一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会は10月2日(土)、「東京ゲームショウ 2021 オンライン」において、配信番組『ファミ通Presents「RPGの魅力と可能性 ~坂口博信 × 吉田直樹/TGS2021 ONLINE 特別対談~」』を開催した。
『ファイナルファンタジー』(以下、FF)シリーズの生みの親として知られ、最近では代表を務めるミストウォーカーよりiOS向けRPG『FANTASIAN(ファンタジアン)』をリリースした坂口博信氏。対談相手にスクウェア・エニックスの取締役であり、『FF14』と開発中の最新作『FF16』のプロデュースを担う(『FF14』では制作指揮も兼任)吉田直樹氏を迎え、50分間にわたる濃密なトークが展開。ファミ通グループ代表の林克彦氏がモデレーターを務めた。
坂口氏はロサンゼルスの自宅から、吉田氏は自身のオフィスからそれぞれリモートで出演。導入では両氏の接点や印象について簡単に触れ、話す機会を設けるのは久しぶりだという事実が述べられた。
話題は互いの作品の感想へと移り、吉田氏は『ファンタジアン』の背景にジオラマを採用した経緯やビジュアルを仕上げる際のポストエフェクトの処理方法について、クリエイターならではの技術的視点から坂口氏へと質問。また、フィールドの制作にかかった期間やエンカウントを先送りできるようにした理由などを尋ね、クラシックな作風かつ現代的な遊びやすさが徹底されているとの所感を伝えた。
一方の坂口氏は、今回の対談にあわせて『FF14』のプレイを始めたと話す。MMOにはハマると抜け出せなくなるため、これまであえて触れずにいたと話す坂口氏だが、すでにその楽しさを実感しているようだ。かわいいマイチョコボの魅力にも触れ、同作のDLCのシナリオを手がけ坂口氏とも縁の深い松野泰己氏から指導を受けつつ、Zoomで画面を共有しながらプレイに励んでいる旨も明かした。
『FF14』の巧みなゲームデザインに関する議論がしばらく続いたのち、話題は『FF16』へ。ハードなシナリオが展開することから制作側の負担は相当なものだという印象を坂口氏は受けたと述べた。これに対し吉田氏は、少人数でシナリオを制作し、ある程度の規模が整ってからシーンごとに開発を進めていったと話す。同作ではアクション性を重視しているため、完成したシナリオが無駄にならないよう工夫を重ねているようだ。
本対談のテーマにも掲げている「RPGの魅力と可能性」へとトピックは及ぶ。進行役の林氏から、「なぜRPGを作り続けているのか」という本質的な問いかけが両氏へと寄せられた。
坂口氏は自身の幼少期を「空想好きな子どもだった」と振り返り、ゲームの世界の中でそうしたイメージを形にできることが楽しくもあり、開発スタッフがそこに新たなアイデアを重ねてきてくれるのが嬉しいためだと回答。チームでの制作を大切にしてきた坂口氏は、スタッフが実現したい要素が作品に反映され、熱量を帯びていくプロセスが好きだと述べた。
吉田氏も同様に、ゲームの中で豊かなストーリーが表現できる点に魅せられたようだ。小学生のころに触れた『FF』や『ドラゴンクエスト』で物語の魅力に目覚め、『指輪物語』を読みふけるような学生時代を過ごしていたと同氏は話す。制作側の表現だけで完結せず、プレイヤーが自身の手で物語を進めていけるのも、他のメディアにはない特徴でありメリットを感じている部分だと吉田氏は伝えた。
また、林氏からの「最近のRPGでは成長や上達といった要素も魅力のひとつと捉えられているようですが」という話題提起を受け、坂口氏は「そうしたシステマティックな機能が物語のようなアナログなものと合致した時の快感も、RPGが発展した要因かもしれない」と指摘。ジャンルとしてはそこまでカスタマイズ性が高い方ではないが、自ら選択して作り出す楽しみをいち早く取り入れたのが現在の成熟へとつながったのではないかと分析した。
吉田氏は『FF14』や『FF16』はすでに定義が難しい状態にまで複雑化しており、RPGというジャンル的な特徴を挙げるならば「成長要素」になるだろうと述べた。RPGにも主人公のキャラクターになりきる場合と、『FF14』のようにプレイヤー自体が主人公であるという両方のパターンが考えられるが、いずれもプレイの幅が広がる成長軸やカスタマイズなどの機能はあるに越したことはないという。
これを受け坂口氏は、『FF14』のMMOという形式にも関わらずプレイヤー自身が選ばれた唯一無二のキャラクターであるという設定を自然に感じられるデザインを評価。吉田氏は先達の仕事に学んできた方法だと語りつつ、ゲームの文脈の中でキャラクターに感情移入できる点こそがRPGの強みではないかと実感を込めた見解を伝えた。
最後に、「RPGの世界を今後どのように広げていきたいか」という問いが再び林氏より寄せられた。坂口氏は、AR(拡張現実)技術を使って現実世界にキャラクターを召喚できないかと考えていると述べた。吉田氏は同技術を作品に応用できないか研究していると話すも、グラフィック面でのリソースコストが上昇する点や現実空間でストーリーを展開しようとすると「世界を救う」といったスケールの大きな物語を描きづらくなるなど、抱えている課題を明らかにした。
さらに、『ファンタジアン』とも比較をしつつ、現実ベースの物語では作り手の創造性をどのように加えていくかという点も乗り越えていかなければならない話す吉田氏に対し、坂口氏は「いつか『FF14』か『FF16』にも関わりたい。シナリオが無理だったら衣装デザインでも」と希望を伝え締めくくった。