“沈みゆく途中の豪華客船”という舞台を活かした美しいビジュアル表現、文字を用いない非言語的なストーリーテリング、そして環境音を活かすように構成された劇伴。2Dアクションゲーム『Gift』はとにかく雰囲気がよい。
そして、本作の特徴としてなによりお伝えしたいのが「2Dアクションなのに、アドベンチャーゲームのようにも感じられる」作品であるということだ。
移動とジャンプを軸に、様々なアクションを駆使しながら画面を横に進んでいく王道の作りが、作品の纏う強烈な雰囲気と結びついたとき、とても奇妙なことが起こる。
移動することで画面をスクロールしていくアクションが、そのまま物語の巻物をスクロール(巻く)するような体験になっており、本作の物語を非常に魅力的なものに昇華させている。
ときとして、スティックを右に倒して移動しているだけなのに……面白い。そんな不思議な感覚がある。
ゲームの醸し出す「雰囲気」がプレイを彩る重要なファクターとして機能している本作だが、一方で、船が上下左右に回転する独自のシステムを取り入れ、アクションゲームとしては「激ムズ死にゲー」な一面も持っている。
この記事では、美しい雰囲気とそれを支えるゲームシステムにより作られた『Gift』の魅力について紹介していきたい思う。
文/植田亮平
※この記事は『Gift』の魅力をもっと知ってもらいたいブシロードさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。
光と水が織りなす美しい豪華客船を歩く
ゲームの舞台となるのは沈没中の豪華客船。主人公は豪華客船の中で過ごす様々な乗客たちと出会いながらも、沈みゆく船からの脱出を目指す。
しかしその中で、主人公とプレイヤーは自身の人生を巡る壮大な回想の中に巻き込まれてゆく……。記事冒頭でも述べたが、本作はかなり「雰囲気重視」な作風となっている。
その雰囲気は、例を挙げるならば『LIMBO』や『INSIDE』などで知られるデンマークのPlaydeadスタジオの作風に近い。
やや暗い豪華客船内の質感や、被写界深度を使った奥行きのある画面構成などからは、それらの作品の影響を感じられる。
音響づくりも環境音を重視して構成されており、いい感じの雰囲気づくりに余念がない。
船の中の雰囲気はどれも素晴らしく美麗なオブジェクトで溢れており、各種ステージのライティングも美しい。
また、沈みゆく船が舞台ということで、西洋的な装飾であふれるビンテージな質感、そして錆びた鉄や水の滴り落ちるネオンなど退廃的なビジュアルのコントラストにもこだわりが見られる。筆者は暗く不気味なロケーションにとくに惹かれた。
本作におけるロケーションの豊富さやバラエティの幅広さは、船の中というよりはむしろ海底都市を探索しているかのような気分にさせてくれる。
明確に意識されているかどうかは不明だが、これには同じく暗い海の底を舞台にした『Bioshock』などと同じ種類のエッセンスを感じた(思えば特徴的なマスクを被った主人公のデザインもどこか「ビッグ・ダディ」を彷彿とさせる)。
背景の美しさ、ステージのバラエティ、音響の使い方、それら全てがこの船の中の雰囲気を作るのに貢献している。道中に差し挟まれる各種カットシーンの出来栄えも見事だ。
水の中に差し込む光の質感や、暗所と明所を使い分けた特徴的な画面構成、少しずつ崩壊していく船の表現……。船はその限られた舞台の広さを越えて、場面によって色々な表情を見せる。
字幕の無い会話が生み出す象徴的な物語
先ほど、本作は「沈みゆく船からの脱出を目指す」と書いたが、実のところ筆者自身この作品の物語が正確にどういったものなのかを把握しかねている。クリアしたのにも関わらず、だ。
それには本作のナラティブが、例に挙げた『LIMBO』や『INSIDE』同様、ほとんど私たちに対して文字や音声による“語り”を用いないところが大きい(『風ノ旅ビト』なども同じですね)。
本作には多種多様な登場人物が登場するのだが、彼らが何を思い何を語っているのかについてはプレイヤーに対して何も語られない。登場人物がムービーで1分ほど謎の言語で会話しているというのに、そこには字幕や有意なボディランゲージもないのである。
