率直に言う。”考えたら負け”、“Don’t think! Feel.”だ。何も考えずプレイして欲しい。本当のことを言えば、本作に関しては何を語っても負けなような気がしている。しかしそれではレビューとして成り立たないので、本稿の執筆を泣く泣く進めている。
本作を無理やり例えるなら、「“SERN”まで@ちゃんねるに汚染されてしまった『シュタインズ・ゲート』」※のようなものだ。シリアル※のるつぼにして、ミームとインターネット構文の二郎系ラーメン。心躍る謎と悪ふざけにまみれた「脱出×推理アドベンチャー」。サブカルネタから陰謀論まで何でもござれ。
それが、『伊達鍵は眠らない – From AI:ソムニウムファイル』なのだ。
※『シュタインズ・ゲート』
時間遡行モノの傑作アドベンチャーゲーム。“SERN”は作中の世界的研究機関であり、“@ちゃんねる”は旧2ちゃんねるをモチーフにした匿名掲示板。
※シリアル
「シリアスなのにコミカル」を意味するネットスラング。
本作は、警視庁の特殊捜査官・伊達鍵(だてかなめ)を主人公としたミステリーアドベンチャーゲームだ。左目に埋め込まれたハイテク義眼と、そこに宿った相棒AI「アイボゥ」と共に、突拍子もない怪事件に挑んでゆく。ミステリーとパズル的な謎解き要素が組み合わされていることが特徴で、ゲーム中では他者の夢に潜りこんで思考を捜査するような場面も出てくる。
そして、それがなぜか大量のネットミームで修飾されている。登場キャラ全員の口から漏れなくミームが飛び出す。プレイヤー全員が分かる前提で感謝の正拳突き※の話とかするんじゃないよ。
あまりにもそうしたネタが多すぎて正直、ゲーム部分とミーム部分のどちらが本作の本体なのかは判断が難しい。ただ、どちらもまったく手抜きがない。
※感謝の正拳突き
漫画『HUNTER×HUNTER』における修練方法。本気で感謝を込めた正拳突きを1日1万回行う。初めは日が暮れるまでかかるが、極める頃には突きが音を置き去りにするようになる。
最近のネット民、「美味いぞ────────────!!!」※知ってますか?
こちらはグルメ系フィクションの過剰なリアクションが話題になる度に、筆者の頭の中では常にリフレインされている“味皇(あじおう)”の名台詞。ただし相当古く、原作が連載されていたのは筆者が生まれる前だし、アニメも再放送で見たことがあるだけだ。それがなぜ令和7年の新作ゲームに出てくるのかは、よく分からない。
※美味いぞ────────────!!!
『ミスター味っ子』の料理評論家、味皇のセリフ。味皇はこのセリフと共に天を仰いでトリップしたり、バズーカを撃ったり、宇宙に昇ったり、口からビームを吐く。
そして一切の間を置かずに『美味しんぼ』の通称「鮎カス」※ミームが飛んでくる。こちらも歴史あるネットミームだが、SNSの普及に伴って人気が再燃しているのか、昨今でもネット上で散見される名作中の名作だ。
「ちょっと知ってるミームを見つけたくらいで大喜びで引用しちゃって」なんて思わないでいただきたい。本作は一事が万事ずっとこの調子であり、ネットの老人がひっくり返ってしまうような骨董品から、今の時代にも通ずる愛すべきミームまで、ありとあらゆるものが詰まっている。
※鮎カス
正式には(?)「これに比べると山岡さんの鮎はカスや」。『美味しんぼ』で主人公の山岡と海原雄山が「鮎のてんぷら」で料理対決をしたときに、料理を食した京極万太郎から出たセリフ。さすがにヒド過ぎると思われたのか、アニメ版では「山岡さんの鮎とは比べ物にならん」とマイルド表現に。
「インテーネッツにはとんとご縁がありませんで……」という清く正しい紳士淑女の皆さんもご安心いただきたい。古き良きテレビバラエティのネタもバッチリ網羅されております。
一般教養レベルと言っても良さそうな「とったどー!」※なんかを始め、このほかにも『SASUKE』や『東京フレンドパーク』を想起させるようなネタも散見された。
※とったどー!
