人狼系ゲームの解説では、人狼ではないプレイヤー向けにこんな説明を聞くことがある。
「あなたが潔白だと知っているのは、他でもないあなた自身です」
この説明には様々な意図がある。自分が無罪だと分かっていれば冤罪を吹っ掛けてくるプレイヤーは敵だと分かるし、残りの敵の人数を計算する手助けにもなる。「自分は潔白だ」というのは、疑心暗鬼が巻き起こる人狼系ゲームにおいて重要な情報なのだ。
けれど、もしそれすら信じられなくなったら、プレイヤーは何を信じて行動すればいいのだろうか?
そんな「最悪の疑心暗鬼」を実現したのが、多人数対戦ホラーゲーム『MISTERY』だ。
『MISTERY』は『Project Winter』や『Dread Hunger』を参考にした“人狼系ゲーム”で、創作シェアードワールド「SCP財団」の世界観をモチーフにしているのが特徴となっている。
しかし、本作をただの人狼系ゲームにしてくれないのが「正気度」の存在。正気度が低下すると幻覚を始めとした様々な症状が発生し、プレイヤー自身を混乱させてくるのだ。
このシステムによってプレイヤーは「自分の視界すら信用できない」という、サイコホラー映画の登場人物になったような気分を味わうことができるし、なにより会議は紛糾する。この「正気度」システムをいかに退け、もしくは利用するかがこのゲームの攻略のカギとなる。
この記事では、中国・上海で開催されたインディーゲームの祭典「WePlay Expo2024」にて『MISTERY』を一足先に体験してきたレポートをご紹介する。人狼好き・SCP好き・ホラー好きすべてにおすすめしたいゲームとなっているので、1つでも当てはまる方はぜひチェックしてみてほしい。
取材・文/逆道
※記事の内容はプレイテスト版に基づいているため、正式リリース版とは異なる可能性があります。
■説明:敵はアノマリー、汚染された職員、そして残りの正気度。目に映る何も信用できなくなるのが怖すぎる
『MISTERY』の舞台となるのは、超常の存在「アノマリー」を収容する(正確には収容していた)施設だ。SCP風の世界観な本作では、これらの施設は「サイト」と呼ばれる。
そして本作において、人狼ゲームでの村人にあたるのが「Operator」、人狼にあたるのが「Alternate」だ。
プレイヤーは収容に失敗したサイトの職員「Operator」としてアノマリーの再収容を目指すが、職員の中にはアノマリーに汚染された職員「Alternate」が紛れ込んでいる。Alternateの妨害に対抗しつつ目標を達成すればOperatorの勝利、職員を全滅させればAlternateの勝利だ。
Alternateについては後の項で実際に体験したレポートをお伝えする予定なので、この項では主にOperatorとしてのプレイについて紹介していこう。
Operatorの目的はモードによって異なるが、筆者が体験したモードの目的はサイト中に散らばったバッテリーを回収し、現実性を取り戻す「ランプ」を起動することだった。サイトは広く、夜になると外は危険なため、手分けして手早く探索する必要がある。
サイト内には脱走したアノマリーたちが徘徊しており、1人でうろつくのは大変危険だ。アノマリーは様々な特性を持っており、正しく特性を把握しなければあっという間にやられてしまうだろう。
中には複数人が束になっても敵わないアノマリーもいるので、危険な敵は避けて通る判断も必要になってくる。
サイト内の探索箇所からは物資を入手でき、武器やアイテムのクラフトに使用することができる。外では脱走したアノマリーと戦闘になることも多く、なによりAlternateから身を守るため、できるだけ強い武器をクラフトで入手しておきたいところだ。
マップの中央には職員たちの拠点となる「シェルター」があり、発電機が稼働している限り、シェルター内では体力と正気度が回復していく。
再起動すべきランプやクラフト台もシェルターにあるほか、夜時間の間はシェルターの外にいると正気度がゴリゴリ減って行くので、必然的に夜になると職員たちはシェルターに集まることになるだろう。
また、シェルターでは怪しい職員の追放会議を行うこともできる。
昼時間は外でバッテリーを探索し、夜になったら物資の補充と情報共有を行い、怪しい職員がいれば追放……というのが基本的な流れになる。
しかし、ことをスムーズに運ばせてくれないのが「正気度」の存在だ。
正気度は体力とは別に設定されたステータスであり、シェルター外では基本的に常時減少していく。探索可能な建物の中には正気度を回復できる装置もあるが、範囲はかなり狭いため、ランプを起動するためにはどうしても正気度を減らしながら行動しなければならない。
正気度の減少には様々なデメリットがある。代表的なのが幻覚症状で、正気度が無くなって発狂状態になると「職員がアノマリーに見える」「アノマリーが職員に見える」「いないはずのアノマリーが見える」などなど、状況を混乱させる幻覚がわんさか発生する。
一度発狂状態になると治療に時間がかかるうえ、上記の幻覚は相手の挙動をよく観察する以外に見分ける方法がない。目に入る全てが幻覚になるわけではなく、一部は正常に見えていたりするので、余計に混乱してしまう。マジで自分の目が信じられなくなるのだ。
味方かと思って寄って行ったらアノマリーに殴られたり、存在しないアノマリーに怯えて行動範囲が狭まったり……アノマリーかと思って倒したら味方だった、というのは最悪のパターンだ。
発狂状態でいる限り殴ろうが殴られようが幻覚は解けないので、怪しいと思ったらまずは正気度の回復に専念するのが良いだろう。
