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『幻想水滸伝』の精神的後継作『百英雄伝』は懐かしいと同時に、現代のゲームらしい心づかいを備えた上質なRPGだった。“現代版幻水”にとどまらない志を感じる

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『幻想水滸伝』──名作と謳われて名高いシリーズであり、続編や系列作品も多岐にわたる。その名作タイトルの精神的後継作として製作されているのが本作、『百英雄伝』だ。

リメイクとも続編とも違う、独自の風味を出しつつ、“幻想水滸伝の後継”としての立場も主張しなければならない。そういったなかなか難しい立ち位置にある本作だが、ひと言で表すならば「懐かしさ」と「新しさ」を両立させたような作品だった。一見すると懐かしさが勝るのだが、ところどころに現代的な遊びやすさへの配慮があり、なんとも上質な仕上がりになっているのである。

というわけで、今回は発売に先んじて序盤をプレイできる機会をいただいたのでレビューしていきたい。序盤限定とはいえ、実際のプレイ時間にして6~8時間ほど。システムや戦闘など、ゲームのつかみの部分はしっかりとプレイすることができた。実際のスクリーンショットも交えながら詳しく見ていこう……と思うのだが。

まず最初にお断りしておかなければならないことがある。というのも、恥ずかしながら筆者は熱烈な『幻想水滸伝』ファンというわけではないのである。しかし、といって全くの未プレイというわけでもなく、過去にPS1のベスト盤で『幻想水滸伝』『幻想水滸伝II』まではプレイしたことがあり、当時としてもかなり面白かった……という記憶がある。

こんな曖昧な状態ではファンに叱られそうだが、実は読者諸氏のなかにも「実は『幻想水滸伝』遊んだことなくて……」という、似たような方がいらっしゃるのではないかと推測している。そういった筆者のような層にも、なるべく先入観なしに『百英雄伝』の情報を届けられれば幸いだ。

文/hardwired


画面の画作りが丹念。描き込まれたドット絵キャラクターは各自にしっかり主張がある

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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背景は3D、キャラクターはドット絵

ゲームを開始してまず印象的なのは、画面の画作りの丹念さである。背景は3Dモデルを駆使して作り込まれ、カットインや主人公の移動のたびにグリグリ動く。対してキャラクターは一貫して丁寧なドット絵で描き込まれている。キャラクターの動きのコマ数は特段多いとは言えないが、それぞれ印象的なポーズや動作、吹き出しなどで動き、キャラクターごとにしっかりと主張がある。

こういった背景3D、キャラクタードット絵の構成は『オクトパストラベラー』「HD-2D」として名前がつけられた感があるが、本作でもこの手法を最大限利用して世界を描写している。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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作り込まれた世界。移動中に右下で仲間同士の会話が流れるのもとても良い

バトルの洗練されっぷりがすごい。ボスやギミックへの応用も期待できそう

戦闘においては過去の『幻想水滸伝』にあったようなシステムを踏襲している面が強いように思えた。例えば射程が「S・M・L」に分けられる仕様や、各キャラクターの持ち武器は取り替えずに鍛える形式、さらに関係のある特定のキャラクター間で発生させられる“協力攻撃”的なシステムなどが本作にも登場し、まさに初期の『幻想水滸伝』の系譜が感じられる。

今回のベータプレビューの範囲ではまだ未知数な部分も多かったが、戦闘システムに関してはチュートリアルの情報の段階ですでにかなり洗練されているように感じた。RPGではおなじみの属性有利の関係や、装甲値のルールなど、難易度の高いボスやギミックでの応用が期待できる。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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特に装甲値はボス戦での応用を期待させる

システム的には、本作はいわゆるオーソドックスなコマンド式RPGを踏襲しているが、各所に現代風の気配り、プレイしやすさへの配慮を感じた。

まず、各キャラクターごとの必殺技の一部は「SP」と呼ばれるリソースを消費して発動する形になるのだが、このSPはターンごとに自動回復し、戦闘後も持ち越す仕様となっている。これにより、技を打つ際のリソース管理の負担が大きく緩和されている。

道中でエンカウントする敵との戦闘……いわゆる雑魚戦では、昔のRPGでは「たたかう」連打でリソースを温存しつつ消化するのが一般的だったが、本作では上記の仕様により、かなり自由に技を打つことができる。「必殺技のリソース管理に思考を割かなくてもよい」というのは存外に快適なものだ。

一方でHP回復や大技についてはいわゆるMPを消費する、もしくは消費アイテムに頼る形になるので、プレイヤーとして取るべき重要なリソース管理の判断は残されているとも言える。

また、「おまかせ」という表記のいわゆるオートバトル、自動戦闘コマンドがもちろん本作にも存在するが、そこでパーティーメンバー各々が取る行動をかなり詳細にカスタマイズできるようになっている。「普段の雑魚戦を可能な限り効率化する」という別軸の試行錯誤が追加されたような仕様であり、取り組みがいのあるゲーム体験であると感じた。

反面、細かく指定しなければならないというプレイ負荷が発生するようにも感じる要素だが、デフォルト状態でも各キャラクターは適度に賢く立ち回ってくれる。多少オーバーキル気味でも相手の手数を減らすようにターゲットを狙ってくれたり、HPが厳しくなると自主的に消費アイテムを使ってくれたりと、快適さに焦点を合わせたシステムでとても好感触だった。