テレビバラエティ『いきなり!黄金伝説』の1か月1万円生活で、食費を削るために素潜り漁をして獲物を捕まえた濱口優氏が発した言葉。本来は「獲ったどー!」
ほかにも『うえきの法則』のエッセンスを感じるような一節※も出てくるが、セリフとして見ると厳密には原典と差異がある。筆者は気になってわざわざ検索をしたが、一致するヒットはなかった。
※変態だー!
漫画『うえきの法則』の登場人物・森あいのセリフ。画像込みで高すぎる汎用性から人気ミームとなった。厳密には「変態だ──‼‼」。エッセンスは感じるんだけど、似てるだけで違うかもしれない。
こちらは捜査中の一幕。たぶん何かが元ネタになってると思うのだが、筆者のネット教養レベルでは何が元ネタなのかを見つけ出すことができなかった。くやしい。とりあえず死体がデカ過ぎることは分かる。
そう、このゲーム、あまりにネタが多すぎるせいで、もはや本作のオリジナル部分とミーム分との判別が難しいのだ。そしていま紹介してきたミームやミームっぽいものは、本作のおふざけの一端にすぎない。
悔しいことに、本作はここまでふざけ倒して作られているくせに、ミステリーアドベンチャーとしての部分はとてつもなくマジメで面白いのである。脱出ゲームなのに難易度調整ができるなど遊びやすくなっている一方、時間制限のある危機的状況が発生したりと、とにかくプレイヤーを飽きさせない。
筆者も心臓バクバク言わされながらプレイしたが、脱出ゲームでここまで興奮できたのは初めての経験だった。
ふざけ倒してるくせに謎ときだけはマジのガチ。沖縄と海王星くらい温度差が激しくて風邪ひきそう
冒頭ではチラ裏※みたいな話ばかりをしてしまったが、本作はミステリーアドベンチャーである。ただのネットのおもちゃばこではない。むしろ、ゲームとしては謎解きこそがメインディッシュだ。
本作のゲームパートは主人公・伊達の能力を駆使して情報を集めていく「捜査」パート、事件の重要参考人の夢の中を探索する「ソムニウム」パート、そして監禁された少女・イリスが謎解きに挑む「脱出」パートの3つに分かれる。そのうち、筆者が最も比重が高いと感じたのが「脱出」パート部分だ。
※チラ裏
チラシの裏側のことで、「チラシの裏側にでも書いておけ」といった具合に使われる。要するにくだらない内容のこと。
物語は、突如現れたUFOによって、オカルト大好きインターネットアイドル・イリスが目の前でキャトられ※てしまい、命がけの脱出ゲームに参加させられるところから始まる。
本作ではパートやチャプターによってメインの操作キャラクターが変わり、他のキャラはそのサポートに回ることになる。この脱出パートでは、プレイヤーはイリスを操作して謎解きに挑み、伊達と“アイボゥ”がイリスの脱出をサポートする、というのが物語の大まかな流れだ。
※キャトられて
キャトルミューティレーションされてしまう、の意味。UFOに拉致・誘拐されるくらいのニュアンスだが、たぶん正式(?)には「アブダクション」とかの方が正しい
ちなみに脱出ゲームの主催者は自称29歳のレプティリアン※女性・明美。事件の黒幕らしいが、なぜか開幕からプロフィールが全開示されており、ネットサーフィンを趣味としている変な人であることが分かる。「ネットサーフィン」って趣味欄に書いていい言葉じゃないからな?
