以前、『メトロイド』の生誕35周年を祝う特集記事の締めで、こんなことを書いた。
「惜しむらくは、個人的に最もお薦めしたい傑作『メトロイド ゼロミッション』がWiiU、もしくはゲームボーイアドバンス本体が無ければ遊べないことなのだが、何らかの機会が得られれば、ぜひ遊んでみてほしい。」
その後、WiiUのバーチャルコンソール版はサービス終了で購入できなくなってしまったが……2024年6月18日より、Nintendo Switchの『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』【※】で、めでたく『メトロイド ゼロミッション』が遊べるようになったのだ。
※「Nintendo Switch Online + 追加パック」への加入が必要
『メトロイド』シリーズとしては、2003年発売の『メトロイド フュージョン』(以下、フュージョン)に続く新作として、2004年に発売された『メトロイド ゼロミッション』(以下、ゼロミッション)。
すでに発売から20年が経過した紛うことなき旧作だが、『メトロイド ドレッド』(以下、ドレッド)をはじめ、さまざまな新作が発売された現代でもなお、『ゼロミッション』は「シリーズ随一の入門に適した作品」としての価値を保ち続けている。
なぜ『ゼロミッション』は入門に適した作品なのか?その理由はシンプルに初代『メトロイド』、シリーズの始まりとなった作品を遊びやすく改良したリメイクであるためだ。
また、難易度選択機能を始め、『メトロイド』シリーズ未経験者への配慮が豊富だった『フュージョン』を基礎に設計されていることも理由のひとつになっている。ほかにも『大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下、スマブラ)シリーズを通して、『メトロイド』を初めて知った人に馴染み深いネタがたくさん詰め込まれているというのもある。
そうした特徴から、35周年を祝う記事で筆者は「おすすめしたい傑作」と書いた。
だが、当時伝えきれていないことがあった。
それは『ゼロミッション』には危険な“裏の顔”があるということだ。
その“裏の顔”には、『メトロイド』初体験のプレイヤーに他のシリーズ作への誤解を与えかねないほどの力がある。そのような存在は薦める側として、最低限伝えておく意義があると思い、このたび筆を執るにいたった。
今回の『ゲームボーイアドバンス Nintendo Switch Online』への追加を機に初めて『ゼロミッション』を遊ぶ、もしくは『メトロイド』デビューをする方はぜひ、本稿に目を通してその“裏の顔”を認識した上で挑んでいただければと思う。
文/シェループ
※本記事で掲載している『メトロイド ゼロミッション』『メトロイド フュージョン』のスクリーンショットは一部を除き、WiiUバーチャルコンソール版のものとなります。
初代『メトロイド』を大幅にリメイクした『ゼロミッション』
そもそも『メトロイド ゼロミッション』は、1986年にファミリーコンピュータディスクシステム(以下、ディスクシステム)で発売された初代『メトロイド』をゲームボーイアドバンス向けにフルリメイクした作品だ。
ストーリー設定、基本のゲーム内容も原作を踏襲。主人公のバウンティーハンター「サムス・アラン」(以下、サムス)を操作して、舞台となる「惑星ゼーベス」の地下に広がる広大な要塞攻略に挑む“アクション&迷路ゲーム”である。
ただ、基礎となるゲームシステムは時系列上の前作に当たる『フュージョン』のものを採用。そのため、難易度選択機能、Rボタンによる「ミサイル」の切り替え操作、ナビゲーション機能といった『フュージョン』で初登場した要素の多くが継承されている。
また、シリーズ第3作の『スーパーメトロイド』に代表される、原作発売後の新作で初登場した「セーブルーム」、エリアマップ機能(マップルーム)といった要素も追加。名実ともに当時の基準に則った再設計が図られている。
ちなみに『フュージョン』初登場の要素のひとつ、漢字ありの「オトナ向け」とひらがな主体の「コドモ向け」を選べるテキスト表示機能も継承されている。
ただ、ストーリーはモノローグと一枚絵(スチル)によるカットシーンで最低限語るスタイルを採用。『スーパーメトロイド』をベースにパワーアップさせた、原点回帰となっている。そのため、『フュージョン』並のテキスト量でストーリーが語られることはない。味方側の登場人物もサムスただひとりと、まさに孤独な戦いを描く内容だ。
テキスト量が原点回帰したのに伴い、『フュージョン』から継承されたナビゲーション機能も刷新。一部エリアに配置された鳥人族の像にモーフボール状態で乗ると、次の目的地がエリアマップに表示されるというゲーム本編と連動したものにアレンジされた。
さらにマップに表示された目的地が必ずしも、次の目的地だと明言されなくなった。遠回りが必要になったり、別のパワーアップアイテム回収が必要になるといった想定外の事態が生じるようになったのだ。想定外の中にはボス戦が発生するものもある。
鳥人族の像自体も至る所に配置されている訳でもない。しかも、途中からほとんど登場しなくなって、自力での探索が要求されてくるようにもなる。そして、場所によっては無視する選択もできる。
このような変更もあって、『フュージョン』のような1本道感は薄れた。同時に原作および『スーパーメトロイド』を彷彿とさせる自力で道を開く遊びを確立させる、絶妙な調整が光るアレンジとなっている。
アレンジに関してはエリアマップ、パワーアップアイテム、ボスも同様。いずれも原作にはなかった新種が追加されている。
マップに関しては構造も一新。原作は突貫工事で開発された背景から、縦や横に長い冗長な場面にイジワルな隠し通路などが目立ったが、『ゼロミッション』ではそれらすべてが見直され、テンポよく、かつストレスなく探索が楽しめる構造へと一新されている。実質、新作と言っても過言ではないぐらいだ。
さらに原作では、ゼーベス中枢エリア「ツーリアン」で待ち受ける機械生命体「マザーブレイン」を倒せばゲームクリアとなったが、本作ではその続きとなる第2部が追加。スーツを失った生身のサムスを操作し、敵である「スペースパイレーツ」たちの追撃を交わしながら脱出口を探っていく完全新作パートが設けられた。
この第二部では、サムス自身が弱体化しているため、敵を倒すことができない。よって戦闘は避け、逃げ切ることを優先するというステルス性の強い内容になっている。前作『フュージョン』に登場した強敵「SA-X」の遭遇イベントをまるまる1本のストーリーに仕立てた感じだ。
また、これまでゲーム本編を最速でクリアしないとお目にかかれなかった生身のサムス本人がメインストーリーに登場し、実際に操作できるという『メトロイド』シリーズ全体にとっても挑戦的なものになっている。
パート自体の規模は短編で、長くはないのだが、全体的に見どころ満載の内容。後の『ドレッド』を思わせる部分もあるため、必見である。
ほかに本作から、サムスの挙動がキビキビとしたものになったり、原作にもあったパワーアップ「ボム」の爆発速度が速まるなど、テンポアップを図る改良がされている。ここまでの紹介の通り、まさにフルリメイクと称すに相応しい内容で、原作未経験者に限らず、経験者も新鮮な気持ちで楽しめるものに完成されている。
しかも、海外専売のファミコン版『メトロイド』も収録されているというオマケ付き(※クリア後特典)。この1本で元祖『メトロイド』のほぼすべてが楽しめると言っても過言ではない豪華版なのである。