気になった点として、おまかせ戦闘に慣れてくると、どうしても技の演出等に時間がかかっているように感じてきてしまうので、戦闘中の加速機能があるとより良かったかもしれない。とはいえ、戦闘そのものの演出テンポは特に悪くはなく、通常攻撃は複数のキャラ演出を重ねて時短してくれたりもするので、特に問題ないレベルだろう。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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みんな大好き最適化も楽しい

ボスはそれぞれ専用のギミック付きという贅沢なつくり。難易度設定も絶妙

街の外、いわゆるワールドマップでの移動やダンジョン内での移動中もワンボタンで全体マップがよび出せるうえ、右上にミニマップが常に表示されており、筆者のようなゲーム内方向音痴にはとても助かる仕様だ。クエスト目的地がある場合はそれもミニマップに表示されているので、いちいち全体マップを呼び出さなくていいのもとても良い。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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フィールド探索中のエンカウント率は低め

筆者は普段はカメラを回転させないでプレイしていたので、ダンジョンからワールドマップに出てきたときにカメラが主人公正面に自動で切り替えられている、という仕様で一瞬方向感覚を失ってしまうこともあったが、ミニマップの仕様もあり本格的に迷うことはほぼなかった。

ダンジョン内にはJRPG伝統とも言える、いわゆる謎解き的な要素も散りばめられている。ベータプレビュー範囲の序盤ではそれほど高難度なものは現れなかったが、この先難しくなるのでは、と思わせる要素ではあった。ここも本編に期待したいポイントのひとつだろう。

またボス戦は贅沢なことに、毎度専用のギミックが用意されているのも印象的。ゲーム内表記もそのままわかりやすく「ギミック」である。通常攻撃の代わりに特定のスイッチを押すなどの行動がとれ、様々な効果が発生する。試行することで戦闘を有利に進められるので、昔のRPGで起こりがちな「ボスのためのレベル上げ作業」などを緩和してくれるだろう。

実際に筆者のプレイ時は意図的にレベル上げの時間をかけずともボスを撃破することができた。とはいえ簡単すぎるということもなく、気を抜くと仲間の一人がダウンしそうになる状況は頻発したので、難易度設定も絶妙だ。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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専用ギミックはボスの華

アクの強い個性的な仲間たち。国同士の戦争を思わせる壮大な物語にも注目

ベータプレビュー範囲の序盤では、主に警備隊としてのミッションをこなしながら仲間を集めるために走り回ることになる。誰も彼も個性的でアクの強い面々ばかりなので、ここにもプレイヤーを飽きさせないための作り込みを感じた。

ただ、幸いにも筆者はそこまで苦労しなかったが、クエスト達成のための移動先の順序しだいでは、移動にかかる手間が少しわずらわしく感じるかもしれない。「序盤はもっと固定化された移動先でもいいのでは?」とも思ったが、“一本道”と感じさせないための工夫なのだろう。

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推せる~!

ストーリーとしては序盤から国と国との諍いを匂わせる話題、シーンが各所に挿入され、不穏な気配を演出しプレイヤーを十分に引きつける。このあたりは幻想水滸伝の精神的後継作の面目躍如といったところだろう。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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どこもかしこも戦争の匂いばかり

『幻想水滸伝』の精神的後継作……その触れ込みに違わず、『百英雄伝』は期待するに足る十分なRPGの要素を備えていた。極端に新規性のあるシステムではないし、飛び抜けて美麗なグラフィックというわけでもない。しかし、楽しめる戦闘、個性のある仲間(しかも百人以上)、序盤から十分な引きのあるシナリオ。そしてなにより快適なプレイ感と、好感を抱ける要素が本当にたくさんある。

本当に細かい部分で不満点がないわけでない。例えば各キャラクターごとの技や耐性などを定義するルーンの付け替えが専用の店に行かないとできなかったり(これは筆者が見逃しているだけかもしれないが……)、選択肢を決定する際のボタンのレスポンスやマップ切り替え時のロードがほんの少しだけもたついたり、といった点だ。先述した戦闘時の加速機能もあれば、より快適だったろう。

とはいえ、まだまだ発売前のベータプレビューの作品。また先行プレイ範囲で仲間にできたのは十人に満たず、ここから総勢百人を探す旅の遠大さを思うと高揚せずにはいられない。幻想水滸伝であって幻想水滸伝でない、本作に期待したい。

『百英雄伝』は2024年4月23日発売予定、対応プラットフォームはNintendo Switch、PS4/PS5、Xbox Series X/Xbox One、PC(Steam)となっている。

『百英雄伝』レビュー:『幻想水滸伝』の現代版に留まらない志を感じる上質なRPG
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移動速度アップのダッシュブーツ獲得で段違いに快適になるので、発売後にプレイする予定の方は覚えておこう。
ライター
目に入ったゲームはとりあえず食べてみる雑食系。近年の好物は推理ものアドベンチャーや格闘ゲーム。ボードゲームにも目が無く、アナログデジタル問わず多数摂取。 近年はため込んだ各種TCGカードの置き場所に困る日々。

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