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The Game Awardsで「GOTY」含む4冠、メタスコア94点の『ASTRO BOT』は、けっきょく何が凄かったのか。「ゲームシステム」がゲストとなり、遊べば自然にPlayStation 30年の歴史を味わえる

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先日開催されたThe Game Awards 2024にて、Game of the Yearに選ばれたのは『ASTRO BOT』だった。他にもBest Game Direction、Best Family Game、Best Action/Adventure Gameも受賞し、トータル4冠の受賞となった。

複数の評価期間の評価を集計して掲載しているMetacriticにおいて94点という非常に高いスコアを獲得していた『ASTRO BOT』。同作がGOTYを獲得することは、ある程度納得の受賞といった印象が強かったように思う。

他にも選ばれてもおかしくないタイトルはいくつかあったが、どれも総じてクオリティは高く、ゲームシーンにとっては中々に充実した一年だったのではないだろうか。

『ASTRO BOT』レビュー。The Game Awardsで「GOTY」含む4冠の高評価タイトルの魅力とは何か_001
(画像はThe Game Awardsの公式Xアカウントより)

しかし、この『ASTRO BOT』というタイトルを既に知っている人、もしくは既にプレイした人というのは、どれくらいいるだろうか。まだまだ世間的な知名度は、そこまで高くないタイトルではないかと思われる。

PSVR専用のタイトルとして初登場した『ASTRO BOT:RESCUE MISSON』からシリーズが始まった『ASTRO』シリーズだが、2作目である『ASTRO`s PLAYROOM』はPS5にあらかじめインストールされている同梱タイトルである。

そのためPS5を持ってさえいればとりあえずプレイした人は多いと思う。しかし、同梱タイトルでボリュームも抑えめであり、リリース後のレビューや感想などはあまり多くなかった。当然ながら宣伝ほとんどしていないであろう2作目は、ある種の「知る人ぞ知る作品」になってしまっていたように思う。

※映像はシリーズ2作目にあたる『ASTRO’s PLAYROOM』のゲームプレイトレーラー

かくいう私も初めて本シリーズに触れたのは『エルデンリング』をプレイするために、当時品薄でどうにかこうにかゲットしたPS5を入手した時だ。PS5に同梱された『ASTRO`s PLAYROOM』に私の子供が興味を示したことがきっかけだった。

そして子供と共に遊んで、非常に驚いた。『ASTRO`s PLAYROOM』は本当に良くできた3Dアクションゲームだったからだ。

可愛らしく手触りの良いキャラクター、隅々まで趣向が凝らされたレベルデザイン、PS5の性能と機能をフルに活かした多種多様な仕掛け、間違いなく世界最高水準の3Dアクションゲームがそこにはあった。

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(画像は『ASTRO’s PLAYROOM』ゲームプレイトレーラー – YouTubeより)

『ASTRO`s PLAYROOM』を何周も遊んだ私達家族にとって、フルプライスタイトルとして満を持して登場した最新作『ASTRO BOT』は待望の一作であった。そして発売即購入し、その圧倒的なクオリティに魅了された身としては、今回のThe Game AwardsでのGame of the Year受賞はまことにめでたい。

というわけで、まだまだ知らない人、今回のThe Game Awardsでの受賞によって興味を持った人も多いのではないかと思われる『ASTRO BOT』。本作の何が優れているのか、作中の表現がどのような意義と意味を持つかについて、私なりの考えを述べていこう。

文/Hamatsu
編集/りつこ


ジャンプアクションの系譜。『マリオ』シリーズを踏襲し、昇華する

『ASTRO BOT』はMetacriticにて94点という超高得点を獲得しているだけのことはあって、褒めようと思えばいくらでも褒めるところを挙げることができる。

※『ASTRO BOT』のローンチトレーラー

たとえば本作では、体力ゲージなしの「一発即死」の原則を、一部のボス戦を除いてほぼ全編にわたって貫いている。この使用は近年の3Dアクションでは非常に珍しく、最新のゲームなのに昔のゲームで遊んでいるかのような緊張感を生んでいる。

それでいて、チェックポイントは細かく設定されているから、やられてもそこまで大きなストレスにはならない。いっぽうで、ミスしたらかならず最初まで戻されて再スタートする高難易度ステージは、なかなかの歯ごたえである。

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だが、なにより『ASTRO BOT』を遊んで気づかされるのは、主人公の主要アクションのひとつ、ジャンプの使い勝手の良さである。

その使い勝手の良さは、ジャンプの多機能性により生じている。

まず、ジャンプボタンを長押しすることで、足からビーム的なものが発射できる。その推進力によって軌道の微調整が可能になっており、さらには「ビーム的なもの」が攻撃力を持っているので、自分の真下にいる敵キャラクターへの攻撃が可能になっている。