※レプティリアン
『月刊ムー』でおなじみの宇宙人。オカルト好きの文脈で語られる場合“地上支配を目論む”爬虫類人のこと。
宇宙船に閉じ込められたイリスは、船内に用意されたさまざまな《謎》を解くことで、地上への脱出方法を探すことになる。いわゆる謎解き脱出ゲームであり、似たジャンルのゲームで遊んだことがある人は、それをイメージしてもらえれば差し支えない。
船の中にはさまざまなアイテムや謎解きの対象、そして何らかのヒントなどが散りばめられており、実際に船の中を歩き回って探索することで、新たな情報を集めていく。ときには集めた情報をパズル的に組み合わせたりすることで、状況を動かしていくのだ。
謎は単独で存在しているわけではなく、多くのプロセスを有機的に組み合わせて解決していく必要があり、その過程には一見アホらしくてもちゃんと意味がある。若干センシティブ判定を喰らいそうなこのハンマーも、実はとある一連の謎解きのための重要なパーツのひとつ。入手したアイテムをどう使うか、またどこで使うのかは、ゲームの重要なポイントだ。
ただ脱出ゲームというのは、「ひらめけば早いが、ひらめけないと辛い」という側面もあり、簡単すぎると手ごたえがない一方、難しすぎれば限られたヒントのなかで黙々と謎と向き合うという孤独な戦いを強いられることもある。しかしその点、本作は謎の難しさという点では歯ごたえ十分で手抜かりがない一方で、脱出ゲーム特有の無慈悲さはかなり緩和されている。
筆者が特に気に入っているのは、「インタラクトできる場所の一覧」と、「今インタラクトすべき場所」がハイライト表示される”サーチ”コマンドの存在だ。回数制限は存在するが、かなり強い。
「どこを調べるか」というのも脱出ゲームの醍醐味ではあるが、思考よりもひらめきや知識を求められる部分もある。しらみつぶしで見つかるならまだしも、小さな見落としひとつで長い虚無の時間を過ごすことにもなりかねない。筆者は脱出ゲームのこの「何も進まない時間」を苦手としていたので、システム的な突破口が用意されているのはとても助かった。
また、キャラクター同士の会話もゲームを盛り上げてくれると同時に、大いにヒントをくれる。過去に発見したものなどは彼らが覚えていてくれるおかげで、「何をするべきだったっけ?」と考えることなく、「何を解くべきか」という謎に集中することができる。楽しさと実利が相まっていて素晴らしい。
筆者にとって、この会話の存在が本作の脱出パートにおける最大の魅力に感じられた。が、この辺りも一筋縄でいかないのが本作である。
Chapter 2からサポート役として加わる、伊達の部下・日菜は、リアル脱出ゲームを出禁になるレベルの脱出ゲームマンチ※である。彼女が加わってからは、途端にメタいヒントが増える。
誰だよ、「脱出ゲーム」のゲームに「脱出ゲームガチ勢」を出そうと言い出したヤツ……。こういうプレイヤー、筆者の周りにいます。というより、ゲームが違えば自分もこうなる。なので個人的には一番好きなキャラだ。頼もしいし、愛らしいし、放っておけない。ちなみに29歳・独身とのこと。幸せになってほしい。
率直に言って、謎解きに一切興味がなくてもミステリ要素とクセの強いストーリーテリングだけでも、本作には遊ぶべき魅力がある。
※マンチ
TRPGなどで嫌厭されるプレイヤーのことを指す言葉で、正確には「マンチキン」TRPGではルールだけでなく会話上の合意も重要だが、空気を読まずにゴリ押しや理詰めの攻略をするプレイヤーがこう呼ばれる。
ゲーム中で感心したのが、そうした「謎解きは全然興味がない」「ただただミーム風呂に浸かってはしゃぎたい」という人もストレスなく遊べるように、謎解きの難易度が細かく調整できるようになっていたことだ。
これによって先ほど説明した「サーチ」の回数に制限がかかったり、ヒントの出方も変わってきたりする。
脱出パートの難易度を一番低い”ストーリー”に合わせると、なんとヒントが出そろっただけで勝手に謎が解かれてしまう。ちょ、ちょっと待って!と止める間もなく謎解きが自動スタート。問答無用である。でもマンチってこういう感じだよな……と思うとなんだか愛おしい気もする。幸せになって欲しい。
また、難易度変更は常に何回でもできるので、とにかくド親切。ゲーム中で詰まる心配に関しては一切無用と言っていい。
一方で、ミームとおふざけだらけの会話劇とフツーに満足感のある謎解きをまったり楽しんでいただけなのに、いきなり“危機的状況”に陥って、緊迫感あふれるギリギリの挑戦を強いられることもある。ここでは謎解きに制限時間が設けられ、これまで得た情報やアイテムを総動員して謎に挑むことを要求される。
今までおふざけ満載でのほほんとした雰囲気だったはずなのに、これ失敗したら死ぬってマジ……?
