ゲーム開発者のところにょり氏(@tokoronyori)が11月24日(日)、東京都千代田区のアートスペースにて行われたイベント「Pixel Art Park 6」で開発中の新作を展示発表した。独自の世界観をもった『ひとりぼっち惑星』や『おわかれのほし』などの作品で知られるクリエイターだ。
プレイヤーと同じ時間を生きる老人と犬の生活を見守るゲームを開発中です。いままでのデザインも一新し、すべて最初からはじめるような気持ちでいい感じにあれしていきたいと思います。 pic.twitter.com/fYvIEY100u
— ところにょり (@tokoronyori) November 23, 2019
ところにょり氏は大阪出身で1992年生まれ、現在29歳。大阪芸術大学を2016年に卒業している。開発中の新作は、これまでに発表された『ひとほろぼし』から始まるシリーズと大きく異なる印象である。
しかしツイートで掲載された映像を見ればわかるように、本作もところにょり氏が7年間の執筆経験と、これまでの作品で培った作家性が活かされ、ゲームをプレイした人の考察をかきたてるような作品となるようだ。
「自分がおもしろいゲームを作れば刺さる人は必ずいる」――『ゴッドイーター』『悠遠物語』『ひとりぼっち惑星』まで、話題作のクリエイターたちが自作ゲーム制作のイロハを語る
ところにょり氏は2017年11月に行われたイベント「ニコニコ自作ゲームフェス2018 ゲームクリエイターズ勉強会」で、自らの人生経験とともにアプリゲーム開発における試行錯誤を語っている。
初作品だった『ひとほろぼし』は、ただ人を滅ぼしていくという非常にシンプルなもので、厳密にはアプリゲームではなく「人を滅ぼしていく過程で、行為の意味を感じさせる」アート作品であった。結果としてユーザーからの評価はあまりよくなく、以降は想像をかきたてる要素をより意識して作品づくりをしている。
そして2作目の『ひとたがやし』では、土を耕し苗木を植え、「人を実らせて」前作に登場した怪物と戦わせる。倒した怪物から記憶を読み取って物語が進む形式は、課題であった「単純な作業をうまく偽装する」仕組みの確立や、ユーザーに「行為の意味を感じさせる」ことに成功している。
3作目の『ひとりぼっち惑星』では、暴走した「ジンコウチノウ」同士が戦いあいひとりぼっちになってしまった生物が、宇宙からの声を受信するためにアンテナを建設していく。不特定多数に向けてメッセージを発信したり、逆に誰かが発信したメッセージを受信できたりする「一方通行のコミュニケーション」が生まれ、似た性質を持つTwitterのユーザーをメインに多くの関心が集まった。
4作目の『からっぽのいえ』では、1体の家庭用ロボットが誰もいなくなった家を守るため、家族との暖かい記憶と引き換えに防衛機能をアップデートしていく。あえてユーザー参加型の構想を引き継がず、『ひとたがやし』のように「ストーリーをきちんと読ませる」ことを意識した作品になっている。感受性豊かなユーザーの中には、記憶を消すことをためらってプレイをやめてしまう人も出るほどの深い物語だった。
新作がほぼ完成しました。タイトルは「からっぽのいえ」です。
— ところにょり (@tokoronyori) January 31, 2017
人のいなくなったからっぽのいえを、機械が延々と守り続けます。
審査などにも問題なければ、来週中にはリリースしたいです。
ちなみに、動画のテキストはひとりぼっち惑星のものを使っています。 pic.twitter.com/MPisT3Er2W
5作目の『あめのふるほし』は天気の情報を取得できるサービスを利用しており、「雨の日にしかプレイできない」ゲームとなっている。大気汚染の激しくなったある星では、雨の日にだけ大気が澄み、巨大な機械が行き先もないまま歩きつづける。
『ひとりぼっち惑星』と同様に一方通行のメッセージを贈り合える機能を持つ作品だが、プレイできるのは雨の日だけ。ストレスを感じて早々にやめてしまう人がいる一方で、メッセージを送受信するため、雨の日を楽しみに待つ人もいた。
6作目の『おわかれのほし』は、自分を人間だと思い込んでいる機械たちの村で、ひとり生き残った子どもの機械が死んだ村人の身体を借りていく。身体を借りるたびに流れ込んでくる村人の記憶を頼りに、「あしたしたかったこと」をかわりに行い、「おわかれのばしょ」に身体を置いていく。
物語に触れていき、感情移入が進む過程で「弔うとはどういう行為なのか?」を強く考えさせられるゲームだ。本作はSteamでも配信が行われている。
『おわかれのほし』という新作を制作中です。
— ところにょり (@tokoronyori) May 11, 2018
自分を人間だと思い込んでいる機械たちの村で、ひとり生き残った子供の機械が死んだ村人の身体を借りて、ひとりひとりを弔い、きちんとおわかれをしていくゲームです。 pic.twitter.com/BkNFoyyTCV
ところにょり氏が一貫性をもって続けているのは「作家性を届けること」だ。アプリゲームの寿命は短いが、作品と「おわかれ」することになっても作家が残っていれば、その世界観や雰囲気は未来の作品のどこかに残り続ける。新作に嬉しさを感じつつも、「もしかすると悲しいことになってしまうかも」と予感しているファンも多いことだろう。リリース時期は未定だが、筆者もところにょり氏の新作を楽しみに待ちたい。
ライター/ヨシムネ