このように、ジャンプというひとつの動作が、「長押し」によって移動と攻撃の役割を担っている。

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ジャンプという1アクションを、移動手段であり、同時に攻撃手段でもあるという形に多機能化してきたゲームのもっとも有名な先行例といえば、みなさんご存じの『スーパーマリオブラザーズ』である。

作り手自身がその影響を隠していないので言い切ってしまうが、『ASTRO BOT』のジャンプアクションは任天堂の『マリオ』シリーズの影響下にある。

※The Game Awards 2024での受賞に際したスピーチで『マリオ』シリーズからの影響を暗に示した。

私はそれを他のゲームからの模倣として貶めたいわけではない。むしろ単なる模倣に堕さず、自分なりに消化/昇華してゲームに落とし込めているのだから、『マリオ』シリーズを踏襲した要素は賞賛すべき美点であると思う。

『ASTRO BOT』では、多彩な地形を飛んだり跳ねたりしながら移動する場面が多い。しかし、思ったようにキャラクターをコントロールできないというストレスを溜めることなく、遊びやすいゲームになっている。

その大きな理由は、かつて任天堂が『スーパーマリオ64』でぶつかった「3D空間内でのジャンプアクションの困難さ」という問題と、その後の試行錯誤から得られた成果をキチンと咀嚼し、自身のゲームに反映させているからだ。

そのようにして、ひとつのゲームの成果が他のゲームに影響を与えて波及することで、ゲームシーン全体の品質は向上し、ゲーム文化は豊かになる。そもそも文化とは、そういう仕組みで成立するものではないだろうか。

「ギミック」を潔く使い捨て。ゲームにおける「贅沢さ」について

『ASTRO BOT』は優れたジャンプアクションによって、3D空間を快適に踏破することが出来るゲームである。では『ASTRO BOT』をジャンプアクションと呼称するかと言えば、それは適切ではないだろう。ジャンプだけでは突破しきれないほどに多彩な仕掛け、多彩なステージが用意されているからである。

本作ではステージの冒頭において、そのステージならではのアタッチメントアイテムが付与され、専用のアクションを行うことができるようになる。そしてステージにも「専用のアクション」に呼応するかのように、各種の仕掛けが用意されている。

そこで圧倒されるのは「これだけでひとつの作品が作れるのでは?」というほどに優れたアイディア、魅力的なギミックがほんの数ステージで惜しみなく使い捨てられていく潔さである。

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たとえば作中には、自身の身体をボタン一つで小さく縮めることができる、マーベルのヒーロー映画『アントマン』のようなアイテムが登場する。

これだけで相当色々な体験がができそうなアイテムであるにも関わらず、ゲーム全体からすればほんの一部にしか登場しない。

だが「体を小さくする」ギミックから生まれる面白さを、そのギミックが登場するステージにおいては全開で表現しきっている。なので、もっと遊びたい気持ちはあっても、物足りなさは感じられない。

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先に述べたような個々のアイディアやギミックが、それだけでひとつのタイトルとして成立しそうなクオリティをもっている。にも関わらず、それを過度に引き伸ばさずに手を変え品を変え、新しい体験を提供し、ゲームのおいしい部分だけを次から次へと味わえるようになっている。

このことで『ASTRO BOT』は、遊んでいて非常に「贅沢さ」が感じられるゲームになっている。

そして、その「贅沢さ」の根本には、ゲームという文化が蓄積してきたノウハウや試行錯誤、積み重ねてきた歴史の豊かさがあると私は考えている。

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(画像は Astro Bot – Launch Trailer | PS5 Games – YouTubeより)

とはいえ、『ASTRO BOT』は難しいことを何も考えずに遊んでも、文句なく面白い。なぜ『ASTRO BOT』が何も考えず快適に楽しめるのか。

それは、ジャンプアクションに代表される、様々なゲームで試行錯誤されてきた積み重ねの結晶が、ひとつのタイトルの中に詰め込まれているからである。そこには間違いなく、ゲームシーン全体で長い時間をかけて積み重ねてきた歴史がある。

そう、本作を語る上で欠かせないキーワード、それが歴史である。最後にこのゲームが内包する歴史という要素について考えてみよう。

歴史を内包するゲーム

『大乱闘スマッシュブラザーズ』(以下、『スマブラ』)という今さら説明する必要もないであろう大人気タイトルがある。このゲームは基本的には対戦格闘アクションゲームなのだが、同時に任天堂及び、任天堂に関連するゲームの歴史性を内包している点に特異性がある。

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(画像はニンテンドウオールスター! 大乱闘スマッシュブラザーズより)