時間内に脱出できなければ室内の酸素がなくなるという状況を突きつけられた筆者は、残り4秒というギリギリで正解にたどり着いたが、答えをひらめいた瞬間はとてつもないカタルシスだった。
そりゃもう、今までおふざけ満載でのほほんとした雰囲気だったはずなのに、いきなり登場人物に死なれたら寝覚めが悪いでしょ……。だから、本当にガチで頭をフル回転させることになった。
危機的状況の緊迫感や、“サーチ”や会話といったサポートの存在が、「時間をかけて一人でとにかくじっくりと考える」という常道の脱出ゲームとは異なった体験をもたらしてくれているのが本作のゲームとしての特筆すべき点だ。謎解きゲームという枠を越えた新鮮な体験を提供してくれる。
難易度についてだが、筆者としてはとりあえず「スタンダード」で遊んでみることをおすすめしたい。強力な機能である“サーチ”に回数制限があり、ヒントもある程度は出してくれる一方で、しっかり自力で解いているという感覚もあり、謎解きの満足感も十分だった。謎が解ける瞬間のカタルシスを、ぜひとも味わってほしい。
最新技術の粋を結集した特殊能力も、全てはエロのために……。コイツがいないと何も始まらないのに、コイツのせいでゲームが終わっちゃう
本作では全編を通して、とにかく隙あらばおふざけがねじ込まれてくる。
そんなことになっているのも、登場キャラがどいつもこいつもぶっ飛んでる奴らばかりだからなのだが、大部分のキャラが「いうてもちょっと人格が破綻している」くらいであるのに対し、主人公の伊達鍵のイカれ具合はその比ではない(褒めてます)。
コイツを一言で表すなら、「破滅的なエロ男」……これ以外にない。
普通の話をしているだけなのに、ナニを思い浮かべたのか速攻で下ネタ認定して勝手にキレる伊達。エロに対する瞬発力があまりにも高い。
本作の「捜査」パートでは伊達鍵を操作キャラとして使うことになるのだが、もう万事この調子だ。捜査は基本的にアドベンチャー形式で進んでいくのだが、状況に応じて時間内に特定操作を要求される、いわゆるQTE(クイックタイムイベント)が発生することがある。
そしてゲーム中で最初に発生するQTEに見事成功すると、悪漢に追われている最中の伊達が、いきなりスケベな本に飛びつく。
普通に真面目なシーンで急にこれが発生するので感情が迷子になるが、その瞬間は大切にした方がいい。「QTEってもっと大事なところで起こるべきなのでは?」という正当な疑問を差し挟めるのは初回だけである。
伊達鍵はエロ本を読むとパワーアップ(マジ)し、スタイリッシュなアクションで黒服のクローンヤクザたちをちぎっては投げちぎっては投げする活躍を見せる。ちなみにこのシーンもたぶん『マトリックス:リローデッド』のパロディ。このゲーム、だいたいこんな感じです。
壁にめり込むほどぶっ飛ばされてもピンピンしているほどのカラダは強靱だが、そうした激しい戦いを繰り広げている最中ですら、魂は常にエロ本に向いている。その真摯な情熱はあまりに紳士である。
そんな伊達の本職は、人の夢に潜入する警視庁の特殊捜査官だ。ただ、現実世界の調査においても、左目に埋め込まれたハイテク義眼の機能によりX線などの高度な視覚機能を扱ったり、曖昧ながらも相手の思考を読み取ったりするという特殊な能力を持っている。
コイツにこんな能力を持たせたらどんなことになるか、ということがふんわり想像できるようになれば、もう本作をプレイする準備は整ったと言っていいだろう。
