11月29日に開催されたゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC+KYUSHU 2025」にて、特別招待講演「機動戦士ガンダムシリーズプロデュースについて ~初代から最新作『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』そして50周年へ~」がおこなわれた。
登壇したのは、株式会社バンダイナムコフィルムワークス(BNF)にてガンダム事業本部の取締役本部長を務める小形 尚弘 (おがた なおひろ)氏。
言わずと知れた国民的IPである『機動戦士ガンダム』(以下『ガンダム』)シリーズだが、今回の講演ではシリーズが現在抱えるふたつの課題も言及された。
まずひとつは、長い歴史の中で膨大な数の作品が生まれたこともあり「どこから見ればいいかわからない」という声が国内外から挙がるようになったこと。
もうひとつは、北米地域での展開だ。というのも2001年のアメリカ同時多発テロ事件の影響で「戦争」を題材のひとつとする『ガンダム』シリーズは長らく地上波で放送できないという状況にあったという。

これらの課題に対して現在の『ガンダム』シリーズでは、テレビで放送される新規作品においては独立した世界観での物語を展開し、それによってその時代の若者が「自分たち(の世代)のガンダム」として楽しめる作品を制作する。
そして従来のファン向けには、これまでのシリーズを掘り下げる作品を映画などリッチな体験で展開する取り組みを実施。2024年に公開された『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』もまさにその例ということだろう。
こうして新規層の参入障壁を下げつつ、従来のファンも大事にする。また、配信サービスを活用し海外含め迅速に作品を展開することで課題に取り組んでいるという。
ところで、近年のテレビ向け作品といえば2022年の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』でTVシリーズ初の女性主人公が登場。また、2025年に放送された『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』では、第一作目『機動戦士ガンダム』における「もしも」の世界を描いたことが話題になるなど、シリーズの常識を打ち崩すような展開が続いてきた。
◆◆キービジュアル解禁◆◆
— 機動戦士ガンダム 水星の魔女 (@G_Witch_M) September 4, 2022
主人公機ガンダム・エアリアルと、メインキャラクターたちを描いたキービジュアルを公開しました!
『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
第1話は、10月2日 日曜午後5時~放送!
▼公式サイトhttps://t.co/hL5hztDNhD#水星の魔女 #G_Witch pic.twitter.com/b8cJ3iur2G
なにせ45年以上も続いている長期IPである。普通なら関係者やファンからの反応を恐れ、伝統や常識を崩すような展開はやりにくいのではないかと考えてしまうところだ。
しかし、小形氏に言わせれば「ガンダムは元来そういうコンテンツ」であり、「常識を覆すのが、『ガンダム』の歴史」なのだという。
そう言い切れる背景には、小形氏がサンライズに入社し、さまざまなクリエイターのもとでアニメを制作してきた経験があるようだ。

今回の講演は、現在に続く取り組みに至るまでの小形氏の歩みを紹介する前半と、あらためて『ガンダム』シリーズの現在とこれからを見据える後半に分けておこなわれた。本稿では、それらの内容を順番に紹介していく。
入社2年目で富野由悠季監督のもと制作進行として働くなかで得た「アニメを作っている」実感
あらためて今回の登壇者は、BNFのガンダム事業本部で取締役本部長を務める小形氏と、モデレーターの株式会社サイバーコネクトツー代表取締役の松山 洋(まつやま ひろし)氏のおふたり。

小形氏は制作進行からキャリアを始め、制作デスク、プロデューサー、エグゼクティブプロデューサーと、長年『ガンダム』シリーズをはじめさまざまな作品はもちろん、それ以外の作品にも携わってきた人物だ。
しかし、大学時代『機動戦士Ζガンダム』を視聴したことがきっかけで1997年にサンライズへ入社した頃は、アニメの作り方も知らない状況だったという。

小形氏にとって最初の転機となったのは入社2〜3年目。富野由悠季監督のもと、制作進行として『ブレンパワード』や『∀ガンダム』に携わった経験だ。松山氏から当時の富野監督の印象を尋ねられた小形氏は、「制作進行という役職の大切さをよく知っている人物だった」と回答していた。
また、当時の富野監督に関しては「若い人の感覚を知りたがっていた」というエピソードも挙げられた。小形氏もたびたび意見を求められることもあったという。
小形氏は、「自身は絵が描けるわけでもないし、制作進行はクリエイターを管理する立場のため基本的にクリエイターではない」としつつも、意見を求められたりそれが反映される中で“自分も作品を作っている”実感を得られたのが大きな経験だった。と振り返っていた。

