環境の表現が秀逸。現場は“道選び”からはじまる
次に、ミッションを受注しクリアするまでの基本的な流れを紹介する。
根本的には、前作とほぼ変わらない。
1.ゴールまでのルートをマップを見ながら自分で作成する。
2.目的地へ向かう(乗り物を使うか徒歩で行くかは自由)
3.荷物を目的地まで配送する。
以上。とてもシンプルだ。
しかしながら、今回の舞台はオーストラリア。
移動する場所は険しい峡谷地帯やサバンナ、河川が流れる山岳地帯、巨大な雪山など、豊富なバリエーションのフィールドが待ち受けている。
中には、配達だけでなくコアラやカンガルーなどオーストラリア特有の原生生物の保護など。生物捕獲系のミッションも受注できる。
サムの仕事は、“荷物を目的地まで送り届ける”こと。
その業務は、ほぼ9割がルートで決定すると言っても良い。
なるべく、高低差の少ないルートを選んで安全に進むか。
BTの出現しないエリアを見出し、あえて遠回りするか。
はたまた、あえて危険を冒して他人の配達物を奪う者たち“バンディット”を倒し、紛失物を回収して進むか。それはプレイヤーしだいだ。
この道の選び方には、プレイヤーの性格や、これまでの経験が色濃く出ると思う。
筆者は環境コンサルに務めていたことがあり、被災地の現地踏査や測量などの現場経験があったため、ブリーフィング時点でおおよそのルートを決めて進む、という行為はリアリティがあって楽しくプレイできた。
あえてルートを雑にまっすぐと引いて大体の目的地を設定し、アドリブを効かせて臨機応変に対応しながら適宜ルートを変更するといった遊び方もできる。
そして、特筆すべきは本作がちゃんと“現場は一筋縄ではいかない”という点を描写していることだ。
開発に“現場の人”がいそう。自然災害の表現力がえぐい
まず、本作の天候が変化するシステムだ。
晴天の時は穏やかに流れるせせらぎも、雨天時には川自体が氾濫し増水。
そのまま徒歩で渡る危険性が非常に高くなることもある。
本作においての氾濫した河川を渡る方法は無数にあるが、序盤は梯子を連結させて架け橋とするか、ロープ(1本30m)を岸に刺して自分を固定して渡るか、乗り物に乗って超えるなど。さまざまな方法で越えることができる。
また、「建築装置」を用いれば金属などの素材を投入して橋をかけられる建築要素が前作同様に存在。しっかりとした道を作成することも可能だ。
実際に被災地の現場で働いていた身としては、本作の自然災害の表現は非常にリアルだと感じられた。
さすがに日本の現場でいきなり燃え盛る隕石が落ちてくることはなかったが、筆者は御嶽山が噴火したあとの火山灰が積もった山岳地帯の現地調査には行っているため、本作の火事災害の表現には臨場感を感じられた。
火は燃え広がり、すべてを焼き尽くすさまは圧巻で、画面越しに息がつまるような感覚に陥る。
また、本作の災害表現は水害や火災にとどまらず、地震の表現も細かにつくられている。
この世界で発生する地震は現実世界と同じく震源のレベルが存在しており、発生した際はアラームと共に「G3~G10」など、規模に応じてグレードが表示される。
土砂災害や落石、地すべりなどの現象もリアルタイムで表現されており、被災地で働いていた筆者は『デススト』のこの表現を見て驚いた。
「作中の災害を表現したクリエイターは、実際に被災したことがあるかもしれない」と。少なくとも、現場に関わっている人物がいなくてはおかしい。リアルな点が多すぎるからだ。
このように、本作には上記のような自然災害が発生するため、いくらルートのシミュレーション能力が高かろうが、いきなり出鼻をくじかれる可能性もゼロではないのだ。
筆者も現場で災害を経験し、感じたのは「とてもじゃないが、人間は自然さまには叶わない」ということだった。このゲームには、その自然災害の恐ろしさや、ままならなさ。その片鱗が込められているように思える。
“縄”で繋がる楽しさは今作でも健在
さて、次はもっとも『デス・ストランディング』らしい要素「ソーシャル・ストランド・システム」をおさらいする。
本作では、オンラインに繋いでおくことで自分の設置・建築した物がのちにそこを通る別のプレイヤーが使用できるという、ゆる〜く繋がっている協力プレイ要素だ。
自分のつくったものを他人が使用できるということは、もちろん他人の作ったものを自分が使うこともできる。ロープや梯子、橋、モノレール、国道、ジップライン、充電施設など……プレイヤーが建てられるものはどれも役に立つガジェットだらけなので、率先的に作っていきたい。
この仕様から、本作は実は少し後から始めた方がスムーズにゲームを進められる内容になっている。
想像してみてほしい、自分が降りるために崖上に突き刺したロープが、次にそこへ訪れた別のプレイヤーが「ロープが刺してある!」と喜び、それを使って崖を降りる様子を。
しかしながら、誰かの歩いた足跡を辿るか、自ら新たな道を切り拓くかは自分自身だ。
筆者はあえて、「自分を大砲のように射出する」ことで移動する大胆な移動方法を好んだ。
目的地にホールインワンした時は快感。「計画通り」と夜神月ばりにほくそ笑むこともできる。ただし、落下地点やパラシュートを開くタイミングを間違えた場合はすさまじい勢いで地面に激突して”即死”するので、注意してほしい。(そういう、危険な足跡もあるのだ)
“棒”を持つ戦闘要素も充実
本作の世界は、人間を殺すと危険な状態になってしまうことは前述したが、しっかりと戦闘要素が存在する。その側面は、前作よりも強くなっているように思えた。
非殺傷弾を用いたアサルトライフル、ショットガン、マシンガン、麻酔スナイパーライフル、グレネードなど、さまざまな武器を用いて戦場を駆け抜けることができる。
サムが一度に持っていける荷物には重量制限があるので、大量に荷物を搭載できる車両でもなかれば、それぞれの装備に特徴や長所・短所を見極め、これから向かう先でどのように立ち回るかを決定した上で持参することになる。
本作でサムが戦う相手は他人の荷物を奪って生きる悪漢“バンディット(人間)”、サムを襲撃してくる謎の赤いロボット集団、死後の世界から座礁してきた怪異BTと、大きく分けて3種類だ。
人間たちはこっそり近づいて「縄」を用いて首絞め+気絶させることが可能。
周囲の敵にも発見されず、安全に紛失物を回収できるので、ステルスプレイはおすすめ。
敵にこっそり近づき、気絶させる専用の武器などもあるので、上手く使おう。

