オススメの360度カメラは……いくら?
これを撮影するのに使ったのは360度カメラですか? 数万円から手に入るのでだいぶ利用しやすくなりましたよね。
お、技術トークになってきた。使ったのはRICOHのThetaですか?
いや、SamsungのGear 360です。ThetaはフルHDで、Gear360は4K画質なのですが、遠景を撮るとThetaよりもぼやける感じがあって。比較検討した結果Gear 360にしました。
本当は「OZO」という、最近日本で販売開始されたばかりのノキアのハイスペックな360度カメラみたいなのを使いたいんですけどね。カメラが8つついていて、あれなら奥行きも完璧に取れるし。
OZOは360度サウンドが取れるというのも一つの売りにしていますよね。音が入るとぐっと臨場感が上がりますから、次のVRショッピングアプリではぜひ立体音響も取り入れていただきたいですね。
OZOはいくらくらいするんですか?
だいたい600万円です(笑)。
600万円! それで撮った映像が気軽に見られるようになるのはいつの日か……。
Web VRの未来
このVR空間も、360度カメラの写真をつなぎ合わせる形で作ったんですよね。技術的に苦労した点はありますか?
とにかくいかに画像サイズを落とすかが一番大変でした。JPEGの圧縮パラメータを細かく調整したり、10種類くらいのソフトを使ったり、いろいろ試行錯誤して……。全天球画像においては、解像度を下げるよりも、圧縮のクオリティを下げるほうが綺麗に見えやすいという知見を得ました。
解像度を下げると周囲の世界が荒く見えてしまって、没入感が下がっちゃいますからね。
アプリならあらかじめ画像も同梱しておけばいいわけですが、Webだとそのつど通信しないといけないので、重い画像は扱えないんです。
なるほど。そこがWeb VRの泣き所なんですね。
もう小手先で工夫できる余地を超えていて(笑)、今の4Gの通信環境の間は厳しい戦いになると思います。画像を細かくして視線が向いている方向だけ綺麗なものを出すとか、次に表示するべき画像を予測して早めに出すといったことはできるかもしれないですけど、本質的な解決策としては不十分で。5G通信に期待ですね。
それはまったくそのとおりですね。弊社でも2014年に小林幸子さんのライブを360度VR生中継したことがあるんですが、まさに解像度と帯域のせめぎあいが問題になっていました。まだ数年は通信帯域との戦いですね。
今回の出来上がりには完全には納得してないです。まだ体験的にはストレスもあると感じますし。
どういうところがストレスですか?
スマホはマウスやキーボードがないので、基本的には視線で操作することになるんですが、それってやっぱり疲れるんですよね。GoogleのスマホVRヘッドセット「Daydream」も、VRの体験をひたすら研究した末、結局視線で完全に操作するのはあきらめて、リモコン型の専用コントローラーを付属させるようにしたという話もありますし。
新型のGear VRなど、スマホVRにおいてもコントローラーが前提の環境はこれから増えていくと思うので、そうなったらまた新しい体験を提供できるのではないかと思っています。
それに、フレームレートの問題も大きいですよね。PS VRやHTC ViveといったVR専用デバイスでは、VR酔いを防ぐために最低でも90fpsを実現しています。えっと、「VR PARCO」さんはどれくらいのフレームレートを目指して制作されました?
iPhone6の実機で60fpsは出るように作っています。
なるほど。でも、スマホを振るとガクッとフレームレートが落ちたりしません? 平均値だと60fpsくらいあると思うんですけど、場合によってはもっと下がってしまいますよね。これは体験としてかなり残念だな、と。
たとえばSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)はことあるごとに「フレームレートを絶対にドロップさせるな」と繰り返し、口を酸っぱくして開発者に説いています。グラフィックスの美しさより、フレームレートを重視せよ、平均ではなく常時90fps以上を達成しろと。「60fpsを切るゲームは発売させない」とまで言い切ってます。これは本当に素晴らしい姿勢だと思いますし、ドワンゴVR部としても全面的に同意したいですね。
それはどうしてですか?