小形氏はその後、制作進行を束ねる制作デスクとして、『ガンダム』シリーズ以外の作品に携わっていくことになる。

やがて小形氏は『結界師』でプロデューサーとしてデビュー。シナリオを読んで脚本家やテレビ局に意見を言うのもプロデューサーの仕事ではあるものの、新人プロデューサーからベテランたちに意見を言うのはとてもハードルが高く、苦労したという。
一年半にわたって毎週シナリオを読んで打ち合わせをしたそうだが、小形氏は「とても良い経験だった」と当時の苦労を振り返っていた。
また、『結界師』と『テイルズオブジアビス』で監督を務めたこだま兼嗣氏については、富野監督とは真逆のスタイルの持ち主として話題に挙げていた。というのも、こだま氏は海外ドラマのような「定められたフォーマットと予定調和を重視するスタイル」の持ち主だったそうだ。
一方、小形氏いわく「富野さんはそれとは真逆。自分の作品にすらアンチテーゼする。常識を破壊していく人」とのことで、スタイルの違うおふたりのもとで働いたことがとても大きな経験になったという。

『機動戦士ガンダムUC』で初めて『ガンダム』シリーズをプロデュース。より作品を多くの人に届けるためにエグゼクティブプロデューサーへの道へ
小形氏は『機動戦士ガンダムUC』にて、『ガンダム』シリーズのプロデューサーを初めて経験する。監督に古橋一浩氏を推薦したことについては、古橋氏が監督を務めた『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-』のOVA「追憶編」が好印象だったことが理由だという。
監督としての古橋氏は「シナリオに対するドラマの作り方、感情への訴え方といった“生の感覚”を演出に取り込むのが非常に上手」とのこと。そういった特色が、モビルスーツを操縦するパイロットが重力を受けている表現や、パイロットが頭に違和感を覚えたときに思わずヘルメットをかきむしるといった細かな演出として反映されているそうだ。
また、本作の脚本制作においては、原作者である福井晴敏氏と古橋監督、そして脚本家のむとうやすゆき氏と一緒にシナリオを打ち合わせながらおこなった。この経験も、自身のキャリアにおける「宝物」になっているとのことだ。
特に、第4話は原作小説から設定を変えたり、オリジナルの要素を入れつつも物語のいちエピソードとして作り上げたことで、小形氏としても会心の出来になったそうだ。ただし作品全体設計が甘く、当初全6話予定が1話増えて全7話になりスタッフには多くの苦労をかけることになったと振り返る。
ちなみに、ここで“ある会社”との縁ができたことが、後にめぐりめぐって『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』として結実するのだが、当時の小形氏には知る由もないことだった。

その後、『ガンダム Gのレコンギスタ』、『機動戦士ガンダム サンダーボルト』、『機動戦士ガンダムNT』と立て続けに『ガンダム』シリーズに携わり、クリエイターが命がけで作品を作る姿を見た小形氏は、その作品をもっと世の中の多くの人に見てもらいたい、と考えた。そして、事業展開も担当するエグゼクティブプロデューサーへの道を志したとのこと。
そうして事業展開含めた責任者となった小形氏が注目したのが、劇場向けの作品だ。当時、『ガンダム』シリーズは根強いファンこそいつつも、映画の興行収入という視点において家族層やカップル層を観客として取り込めておらず、他のアニメの劇場ヒット作に比べると苦戦が続いていた。
引き合いとして出されたアニメが250館から300館での上映だったのに対して、『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer-』が90館、興行収入約9億円という状況だったという。この現状に対して小形氏は「事業としての判断は正しい」と感じつつも「もっと上を目指せるのではないか?」と考えていたそうだ。

