台湾の東方文化は“オタクのタイムカプセル”だった!? 国外で発展中の東方最前線に迫ってきた【第二回博麗神社例大祭 in 台湾・レポート】

 日本では00年代初頭から、長くコミケやインターネットで人気を誇る「東方project(以下、東方)」。そんな日本のオタク文化を代表する大人気ジャンルが、今、国外へと強い広がりを見せていることをご存知だろうか?

 電ファミで以前リリースした記事で、超会議や音ゲー経由で、東方が若い子に人気がかなり波及しているという話が出た。例えば、最近とみに成長してるという東方作品オンリーの同人誌即売会「博麗神社例大祭」では、若い10代のファンが増加傾向にあるという。しかし、東方文化の下の世代への広がりは、なにも国内に限った話ではなく、その人気は国外に拡散しているのだ。

(画像は「第二回博麗神社例大祭 in 台湾」公式サイトより)

 その中でも、とりわけ目立っているのが台湾だ。台湾では、2015年に国外初となる「例大祭」第一回が催され、大盛況のうちに第二回の開催が決定。東方関連の作曲家として知られるビートまりお氏は、その第一回例大祭について「日本の第一回例大祭の頃のような熱量があった」と語っていた。

 一体コミケと共に国内で成熟した、この“ベテラン”とも言えるジャンルが、いかにして国外で若者から人気を博しているのかーー? 今回電ファミでは、その熱気の正体を探るべく、去る5月28日に行われた、「第二回博麗神社例大祭 in 台湾」の弾丸レポートを敢行してきた。

 先に結論を言ってしまうと、現場では日本とは似て非なる独自のオタク文化がはっきりと目撃できた。日本のオタク文化は、海外でどのように受容されているのか――「クールジャパン」の“リアリティ”が垣間見える取材となった。

取材/斉藤大地
文/電ファミ編集部


朝7時、現代的なオタク・リー君との出会い

 2017年5月27日。台湾市内はあいにくの曇り空。我々は、例大祭前日に開催されるライブイベント「博麗神社うた祭 in 台湾」に向かっていた。現在の時刻は朝7時。ライブ開始は夕方16時。早くとも13時ごろから人が来始めるので、「無駄に早く来すぎちゃったね」と話していた。

朝7時にも関わらず、なにやら人影が……?

  にも関わらず、会場入り口と思しき場所には二人の若者の姿が。朝の7時から? そんなバカな。我々は、これから5時間、二人きりで並び続ける彼らに慌てて話を聞きに行くことにした。かくして取材は急遽、想定外の早さで開始した。

朝7時から並んでいるにも関わらず、装備は椅子のみ

  とりあえず、見るからにヤバい貫禄の、右の青年に話を聞いてみることに。

 リーと名乗る彼は今20歳で、今日はまだ東方を知って間もない18歳の後輩(画像左)を引き連れてきたとのこと。後輩を朝7時に連れてこれるカリスマ性(?)に敬服しつつ話を伺うと、どうやら彼らは高校の同じクラスの友達らしい。ん? 20歳で高校生? ってことは、彼は明らかに留年をしている事情を聞くと「ちょっと、イロイロあってネ」と言いながら嬉しそうにテヘッと笑う。このふてぶてしい雰囲気、絶対にただものじゃない。

 彼が東方にハマったのは、5年前。15歳くらいの頃だったという。
 きっかけを聞くと、ニヤニヤしながら「エロホン!」と元気な返答がかえってきた。だが最初はキャラの可愛さで手を出したものの、検索して出てきたYouTubeの『Bad Apple!!』のクールさが、彼を一気に沼へと引きずりこんだ(ちなみに、その『Bad Apple!!』との出会いが、彼の音楽自体への目覚めだったらしい)。そこからは速攻で原作ゲームをプレイし、オンリーイベントに行き、今に至る。エロ本から実に半年後にはオンリーイベントにまで到達していたというのだから、その行動力には恐れ入るしかない。

