プレイヤーの目的は、知性が退行してしまった女の子にトレーニングを施し、彼女が失った人間らしさを取り戻していくこと。ただし、ハッピーエンドは存在しない。
そんな不穏さしか感じないゲームが、今回紹介する『GROWTH EXPERIMENT(グロウス エクスペリメント)』である。
本作は2025年2月のリリース予定で現在開発中のタイトルだ。筆者は「デジゲー博2024」(同人・インディーズオンリーのゲーム展示イベント)の会場で試遊させてもらった。
ゲームは、育成パートとノベルパートにわかれている。育成パートでは「手遊び」や「積み木」などの知育を行い、女の子パラメータを成長させていく。女の子のパラメータの成長と連動してノベルパートが解放。過去、彼女にいったい何があったのか明かされていく、という流れだ。
ただし、このトレーニングがとにかく成功しない。体感で6割は失敗する。しかも成功したとしてもパラメータは全然伸びない。おまけにトレーニングの失敗が続くと女の子がものすごい悲しそうな表情をする。会話をしようとしても拒絶されてしまうことだってある。
とにかくこの女の子が不憫でしょうがない。「かわいそう」という感情で心がいっぱいになる。ただ……そんな彼女を「とてもかわいい」ものにも見えてしまっている自分もいた。
彼女が少しずつ回復(と言えるのかどうかは分からないか)していく様子はひどく痛々しい。プレイしているだけで、悲しいし、苦しいし、辛い。だがそれゆえに、大きく情感に訴えかけてくるものがある。なんとかしてあげたい。希望を見せてあげたい。
今回の試遊で触れたのは序盤のみ。ただ、そこにあったのはめちゃ重な展開が予想できる「絶望」だった。俺はこの女の子に笑ってほしいだけなのに……。
なんにもできない女の子を救ってあげられないことが辛すぎる。彼女の笑顔を取り戻すことはできるの……?
冒頭でも触れた通り、本作は知性と記憶を失ってしまった女の子に知育(トレーニング)を施していく「育成ゲーム」である。
女の子の名前はクロエ。なんらかの事情によって知能は退化しており、記憶もあやふや。加えて、共同生活をしているプレイヤーが誰なのかも知らないようだ。
そんなクロエには知能・言語・感情・信頼の4つのステータスが存在する。プレイヤーは、歩行や会話、積み木、お絵描など育成コマンドを行うことで、彼女から失われた人間らしさを取り戻す試みを始める。
トレーニングの積み重ねで少しずつ……
少しずつ回復させて……
少しずつ……
おかしい……。体感で6割は失敗している気がするし、成功したとしても全然ステータスが伸びない。
そうなのだ。このゲーム、びっくりするくらいトレーニングがうまくいかないのだ。当然クロエのステータスも、そう簡単には成長しない。あまりの成長のしなさに「変な乱数引き続けてる……?」という気分になってくるほどだ。
おまけに、トレーニングで失敗が続くとクロエにものすごく悲しそうな顔をされる。やめてくれ~~、そういう顔されるとこっちも辛いよ。
うまくいかないのはトレーニングだけではない。クロエと会話をしようとしても、ほとんど反応を示さなかったり、拒絶されることすらある。序盤でステータスがほとんど伸びていなかったからかもしれないが、正直なかなかしんどかった……。
また、一般的な育成ゲームと同じように、クロエには体力のステータスも存在している。
毎週トレーニングを始める前には「健診」を行って、彼女の体調を把握していくのだが、体力がなくなるとクロエは死んでしまう。
「冗談でしょ?」と叫びたくなるが、もちろんマジである。いや、死ぬって……やめてよそういうの……。
そのためトレーニングは彼女の体調を見ながら慎重に進めていく必要もある。時にはトレーニングよりも休息を重視すべきタイミングもあるようだ。
公式はハッピーエンドはないと言ってるけど……願わくは、彼女が再び笑える結末であってほしい
ゲーム的にはこのトレーニングパートを続けていくわけだが、すべてを通してクロエがかわいそうに思えてくる。辛そうな……悲しそうな顔を見せられると、心が苦しくなる。
でも、わかってほしい。話しかけるのも君のためだし、トレーニングだって君をいじめたいわけじゃないわけじゃないんだ。俺はクロエがちょっとでもよくなってほしいだけなんだよ……。
ただゲームをプレイしていると、そんな彼女の様子が、「とてもかわいい」ものにも見えてしまう。いや、ちょっと待ってほしい。こんなことを書くと、筆者がとんでもない人でなしか何かのように思われそうだが、ここで言う「かわいい」は「cute」の類ではない。
言ってみれば、それはより原義的な「かわいさ」だ。現代語の「かわいい」に通じる古語の「かはゆし」はもともと「見るにしのびない」「哀れで気の毒」という意味の言葉だったそうだ。
その言葉は時代が下るにつれて、もともとの意味に加えて、弱いものに対して抱く憐みの気持ちから転じた愛情、つまり現代に通じる「愛おしさ」の意味を持つようになったのだという。
筆者も別段古典教養に明るいわけではないので、賢しらぶって偉そうに書くのは恐縮だが、要するに「かわいい」も「かわいそう」も元々は隣接した意味の言葉だったのだ。
話をゲームに戻すと、本作をプレイしていて感じるのはこういう類の「かわいい」、あるいは「かわいそう」という感情だ。とにかくクロエという女の子が不憫なのだ。
不憫だからなんとかしてあげたい。ずっと辛そうな表情をしている女の子に、一条でいいから希望を見せて、笑わせてあげたくなるのだ。
そんな気持ちでトレーニングを進めていくと、わずかながらもステータスが伸びていく。そして、ステータスに連動して解放されるのが「ノベル ADV パート」である。ここでは、クロエの過去の出来事が回想として描かれていく。
この回想シーンで明かされた内容によれば、現在これほど弱っているクロエだが、かつては「予科士官学校史上、最年少の飛び級生」となるほどの天才少女だったらしいことがわかる。
そんな彼女が一体どうして……というのは本編に入ってからの物語になるようだが、彼女の現在の境遇からは、古典の名作SFとして名高い『アルジャーノンに花束を』の主人公チャーリー【※】を彷彿とさせる。
※ダニエル・キイスによる著名なSF小説で、主人公はある実験によって高度な知能と優れた人格を手に入れるのだが、物語の後半ではしだいにそれが失われていく恐怖が描かれる。
退廃的な空気を漂わせるクロエの物語が、今後どのように展開し、どのような結末を迎えるのか。それは実際に本編をプレイしてみなければわからない。ただし本作が謡うキャッチフレーズは「ハッピーエンドの無い育成シミュレーション」……明るい未来が想像できないのが心苦しい。
しかし、本作のSteamストアページには「EDをハッピーエンドと捉えるかは、あなた次第です。」との言葉もある。願わくは、彼女が再び笑える結末であってほしいものだ。
なお、本作は2025年2月のリリース予定。ゲームの詳細が気になるという方は、公式サイトやSteamのストアページも併せて確認されたい。