ホラーゲーム『野狗子: Slitterhead』を開発中のBokeh Game Studio(ボーカゲームスタジオ)は、代表の外山圭一郎氏と最高執行責任者(COO)兼プロデューサーの佐藤一信氏、元上司でソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)インディーズ イニシアチブ代表の吉田修平氏による対談映像「Shuhei Yoshida Visits Bokeh Game Studio」をYouTube上で公開した。
映像ではソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCE)時代に外山氏と佐藤氏がそれぞれ携わってきた『SIREN』や『パペッティア』、『GRAVITY DAZE』などの作品に関する制作秘話のほか、吉田氏が考える「世間から見た“インディーゲーム”に対する印象」の変化、時代にあわせた“インディー”の定義に対する意見が語られている。
吉田氏がソニー・コンピュータエンタテインメントアメリカのバイスプレジデントに就任した2000年当時、外山氏と佐藤氏は『どこでもいっしょ』を手がけた桐田富和氏率いる“桐田グループ”のもと、指示と字幕に沿って登場人物になりきるカラオケ芝居ゲーム『夜明けのマリコ』(2001)を制作していたという。チーム制を採用していた当時のSCEは小規模で、予定を抑えて昼間から花見をするほどに奔放な社風だったそうだ。
吉田氏によると1990年代の半ばにはゲームクリエイター発掘オーディションの「ゲームやろうぜ!」が展開されていた経緯もあり、自身のチームで内部制作のメンバーを集める際、即戦力になりうる人材を自然に集められたという。一方、当時に学生であった佐藤氏は面接で意図せず外山氏と出会うことになる。
ほどなくして話題は変わり、外山氏が企画から立ち上げた『SIREN』の話に移っていく。吉田氏は同タイトルで一番大きく印象に残った点としてローポリながらリアルに再現されたキャラクターの表情を挙げていたが、外山氏によると表情の変化は顔に貼り付けたテクスチャをフェードで切り替える手法だったという。
フェードで切り替える手法についてはイギリスのレア社が2000年に発売したニンテンドー64ソフト『パーフェクトダーク』から影響を受けており、“人の顔を撮っただけ”に見えた同作における表現を思いつきと試行錯誤で改良し、現在でもさほど見劣りしないあのビジュアルが生み出されたようだ。
その後は『SIREN』シリーズに関する話を経て、外山氏による『GRAVITY DAZE』と佐藤氏が携わった『パペッティア』の話へ移りかわる。外山氏は新たな携帯機として開発されるPS Vita向けタイトルの企画としてふたつの案を出しており、その片方が『GRAVITY DAZE』であった。佐藤氏によるともう片方の案はホラーテイストを含んだ作品だったそうだが、両タイトルの完成には至っていない。
『GRAVITY DAZE』に関して、吉田氏はPS Vitaに合致したコンセプトやフランス発アニメを思わせる世界設定を高く評価している一方、アクション部分に対する違和感を口にしている。吉田氏の感想を受けて、外山氏は制作中「作っている間になかなか“これだ”っていうところに至らない」とコメント。吉田氏の見解も交えつつ“面白さのイメージ”を具現化するまでの過程が説明されている。
一方、佐藤氏が携わった『パペッティア』について、吉田氏は試作の段階でディレクターのギャビン・ムーア氏にハサミを使う基本アクションの作り直しを指示したという。結果的に『パペッティア』はハサミで進路を切りひらく手触りの良さとキャラクターの可愛らしさ、そしてイギリス出身であるムーア氏のセンスによるブラックジョークが活きた作品となった一方、吉田氏はPS4発売前でのリリースになったことを惜しんでいた。
佐藤氏も「夢で見た」と同意しており、最終的に「PS4のローンチタイトルにしてしまえばよかったのではないか」とのタラレバ話も展開されていた。上記のほか、映像では紆余曲折のなかで佐藤氏が参加し完成に至った『人喰いの大鷲トリコ』とディレクターの上田文人氏に関する話題も展開された。
これまでの話を経て、映像の終盤では開発中の『野狗子: Slitterhead』に関する話題へ突入する。2021年末の「The Game Awards」で公開されたトレーラーを見てインパクトのあるキャラクターに衝撃を受けたという吉田氏は、映像外で作品のプレゼンを受けたのち「(独立後の一作目で)確実に、着実にやっているのかなと思っていたら 実はそうでもない」とコメントした。
外山氏が「やってますよ!」と即ツッコミを入れ笑いに包まれるなか、吉田氏はテーマやビジュアル以外の部分においてチャレンジしている部分へ言及し、インディーならではの“尖ったゲーム”の方向性をふたりに示している。
また、もともとの意味から変わっていき世間の印象までをも変えた“インディー”の定義に関して、吉田氏は「意思決定のスピード」を重要なポイントとして挙げた。大手企業で新しい作品を生み出す場合、インディーであればすぐに取り掛かれるはずのものであっても時間がかかってしまう。
加えて、インディーで大ヒットや多くのフォロワーを生み出した作品の企画書が仮に大手企業で出されたとしても、経営の視点を含む事情からプレゼンの段階で落とされり可能性は高い。その点、インディーには自分が「面白い」と思える作品や新たなジャンルを生み出せる自由がある。
吉田氏は映像の最後で、外山氏と佐藤氏にパブリッシャー(販売元)の力を借りるオプションと、ウェブコミュニティを通じたユーザーとの直接的な交流をアドバイスとして伝えていた。『野狗子: Slitterhead』に関する製品情報は今のところ出されていないため、続報を待ちたい。