他にも、サイト内の探索箇所の中には時間経過で解放される建物があったり、一定条件でシェルターにアノマリーの大群が襲撃してくる襲撃イベントが発生するなど、状況は刻一刻と変化していく。生き残るためには、時に正気度を犠牲にしてでも探索することが必要不可欠なのだ。
ちなみに、サイト内では職員の手記を発見したり、サイトで収容していたアノマリーについて調査できるポイントがあったりする。これらの探索箇所はSCP風の世界観に深みを持たせているだけでなく、貴重なリソースが手に入ることもあるので、見つけたら積極的に調べてみよう。
事例記録:実際にAlternateをやってみた。狂気を味方に付け、アノマリーを利用せよ
アノマリーに汚染された職員・Alternateの基本的な目的は、Operatorを全滅させること。非常にシンプルだ。
筆者は「WePlay Expo2024」の会場にて、実際にAlternateとして他のプレイヤー3人と対戦に挑むことになったのだが……対戦を通じて筆者が学んだのは、「Alternateは狂気を味方につけると強い」ということだった。
じつは、Operator・Alternate問わず、正気度が減少して発狂状態になると、徐々に体力の上限値が下がっていく。そして発狂状態になったキャラクターには特有のもやもやエフェクトが発生し、外から見て分かるようになるのだ。
つまり、発狂している職員は体力が少ない&襲われてもすぐに幻覚かどうかの判別ができないため、Alternateからすれば絶好の獲物なのである。幻覚によってこちらの姿がアノマリーに見えていたりしたらもう最高。相手は誰に襲われたのかも分からず倒れていくことになる。
また、『MISTERY』では、プレイヤーは様々な能力を持ったキャラクターたちの中から操作キャラを選択してプレイする。それぞれのキャラクターは固有のアビリティを持っているのだが、Alternateに選ばれた場合、追加でAlternate専用のアビリティを取得することが可能だ。
Alternate専用アビリティの1つに、「特定の職員の外見と能力をコピーする」というものがある。このアビリティを使えば、他のキャラクターの専用アビリティを使わせていただくことができるほか、他人に罪をなすりつけて疑心暗鬼に陥らせることも可能だ。便利!
ただし、Alternate専用アビリティを使うためにはサイト内にあるオブジェクトを調べ、ポイントを集める必要がある。このオブジェクトはAlternateにしかアクセスできないため、漁っているところは絶対に見られないようにしよう。
ちなみに、サイト内には同じくAlternateしかアクセスできないワープポータルもあるので、こちらも活用していきたい。
狂気を味方につける別の方法として、「幻覚を見ているふりをして職員を殴る」というものもある。あえて発狂状態になり、もやもやエフェクトを纏った状態で適当な職員を殴るのだ。返り討ちに遭う危険はあるが、万が一正気の職員に目撃されても言い訳次第で逃れられる可能性がある。
また、夜の襲撃イベントも絶好のチャンスだ。大量のアノマリーに囲まれている職員に向かって「うっかり」火炎瓶を投げ込んだり、みんながアノマリーに気を取られている間に発電機を壊してシェルターの回復効果を止めるのもいい。
このゲームでは体力の回復手段は基本的に有限なので、殴れそうならとりあえず殴り、味方になすりつけられそうなアノマリーは積極的に活用して、Operatorのリソースを減らしていこう。
なお、色々とAlternateの立ち回りを紹介したが、職員を襲ったのがバレなければ勝てる、というわけでもないことには注意しておきたい。探索しているOperatorを放置していると、いつの間にか相手の装備が強くなっており、せっかく孤立しているところに殴りかかっても勝てなかった、なんてことにもなりかねないからだ。
OperatorとAlternateは同じ素材で同じクラフトができる。そのため、Operatorのふりをして進んで探索し、リソースを懐に入れてしまうのも効果的な妨害となるのだ。もちろん、強い武器をクラフトできれば、幻覚を装った“誤射”を致命的な一撃にすることもできる。
職員たちの正気度の減少に乗じて疑心暗鬼の種を撒き、闇に隠れてリソースを奪う。そしてここぞというタイミングで牙を剥き、アノマリーと共に職員を始末する……これこそ、筆者が見出したAlternateの極意だ。
ちなみに、筆者がプレイした時にはAlternate1人:Operator3人での対戦だったが、本作は最大9人でのプレイが可能であり、Alternateは3人まで増える可能性がある。また、Alternateが存在せず、完全協力プレイで脱出を目指すモードもあるようだ。このモードならソロでも遊べるので、人数に合わせて違った楽しみ方ができるだろう。
『Project Winter』や『Dread Hunger』などの“人狼系ゲーム”の定番を踏襲しつつ、独自の正気度システムによってSCP風の世界観に思う存分入り込めるゲーム。これが、筆者が『MISTERY』を遊んで得た感想だ。
突如アノマリーと共に飛び込んできた職員を見た時に、銃を手に取って最初に狙うべきはどちらか?正気度が減少し、幻覚に襲われながらシェルターに飛び込んだとき、こちらを向いた職員に本当に助けを求めていいのか?こんな葛藤を味わえるのは『MISTERY』ならではの体験だろう。
『MISTERY』は2025年の第1四半期に、Steamにてリリース予定とのこと。現在はSteamストアページで不定期に公開プレイテストの参加者を募集している。
なお、Steamストアページには現在日本語対応の表記はないが、製作者の方によれば正式リリース時には日本語にも対応する予定とのことだ。記事では紹介しきれなかった要素もたくさんあるので、気になった人はぜひストアページを見に行ってほしい。