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40年ぶりにリメイクされた『オホーツクに消ゆ』はアドベンチャーゲームなのにRPGの味がする不思議なゲームだった。NPCを見ればとりあえず警察手帳を見せて回る主人公の姿に、どことなくRPGの勇者の面影を感じる

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堀井雄二氏の手掛けたゲームと言えば、『ドラゴンクエスト』の名前を思い浮かべる人は多いだろう。日本を代表する、RPGの王道作品だ。

そんな堀井氏だが、じつは『ドラゴンクエスト』シリーズの前にはアドベンチャーゲームを手掛けていた。「犯人はヤス」で有名な『ポートピア殺人事件』が代表的だろう。

『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』(以下、『オホーツクに消ゆ』)も、堀井氏によるアドベンチャーゲームのひとつだ。そんな『オホーツクに消ゆ』が、この度『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ  ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』としてNintendo Switch/PC(Steam)向けにリメイクされることになった。

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今回、光栄なことに先行プレイする機会をいただいたのだが、じつのところ私はすこし不安を抱えていた。調べてみれば、原作の発売は1984年とじつに40年も前……私より14歳も年上の作品ではないか。

もちろん、堀井氏のシナリオには興味がある。しかし、現代のゲームに慣れ切った飽き性の自分が、レトロゲームがベースの作品を楽しめるだろうか……?

結論から言えば、そんな不安はまったくの杞憂だった。むしろ、いざ遊び始めたら止められなくなってしまい、一周回って困っているくらいだ。遊ぶだけじゃなくて、レポート記事を書かなきゃいけないんですよ!

……と、締め切りに背を焼かれつつ遊んでいて思ったが、このゲーム、ミステリーアドベンチャーゲームなのにADVっぽさをあまり感じない。話の区切りがいい所は何度もあったのに、ついつい「もう少し」とプレイしてしまう、なんだか覚えのあるプレイ感。これはもしかして……RPGと同じ味では?

いわば「刑事RPG」とでも言うべきプレイ感を持ちながら、しっかりミステリーアドベンチャーでもある……『オホーツクに消ゆ』は、そんな不思議なゲームだった。この記事では、古いながらも新しく感じる『オホーツクに消ゆ』のプレイ体験をお届けしたい。

文/逆道
編集/竹中プレジデント

※この記事は『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ  ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』の魅力をもっと知ってもらいたいジー・モードさんと電ファミ編集部のタイアップ企画です。


プレイするほど味が出てくる「RPGっぽさ」の正体は?

このゲームの変わったところは、主人公を動かして事件の捜査をするのではなく、「プレイヤーが主人公を通じて部下に指示を出して捜査させる」という点だろう。こう書くとややこしいが、ざっくり言えば「捜査が全部コマンド式」なのだ。

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ちなみにトランプで勝つとヒントがもらえる。詰まっても安心

プレイヤーは持っている情報やアイテムとコマンドの指示を組み合わせ、部下の「シュン」こと猿渡俊介くんに捜査の指示を出す。

たとえば、手元に関係者の写真があれば「人に見せろ」と組み合わせ、その辺にいる人に写真を見せて回らせることができる。

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正しい指示を出せば、シュンは捜査の成果を持ち帰ってくれる。

そうして捜査に進展があれば、アイテムや情報が増えていく。すなわち、コマンドで使えるスキルが増えていくのだ。

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新しい場所に来たら、とりあえず使えるコマンドを試してみる。新しいコマンドが使えるようになれば、色々な相手に試してみる。そうして有効なやり方を探りながら適切な指示を考えていくのは、まるで情報を「攻略」しているみたいだ。

主人公とシュンの2人パーティで、コマンドとアイテムを駆使して事件という難敵に挑む。このゲームの遊び方は、まさにそう表現するのがふさわしいだろう。

新しいアイテムを手に入れたら進めるところが増えたり、必要な情報を求めて回り道したりといった進み方もRPGらしさを感じるポイントだ。

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ちなみに、個人的には「主人公が全く喋らない」というのもRPGっぽさに繋がっている気がする。

