近年のゲームメーカーは、ゲーム実況者のために「配信ガイドライン」を定めることが多い。ゲーム実況者はこの「配信ガイドライン」に書いてある配信の可否・収益化について・配信可能範囲といった項目を確認することで、安心してゲーム実況を行うことができる。でも、どんな法律・権利が作用してゲーム実況者の立場が守られているかはよく分からん!という人もいるはず。
本記事は、8月21日から23日にかけて行われたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2024」のセッション『ゲーム実況における「配信ガイドライン」の利用・作成上の法的問題点』のレポートである。
セッション前半では、近藤 史一氏による国内外の「配信ガイドライン」の調査結果が発表された。後半では、弁護士の落合 一樹氏による「配信ガイドライン」の利用・作成上の法的問題点についての考察が行われ、ゲーム実況者にどんな権利が与えられているのか解説された。
「ゲーム実況」と「法律」の専門家によって解説される「配信ガイドライン」の意義や、ゲーム会社はどのような点に注意して配信ガイドラインを作成すればいいのか、ゲーム実況者はどのような点に注意して配信ガイドラインを利用すればいいのかを知っておいて損はないと思う。
※本記事は「CEDEC 2024」運営事務局の方針を順守し、9月2日以降の掲載としております。
■国内外の「配信ガイドライン」は590個。これだけあれば違いもさまざま
「このゲーム、配信できるのかな……」
ゲームプレイの生放送や動画投稿、いわゆる“ゲーム実況”を行っているゲーマーたちは、面白そうなゲームを発見した時に毎回考えているのではないだろうか。
ゲームを愛する我々にとって昨今は身近な存在になった“ゲーム実況”。昔に比べて現代は、誰でも簡単にゲーム実況を始める環境・機材を揃えやすくなっており、多くの人が配信や動画投稿を行っている。
やりたいゲームが多すぎるのに対し、圧倒的に時間が足りない現代ゲーマーたちや、興味のある作品はあっても購入まであと一歩が踏み出せない慎重なゲーマーたちも、“ゲーム実況”を見ることでこの世に存在する多くの“めちゃくちゃ面白いゲーム”に出会うことができる。また、自分がやったゲームを他のプレイヤーがどうやってプレイしているか覗けるのもゲーム実況の魅力である。
今回、近藤氏によって調査された国内外の「配信ガイドライン」は590個。さらに「配信可否」「収益化レベル」「配信可能範囲」「専用ページの有無」といった4つの調査項目を設けていた。
「配信可否」については、配信可能が581個、配信不可能が9個と圧倒的に差がある。配信不可のゲームの例は、“謎解き”コンテンツがある場合や、未プレイのユーザーへの配慮として禁止されていたりといわゆる“ネタバレ”によってゲームの楽しみを損なってしまうものだ。
「収益化レベル」については、プラットフォームの公式機能なら可能が69.5%と圧倒的に多い。なお、“プラットフォームの一部なら可能”とは、ゲーム実況によって収益を得ることは可能だが、投げ銭やスーパーチャットなど視聴者から直接金銭の授受、メンバー限定配信など有料会員限定の動画投稿に使用することは禁止ということである。
そのほか、配信が可能でも配信できる範囲が決まっている場合もある。配信者は、オープニング映像を含む部分や、ストーリーの何章以降など、どこが配信できないのか注意しなければならない。
「配信ガイドライン」の90%は専用ページが用意されている。しかし、専用ページを用意しておらず、ゲーム制作者がXでポストしているケースや、Steamのゲーム説明欄に記載されているケースもある。
近藤氏の調査では、計量テキスト分析も実施されていた。これによって、「配信ガイドライン」にどのような言葉の頻出度が高いのか、どの言葉と共に使用されているかが数値で分かるようになっていた。
なお、日本と海外では使われている言葉に違いがあるのかも調査されていた。日本のガイドラインには「ムービー」「表記」「シーン」などが多く使われていることが分かる。いっぽう海外では、「コンテンツ」「創作」「作成」など二次創作についての文脈が多いことが分かる。
「配信ガイドライン」はゲーム実況者のために策定されている
弁護士の落合氏はこれらの調査をもとに、法的な観点から「配信ガイドライン」はゲーム実況者の立場を安定させるために策定されていると考察している。
通常、配信ガイドラインが存在しないゲームタイトルを実況配信する場合、「著作権侵害」という犯罪が成立してしまう可能性が拭えない。そのため、ゲーム実況者の法的地位がとても不安定になる。
