなものが「生マナ」。特定のコマンドによってキャラクターが吸収することで、次の行動が強化される。ちなみに、これで1回分。

 戦闘のなかで最大で3回分をストックすることができるこの生マナは、単なる行動の強化という役割にとどまらず、前述したロックの概念と合わさることで戦闘へより戦略的な面白さを付与する要素です。複数属性を要求してくるロックに対して生マナを活用することで、より効率的・効果的にロックを破壊し、戦闘を有利に進めましょう。

 戦闘の戦略性で言うと、本作における彼我の「ターン」も、一筋縄ではいきません。本作の戦闘は一見すると完全なターン制となっており、味方キャラクターが行動し、敵キャラクターも行動し、次のターンを迎えるように見えます。

 しかし、実態として本作はひとつのターンのなかに最大3つの「カウント」が内在しており、このカウントを消費することで戦闘が進行します。プレイヤー側のキャラクターが一度行動するたびに敵キャラクターの行動カウントもひとつ進み、カウントがゼロになった敵キャラクターは一度にまとめて行動をする、といった具合ですね。

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プレイヤー側で行動の終わったキャラクターはモノクロ表示になる。カウントがゼロになり行動した敵キャラクターは、プレイヤー側が全員行動して新しいターンに入るまでは行動しない。

 口頭や文面だとややこしいのですが、敵の行動カウントはロックの有無に関わらず表示されているので、遊んでいるうちに順序は把握できるでしょう。このロックと破壊、ターンとカウントといったバトルシステムに加え、キャラクター同士が協力して特殊な攻撃を放つ「コンボ」、敵ごとに(ロックで指定される属性とは別に!)設定された「弱点属性」などが合わさり、戦闘をより戦略的で、刺激的なものとして楽しむことができるようになっています。

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複数キャラクターによる合体攻撃、「コンボ」。それぞれ専用のアニメーションも楽しめるので色々使ってみよう。

 本作のロックとの類似システムを持つとして例示した『オクトラ』もまた、ドット調のアートワークとコマンドバトルを土台として、かつてのJRPGの様式を蘇らせた傑作でしたが、そんな『オクトラ』と本作がともにコマンドバトルのさらなる改良点として見出したのが“戦略性”だったというのは、なんとも興味深い点です。

 やはり、ゲームというジャンルが発展しプレイヤーがある意味で「刺激に慣れた」現代においては、ただ決定ボタンを連打するだけで事足りるバトルというのは単調に過ぎます。そして、もしかすると刺激に慣れてしまったのはプレイヤーだけではなく、「もっと多彩なシステムを導入したい!」という開発者側の心理でもあるのかもしれません。

「雑魚の攻撃一発で体力が半減する」大振りなのに細やかな戦闘バランスと、縛りも下駄もプレイヤーのお好み次第な選択型アシスト

 さて、本作の戦闘システムについてザックリと語らせていただきました。次は、本作のピーキーな戦闘バランスについてお話します。

 本作の冒頭、キャラクターたちの体力の値は40そこそこから始まります。私は一応本作をクリアするまで遊びましたが、クリア時のステータスで見ても、最も体力の高いキャラクターで体力は230というところでした。数字のスケールという意味では、わりと小さな値に終始するゲームなんだということをご了承ください。

 その上で、本作の戦闘の面白いところは、敵の驚くほどの高火力っぷりです。道中の雑魚敵であっても、気軽にこちらの体力の3割、下手すると半分を持っていくような攻撃を振るってきます。

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序盤の敵・スロワーによる「爆弾」は全体攻撃。最大体力が60~70のキャラクターに対して、全体18点ダメージが3連打されればパーティはあっという間に半壊状態だ。

 もちろん、特定のスキルや「おやつ」と呼ばれるアイテムを消費することで体力の回復は可能ですが、ものには限度があり、また状況がそれらの使用を許さないこともありえます。そうなると、当然の帰結としてプレイヤーキャラクターたちはバタバタ倒れていくことになるわけです。

 では、何度となく全滅を繰り返しながら進行していく、いわゆる「死にゲー」なのか? というとこれも違います。体力がゼロになってしまったキャラクターは地に倒れ伏しますが、あくまでも気絶しているだけに過ぎません。一定のターンが経過すれば、キャラクターはふたたび戦闘を再開してくれます。ただし、戦闘中のキャラクター全員が気絶してしまうとさすがに敗北となって前回のセーブ地点まで戻されてしまうのでご注意を。

 カジュアルに倒れ、カジュアルに立ち上がる。ともすれば単に大味な戦闘になってしまいそうですが、本作はそこの舵取りが巧みなんですよ。ロックの破壊によって敵の行動を阻害したり、あるいは破壊しきれなくても、部分的に壊すことで被ダメージを軽減したり。時には一旦気絶することを前提に突撃させつつ、ほかキャラクターのリソースを回復したり。前項で語った戦略性と、大振りな戦闘がうまく噛み合っていて、雑魚戦のひとつひとつが実に考えさせられ、また楽しませてくれるんです。

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ボスともなると一撃で体力の8割を持っていくこともザラにある。パーティが半壊しても挫けるな!