襲撃してくるBTは呼吸に反応して近づいてくる小型のタイプから、いきなりこちらをタールの渦に引きずり込んでボス戦が始まる巨大なボスタイプが存在する。その迫力はすさまじく、どこか頭部や腕部などの人型(ヒトガタ)のように見えるデザインをしている。
大抵は光っている部分が弱点なので、そこを重点的に攻撃すると倒しやすい。
見つからずにBTを倒したい場合は、サムの血液を充填して投擲する「ブラッドブーメラン」を使おう。射程距離まで近づき、弱点にヒットすれば、数発で消滅させられるはずだ。

ただし、人類を絶滅寸前まで追い込んだ爆発「デス・ストランディング」現象を引き起こした要因であるBTは、やはり脅威。サムがBTに取り込まれてしまった場合は、冒頭でも説明したとおり“大爆発”が発生してしまう。
サムは死んでも蘇る能力者「帰還者」のため命は助かるが、そこには巨大なクレーターができた状態になる。世界を穴だらけにしないためにも、注意して先に進もう。

旅に役立つツールや乗りもの、スキルツリー
『デス・ストランディング』は、ほとんどのプレイ時間が移動を占める。
徒歩での移動、車やバイクでの移動、大砲みたいに射出して移動などさまざまな移動方法があるが、その上でDHVマゼランをはじめとした複数のファストトラベル要素も存在する。
ファストトラベルする方法は、拠点と拠点を移動するDHVマゼランを用いたものをはじめ、建設物と建設物を繋ぐファストトラベルが存在する。
「モノレール」を起動させれば、特定の拠点と拠点をレールで繋いで大量の荷物を車両と共に運搬が可能になる。これにはサム自身も搭乗して、のんびり景色を眺めながら運搬できる。
また、前作で悪路を移動する際に猛威をふるったジップラインも再登場。
ジップラインは、多少であれば弓なりにラインを変更できるようになった。前作より、さらに自由度が増したと言える。
乗り物は、悪路もたくましく走るバイクをはじめ、運搬用のトラックのほか、筆者も予想外の乗り物が登場したのでお楽しみに。
サムが背負っているバックパックには、弾薬の最大保有数を増やす弾薬ポーチやグレネードポーチ、プロテクター、予備のバッテリー、荷物の重さを軽減する反重力装置など、さまざまなツールを搭載できる。
置ける箇所は決まっているので、いわゆる“全部のせ”はできないが、上手にしきつめればより多くの効果を発揮させることができる。
さらに、本作は主人公サムの能力をポイントを消費して強化できるスキルツリーシステム「エンハンスメント」が実装されている。ポイントとなる使用可能なメモリーは、新たに拠点を通信で繋いだ際や、依頼を成功させた時に獲得できる。
サムの身体能力にまつわるもののほか、バッテリーの持ちを長くしたり、弾丸の威力を底上げするというガジェット系のスキルなど便利なものまで多数登場する。最初は限りあるポイントで、どの能力を先に獲得するか迷うことになる。