顔もセリフも見えない主人公だが、シュンの反応からなんとなく人物像が浮かび上がって来たり、新しいNPCを見ればとりあえず警察手帳を見せて回る姿に、どことなくRPGの勇者の面影を感じるのだ。

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何を言わせたんだ、主人公

1987年の刑事の捜査を「ロールプレイ」する面白さ

『オホーツクに消ゆ』の舞台は1987年。まだ携帯もネットも普及していない時代だ。

テレビドラマで言うならちょうど『あぶない刑事』が放映されたくらいの時代で、当時の連続殺人事件の調査ともなれば「足で稼ぐ」スタイルが基本となってくる。

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事件が起きれば現場に直接足を運び、自らの目で現場を調査する。

時には関係者のもとに出向き、アイテムを見せて聞き込みをしたり、被害者の足取りを洗ったり……ドラマではカット編集で流されているであろう捜査シーンも、実際にフルで体験するとなかなかにハードだ。やることが、やることが多い……!

しかし、主人公は敏腕刑事。主人公が自信たっぷりに指示を出せば、シュンはそれをいい感じに解釈して捜査を実行してくれる。

多少雑に指示を出しても的確に動いてくれるので、プレイヤーもお手軽に敏腕刑事の気分を味わえるという訳だ。敏腕なのは主人公ではなくシュンな気はするが。

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そんな訳でこのゲームでは推理そのものよりも、シュンと共に刑事2人で捜査を進め、事件の手掛かりを集める過程に重きが置かれている。手元の情報を並べて部下とあれこれ話し合いながら歩き回る刑事らしい捜査を、ゲームを通じてロールプレイすることができるのだ。

捜査中の雰囲気も抜群で、大量に出て来る登場人物はモブも含めてなんと全員フルボイス。刑事だと知って急に協力的になったり、逆に嫌がられたりといったキャラクターたちの反応は「生生しい」という表現が適切なくらいリアルだ。

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名前のない店員にも感情豊かなボイスが付いている

常に空気が張りつめているわけでもなく、一般人への聞き込みや移動中などは比較的リラックスした雰囲気でシュンとの掛け合いを楽しむこともできる。

他愛もない世間話の中から重要な情報を見つけた瞬間にビシッと空気が引き締まり、日常から捜査へと雰囲気が切り替わる瞬間は「足で稼ぐ」捜査ならではの醍醐味だろう。

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起きたばかりの事件の捜査では、情報がどこにあるかも分からない。北海道に広がった捜査網を「ありそう」な場所に向かってじわじわと狭めていくのは、まさに刑事ならではの捜査方法だ。

ゲーム内のどこを切り取っても刑事ドラマっぽい体験ができる本作は「刑事RPG」と言ってもいいのではないか。

細かいネタが多過ぎて、捜査中なのに寄り道が止まらない

北海道の調査で同行し、次々と出されるコマンドを主人公の代わりに実行してくれるシュンだが、何らかの理由でコマンドを実行できない場合はきちんとその理由を教えてくれる。

これらはゲーム的に言えば「ハズレ選択肢」なのだが、じつは『オホーツクに消ゆ』はこの「ハズレ選択肢」の作り込みがすごい

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たとえば、指定した場所をシュンに調べさせる「なにか調べろ」というコマンド。足元や塀といった何もないところを指定すると、一応調べたうえで「なにも見つかりませんでした」と言ってくれる。

しかし、同じマップで奥にある灯台を指定してみると……。

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「めちゃくちゃ言うな」と怒られてしまった。ごめんって! 言ってみただけなんだって!