 ただ、考えさせられる、というのはそのまま戦闘の難しさ、面倒臭さといった負の側面にも通じています。私はどちらかというと全ての戦闘でちょっと頭をひねりながら遊んでいくのが性にあっている人間ですが、ボス戦ならともかく道中はボタン連打で良いよ、という方も当然いることでしょう。

 そもそも、本作は珍しいことに「逃げる」コマンドがないんですよね。敵のシンボルに遭遇したら、そこから先はやるかやられるかしかありません。最近のゲームらしく、どこかでレベル上げをするような仕組みにもなっていませんから(一度倒した敵が復活しないわけではないのでレベル上げ自体は可能ですが、やや手間が掛かります)、本作のバトルの難易度が高すぎるように感じるプレイヤーは、そのままでは何度もゲームオーバーを繰り返してしまうことでしょう。

 そんな時のために、本作に用意されているのが「秘宝」システムです。

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最大体力が固定値で100上昇し戦闘後に回復までしてくれる「語り部のお守り」や、受けるダメージが30%低減する「守護神のオーラ」を用いれば、厳しかった戦闘も切り抜けられるはず。

 秘宝には様々な種類があり、冒険を通じて手に入れていくことになります。概ね戦闘に寄与するものが多く、冒険をより快適にしてくれる存在で、ものによってはある意味ではゲーム公認の「チートモード」とも呼べるでしょう。

 こういった部分的なズルもまた、古今東西さまざまなゲームで採用されてきたものではありますが、クリア後のおまけや隠し要素としての提示ではなく、最初からプレイヤーが選択できるようにしてある、というのは最近のゲームの流れとも言えるかもしれません。

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余談ではあるが、筆者がゲーム内蔵のチートモードとして真っ先に想像したのはニンテンドー64で発売されたアクションゲーム『バンジョーとカズーイの大冒険』だった。(画像はバンジョーとカズーイの大冒険|任天堂ホームページより)

 こういう実装、とても嬉しいんですよね。「ゲームを遊んでいて、わざわざイージーモードを選ぶのは気が乗らない。でも敵が強くて、あるいは操作が難しくて、うまく進めない。打開策を探してマップをうろつくとか、経験値を稼いでキャラクターを強くするのはめんどくさい!」というのが、プレイしていての偽らざる本心です。

 ええ、わかりますよ。「なんてワガママなんだ!」と思うでしょう。実際、ワガママな願いだと思います。でも、別にプレイヤーのワガママを叶えてもそんなに問題はなかった(特にオフライン環境であれば)、というのが昨今のゲームの示すところではないでしょうか。もちろん、全部のゲームがそうなるべきなんて思っていません。流行り廃りにかかわらず、あるいはそんな親切なデザインが現れる今だからこそ、高難易度ゲー、死にゲーの魅力が輝くというのも理解しています。

 ただ、本作はプレイヤーのその場の欲求に寄り添い、難しく感じたら強い秘宝をつけてもいいし、あえて外してもいいし、という形で調整をおこなっていて、私としては非常に好印象でした。

 ちなみに、余談な上にネタバレでもあるんですが、本作には戦闘をよりシビアに、極端にする秘宝も存在しています。「匠の一手」と呼ばれるその秘宝は、キャラクターの体力を5%、つまり1/20まで減少させた上で、敵の攻撃にあわせてブロックできた際の被ダメージを固定で1点にしてくれます。余裕をもって物語を楽しみたい方にも、ヒリつくような戦闘がご希望の方にも、しっかりと手を伸ばしているこのレンジの広さも、本作の魅力と言えるでしょう。

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「命知らずの方へ」とまで書かれた危険な秘宝。ダメージの追加も倍になるので、ゲームの早解きの際には使用されたりするのだろうか?

神話的スケールを湛えた物語に、現代的視点を投げかける魅力的なキャラクターたち

 さて、ここまでバトルに関する話をつらつらと語ってきましたが、いよいよ本作のストーリーの魅力にも言及していきましょう。ここまでなるべくネタバレは含まないように気を配りつつ書いてきましたが、流石に本項ではそういうわけにも行きません。それでも終盤の展開には触れないようにしつつ、ストーリー部分からも感じられる本作の“懐新”っぷりをお伝えしていきます。

 まず前提として、本作は極めて古典的な英雄譚の様式を取っています。「記録官」を名乗るあやしげな存在がこちらの方を幾度か覗き見ながら本作のストーリーを語って聞かせるところから始まる冒頭部分は言うに及ばず、主人公たちが外の世界へ出るための試練として立ち塞がる「霧の長老」は、撃破した後にキャラクターたちへと“予言”を与えます。

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不死の精霊「霧の長老」。旅立つキャラクターたちへ、意味深にして的確な予言を授ける。

 フィクションにおいては当然のことですが、予言というのは当たります。正確には、当てたい予言はいくらでも当てることができます。何せゲームの制作者、ストーリーの執筆者が手ずからに捻りだしてくるのですから、文字通り「予め」先の展開を伝えておく言葉に過ぎないわけです。