調査のさなか、コンカフェ嬢の骨盤をX線で透視して悦ぶ「コンカフェ嬢スケスケ事案」が発生。当然ながら相手には「ド変態」となじられる始末。これで悦べるの、性癖が特殊すぎる。
さらに仲間の暴露によれば、女性にばっかり思考を読み取る能力を使っているらしい。おまわりさんコイツです。いやコイツがおまわりさんか……。
捜査パートでは、失踪したイリスを心配する母親(未亡人)をいきなりデートに誘うという選択肢が登場。1回だけなら気の迷いで済まされるが、鋼の意思でデートに誘い続けると突然ゲームが終わる。しかもちゃんと専用(バッド)エンディングまで用意されているのである。なんなんだこのゲーム……。
本作は基本敵に1本道のストーリーだが、アナザーエンドと呼ばれる脇道に逸れるエンドが複数存在する。ここで迎えられるエンドもそのうちのひとつ。内容はぜひその目で確認していただければと思うが、終わりの唐突さと結果の衝撃に関していえば、筆者はKエンド※を思い出した。驚き度では甲乙付けがたい。
しかし、あっちは「[K]utta」が、こっちは「食おう」としている……。
リスペクトしているのか?! そうなのか??? どこまで考えてふざけているのか、本当にわからない。怖い。
※Kエンド
アルファベットの数だけエンディングがあることで有名な『NieR:Automata』における、衝撃のエンド。詳細はその目でご確認いただきたい。
本当にどうしようもない人間ではあるのだが、基本的にエロ方面でバカになってしまうだけなので、悪いやつではないし、捜査官としてもちゃんと有能であることは補足しておきたい。たとえ身内であろうと犯罪に関与している可能性があれば冷静に調べたりと正義感も持ち合わせている。
伊達の琴線に触れるようなエロにさえ出会わなければ、真面目で有能な捜査官なのだ。
逆説的に、有能だから破滅的でも許されているとも言える。エロ本はパワーアップの手段だと考えれば致し方ない(?)。 主人公としてのスペックは申し分ないのだ。
結局のところ悪い奴ではないし、感情移入ができないわけではない。でも、なぜか同情はできない。
もっとひどい目に遭ってほしい。
こいつら妙に人間臭い……! ネットの友人と一緒にDiscordでだらだらゲームしてる感覚の“うるさすぎる”謎解きゲーム
主人公である伊達鍵のイカれ具合についてはここまで説明してきた通りだが、先ほど説明した通り、彼の仲間たちもなかなか愉快なメンバーである。その最たるひとりが伊達の相棒であり、彼が左目に仕込んでいるハイテク義眼に住むAIである“アイボゥ”だ。
普段のアイボゥは上の画像のようにそのまんま目の姿をしているのだが、夢の世界に入る「ソムニウム」パートでは人間体のボディを獲得、水を得た魚のようにハジけた言動でプレイヤーを楽しませてくれる。
どこぞの超時空シンデレラみたいな感じ※に登場したかと思えば、流れるようにコロンビアポーズ※を披露。21世紀に入って四半世紀が経過した時代にリリースされるゲームとは思えないノリである。
伊達の下ネタにこそ付き合ってくれないものの、アイボゥも別に真面目な堅物というわけでもなく、むしろこうしたミーム系のネタはノリノリでやってくれる。そしてネタのチョイスが妙に古いところがやたらとツボだ。キミって最新のハイテク技術で作られたAIじゃなかったの?