こんな風に「対象なし」や「コマンド無効」を意味するセリフでも、場所やシチュエーションによってシュンのセリフは様々に変化する。

新しい反応を見るために、ついつい無意味な指示を出しまくってしまい、結果多彩なバリエーションで怒られることになったボスは筆者だけではないだろう。

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表に立つのはシュンなので、ボスの身代わりになってくれることも

ちなみに、無効なのが分かり切っている指示は無限に出せるわけではない。ある程度やると「満足したよね?」と言わんばかりにシステム側が止めてくる。

詰まったときに無駄な選択肢を大量に試さなくて良くなるので優しい仕様ではあるのだが、見透かされているようでちょっと悔しい。

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毎回まわりをキョロキョロさせていたら超塩対応になってしまった。ごめん

もちろん、シナリオ側の作り込みもすごい。

『オホーツクに消ゆ』は北海道の実在の土地を舞台にしており、シナリオの随所には観光案内が差し込まれる。北海道生まれのシュンは自然な流れで北海道豆知識を教えてくれるし、調査であちこちにいるので自然な流れで北海道のおいしいものがたくさん出てくるのだ。

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いいなあ北海道……

さらには、若き刑事・シュンの恋模様もシナリオと同時に展開される。

ある理由からプレイヤーは未来の結末を知っているのだが、それでも彼の初々しい態度は思わずニヤニヤしながら見守ってしまうこと請け合いだ。

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行け!そこだ!押せ!頑張れ!お前ならできる!

このように、本作の作り込みは底なしと思えるレベルだ。「そんな所に専用セリフが?!」と驚くようなものもたくさんあるうえ、どれだけ探索しても「打ち止め」にならないのが本当にすごい。

RPGでマップを埋めたがるタイプのプレイヤーにはあまりに沼すぎる。ああ、捜査が進まない……。


情報を集めて事件を調査するアドベンチャーゲームと、コマンドとレスポンスの繰り返しで進むRPG。『オホーツクに消ゆ』はシステムとしてすごく変わったことをしている訳ではないが、それでもゲーマーなら誰もがよく知る要素を組み合わせるだけでこんなに新しく感じることがあるのかと驚かされた。

プレイ後に改めて調べてみると、『ポートピア殺人事件』をはじめとする昔のアドベンチャーゲームは行動をテキストで直接入力する方式だったそうだ。そこに既存のコマンドから指示を選ぶ方式(コマンド選択式)を初めて採用したのが、なんとこの『オホーツクで消ゆ』だったのだという【※】

※『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』公式サイト「特別連載 オホーツクに消ゆ生誕秘話 スターゲームデザイナー登場」より

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(画像は「北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~ [Nintendo Direct ソフトメーカーラインナップ 2024.2.21]」より)

となると、『オホーツクに消ゆ』を源流として発生したのが、現在の「選択式アドベンチャー」「ストーリー重視RPG」ということになる。本作は、まさしくRPGとアドベンチャーゲームを繋ぐ「発明」だったのだ。面白いのも納得である。

そんな堀井氏の「発明」から40年が経った令和にリメイクされるにあたって、なんと『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ  ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』には堀井氏による完全新作エピソードが追加された。

1987年を舞台にした原作エピソードに対し、新作エピソードは2024年が舞台となっており、時代を繋ぐストーリーとなっている。

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北海道を駆け回った主人公も、今では大ベテランに

『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ  ~追憶の流氷・涙のニポポ人形~』は、9月12日にNintendo Switch/PC(Steam)にて発売される。

相関図やヒント機能といった仕組みもたくさん追加され、当時の雰囲気そのままに遊びやすくリメイクされた作品となっているそうだ。ゲームの歴史を感じられる作品を、ゲーマーならぜひ遊んでみてほしい。

©G-MODE Corporation/©ARMOR PROJECT ©KADOKAWA

ライター
なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『ドラゴンクエスト』シリーズで育ち、『The Stanley Parable』でインディーゲームに目覚めた。作った人のやりたいことが滲み出るゲームが好きです。
サブデスク
美少女ゲームとアニメが好きです。「課金額は食費以下」が人生の目標。 本サイトではおもにインタビュー記事や特集記事の編集を担当。
Twitter:@takepresident

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