 ちなみに彼は案の定と言うべきか、熱心な日本オタクで、1年間の日本への留学経験もあった。『マクロス』は初代から全部見つくした強者で、とりわけ好きなのが熱気バサラ。いまどき『マクロス7』を見てる20歳のオタクなんて、日本にもそういないのでは……。今は『Fate/Grand Order』にハマり、「配信日に落としたに決まってんジャン!」と言いながら、見るからに重課金済みのスマホの画面を見せてくれた。

後輩にも話を聞いてみると、東方を知ったのは「つい最近、この先輩に教えられて(笑)」とのこと。他にも彼はリー君からの薫陶を受けており、『マクロス』や『ガンダム』なども教えてもらっているらしい。キラキラした目で「もちろん熱気バサラ好きっす!」と言っており、リー君のカリスマ性に思いを馳せた

 彼らと話をしていると、その外交的でひたすら楽しそうな雰囲気がとても印象的である。自分の好きなものについて語るときには、目がキラキラと輝き出すのだ。テンションが上がると、外なのに突然『突撃ラブハート』を歌いだしたりもする。

 「このオタクの感じ、なにか既視感のある光景だな……」そう思っていると、同伴したスタッフがふと合点して叫んだ。「あー! 彼って、今の日本でいうドルヲタのノリでオタクやってるんすよ!」。確かに、ノリが明らかに、昨今の日本の若い2次元オタクではない。むしろこれは、日本で今や最大人気のオタクジャンルとなった、元気なアイドルオタクたちの雰囲気によく似ている。

サイリウム二刀流で満面の笑み

 半年後にオンリーイベントに参じる行動力、『FGO』に重課金する姿勢、そして朝7時に後輩を引き連れて並ぶカリスマ性——彼は、今をときめく日本のドルヲタが、東方オタクやっているような感じなのだ。

 その後も話が盛り上がりに盛り上がり、ついにはリー君から「例大祭が終わったらうちに来なよ!」とお誘いを受けた。
 自宅の様子は後ほどお届けするが、まあ到着そうそう明らかに日本の東方ではあまり見られないオタクの姿に出会ってしまった。とはいえ、このあとまた別の意味で濃ゆいオタクとの出会いが待ち受けていたのだが……。


余談だが、彼に東方の好きなキャラを聞いてみると、当初はレミリア・スカーレットから入ったが、最近西行寺幽々子に推し変したそうだ。その道に不案内な読者に説明すると、これはいわゆる“ロリ”から“おねショタ”への転向で、実は日本のトレンドと一致していると言えなくもない。そんな話をリー君としていたら、「だてにエロホンみてないからね」という、誇らしげな顔をしていた。性癖バレしてドヤ顔である。

開場直前、意識の高いオタク・リュウ君との出会い

 開場時間が近づいてくるにつれて人がポツポツと集まってきた。その中で、明らかに目立っている男子グループの姿を発見。というのも、他の参加者に比べてやけに力の入った格好をしているのだ。

20歳にして“ボス”と呼ばれる謎の男・リュウ君(画像右端)

 彼らはだいたい20歳前後のグループで、Facebookの東方好きコミュニティで知り合ったネット友達の集まりだという。今日がそのオフ会で実は初対面とのこと。とりあえず話を聞こうとすると、みな「話なら、“ボス”に……」と口々に言うので、なぜか周囲から“ボス”と呼ばれている謎のメガネ男子・リュウ君(画像右端)に話を聞くことに。 

好きなキャラを聞かれて真剣に考え込むリュウくん

 彼は先程のリー君と同じく20歳で、これまた同じく『Bad Apple!!』で東方を知ったとのこと。それがちょうど10年前の10歳のころで、「学校の友達の間でも東方は広まったよ」とのこと。なんなんだ、その小学校は……。そこからゲームを永夜抄、地霊殿、妖精大戦争と総ざらいしていって、原作は旧作まで含めて全部制覇したという。いまどき旧作までやってる東方ヲタなど、日本でもなかなかいないのではないか。