『スマブラ』を遊ぶことを通して、ユーザーはこれまで積み上げられてきた任天堂の、ゲームの歴史の一端に触れることができる。

このようなタイトルを、自身の看板タイトルの一つとして抱える任天堂という会社は強い。なぜならそのタイトルを遊ぶだけで、任天堂とその周囲の会社が紡いできた歴史が部分的であれ、広くユーザーに浸透し共有されるからだ。

若い人ほど、『スマブラ』を通して初めて知ったキャラクターやタイトルが数多く存在するのではないだろうか。世代を超えてゲームやキャラクターを認知させ、ゲーム文化の裾野や共通基盤を広げるタイトルとして、スマブラが果たしてきた役割は決して小さくない。

『ASTRO BOT』は、『スマブラ』とはまた違った形で歴史を内包するタイトルである。

本作には初代Play Stationから最新ハードのPlayStation 5まで、歴代SIE(SCE)タイトルやPlayStationに縁のあるサードパーティタイトル、そして歴代のPlayStationハードと各種周辺機器までもが、ゲストキャラクターやゲーム中の各種ギミックといった形で登場してくる。

ちなみに前作にあたる『ASTRO`s PLAYROOM』のハードと周辺機器への“スポットあてぶり”はなかなかすごいので、PS5を持ってる人はとりあえずプレイしてみてほしい。

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(画像は『ASTRO’s PLAYROOM』ゲームプレイトレーラー – YouTubeより)

さらに、いくつかのゲームに至っては、モチーフとするゲームの内容ごと『ASTRO BOT』風にアレンジして再構築すらしている。中でも『サルゲッチュ』に至ってはほぼ新作である。

他にも『アンチャーテッド』『GOD OF WAR』などSIEの人気タイトルはキャラクターがゲスト出演するのみならず、そのゲームのゲームシステムがゲスト的に登場してくるのである。

このように本作では、ひとつのゲームに多数のゲームの世界観やアクション、さらにはゲームハードの歴史すら内包できている。それを可能にしているのは、主人公キャラクターやその仲間たちを何色にでも染まりそうな「プレーンな素体」的なデザインにしているという点が大きいと思う。

しかし、それでいてちゃんと主人公としての愛らしさや特徴をちゃんと持ち合わせている点が素晴らしい。

『スマブラ』があることで任天堂の歴史の一端がユーザー間で共有できる様に、『ASTRO BOT』に触れるだけでPlayStationの歴史を部分的にでこそあれ、ユーザーは知ることが出来る。それは今後も継続して歴史が紡がれるであろうPlasyStationにとって、大きな意義を持つのではないだろうか。

そうして改めて『ASTRO BOT』をプレイして気付かされるのは、SCE時代から作られてきたファーストパーティ製タイトルの豊富さ、多彩さである。

かつて遊んだタイトルもあれば、気になるけど遊び損ねていたタイトル、申し訳ないがほぼ知らないタイトルなど様々なタイトルをリリースしてきた事実に驚かされる。同時に、それらのタイトルのほとんどが現在では新作が作られなくなったということにも気付かされる。

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(画像は Astro Bot – Launch Trailer | PS5 Games – YouTubeより)

言うまでもなく完全に新規のタイトルで、画期的な内容のゲームを世に送り出そうという姿勢は素晴らしい。だが、続編ばかりのゲームシーンが退屈かと言えば、そうとも言い切れなくなりつつあるのが、近年のゲームシーンだとも思うわけである。

30年や20年という歴史を重ねてなお最新作がマンネリを打破した最高傑作になる事例だって少なからず存在する現代において、シリーズを重ねることは必ずしもネガティブなことばかりではない。


今年でPlayStationは30周年を迎える。その節目のタイミングにその30年分の歴史を内包する『ASTRO BOT』が登場し、そして文句なしのクオリティでGOTYを獲得したことは繰り返しになるが、本当にめでたい。これを機に多くの人に『ASTRO BOT』を遊んでもらい、その面白さに圧倒されて欲しいと心から思う。

30年の歴史を経て、遂にSIEはその歴史を内包しながら、その歴史をアクションの中で体現するキャラクター、IPを獲得したのである。

本当に勝手なお願いだとは重々承知しつつ、『ASTRO BOT』というIP自体がその内包する長い歴史に負けないくらい、自身の歴史を今後積み重ねていって欲しいと切に願う。

それは、SIEジャパンスタジオの再編成がありながらも存続してきたTeam ASOBI!であれば、きっとできると信じている。

ライター
某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ、「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。
Twitter:@hamatsu
編集者
ゲームアートやインディーゲームの関心を経て、ニュースを中心にライターをしています。こっそり音楽も作っています。

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