 そして予言と記録によって導かれる英雄譚は、その構造そのものが「運命」の存在を強く示唆します。事実、作中の登場人物たちは「使命」や「運命」などの言葉を多用しており、また主人公たち“至点の戦士”たちが育つ村「月のゆりかご」では、その村全体が至点の戦士たちのために奉仕しているような状態でもあります。

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同じ「月のゆりかご」で育った者でも、至点の戦士かどうかには純然たる違いが。
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古くから、至点の戦士たちに奉仕してきた「月のゆりかご」。見方によっては、ちょっと怖い。

 英雄譚、運命論、そしてそういった「定め」に順じるものたち。実に古典的な物語の構造に、しかし歯止めをかける者たちがいます。それは、例えば主人公たちと同じ至点の戦士であり先輩の「エルリナ」と「ブルガバス」であったり。あるいは物語のさなか、とある出来事のあおりを受け崩壊してしまった港町に暮らす、名も知らぬ住民であったりします。

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至点の戦士としての使命を強く説く学院長とは対照的に、「こいつはお前たちの人生だ」と個人主義的な考えを隠さない「エルリナ」。

 私には、特に後者。住民たちの会話が印象強く残りました。エルリナとブルガバスの会話は、まさにエルリナが垣間見せた個人主義的な発想によって、「ほかの誰はどうあれ、私は嫌なんだ」と主張するキャラクターに過ぎない、と取ることも不可能ではありません。

 しかし、いままさに崩壊した町を前に、町に残るのか、外に出るのか。その両方を道として示すというのは、非常に現代的な作劇と言えるのではないでしょうか。古典的な典型であれば、苦しんでいる我々を見捨てて新天地を目指す薄情者、という話に転ぶかもしれません。あるいはもうどうしようもない町に固執して、滅びていくだけの愚か者、と蔑まれるかもしれません。しかし、本作はどちらでもなく、ふたつの道に対ししっかりと自立する結果を用意します。

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崩壊した港町を離れ、新天地たる無人島へやってきた一部の住民たち。港町と島それぞれがどう変化していくのかは、是非ゲーム本編で確認してほしい。

 こういった描写は、作品全体を古めかしい運命論が支配し、またRPGとして物語が基本的に一本道を進んでいく構造を取っているからこそ、なんだか心に刺さるものがあります。どうあがいても、作者は作品の道筋を決め、そちらへと話が転がるように誘導していくものです。現実世界ではいざ知らず、フィクションの世界においてキャラクターの運命を定めるのは作者であり、ストーリーの着地点を決めるのもまた同様です。

 言ってしまえば、上記の港町の住民たちの選択が成功するかどうかすら、作者の思惑通りでしかありません。それでも。いや、だからこそ。

 人々が思い思いに何かを望み、その望みをかなえるために奮闘する物語を描いて見せるというのは、現代という、人類史上類を見ないほどに個人主義と自由主義が謳歌する時代を象徴する、新しい物語の類型だと言うことができるのではないでしょうか。

 本作では物語が進むにつれ、実に過酷な運命がキャラクターたちを、そして世界を襲います。それでもどこか、キャラクターや世界には妙な図太さや余裕が感じられることに、プレイ中私は不思議な気持ちを抱いていました。

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霧に包まれた島に囚われ、死を待つしかなくなった者たち。彼らはあくまでも自らの意志でこの島に留まっているのだと言い募る。悲惨な境遇なのに、なんだか可笑しい。

 しかし本作をクリアしてみて、改めて本作の描写を思い返してみるに、作品に流れる現代の奔放な息吹こそがある種のゆとりとなって息苦しさを軽減し、プレイをより楽しくしてくれていたように思うのです。

 いかがだったでしょうか。『Sea of Stars』をプレイしていて私の感じた魅力が、読者の皆さんに伝わっていれば幸いです。

 本作は2023年の8月29日より販売が開始されており、対応プラットフォームはPC(Steam)、PS5/4Xbox Series X|S/Xbox OneNintendo Switchとなっています。また、本作はPSプラス「ゲームカタログ」とXbox Game Passに対応しており、対象のサブスクリプションサービスに登録されている方は追加料金なしで、本作をプレイすることができます。

 くわえて、本作はNintendo Switch向けにパッケージ版の販売も予定されており、12月7日の発売へ向け現在予約を受け付けています。興味のある方はこちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。

ライター
小説の虜だった子供がソードワールドの洗礼を受けて以来、TRPGを遊び続けて20年。途中FEZとLoLで対人要素の光と闇を学び、steamの格安タイトルからジャンルの多様性を味わいつつ、ゲームの奥深さを日々勉強中。最近はオープンワールドの面白さに目覚めつつある。
Twitter:@reUQest
編集部
幼少期からホラーゲームが好き。RPGは登場人物への感情移入が激しく的外れな考察をしがちでレベル上げも怠るため終盤に苦しくなるタイプ。自著「デブからの脱却」(KADOKAWA)発売中
Twitter:@MarieYanamoto

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