そんなリュウ君に「東方キャラソート・MF 」をしてもらうと、画面左のような結果に。ちなみに画面右はリー君の結果だ

 話を聞いていると、彼は様々なデータベースに通じているタイプの博識なオタクだった。おそらく、その圧倒的な知識量で周囲からのリスペクトを集め、“ボス”と呼ばれているのだろう。そんな彼と話をしていたら、「日台の東方ファンの懸け橋になりたい」という“夢”を打ち明けてくれた。めちゃくちゃ意識が高いオタクだ。というか、小学校に東方を広めた犯人はリュウ君なんじゃ……。

公式サイトに英語版のページが存在することからも、海外での人気の高さが伺える
(画像はLove Live! Official Worldwide Websiteより)

 では、そんなリュウ君の印象は、どうだったのか。リー君が昨今の日本の「ドルヲタ」風なら、彼はちょっと前の世代の「萌えオタ」を思い起こさせた。ネットの好き者同士で東方集団を組織して、ゲームは旧作から全部やり込み、きちんとコスプレの指揮をとる。好きな作品も『ラブライブ!』など、いわゆる2次ヲタ萌え系寄りだ。

 予想だにしないかたちで、うた祭開始前に二人の同い年の濃ゆいオタクと出会った。実のところ、今の日本では、こういうタイプのオタクが、しかも20歳という同い年で、同じジャンルに同居することは珍しいので、少し不思議な気持ちになってくる。一体なぜ、彼らは同じ東方コミュニティの最前で、これほどの熱意をもって共存しているのだろうーー? 

 その謎は2日目、いよいよ始まる例大祭で明らかになる。

ライブ開始! そこには2008年のニコ動の盛り上がりがあった

 ……のだが、その前に、1日目のうた祭の様子をダイジェストでお届けしよう。

開場直前。だんだんと人が集まってきた様子

 例大祭当日を含め、来場者は話に聞いていた以上にとにかく若かった。メジャーゾーンは20代前半で、35歳以上はほとんどおらず、10代の姿も多く見受けられた。男女比は、女性2に対して男性8といったところで、例大祭の方は、それより少し男性の割合が増えていた。

フロア最前列のど真ん中には、序盤から汗だくになって楽しむリー君の姿が。その奥で赤いサイリウムを振りかざしているのは、“ボス”が率いる一団だ

 ライブは全部日本語なのだが、曲を覚えているので印象的なほどにノリが良かった。日本語で行われるMCにも雰囲気でうまくレスを飛ばし、笑いどころではちゃんと笑いが起きる。

 曲目は、ある世代の人たちには“懐かしい”ラインナップだろう。Alstroemeria Recordsの『Bad Apple!!』にはじまり、『Help me, ERINNNNNN!!』や『最終鬼畜妹フランドール・S』、『drizzly rain』でみんなで「う~パチュリー」とかをやって盛り上がる。トリのIOSYSは新しめの曲で攻めていたが、とはいえ『チルノのパーフェクトさんすう教室』で最も湧いた。

今年メジャーデビューした豚乙女

 今の台湾でも、基本的に2008年頃の東方がニコ動で盛り上がっていた頃の楽曲が人気だ。そこで日本との違いがほとんどなかったのは、彼らの多くが『Bad Apple!!』から入り、その後も動画で深掘りしていったからだろう。今や台湾でも、東方の共通言語にあるのは動画なのだ。

打ち上げの様子。台湾でも人気があるビートまりお夫妻

いよいよ例大祭当日! 最前列集団を組織していたのは…?

 そして一夜明けた5月28日。昨日のライブの熱気冷めやらぬままに、例大祭開場となる卡市達創業加油站圓山基地に向かう。すると、そこには果てが見えぬ長蛇の列が伸びていた来場者は約3000人にも及んだという。

 列の先頭に並んでみると、ものすごく早い時間から並んでいたと思しき集団が今か今かと待ち構えていた。早速、前日うた祭をあえてパスしてすごく早い時間に並んだという最前列の参加者に、今日のお目当てについて聞こうとすると「いや、ちょっと自分なんかが言うのは恥ずかしいです……」となぜか答えてくれない。

 最前なのに、なんて謙虚なんだと感心していると、なにやら「代わりに、“ボス”に聞いてくれ」と口々に言うではないか。ん? ボス……? その心当たりのある呼び名に、ふとすぐ後ろを見やると、案の定そこにはボスことリュウ君の姿が!

