つまみを右や左に回すだけのゲーム『Knobs!』、リュートを雷のように乗りこなすゲーム『Ride The Lute-ning』、そして体毛について気まずく話し合うゲーム『Small Talk』。店頭に並んでいたら二度見してしまいそうなこれらのゲームキューブ専用ソフトを、プレイしたことがある人はいるだろうか。
いるはずがない。これらはすべてパッケージだけを本物っぽく作ったフェイク。つまり実在しないゲームなのだから。
Obvious PlantことJeff Wysaski氏は、ありそうでありえない偽物の標識やおもちゃ、ゲームパッケージを作っては、その辺の道端や店頭といったいつか誰かが見つけてくれる場所に放置していく、フェイクアイテムのアーティストだ。
彼はこの珍妙な活動を2015年から続けており、フェイクニュースが身近な用語になった現代社会の人々へ、こっそりと小さなユーモアを届けることに人生をかけている。
蜘蛛まみれになったスパイダーマン人形「Covered in Spiders, Man」や、怠惰で風呂にも入らず1日中ポテチを食べているだけの役立たず男をフィギュア化した「Useless Man」、大量の頭蓋骨を前に勝利の余韻に浸れる子ども向けおもちゃ「The Skulls of Your Enemies」、マペットの叫び声を詰め込んだという空っぽの袋「Muppet Screams」など、Obvious Plantの作品はどれもシュールなブラックユーモアを漂わせながら、日常に溶け込んでいる。
ガチャガチャのカプセルに生卵を入れただけの商品「Pre-Cracked Egg」(割り済みの卵)のキャッチコピー「時短!」「手が汚れない」は、もはや常軌を逸している。
What in God’s green hell is this? pic.twitter.com/ZM1W2JzzS9
— obvious plant (@obviousplant_) 2018年11月2日
一見して何の違和感もないフェイクアイテムは、たちまちソーシャルメディアで脚光を浴び、いまでは累計60万人を超えるフォロワーが彼の新作を心待ちにしている。Obvious Plant印のフェイクアイテム製作はいつしかWysaski氏の本業となり、いまではお気に入りの作品をインターネットで販売するオンラインショップまで構えている。
そんな彼がこのほど、過去に手がけた100点以上のフェイクアイテムを一挙に展示するフェイクミュージアム「Museum of Toys」を、3月1日から17日まで地元ロサンゼルスで開催することになった。入場チケットは10ドルで、公式サイトから購入できる。
ミュージアムで披露される彼の展示物にはそれぞれにプラカードが添付され、フェイクアイテムに関するフェイクヒストリーなど、フェイクの説明文が楽しめる。たとえば、真っ赤な双眼鏡「Let’s Look at the Sun!」(太陽を見よう!)は1957年に普及したおもちゃという設定で、「1960年代以前は太陽を直視することの危険性が知られていなかったために、このおもちゃによって不幸にも多くの視力が完全に失われた」というシュールな説明文が掲げられている。「たった5.98ドル」「何時間も楽しめる」というキャッチコピーはもはや狂気である。良い子はくれぐれも日中に双眼鏡で燦々と輝く恒星を見つめないようにしよう。
The Vergeのインタビューによると、こうした創作物のアイデアはリサイクルショップで素材となる商品を手にした際にひらめくのだという。掘り出し物が見つかるフリーマーケットも欠かせないとのこと。また、最初から作りたいフェイクアイテムの構想がある場合は、特定の素材を探すためにネットオークションサイトのeBayをよく利用するという。今回のフェイクミュージアム開催は、フェイク標識から始まり、フェイク玩具やフェイクゲームへと転じていったこれまでの活動の新たなステップであり、はたして訪れる人々が本当のおもちゃ展だと思い込むのかどうかに興味津々だと、Wysaski氏は語っている。
ちなみに、Wysaski氏の活動には決してフェイクニュース社会を助長しようという意図はない。その証拠に、彼は手がけたフェイクアイテムには必ず自分の作品だと分かるラベルを残している。また、パッケージの裏面には、「この商品は実在しません。すべて嘘っぱちです」という旨の注意書きが明記されている。また、食品や生物を扱ったフェイクアイテムは、衛生に配慮して現場で写真を撮影した後に自ら持ち帰っているという。
ライター/Ritsuko Kawai