「魅せる人狼」との出会い
ちょっと僕の話をしてもいいですか。僕が人狼を知ったのは10年前なんですよ。でも人狼って、やっぱり上手い人が先に吊られがち【※】だったりするじゃないですか。
※吊られる
投票によって処刑されること。
僕なんか、いつもそれとの戦いですよ(笑)。まあ、そこを頑張るのが面白いんですけど。
そういう部分が当時は、ゲームデザイナーとして底が見えた気がして飽きちゃったんです。ところが、児玉さんやマドックさんの人狼のお芝居を見て、驚いたんですよ。観客に見せだすと、人狼のゲームデザインはこんなに変わるのか、と。
どういうことですか?
効率を求めて「あいつは強そうだから早めに吊ろう」みたいなプレイをしてたら、お客さんが面白くないでしょ。すると「この人は上手だから、あとで面白いことをしてくれそう」と思って、残してくれたりするんですね。
あー、なるほど。勝利のための最短距離の解答を出す「効率厨」なプレイが、もはや人狼プレイの「正解」とは限らなくなるんですね。
あと、そうした「魅せる人狼」では「負ける人」が大事になるんですね。ギリギリまで粘って負ける人のおかげで勝った人が輝くし、中途半端な勝ち方をするより格好いい負け方をしたほうが、印象に残ったりもする。
これまでイシイさんが、あえて観客のいる人狼にこだわる理由がよくわからなかったんですが、今わかった気がします。ゲームデザイナーとして「観客のおかげでゲームデザインが飛躍的に向上する」という判断があるんですね。
そういう面白さに気づくと、もうたまらないですね。気がつけば4年もハマってます。
コジマ店員は初日に吊るすべき!?
そういう意味では、N高の子たちは上手だよね。
でも、そもそも君たちは「ゲーム実況」を動画や生放送で当たり前に見てきた世代だよね。だってゲーム実況者こそ、まさに「ゲームを見せる」達人なわけで。
めっちゃ見てますね。例えばコジマ店員さんというアホキャラの実況者がいるんですが、人狼でも「あいつはマトモな情報が出ないから、一日目に吊ったほうが面白い」というお約束があるんです。で、「またかよ!」となるシナリオをみんな面白がるんですね。
たぶん芸能人の方の人狼は「裏が見える」面白さだと思うんですけど、実況者さんの場合は「素が出てくる」面白さですね。普段の素がもっと出る、みたいな。
なるほど。じゃあ、コジマ店員さんと人狼するときは、一巡目から吊ったほうがいいんだ……。
そういう話になるんですか(笑)。
あと、成長を見るのも楽しいです。「最俺」【※】のファンなんですけど、キヨさんなんて最初は全部顔に出るくらいだったのに、最近はどんどん上手くなってるのがわかる。
※編集部注:
実況グループ「最終兵器俺達」の愛称。
実況者さんの場合は、普段から演じてないのがいいんだろうね。テレビの役者さんと違って、ゲーム実況は演技してたら持たないからね。
とすれば、人狼は相性良いでしょうね。役者でさえも普通に人狼をやると、素が出ちゃいますから。
しかも、「魅せる人狼」の場合は、初日に吊られることで笑いを取ってもOKだからね。僕は13人でやる人狼が好きなんですけど、逆にあれなんてアスリートっぽく競い合っても面白くない。
人狼って頭が良ければ強いというわけじゃなくて、みぃやんさんのように第六感に頼る人もいたりして、色々な派閥があるんです。だから、もう何万通りもの戦い方があって、ここがコンピュータでは代用できない面白さなんですね。
なるほど~。
動画投稿文化による「見せる」化
でも実際、ウチのお客さんでも「人狼はずっと“見る専”だったんです」とか言いますもん。僕が始めたときは「人狼を見る」なんて文化はなかったから、すごい話ですよ。「見る専」って何だよ! と最初は思いましたけど(笑)。
そうだよね。
たぶん、今は「競技する」よりも「見せる」ことの方が流行る時代【※】なんだと思います。僕はオリンピックでさえ、「見せる」方向に行っていると思いますからね。映像だって、プールの中からカメラが追いかけるようになったじゃないですか。
※編集部注:
児玉氏は、実は「けん玉」のプロとして、年に100回以上の公演をこなしている。
ああ、そうだよね。ルールもどんどん変えていくしね。
結局、ああいうところに一番お金をかけて、見せ方をどんどん進化させてるわけですよ。そういう時代に動画投稿の文化が生まれて、ゲームでも上手な人が「見せる」方に向かってる。今後、どんなジャンルでも「競技」だけやってる人は大変だと思ってますね。
プロゲーマーとゲーム実況者だったら、はるかに実況者の方が専業は多いですからね。YouTubeが動画に収益還元しだしてからは、もう日本に限らず、世界的にもそうだと思います。
たまにプロゲーマーさんの動画は見るんです。でも、彼らがやるのって『LoL』【※】みたいな戦略性が高いゲームで、動きを理解している人が見るためのものだから、初心者には難しいんです。それに比べて実況者さんは下手でも味になるから、身近ですよね。
※『LoL』
League of Legends。2009年に初リリースされたPC専用オンラインゲーム。総プレイヤー人口が約7000万人超えというビッグタイトルで、非常に競技性が高いことで知られる。
そうなんだよね……って、みぃやんさん、『League of Legends』とかの動画も見るんだ(笑)。
実際、日本は韓国人の選手を取り込んでチームを組んだりしていて、その時点で海外市場よりも盛り上がりが弱いですよね。きっと日本人にとってのゲームは、海外に比べて「競技」というより「楽しいもの」というイメージなんじゃないでしょうか。
なるほど……っていうか、みぃやんさん、何者なの(笑)。
でも、聞いていると……君たちはもう、ゲームのプレイというときに、そもそも「見せるプレイ」を連想している世代なのかな。
はい。そう思います。
まあ、実況動画の再生数の方が、基本的にゲームの売上本数より大きいですから。それに君らが好きな『青鬼』や『マイクラ』みたいなゲームは、間違いなくゲーム実況なしには人気が出なかったゲームだもんね?
だから、自分でやったら「あー違うな」というのが、よくあるんです(笑)。『マイクラ』なんかは人に見せるのが面白くて、何の目的もなく始めても「思ってたゲームと違う」となっちゃうんじゃないかなと思います。
うーん(苦笑)、僕らの時代は「見せるゲーム」って、スポーツや囲碁・将棋ぐらいしかなかったんです。どうやら僕みたいなオッサンが人狼TLPTで知ったことをドヤ顔で喋っても、君たちには「そんなこと知ってるよ!」って感じだったわけだな……。
(笑)
僕は今日も反省して、家に帰れます! 日々反省!