見覚えのある帽子と細身のシルエット…これは間違いなく“ボス”だ。ちなみに東方と言えば女装だが、入念なリサーチをもとに、こんなにも堂々と女装してるのはリュウ君一行だけであった

 リュウ君一行は、最前列からは遅れて行列に合流したのだが、「非常に長い時間」待機をしてる最中にカードゲームでみんなでめちゃめちゃ仲良くなったとのこと。そしてその先頭組からも、彼は謎のリスペクトを受けることになったのだ。リュウ君は、台湾東方の尖兵たる先頭集団約15人のボスにまで上り詰めていたなんたる戦闘力……。

ちなみに、「疲れたし明日は昼過ぎに行こうかな」と言っていたリー君も、「やっぱり楽しみで寝れなかった!」と言って朝6時には姿を現していた(リー君の姿は画面左端で確認できる)

 いよいよ開場。すかさず、先頭組が素早い競歩でスッと開場入りを果たす。その後、速攻で分裂し、連携を取りながらお目当ての品を「シュッシュッシュッ!」と素早く買い上げていく。そこには日本の同人の、戦闘能力が極まった先頭集団と比べても遜色ない、訓練された動きが展開されていた。

なめるようにスライド買いをキメる女装軍団たち

  おそらくこうした先頭組の機動的な連携はきっとリュウくんたちを中心に拡大していくのだろう……。これから東方、ひいては台湾の同人文化にも、いわゆる先頭集団と運営の静かな緊張感が高まっていくのだろうかーーあるいは今日そのはじまりの瞬間に立ち会ったのかもしれない。そんなことを予感させる開場であった。

先頭組とボス(画像右中央)たちの勇姿
会場は全部で150サークルくらいで、3分の1が音楽、3分の1が同人誌、残りはグッズとコスプレが半々くらいずつを占めていた。日本に比べて2次創作ゲームへの興味が薄く音楽と同人誌が強い

開場直前に聞いた、人気古参同人サークルの歴史話

 ところで、開場前に会場を探索していたところ、とあるブースにすごい量の同人誌が並んでいた。聞けば、そこは古参の人気のサークル「Twilight-日月乃境-」だという。さっそく話を聞いてみた。

1年に1冊程のペースで出し続けているらしい

 彼らは、かれこれ10年ほど東方での同人活動を続けているサークルなのだとか。
 男性の方は34歳で、12年前、つまり22歳のときにゲームの花映塚で知ったのがきっかけのようだ。東方の好きなところを聞くと、「とても自由にキャラの妄想をかき立てられて、2次創作のしがいがあるところ」と、しみじみと語ってくれた。

 台湾での東方同人の歴史をきいてみると、「全盛期に比べて東方オンリーで同人を描く人は少しだけ減ってきてるね」とのこと。その移行先して『刀剣乱舞』と『艦隊これくしょん -艦これ-』の名前を挙げていたその組み合わせは完全に日本と同じだ。

彼らは、自分たちで東方の同人アドベンチャーゲームも作っているそう

 けれども彼らは、そんなことは気にならない様子むしろ「東方は安定していて、自由に好きなことができるから良い」と言っていた。台湾においても、ベテラン同人作家にとって東方は、安定して2次創作にうちこめる安息地となっているのだ。「今後も原作が毎年出てほしい、ずっと同人を続けたいです」——そう語っていたのが印象的だった。

フォロワー数26万人の美人コスプレイヤーに直撃!