具体的に何が起きて、どうすべきかが示されないことにより、プレイヤーが能動的に物語を解釈する楽しみを用意してくれている本作。
そうしているうちに、プレイヤーである私たちは本作の舞台が「はたして現実なのか、それとも主人公の精神世界における回想なのか」のような解釈をするようになるまでに深くハマっていく……というわけだ。
しかし、ストーリーについてまったく何も説明がないわけではない。
本作には道中で獲得できる収集アイテムがあり、これはやり込みプレイヤーのためのコレクション要素であると同時にストーリーの重要なピースとして機能している。
各アイテムにはそれぞれ、おそらく主人公の独白という形式をとった短い文章が添えられている。その中には「あの子」や「二人」など大切な誰かとの関係が示唆されるものが多くある。
これらを読み解いていくことで、ストーリーへの解釈が深まっていく作りだ。
各アイテムの文章を読んでいくと、その多くが、あるいはほとんど全てが過去形で語られていた。加えて、主人公が昔を懐かしみ回想する体裁をとっている。
さらに、ステージの進行度に合わせて主人公の見た目は徐々に若返ってゆく。ここまでゲームのプレイ画像に映る主人公の姿がバラバラなのはそのためだ。ステージの中にはそのまま「主人公の精神世界」と取れるようなロケーションまで用意されている。
こういった点から、プレイヤーは「本作の舞台が何かしら象徴的な、あるいは比喩的なものなのかもしれない」という仮説に至ることが可能となっている。というよりも意図的にそのような解釈ができるように作られているように見える。
とはいえ、すべてを読み解いたとしても完全に理解はできなかった。恐らくそれでいいのだろう。
ネタバレになるため詳細は省くが、ゲームを進めていくとここまで書いた解釈をひっくり返すほどの出来事が待っている。気になる方はぜひ本編をクリアして、このゲームが何を語ろうとしていたのかについて考察を深めてほしい。
沈みゆく豪華客船という設定を最大限生かした“ステージ回転ギミック”が面白い
本作のアクションを語るうえで、何よりまず触れておきたいのが、沈みゆく豪華客船という設定を最大限に活かしている“ステージが回転する“ギミックだ。
これは、進行状況に応じてステージが回転するという仕様になっており、さっきまで床だったものが壁に、あるいは壁だったものが床になるというユニークなシステムとなっている。
船の傾きに応じてオブジェクトが落下する方向や水が流れる方向も変化するため、プレイヤーは変化に富んだダイナミックなゲーム体験を楽しむことができる。
全体のステージのおよそ半分ほどがこの回転ギミックを備えており、次々に変化するステージは非常に興奮する体験を与えてくれる。
視点が変わるだけでゲーム体験はガラリと変わる。このシステムは非常によくできており、本作のアクションにおける面白さをひとつ上のステージに引き上げてくれている要素であると思う。
最後に、じつはプレイし始めのタイミングで、ちょっと戸惑ったことがあったことに触れておきたい。
それはステージごとの難易度の差だ。何度も失敗を繰り返さなければクリアできないような難しいステージがあったかと思えば、背景を眺める余裕を感じるほどに簡単なステージもあり、ステージの難易度が極端に差があると感じた。
プレイを進めていくうちに「激ムズ死にゲーとして楽しむ」ステージと、「背景や雰囲気を楽しむ」ステージがあるのだと理解できてしっくりきたのだが、もしかしたら初見プレイ時は戸惑うかもしれない。
しかし、即座に復活できる「リトライシステム」があったり、チェックポイントも配置されている良心設計なので、筆者のようにアクションが苦手な方でも「ちょっと頑張ればクリア」できるレベルの難易度なので安心してほしい。
本稿で繰り返し語ってきたが、『Gift』は本当に、本当に雰囲気が良いゲームだ。ビジュアル、ストーリー、環境音……このゲームが纏っている雰囲気は本当に素晴らしい。
『Gift』のNintendo Switch版、PC(Steam)版、PS5版、Xbox版は2024年5月9日より発売中。価格は3520円(税込)。さらにSteamでは、リリース記念セールで5月22日まで10%OFFで販売される。
気になった方はぜひ本作を遊んでみて、この「雰囲気」を感じ取っていただきたい。