そこで『機動戦士ガンダムNT』からは少しずつ上映館数を増やしていき、2021年に劇場公開された『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』では、新型コロナウイルスの影響を受けながらも興行収入22億円を達成。
その後、『ガンダム』シリーズはテレビ向けの新作として『機動戦士ガンダム 水星の魔女』、劇場版としては『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』や『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』を展開。
そして『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』へと続いていったのは記憶に新しいところだ。


『ガンダム』シリーズの流れを変えた“3つのターニングポイント”。①『ポケットの中の戦争』②『ガンダムW』そして③『ガンダムSEED』
ここからは講演の後半。『ガンダム』シリーズの現状と今後の課題「いかに50周年へ向かうか」についての話題を紹介する。
小形氏は『ガンダム』シリーズの長期化とともに数多くの作品が生まれたなかでも、シリーズの流れを変えたターニングポイントとなる3つの作品を挙げた。

ひとつめは1980年に発売されたOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』。
これはシリーズの中でも初めて富野由悠季氏以外が監督した作品。原作者でもある富野氏の手を離れたという意味で革命的であり、ここでその後の流れにも繋がる「その時代の活きのいいクリエイターが『ガンダム』を作る」という土壌ができたという。
ふたつめは『新機動戦記ガンダムW』。初めてアメリカで放送された作品で、30周年を迎えた今でもイベントなどに当時作品を見ていたファンが家族連れで来てくれることもあり、非常に意義が大きい作品だったと小形氏。
しかし、2001年以降「戦争」を主な題材として扱う『ガンダム』シリーズは地上波での放送が難しくなってしまう。また、日本国内においても『新機動戦記ガンダムW』以降苦戦が続きビジネススキームが崩れていったという。
それを持ち直したのが3つめのターニングポイントである『機動戦士ガンダムSEED』だ。株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントと楽曲の取り組みが始まり、作品のヒットによってプラモデルの売れ行きも好調に。
また、『新機動戦記ガンダムW』とも共通することだが、これらふたつの作品は「女性ファンの獲得・増加」という意味でもシリーズとして風向きが変わるきっかけになったとのことだ。
アニメではないが、2009年に東京・お台場に設置された「実物大ガンダム立像」展示も重要なこととして触れた。それまではファン向けのコンテンツだった『ガンダム』シリーズが、この立像をきっかけに家族層や観光客にも届き始め、潮目が変わっていく実感があったそうだ。
「ガンダムの常識を覆す」のが、『ガンダム』のやり方。“前の作品を潰す”という意気込みこそが、新時代の『ガンダム』を生む
次のスライドで紹介された『機動戦士ガンダム 水星の魔女』については、当初こそ「女性主人公」という点を疑問視する声が挙がったという。そのことも含めて小形氏のもとには「ガンダム(の常識)を壊しているのでは?」という意見が届くことがたびたびあるそうだ。
これに対して小形氏は「歴史上、ガンダムはそういうコンテンツであり、前の作品を潰すような勢いで作っている」自負があると述べた。

「歴史の自己否定」の根拠として小形氏は『機動戦士Ζガンダム』とその続編『機動戦士ガンダムΖΖ』を挙げた。前者では主人公が代わり、前作の主要人物であるアムロ・レイとシャア・アズナブルを「情けない大人」として描いた。後者ではシリアス路線からコメディ路線へ変化したことについて言及。
これに関して小形氏は、『ガンダム』以前から毎年異なるオリジナル作品を作り続けてきた富野監督は意識的に「前に手掛けた作品のことを忘れ、ゼロから組み立てる」ことをしていると指摘した。
『∀ガンダム』と『ガンダム Gのレコンギスタ』で富野監督と働いた経験から、これは週刊誌連載の漫画家の発想に近く、そこまで強く意識付けをしないと同じものを作ってしまうからではないかと感じたそうだ。
そういったこともあり小形氏は、テレビ向けの作品については、その時代の若者が「自分たちのガンダムだ」と思えるものを作る。一方で劇場向けには30代よりも上の従来のファン向けに作品を展開するという制作上のプロデュースコンセプトを明かした。
その結果生まれた『機動戦士ガンダム 水星の魔女』は、大人たちが「こんなのガンダムじゃないよ」と言ったとしても、子どもたちが「自分たち世代のガンダム」として楽しめる。そういう状態を理想形として制作したそうだ。
