20年破られなかった人類の限界をついに突破。『DOOM』の最初のマップのスピードラン記録が前人未到の8秒台へ

 偉大なFPS『DOOM』で一番始めに訪れるマップ、「ハンガー」のスピードラン記録が約20年ぶりに更新された。多くのプレイヤーが挑み、並ぶことはできても超えることはできなかった不滅の大記録がついに破られた。

 世界で唯一8秒台でハンガーを走り抜け、新しい王者となったのは4shockblast氏。正確な記録は8.97秒。難易度はウルトラバイオレント(ハード)だ。この記録を破るプレイヤーが今後現れるだろうか。

 『DOOM』のスピードランで記録更新が難しい理由のひとつは、コンマ以下の秒数が全て切り捨てになる点にある。10.1秒も10.9秒も同じく10秒として処理されるのだ。0.1秒以下の時間を短縮することに比べれば、それがどれだけ難しいかは想像に難くない。

 ハンガー、または「E1M1」と呼ばれるマップは、『DOOM』でも最も有名なマップと言えるだろう。それだけにスピードラン研究も多くの人の手で続けられているが、1998年に「パンター」ことThomas Pilger氏の作った9秒という記録は、長らく人類が到達できる最短のクリアタイムだと考えられていた。スピードラン記録集積サイトSpeedrun.comでは、ハンガーのクリアタイム9秒にPilger氏を含む12名が名を連ねている。

【※】スピードランナーのKarl Jobst氏が、『DOOM』のハンガーのスピードランの歴史やテクニックをまとめている。

 スピードランではさまざまなテクニックが用いられているが、動画を見てわかりやすいのはドアを開く瞬間に少し後ろに下がる動作だ。『DOOM』の移動メカニクスは現実を模倣しているため、移動キーを押した少し後に最高速度に達する。そのため、ドアが開いて先に進めるようになる瞬間に最高速度に達したほうが速い。そのため、少し下がって加速を付けている。

 移動方法にもテクニックがあり、一般的なのはストレイフラン、あるいはSR40と呼ばれるテクニックだ。『DOOM』は単純に前進した場合、単位時間あたり50ユニット、左右移動は40ユニットに速度が設定されている。しかし、前進と左右移動を同時に行うことで、速度は64ユニットとなる。隣辺が40で対辺が50の直角三角形の斜辺は、隣辺と対辺より長くなると考えるとわかりやすいかもしれない。長くなった分だけ単位時間あたりに移動できるユニットが増えると言うことになる。

 単なるバグのひとつとして後のゲームでは修正が施されていったが、修正に合わせてストレイフランはストレイフジャンプというテクニックへと変化、今でも幅広いゲームで応用されるテクニックとなっている。

 『DOOM』にはさらに難しい移動テクニックとしてSR50というものがある。上記のSR40の応用ではあるが、この頃のシューターの特徴だった左右の回転も加えてさらなるスピードを目指すテクニックだ。前進と左右移動だけでなく、ストレイフオンオフ切り替えキー、さらに左右の回転も使うことでさらなる加速が得られる。
 詳しいことはともかく、このSR50を使うと方向転換ができなくなる代わりに、約71ユニットの速度を得ることができる。

(画像はYouTube |  「22 Year Old Speedrun For The VERY FIRST Map of DOOM Beaten!」より)

 これらのスピードを司るテクニックと、正確なコーナリング、そして敵の配置まで味方につけてたどり着けるのが8秒という大きな結果だ。4shockblast氏はYoutubeにてフラストレーションを溜めながら数千回のチャレンジの末にようやくたどり着いたと書いている。しかし、このランでも「まだ完璧とは言えない」と敵の攻撃で相殺された加速を指して振り返っている。そしてこれを見た人へ、家庭や職場、あるいは他のどこでもやることをおすすめしないとアドバイスしている。

 なお、参考記録として同じく4shockblast氏はハンガーをモンスターのいない状態で同じく8秒で走りきっている。こちらは2年前に出された記録だが、今でも破られずに1位に輝いている。モンスターの居ない状態で8秒であれば、理論値はこれが最も速いのかもしれないが、7秒に到達するプレイヤーも登場するかもしれない。新たな記録の登場に期待したい。

ライター/福山幸司

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ライター
福山幸司
85年生まれ。大阪芸術大学映像学科で映画史を学ぶ。幼少期に『ドラゴンクエストV』に衝撃を受けて、ストーリーメディアとしてのゲームに興味を持つ。その後アドベンチャーゲームに熱中し、『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』がオールタイムベスト。最近ではアドベンチャーゲームの歴史を掘り下げること、映画論とビデオゲームを繋ぐことが使命なのでは、と思い始めてる今日この頃。
Twitter:@fukuyaman
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