操作が「難しい」のではなく「忙しい」
そうした演出部分に惹かれていくうちに、だんだん本作のゲーム的な “深み” が沁み渡ってきた。
レースゲームで大事なことはなんだろう。
そもそも私はこのジャンル自体に苦手意識があり超下手くそな身でこんなことを言うのはおこがましく、よく理解できてないであろうことは百も承知で言わせてもらえば──なるべくスピードを落とさずに理想のラインをなぞること、であると思う。
ほかには、ミスをしないこと、相手に抜かれないこと……でしょうか。
あとは、スリップストリームと呼ばれる前方車両のすぐうしろにつくことで空気抵抗が少なくなり高い加速を得る走法(本作にも加速テクニックとして実装されている)とか。結局のところ、レースゲームってものすごくストイックなんですよね。
「完璧な走りを完璧にこなし、相手のミスを待つ」みたいなところがある。どうしても。
しかしながら本作は多彩な要素を盛り込むことで勝利の要因を増やし、さらに操作を忙しくすることで心地よいガチャガチャ感を演出することに成功していると感じました。
本作のようなカジュアルなレースゲームで代表的な要素のひとつが「アイテム」の存在でしょう。直接敵をクラッシュさせたり、あるいは任意のタイミングでダッシュをしたりすることで逆転を狙える要素となっている。
上記は代表的な攻撃手段であるロケットパンチ。命中させれば相手をクラッシュさせることが可能。余談ながら、追尾性能を持つ赤ロケットパンチと追尾が弱い代わりに跳弾が可能な緑ロケットパンチという、既視感が強い色と性能をしているため初見でも迷わず使うことができておもしろかった。
また防御用のアイテムが複数あることで狙われてる時に安全を確保するということもできる。

だがそれ以上に本作でもっとも注目すべきシステムは、ドリフトによるブーストゲージの管理と、「ガジェット」というカスタマイズシステムだ。
ドリフトを行うことでブーストゲージが溜まり、レベルが高いほど強い加速を得られる。ドリフトからの加速は『マリオカート』のミニターボから続くカジュアルレースゲームの伝統と言えるだろうが、本作はゲージとして可視化されているのがポイント。
これは最大レベル4【※】まであり、レベルが高まるほど加速が強くなるのだけど、当然そのぶんドリフトを維持しなければならないわけで難しい。無茶にドリフトすると理想のラインから外れてしまい、むしろ順位を落とすなんてことはしょっちゅうだ。
※最大レベル4:基本はレベル3でガジェットやフィーバーでレベル4になる仕組み
そこで活躍するのが「ガジェット」というカスタマイズ要素。

これは「ガジェットプレート」という穴の空いたプレートに、性能と必要な穴の数が異なる「ガジェット」を追加することでマシンをチューンすることができるというシステムで、キャラとマシンの組み合わせでおおむね決まる走りに、微妙なニュアンスを加えることができる。

例えばエミーを始めとした「ハンドリング」重視のキャラクターやマシンは、ドリフト時などの安定性に優れているためコースアウトしづらい。しかしその反面、最高速や加速性能が弱く、初心者向けのマイルドな性能という印象を受ける。
だがそこに、ドリフトによるゲージのチャージが早まる「ファストチャージ」ガジェットを山盛りにすると「ちょっとしたカーブのたびにえげつない加速をして独走できるうえに走りも安定してる」という非の打ち所がない走りが可能になるのだ。
妙に強くて戸惑いました。

ほかにもスリップストリームの性能向上をつければ、団子になった局面で目に見えてスピードが上がるし、パワー系のキャラに接触することでスピードアップするガジェットやドリフトでスピンを得るガジェットをつけると、今度は理想のラインを追うより敵にぶつかりたくなってしょうがなくなってくる。これは楽しい。


また、ドリフトに次ぐ加速要素として「エアトリック」があります。
これは空中にいる最中に方向キーを入力することでキャラクターがマシンの回転とともに踊りだすというもので、回転すればするほど着地の際に加速が加わるというもの。


これがまた楽しい要素で、ドリフトと違って「失敗のリスク」がなく、やり得。
タイプごとに得意不得意があったりもしないので常にガチャガチャしてしまうのですが、コースは案外アップダウンが激しく、ガチャガチャチャンスが無数にあるので操作が忙しい!

