群衆の中で、集団に所属しながら個としてのアイデンティティを保ちたい。そんな人間の原始的な欲求を表現するVRアート作品が8月7日(金)にリリースされる。
イギリスに拠点を置くデジタルアートの研究とデザインを行うスタジオUniversal Everythingは、5000人以上の群衆が登場するVRアート作品『Emergence』のSteamストアページを公開した。
本作はアメリカで行われたサンダンス映画祭2019、実験的メディア作品のニューフロンティアショーケースで初めて展示されたVR作品だ。プレイヤーはVRHMDを装着し、主人公を光の柱へと導く。
光の柱に到着すると群衆の行動や環境、重力までもが変化する。トレイラーで群衆は、プレイヤーを避けたり、追いかけたり、あるいはモッシュ・ピットのように無秩序のようにも一定の法則を持つようにも見える複雑な動きをしている。
ゴールにたどり着くだけと単純なパズルに見えるが、大地を埋め尽くすような量の群衆がわらわらと移動する様は壮観だ。
海外メディアWallpaperは、本作を開発したUniversal Everythingを率いるマット・パイク氏へのインタビューを実施している。
パイク氏によると、5000人以上の群衆にプレイヤーの行動に対して回避、追従、模倣など、異なる行動をプログラミングすることで、人間の行動パターンを巨大なスケールで描けるのだという。
パイク氏は、本作を体験した人々の多くが群衆への本能的な恐怖や愛からくるパワフルな経験を得たと語る。それは現実でも人混みに苦労する人々に対して、安全な状態で人混みに触れることで治療できる可能性を示したと考えている。
また、安全な環境で恐怖心に踏み込むため、VRを利用できるか考えるきっかけになることも期待している。恐怖と向き合い、世界を変えてウェルビーイングを向上させるデジタル空間の構築の想像が目標だ。
これほどの群衆を描写する理由が、集団に所属しながら個人としても生きる、現実世界と同じ欲求に基づいたものだと聞くと納得できる気がする。受け取り方次第で単なるテクニカルデモにも、深い考えに基づいた作品とも取れる不思議な作品だ。
人間の欲求を表現する『Emergence』は、Steamにて8月7日(金)発売予定。VRHMDを持っていて興味があるという方は、ウィッシュリストに登録して発売をまってほしい。
ライター/古嶋誉幸