「嫌さ」って200種類あんねん。新たなステージへ挑むたびに違う角度から圧が来る、バラエティ豊かすぎるゲーム体験
しかもこのゲームが恐ろしいのは、ただでさえ嫌な圧迫面接なのに、嫌さの種類が無駄に豊富だということです。
例えば、恐喝としか思えない圧のヤクザ面接をぶちかまされたり、
俺様ナンバーワンなホストに空前絶後の上から目線で圧をかけられたり、
得体のしれないアイドルプロデューサーから、ほぼセクハラな質問をされ続けたりといった具合で、よりどりみどり。
同じ圧迫面接でも、各ステージごとにその種類や質が変わってくるので、ゲームを進めれば進めるほど、「まだこのタイプの嫌さが残ってたか……」と、バリエーションの豊富さにおどろかされます。
ただ、基本的に嫌なことしかない圧迫面接ですが、時々、普通にいいことを言われたりもします。
「こっちをどういう気持ちにさせるのが目的なんだ……」と思うと同時に、「何事も言い方がいちばん大事だよな」という教訓も得られました。
そして、こういった一癖も二癖もある面接官を相手にして、何度か不採用通知を受け取る中で感じたのは、「あれ?もしかして、不採用のほうがグッドエンドなんじゃない?」ということ。
実際、よくよく不採用の時の主人公のセリフに耳を傾けてみると、「落ちてよかったぁ。あの上司のもとだと病んでしまいそうだ」「今日の新聞見たら、あの会社株価暴落してたな。落ちてよかったかも」といった具合で、ゲームオーバーになったとは思えないものばかり。
だとしたら、ゲームクリアってなんだよ。面接通過するってなんだよ。
やばい企業だったら面接通過したとしてもバッドエンドなのかよ。
……そうかもしれねえな。
もちろん、採用されなければ次のステージに進むことはできないのですが、ゲームクリアとはなにか、就職面接に合格するとはなにかということを考えさせられました。
幸いと言いましょうか、本作はサクサクとしたテンポ感で進んでいくため、面接のやり直しは簡単です。圧迫面接を繰り返すことで、面接官の好きそうな返答や態度を探っていき、気持ちいいところをくすぐることができれば、採用は目と鼻の先。
この手軽にトライ&エラーができる感じも、当時のFLASHゲームを思い出しますね。
声優さんの熱演っぷりが掛け値なしにすごい。
さて、いろいろなタイプの圧迫面接に出会える本作ですが、中でもネタゲーとしてのカオスっぷりが際立つのが、新都銀行の面接です。
このステージでの面接官は、大仁田常務。この肩書と名前を見ただけで嫌な予感がしてくる方も多いのではないかと思いますが、意外や意外、大仁田常務はこれまでの面接官と比べるといたって普通で、何事もなく面接が始まりました。
圧迫感もなく、やりやすい空気感の中、よくある質疑応答が進んでいっていた……はずだったのですが、
大仁田常務の勘違いで、主人公が産業スパイの濡れ衣を着せられたところから状況が一変します。
「どのみちキミはもう……お・し・ま・い・death!」
「やられたらやり返します、倍返しで!」
「やれるもんなら……やっ・て・みな!」
といった日曜劇場さながらのセリフの応酬が繰り広げられ、面接はヒートアップしていきます。もはや圧迫面接ですらなくなっていますが、今更どうということはないでしょう。
それにしても、この一連のシーンは声優さんの熱演っぷりがすごいです。こう言ってしまうと失礼かもしれませんが、「無駄に」力の入った演技で、かなりの気合を感じます。
こういった有名ドラマのパロディにおいて、中途半端はご法度。『圧Q就活』では、頭の上から尻尾の先までパロディが徹底されていることが感じられます。
大仁田常務と主人公の白熱の決闘は、最終的にすべてが大仁田常務の勘違いであったことが判明し、議論は「大仁田常務が、土下座をするのかしないのか」へ帰結します。
……ここまで丁寧にお膳立てをされちゃあ、土下座をさせないわけにはいきません。
やれえええええええ!大和d……大仁田あああああああ!
……無事、大仁田常務に土下座をさせることができました。声だけでも伝わる迫真の土下座でした。いいものを見させてもらいましたよ。
こうして、大仁田常務の土下座で日曜劇場面接は幕を閉じました。
「圧迫面接以前に、これはもはや面接ですらないんじゃないか?」という考えが頭をよぎらなかったのかといえば嘘になりますが、最後までやりきった、折れずに大仁田に土下座をさせきったという意味では、今回の面接には手応えしかありません。
あとは、採用通知を待つばかり……
なんでだよ!
ちょっと待ってくださいよ。目の前にハッキリと見えていたパロディの線路の上を走り、期待通りの筋書で大仁田常務を土下座させたのに不採用ですか? となると、いよいよステージクリアの基準が分からなくなって……いや、一般常識的に考えたら、面接官に土下座をさせた時点でアウトですね。
どうやら、ゆきひろステージで経験した謎採用から、すっかりこのゲームに毒されてしまったようです。

さて、この大仁田常務のように、本作では声優さんたちの熱演がゲームのカオスさに拍車をかけているように思えてなりません。
先ほどの迫真の土下座合戦は最たるものですが、それ以外の場面で個人的に凄いなと思ったのが、こちらの “ののちゃん” 。
彼女もまた、元ネタが誰なのかが非常に分かりやすいパロディキャラクターですが、その声や話し方が元ネタのご本人の特徴をしっかりと捉えていて驚きました。
あくまでパロディなので、モノマネとも少し違う感じもあるのですが、セリフによっては元ネタ本人に聞こえるところが何カ所もあります。
「才能の無駄遣い」。この言葉が、久々に脳内に浮き上がってきました。
モノマネというと、謎のアイドルプロデューサーとして登場する “ピロちゃん” の声も、なかなかのものでした。その名前とビジュアルでは元ネタが誰だか分かりませんでしたが、声を聞いたら一発でした。
声優さんの技量を感じるしんよー! もしかすると、一発で元ネタを分からせる本人のビジュアルと声のインパクトが凄いってことなのかもしれないしんねー!
こういった声優さんの演技も相まって、パロディ満載のキャラクターが登場して暴れまわっている『圧Q就活』。本作が生み出しているのは、まさにカオスであり、その味わいはかつてのFLASHそのもの。インターネットにおいて匿名掲示板が猛威を振るっていた当時のあの味が好きな人からすると、本作は絶品なのではないでしょうか。
また、本作はサクサクと遊べるお手軽感も印象的なゲームです。当時の味に馴染みのない方も、ちょっと軽く一口だけ、「時代の味」を試食してみるつもりで、この令和に蘇ったFLASHゲーを体感してみてはいかがでしょうか。