操作が「難しい」のではなく「忙しい」というのがポイント。
これがドリフト操作やフォームチェンジとも相まって、とにかく頭のリソースをいっぱいに使わされ、そこにギラギラのコースと極上のサウンドが流し込まれるので自然と頭の中が虹色に満たされて幸せな気分になっていってしまいます。
ウゲッッ!! 理論的な詰め込みで快感物質を分泌させられているッッッ!
エアトリック系のガジェットを積むと目に見えて回転の挙動が軽くなりガシガシ回転数を重ねられるので、チューンの方向性に迷ったら「とりあえず」でつけてもOK。どんな状況でも加速に貢献してくれるし、あと操作してて楽しいのでおすすめです。
また、先述したように空中フォームと水上フォームでも操作と狙いが変わってきます。

空中フォームではドリフトの代わりにスラスターを吹かすことで、左右の他に上下に急ピッチを加えることができるのですが、操作が3次元的になるのでかなり難しい。が、ドリフト時よりもゲージのチャージングが容易で、最初から最後までチャージ→加速を繰り返すなんてこともできるというメリットがあります。
水上フォームでの操作は基本的に陸上と同じなのですが、ジャンプ台や坂がなくても任意のタイミングでジャンプ&エアトリックが可能ということで、やはり加速のチャンスが陸上フォームより増えるんですが、欲張りすぎると適切なカーブができず順位を落とす……なんてことも起こり得る!
どこでドリフトに切り替えるか、どこまでジャンプを欲張ることができるか、といった駆け引きが生じるためこれもまたおもしろい。
……と、こんな感じでドリフトやエアトリック、そしてそれらとマシン特性を強める「ガジェット」に影響され行動すべてが勝利に直結しているため、うまいシナジーを生み出せれば自然と勝てるようになる。つまり思っていたより高難易度もクリアできるようになるのだ。
気づいたらゲーム性にハマっていて、舌を巻きました。
最初は「レースゲーム苦手だから最低難易度じゃないとクリアできないよ」と思っていたけど、なんだかんだと難易度を上げ、いまはCPUの強さもレースの難易度も真ん中くらいまで来てしまいました。まだ舞える。
ラーメンでシメよう
本作のコラボキャラの顔ぶれを目にしたとき、「すげえカオスな面々だな」と思った。そしてゲームを遊んで、「なんてカオスなゲームなんだ」とさらに思った。
軽々しく言ってしまうが、「カオス」とはなんだろうか。
それは「無秩序」ということだ。混沌して偶然に溢れ、なにが起こるかわからない状態──それを人は「カオス」と呼ぶ。
転じて、レースというのは、ルールという基準の元で行われる「秩序」の塊だ。
決められたコースを、決められたレギュレーションで、順位を競って走る。
そしてだからこそ、私はこのジャンルが少し苦手だった。完璧なライン取り、ミスをしないストイックな走り。そうした「秩序」の中で、自分の下手さが浮き彫りになってしまうからだ。
「これもう抜かされたら逆転の目無くない!?」
車自体はカッコよくて好きなのでちょくちょくそういうゲームをつまむんだけど、いつも「レース」となるとどうしようもなくなって参ってしまった。下手すると「そもそも”車が走るとはどういうことか?”」から勉強しなきゃみたいになってくるし……。
だけど本作は違った。そこにカオス要素をじゃぶじゃぶと山盛りにして秩序をぶっ壊したのだ。
まるで異なるフィールドに誘われるクロスワールド、ドリフトやトリックで隙あらば行われる加速、ガジェットを用いたマシンチューンによってさらに極端になっていく挙動……!
その姿はさながら塩とうまみ調味料を暴力的に足したラーメンの如く。
しかし、矛盾するようだがそれは「計算され尽くしたカオス」なんだ。
そう、家系ラーメンや二郎系ラーメンが、澄んだ味わいでなくても間違いなく超うまくなるよう工夫と計算を積み上げて作られているように。
『ソニックレーシング』も「おもしろさ」「楽しさ」につながるカオスだけを残し、あくまでカオスな楽しさが、純粋な「勝利」につながるように作られていて、「レースゲームの楽しさ」にしっかりと接続している。ものすごく高いレベルで。
セガは本作について「セガ史上最高峰のレーシングゲーム」と謳っている。
ソニックのレースゲームにおいての最高峰ではないんだ。セガ史上なんだ。『頭文字D』も『クレイジータクシー』も『デイトナUSA』も『セガラリー』も踏まえたうえで最高峰と言っている。
そして遊んでみた結果……それは納得せざるを得ないだろう。アタシをレースゲームにここまで夢中にさせるなんて大したもんだよ。
つまりこういうことだ。
「なぜ『マリオカート』ではなく『ソニックレーシング』を遊ぶ必要があるんですか?」に対する答え。それは、数多のレースゲームで知見を重ねてきたセガの出汁がよく出ているセガ史上最高峰のレーシングゲームだからです。
お見事でした。お見逸れしました。
ところで本文中に入れ込む隙がなかったので最後に紹介するんですけど、マシンカスタマイズ要素の「ステッカー」もやたら豪華なコラボです。
PCパーツメーカーや航空会社、YouTuberに始まりくら寿司やCoCo壱やベイブレードまである! なんで!? ソニックの車にむてん丸とベイブレードのスポンサーシップをつけて遊べるぜ!
ちなみに現在すべてのプラットフォーム(PS5、Nintendo Switch、Xbox Series X|S、PC)にて製品版に引継ぎできる体験版が配信中だそうで、興味を持ってくれた人はぜひプレイしてみてください!