しかし、ゲームメーカーや制作者が「配信ガイドライン」を明記することにより、そのガイドラインに則って配信を行うゲーム実況者たちの法的地位は安定する。そしてそのゲームは“より利用しやすいゲーム”として認知され、販売促進効果を生むことに繋がるのだ。
落合氏は、配信不可能なゲームの「配信ガイドライン」が9つと少ないのには、“配信不可能だから”という理由があるのではないかと語った。「配信ガイドライン」は配信する人のためのモノと考えれば、そもそも配信できないのだから、“不可能です”と明示したガイドラインを作っていないのにも納得いく。
利用許諾の考え方次第で、書き方に意味が生まれる可能性がある
ゲームメーカーが公表している「配信ガイドライン」の多くには、ゲームタイトルを用いた創作活動を「応援する」や、ゲーム実況者に対し、禁止権など「積極的な権利行使をしない」といったポジティブな言葉が使用されている。これらの文書からは、“ゲームをプレイしてくれてありがとう”、“ゲームをプレイしてクリエイティブな活動をしてくれてありがとう”といった想いが感じられるという。
いっぽうで、“許諾する”という言葉を使用した「配信ガイドライン」は圧倒的に少ないという。落合氏は、ゲームメーカーがこれを意図して書き分けているかは不明であり、特に意図せず書き分けていて、自分が思っていないところで法的効果を生んでしまっている場合は危険な状態だといえると述べた。
“利用許諾”という言葉の本質には、実はさまざまな見解がある。下の画像①・②のように「〜請求権・禁止権を行使しない」という考え方であれば、“許諾という言葉を使用しているか否か”の書き分けに差異は生じない。この考え方から、「配信ガイドライン」は、つまり“利用許諾といっていいモノ”であるといえるからだ。
画像の③・④はまさに「私の著作物を使っていいよ」という意味。一般的に想像できる言葉の意味そのままの考え方である。この場合、「許諾します」と明示しないと「配信ガイドライン」が法的に著作権上の利用許諾とは呼べなくなる可能性があると落合氏は考察している。
ただし、一般的な感覚でいえば「配信ガイドライン」には“配信可能です”と書かれていれば、「使っていいんでしょ? それって許諾ってことじゃないの?」と思うだろう。落合氏はこのことから、現状は書き分けによる有意な差はない可能性が高いだろうと結論付けていた。
ゲーム配信者に利用権が与えられているのか
利用許諾があるとゲーム配信者にはどんな権利が与えられるのか。それは「利用権」だ。利用権が成立しない場合、ゲーム実況者が著作権侵害を冒しているという可能性がぬぐえず、ゲーム実況者の法的な地位は不安定なままである。
利用権は通常だと、利用者がライセンス契約などに合意し、著作権者が利用者に「使っていいよ」という許諾をすると成立する。
これが「配信ガイドライン」の場合、ゲームメーカーが公表しているだけで、合意するというフローがない。双方の合意で成立したというわけではないというのが違いだ。この単独行為だけでも利用権は成立するのかというのが論点である。
ゲームメーカーの単独行為だけでも、利用権は成立するという見解は存在する。下の画像②の理由は、著作権法63条1項に「単独行為では利用権が成立しないです」って書いてないなら成立するってことだよね?という解釈だ。
さらに落合氏は、もし仮に単独行為では利用権が成立しないとされた場合も、実際上の問題はないという見解も存在すると紹介した。
ゲームメーカーは配信ガイドライン上で、「積極的な権利行使をしない」「応援する」といった意思表示をしている。そのため、ゲームメーカーが「やっぱり著作権侵害を主張します」と言い出すと“自分が言ったことに反している”権利濫用ということで主張が排斥される可能性が出てくるという見解だ。
ここまで落合氏は、単独行為でも利用権が成立する流れで話を進めてきた。しかし、民法では単独行為では“条件を付けることを認められていない”という点が、単独行為による利用権の成立に疑問を残すと述べた。実際の「配信ガイドライン」は、冒頭の調査にもあったように、配信範囲や収益化レベルなど条件がある場合があるからだ。
そのため、配信ガイドラインに合意したものとして「合同行為によって利用権が成立した」とするほうが法的には透明度が高いかもしれない。さらに落合氏は、そもそもゲームメーカーが何のために「配信ガイドライン」を策定しているのかに立ち返ると、“ゲームを利用しやすくするため”だろうと述べ、利用権が成立しないとゲームメーカーの意思表示から離れてしまうことも根拠に入れ、「配信ガイドラインによって利用権は成立する」と考察した。