VRって初めてかぶったときに酔ったり処理落ちしたりといった嫌な体験をしてしまうと、もうその人は二度とやらなくなっちゃんですよ。そしたら市場が狭まって、ゲーム会社が新しいVRゲームをリリースしてくれなくなって……、私たちゲーマーとしては新しいゲームが遊べなくなっちゃうので困るんです(笑)。
確かにそれは困りますね(笑)。フレームレートに関しては、より良い解決方法を模索していければと思っています。
きっかけはエレベーターでの会話から!?
ちなみに、そもそもVR PARCOはどういうきっかけで開発が始まったんですか?
たまたまPARCOさんのメインオフィスがうちのオフィスの一つ上のフロアにありまして。去年の12月にエレベーターで「一緒に食事でも行きましょう」となって、そこから一緒に何かやろうとトントン拍子に進んで、3ヶ月でリリースまでこぎつけました。
3ヶ月! ずいぶん早いですね。どれくらいの人数で作ったんですか?
アプリケーション部分はほぼ一人です(笑)。社内で私以外にVR系の知見のあるエンジニアがいるわけでもないので、海外のコミュニティで必死で情報収集したりしながら、ディレクター兼エンジニアとして製作しました。
それはまた(笑)。企画書を書くところからコードを書くまで全部一人でやったわけですね。ちなみにこれはUnityですか?
いえ、「A-Frame」という、Webブラウザ上でVR表現をするためのフレームワークです。まだあまり活用している人がいなくて、「A-Frame」でググると自分の書いたブログが上の方に出てくるくらいなんですが……。
ちゃんと製品としてリリースされているものはあまりないんですね。
A-Frameを使った本格的なサービスは日本初どころか世界初くらいの勢いだと思います。パフォーマンス管理の難易度が高いので、ゲームを作るには厳しいんですよね。ゲーム以外のVRってまだほとんど注目されていないので。
まだまだ発展途上のWebVR
正直、作ってみた実感としてはどうですか?
私がVOYAGE GROUPにVR室を立ち上げてちょうど半年ですが、技術的な領域の課題はだいぶ見えてきました。ショッピングツールとして便利かと言われると、実験として面白みがあるというくらいで、まだまだの部分も多いなという実感は自分でも正直あります。
まだまだこれから、ということですね。
今はまだWeb VRは知見を貯める段階にあると思っています。いろいろ試行錯誤して、何ができて何ができないのかをとにかく探っていく段階。
今後のWeb VRの行方を見守っていきたいですね。でもまあ、これで少なくとも渋谷PARCOに行ったような気分になれるのは、地方の人には楽しいんじゃないかと……。
いや、実はこれ福岡PARCOなんですよ。
福岡なんですか!?
PARCOさんからの提案で、ECサイト「カエルパルコ」での商品展開に積極的な福岡の店舗を選びました。撮影のために福岡まで360度カメラ持っていって……(笑)。
なかなか行きづらい場所でもすぐに行けてしまうのもVRの価値のひとつですよね。
4月9日までの期間限定なのは、ポップアップショップという位置づけにしているからです。デパートってよく期間限定で作家やブランドが商品を出すお店があるじゃないですか。その一つの形として、池袋PARCOや渋谷PARCOなどに並ぶ「もうひとつのPARCO」としてVR PARCOという店舗が出ているというイメージです。
※PARCOのポップアップショップの例
福岡パルコ新館6階のポプテピピックのポップアップショップは本日までですよー。オリジナルポプテピピックも描けるよ。そして同じフロアの反対側、本館7階の当店でもポプテピピックの商品取り扱いございます! pic.twitter.com/ibyCo8J3Ja
— VV FREAKS福岡パルコ (@vv_tenjin) 2017年3月13日
ちなみにどのくらいの人が利用しているんですか?
公開初日だけで約30,000人が利用してくれたみたいです。注目度は思ったより高かったなと。
なるほど、やはりVRへの興味は高まっているんですね。あらためて、これからの発展に期待します!