 同人ブースの他に、開場でとりわけ目立っていたのが、コスプレイヤーたちの存在だ。一通りお目当てを探し終えたリー君に「写真集も出しているオススメの子がいるんだよ」と案内されて、アリスのコスプレでひときわ衆目を集めるElyさんに話を聞いてみた。

Elyさん。日本への留学経験もあるという。あとで調べたらFacebookのフォロワーがなんと26万人もいる有名コスプレイヤーだった

 話を聞くと、コスプレ歴は10年ほどで、東方、ゲーム、アニメをバランスよくやっていた。ゲームだと『オーディンスフィア』『NieR:Automata』、アニメだと『冴えない彼女の育てかた』『小林さんちのメイドラゴン』など、ラインナップは日本と似ている。東方は2009年頃から好きで、特に狐夢想屋の音楽が好きとのこと。なにより驚いたことに、彼女もまた原作ゲームを一通りプレイしていた

さっそくツーショットにあずかって、ご満悦のリー君。うらやましい

  彼女は衣装を自分でデザインすることもあるらしく、以前出した写真集では、衣装をすべて自分で手がけたという情熱ぶり。
 東方の魅力については「自分の創意工夫を入れてデザインしてもいい自由さが好き」と語ってくれた。今回は残念ながら自作のものではなかったのだが、当日着ていた服もまた、原作とは異なる印象的なデザインだった。 

 ちなみに、コスプレイヤーの中には、日本からの参戦者も。なぜわざわざ台湾まで来るのだろう? 聞くと、そもそも台湾はオタクジャンルの中でコスプレが特に強い国で、世界的にもコスプレイヤーに優しいのだという中には「東方コス初めてなんですよねー!」というノリでやってきた日本人もいた。

十六夜咲夜のコスプレも。「Crest」というサークルのボーカルもしているなぎさMK-02さん。「Crest」は東方サークルの中でも日本人ボーカルだけでなくフランス・中国などなど多国籍なボーカルが参加しているとか

 ちなみに、台湾ではオタ活にあまりTwitterは使われていないのだが、コスプレイヤーたちは日本への告知ツールとしてTwitterを日本語でやっていることが多いとのことだった。

チルノに扮する15歳の女の子。小学生のときにpixivで幽々子のイラストを見てハマったらしい。「東方はクラスの3人くらいが知ってるよ」と言っていた

馴れ初めは音ゲー? 19歳と26歳の年の差オタカップル

19歳の男性(画像左)と26歳の女性(画像右)

 最後に出会ったのは、19歳の男性と26歳の女性という年の差カップル。彼らは音ゲーから東方にはいったクチで、二人の馴れ初めもなんとmaimai【※】がきっかけだという。「ちょっと古めかしくてエキゾチックなあの音楽が好きなんだ!」と語る男性の方が、A-OneとかCOOL&CREATEなどの男らしいボーカルが好き。対する女性の方は幽閉サテライトのファンなのだという。

会場でダントツの人気を誇っていた幽閉サテライトの列

※maimai
2012年7月11日より稼働開始した、セガが開発・販売を行うアーケードゲーム。「ドラム式洗濯機」を彷彿とさせるとてもユニークな筐体が特徴。ちなみに、筺体1つにつき二人までプレイすることが可能。

 音楽以外の部分で強調していたのが、そのシナリオの良さだ。「曲をきくと、原作のストーリーを思い出すの」と彼女は言う。ここでもやはり、台湾のオタクが原作をしっかりプレイしていることが伺える。ここまで原作の世界に興味を持ち、律儀に全てプレイしている人ばかりなのは、正直に言って昨今の日本の同人に慣れてしまった感覚では、けっこう珍しく思える。この後も、誰に話を聞いてみても、みな欠かさず原作をやり、ストーリーを熟知していた。

 最後に印象的だったのが、この19歳の男性が、会場にもあったPS4の新作を見て、「こうしてもっと知られてほしいけど、同人の伝説でもあってほしくて、複雑なんです」と言っていたことだ。見事なまでの「古参」発言! だが19歳の子が、そんな自意識に悩まされているというのは、なんだか微笑ましい。
 この言葉は、ここ数年で急速に発展した台湾の東方文化の「現在」を言い表しているようにも思えた。

例大祭終了〜リー君の家に着くと…そこには大豪邸が!?