ほっと一息、休憩も仕事のうち。おなじみの温泉も登場
仕事がおわったらシャワーを浴びて、「プライベートルーム」でのんびりできるのも『デス・ストランディング』の醍醐味だ。
ルーム内では、ちょっとした軽食(生きてる)と飲み物をとることができ、シャワー・トイレは完備。武器庫ではVRを用いた戦闘シミュレーションも使用できる。
前作では、サムがプライベートルーム内で飲むものと言えば清涼飲料水「モンスターエナジー」だったが……今回はなぜか「かいらる茶」という謎のお茶に。

さらに、室内では壁に写真を表示させることも可能なので、筆者はルーの写真を壁に貼って懐かしんでみた。
そして……「待たせたな」
『デススト2』にも、ちゃんとあります! 温泉が。
前作でも登場していた温泉。過酷な旅路を癒してくれる貴重な存在でしたが……
本作では、なんと温泉同士でワープが可能な謎ファストトラベル機能に進化。
サムがジャブッとお湯に浸かったら、いきなりローマ風の古代遺跡が見えた瞬間に「『テルマエ・ロマエ』かよッ!!!」と声を出してツッコんでしまった。
温泉は、プレイヤーが地道にダウジングして掘り当てる必要があるため発見するのはわりと困難。「この地形なら、温泉が湧いてもおかしくないな~」と言えるほど晴眼に自信のある人は、温泉発掘にチャレンジしてみる価値はある。
本当に……本当に、今回は『デススト2』にハマりすぎて殺されそうになった(最大級の賛辞です)。
緻密に練られた物語、個性豊かな登場人物との出会い、その場を彩る音楽、環境・情景、感情・演技、まるで映画の登場人物を操作しているかのような感覚。
現実では決して経験しえない物語を追体験できる作品……筆者は本作をプレイして、そもそも「ゲームというものは一体なんなのか」と自己に問うことになった。
まさに、ゲームとはありとあらゆる要素が組み合わさった総合芸術なのではないか。
この感覚は、筆者がはじめて『メタルギア』シリーズをプレイした時のものによく似ている。最初に『2』で、次にPS版初代、『3』で少なくとも30周以上はやり込むほどハマり、続くナンバリングタイトルはもちろん、携帯機向けのゲームも含めて私の青春は『メタルギア』と共にあったと言っても過言ではない。
このゲームの開発元であるコジマプロダクションは、コナミで名作『メタルギアソリッド』シリーズを手がけた小島秀夫監督が率いるスタジオで、本作にも映画的な演出や表現が用意されているが、『デススト』でさらに進化し続けている……。もうこわい。どこまで行くのかこわい。
『デススト2』は、『メタルギア』で感じた「ゲームそのもののジャンルがワンランク上がった」という感覚を再び与えてくれた。ありがとう。
『デススト2』に関しては、その設定の綿密さやゲーム体験としての充実度、ストーリーの完成度の高さなど称賛すべき部分はいくらでもあるのだが、特筆すべきは“メッセージ性の強さ”だろうか。
「死は別れじゃない」というデッドマンのセリフもそうだが、主人公のサムが大切な者を失って、新たな仲間と共に歩む旅路。「死との向き合い方」を、あらためて考えさせられた。
作中で流れる楽曲「雨にぬれても(原題:Raindrops Keep Fallin’ on My Head)」も印象的だ。
これは1969年に公開された西部劇『明日に向って撃て!』の挿入歌で、誰もが「一度はどこかで聞いたことがある」と言えるくらいは有名な楽曲。その歌詞は、どんなにどしゃぶりでズタボロな状態でも、くよくよせずに前を向いて生きている人物を歌う人間賛歌のよう。
「雨は降り続けるけど、文句をいってもとめられない」と歌うこの曲を聴いていると、「たしかに、自然さまにはかなわない」と改めて感じられて、たとて天気予報が間違っていても「そういうこともあるよね」という気分になる。
雨粒が頬を伝う感覚すら、どこか愛おしく思えるような。そんな不思議な包容力がこの歌と『デス・ストランディング2』にはあった。