※キラッ☆
『マクロスF』に登場するランカ・リーが、挿入歌「星間飛行」を歌う中でとるポーズ。
※コロンビアポーズ
クイズ番組『アタック25』において、「コロンビア」と回答し正解した参加者がとっていたポーズ。
というより、アイボゥの口から飛び出すネタは時間感覚を超えている感じがある。「上から来るぞ、気をつけろ!」※に至っては90年代のゲームだ。でもこの現象はなんとなくわかる。ミームは世間一般で流行ったかよりも、ネット……というより仲間内で流行っているかどうかが大事なのだ。この仕草、インターネット老人そのものだ。
古いとか古くないとかではなく、骨の髄まで染みこんだネット文化をナチュラルな“今”として吐き出しているまんまインターネット老人を感じるしぐさであり、シンパシーを感じるやら身につまされるやらで、なんとも言えない気分になる。単なるゲームのいちキャラクターのはずなのに、ミームの使い方にも“クセ”が感じられて、妙に人間臭い。
※「上から来るぞ、気をつけろ!」
伝説のゲーム『デスクリムゾン』のオープニングで登場したセリフ。あまりに汎用性が高く、いつの時代でも使うシチュエーションが絶対になくならない不朽のミーム。
別のキャラクターでは、「オカルト大好きインターネットアイドル」を称するイリスなら、オカルト好きならではのネタがチョイス※されており、こちらはこちらでやっぱりミームの扱い方にクセがある。
おかげで、どのキャラクターもめちゃくちゃふざけているのに、ただうるさいだけの会話にはなっていないのだ。ネットミームの扱い方が上手い者は、インターネットでは尊敬されるべきだと、筆者は思う。
※「全部まるっとお見通しだ!」「どんと来い」
いずれもオカルトミステリーの傑作ドラマ『トリック』で登場するフレーズ。
筆者はネット上の友人と実際にDiscordで集まり、文句を言ったり知識を出し合いながら謎解きゲームを一緒に楽しむこともあるのだが、本作で味わうことができたのはこの感覚だ。謎解きパートにおける会話の挿入は賑やかで心地がいいし、それらが攻略と有機的に結びついている点も大きい。
明日早く起きなきゃいけないのに、別に話がめちゃくちゃ盛り上がってるわけでもないのに、「落ちるわ」と言いたくないタイミングというのがある。本作をプレイしていると、次第にこれに近いものも感じるようになった。知っている言葉や概念が共通していると、安心できるコンフォートゾーンができてしまう。
登場人物たちのやりとりに快さを感じてしまっていると、当然この雰囲気が「壊れてほしくない」という気持ちが生まれる。しかし本作の推理では登場人物の深層意識を移す夢の世界にまで手を出す関係上、深い人間の心理にも踏み込んでいくことにもなる。物語には巨大な謎が待ち受けており、驚愕の展開も連続する。
宇宙船に囚われているイリスの生死が危うくなればかなり前のめりにヒリついてしまうし、作品を通して緊張と緩和が何度も繰り返される。もっともらしいことを言うなら、ネットミームは実家のような安心感を与えつつ、感情を強くゆさぶるための装置にもなっているのだ。
といっても、遊んでいる最中は深く考えなくてもいい。でも考えるのもまた一興だ。とりあえず引き出しは増える。
本作は謎解きゲームだが、ひとり孤独に難問奇問に立ち向かうゲームではなく、だらだら雑談を聞いていたい仲間たちと一緒にヘンテコな問題に挑んでいく、たいへんうるさい謎解きゲームだ。
しかし、ここまでうるさいとなると、それだけでもはやステータスであり、希少価値かもしれない。筆者と同じように首までインターネットに浸かってきた人たちには、ぜひにもこのゲームを見つけて欲しい。というか、SNSとかでミーム的に画像を張る遊びが流行りそうな気もしている。あとはこのビッグウェーブに乗るか、乗らないかである。