アメリカに住むタイムアタック走者のNiftski氏が、『スーパーマリオブラザーズ』の「Any%」タイムアタックにて「4分54秒948」という世界記録を樹立した。2018年に人類で初めて「4分55秒台」を出したKosmic氏のタイムアタック(記事執筆時点で世界記録4位)からおよそ2年が経つ中、そのテクニカルな大記録があらためて注目を集めている。
「Any%」はゲームの達成度に関係なく最速クリアを目指すカテゴリ。『スーパーマリオブラーザーズ』のAny%においては、本来のファミリーコンピュータとコントローラ、カートリッジでは出来ないことは禁止されているが、ゲームのパフォーマンスを変えないエミュレーターやグリッチの使用は認められている。Niftski氏はキーボードを使って今回の記録を樹立している。
前人未到の4分54秒台を可能にするチャートやテクニックは数年前から理論としては存在しており、タイムアタック記録を収集する海外の「Speedrun.com」でも議論されてきた。しかし操作がシビアで、コンピューターがゲームを操作する「TAS」(ツール・アシステッド・スピードラン)でなければ不可能と思われていた。2017年に理論的には人間でも可能とされる範疇のTASで「4分54秒28」という記録が出た。
2020年末に世界記録を今回更新したNiftski氏は、「4分54秒台は人間でも可能だ」とする動画を公開。自身は挑戦するかは分からないと記していたが、最終的に本人の手で記録が打ち立てられた。海外フォーラムのRedditでは、記録更新に使われたトリックが解説されている。記録更新にはそれまでの世界記録で利用されたバグ技を利用した上で、「8-1フラッグポールグリッチ」(8-1でゴールの旗ざおをスキップする技術)を追加した新ルートだという。この新ルートにより、以前のランに比べて0.3秒から0.7秒の短縮が可能になった。
このフラッグポールグリッチは正確なタイミングでのボタン操作が要求される、かなり難しい技術だ。たとえば、ワールド8-1でのフラッグポールグリッチは猶予フレーム0というシビアさだ。Niftski氏はわずか5分のランの中でこのテクニックを5回成功させた。
ただし、このルートを可能にするには多くの人々の尽力があったことも伝えられている。たとえばワールド8-2はその難度の高さから実行不可能だとされていたが、Kriller37氏の協力でランナーによるトリックの実現可能性が大幅に上がったのだという。
RTA記録集積サイト「Speedrun.com」によれば、現在4分55秒台の記録を持つランナーは12人。その中の約半数はゲームクリア前のワールド8-2までは4分54秒台を達成するペースで走っているという。Niftski氏だけでなく、彼らもまた世界記録を更新する可能性を十分に秘めている。
世界で初めて4分55秒を達成したKosmic氏は、2019年にTwitterにて「4分53秒は不可能です。おそらく4分54秒台が人間の達成できる最高の記録です」と答えていた。はたして、Niftski氏の記録は人類が到達する最高の記録となるのだろうか。今後も『スーパーマリオブラザーズ』スピードランから目が離せない。
ライター/古嶋誉幸