 というわけで、例大祭も無事に終了。
 さっそく我々は、約束どおりリー君の家に向かったのだが、我々の眼前に登場したのは、目を見張るほどの大豪邸

 しかもリー君は部屋を4つ持っているとのこと。ちょっと何を言っているのかわからないかもしれないが、彼はトレーニングルーム、寝室、趣味部屋、物置を使い分けて日々生活をしているという。
 というのも、親が大学教授で、年間100万円程のお小遣いもらっているとのことで、ここにきて、末おそろしいレベルのボンボンであることが判明した。とりあえず趣味部屋を見せてもらうと、そこには財の限りを尽くした大量のグッズがあった。

1個で数十万はくだらぬ巨大スピーカー。『Bad Apple!!』で目覚めた彼の音楽趣味はここまで極まっていた
趣味部屋には、両手を広げるほどの東方CDや東方のグッズがあった。ちなみに彼のオタ趣味は部屋に留まりきらず、2階のトイレには『ソードアート・オンライン』のフェアリィ・ダンス編のアスナのタペストリーを壁一面に貼りつけていた
なぜか藤あや子のLPが。なにやら、オタク趣味を通じて年上の友達が増えたらしく、これはその一人にオススメされたものだという

 一体両親はリー君の、この財の限りを尽くしたオタク活動をどう思っているのだろうか。

取材班を快く迎え入れてくれたリー君と、彼のお母さん

 彼のお母さんに話を聞いてみると、すべてのきっかけは夫婦の離婚だったという。
 リー君は当時中学生で、その離婚が原因で引き籠りぎみになってしまったそれから、だんだん東方をはじめとする2次元にハマっていったのだが、当初は心配だったという。ただ、親としても責任を感じていたので、とりあえず息子に勧められた『花咲くいろは』を一緒に見てみたところ、感動的なストーリーに大変感銘を受け、2次元文化に理解を示すようになったとのこと。

 実は、お母さんが大学で教えていたのは観光についてとのことだった。そこで、『花咲くいろは』の旅館に聖地巡礼するためだけに親子で日本に行ったりして、少しづつ親子の関係も修復していったそう。ついには日本への留学を決め、今の明るくて陽気なリー君になって帰ってきたのだった。「だから私は日本のサブカルチャーにものすごく感謝してるんです」——当時を振り返り、リー君母はそう語ってくれた。

例大祭を終えて〜帰りの飛行機にて

 5月29日。リー君の家をあとにした我々は、帰りの飛行機に乗り込んでいた。そしてこの2日間に出会った台湾の東方オタクたちを思い出しながら、“オタクのタイムカプセル”を開けたような、そんな懐かしい気分になった。台湾の東方には、日本では世代ごとに分断されてしまったオタクの類型が、まるでごった煮のようにして一箇所に存在していた。それは、比較的短い期間に浸透せざるをえない“輸入文化”ならではのダイナミズムによるものだろう。 

 短期間に浸透したことによる影響は、他にも感じられた。それは、比較的原作ストーリー自体への興味が薄いと言われがちな、コスプレイヤー音ゲー”のユーザーたちが、激しく原作ゲームへの愛を語っていたことだ台湾のオタクたちは皆、口を揃えて「東方の良さは世界観でつながれること」だと言う。彼らにとって、まずは東方とは原作ストーリーありきのものなのだ。

 この弾丸レポで見たのは、もちろん東方という広い世界観と多様なメディアがあってのことだが、輸入された文化によって多様なオタクがミックスされていく光景だった。そこからわかるのは――オタク文化の形は「決して一つのものではない」ということだ。ひとたび国外へ出れば、それなりに共通点はありながらも、やはり新たな可能性は拓かれていく。東方という既に息の長いコンテンツの、海外での普及のあり方。そこから得られるヒントは、無数にあるように思えた。

【東方ステーション #2】


 うた祭の模様、その打ち上げ、そしてリーくんの部屋の詳細を映像で紹介する予定の東方projectの情報バラエティ「東方ステーション」は、6/11(日)の20時50分開場、 21時00分開演予定です! お楽しみに!

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取材
電ファミニコゲーマー副編集長。「ニコ」出身。
第一回ニコニコ超会議でZUNビールを担当。電ファミでは、ビートまりおの結婚披露宴の生中継や、 東方ステーションなどに携わる。
Twitter:@daichittax
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