【電ファミニコゲーマー編集部より!】
ブラウザの横にあるスクロールバーを見てドン引きした読者諸氏へ!
このページでは、1990年に開催された『蓬萊学園の冒険!』のストーリー紹介とともに、当時を振り返ります。実はWeb上でも、架空史としての蓬萊学園の解説等はあれど、1年間のストーリー進行を網羅的に解説したページは編集部の調査では発見できませんでした……ので、けっこう貴重だと思います。長いけど。
このページを読み飛ばしても3ページ目以降の議論にはついていけますが、その内容を深く理解するためにも、ぜひこのページで1990年の「狂気」の1年間を追体験してみましょう!
──実は今回、この取材を準備するにあたって、中津さんから事前に提供いただいた資料をもとに、各月ごとの出来事をまとめたシートを作成したんです。
一同:
(シートを読む)
新城氏:
なるほど……いや、これ、なかなかよくまとまってますよ。色々と当時のことを思いだしてきました。
──ありがとうございます(笑)。というのは、インターネット上の情報を読み返しても、フィクションとしての「蓬萊学園ワールド」の架空史年表は出てくるのですが、その架空史を生み出した1990年の一年間のプレイヤー動向をまとめた資料が、どこにも見つからなかったんです。
中津氏:
一応、当時の「アクションハガキ」やその返信に書かれたデータをかき集めて、設定などを研究しているような人は結構いるんですよ。終わってから興味を持ち、資料を集めているファンの方にも会ったことがあります。
ただ、当時のリアルタイムでの体験がないと、わからないことも多いですよ。例えば、『蓬萊学園』は元ネタである南総里見八犬伝のように、8人の美少女を集めると、蓬萊学園に隠された「地球最後の秘宝」を手に入れることができるというのがメインストーリーなのですが……それは、後から来た人にはわかりにくいかもしれない。
──へっ!? 事前に何十冊も中津さんから同人誌や当時の冊子の資料をいただいたのですが、あまりそういう部分は読み取れなかったのですが。
中津氏:
ええ、プレイヤーはみんな知っていることだから、わざわざ書かれてないんですよ。だから、その事実を知らなければ、わからないのは仕方ないですね。
──だ、大丈夫なんですかね。かなり準備したのですが、そんな基本的なところで躓きが……この取材、成立するのか不安になってきました(苦笑)。
新城氏:
それに実のところ、私としても『蓬萊学園』の何をもってメインストーリーと呼べばいいのかは、難しいんですよ。なにせキャラ数4700人の群像劇で、目立って活躍できたPCだけでも100人はくだらない。今なお私が把握できていないストーリーもあるし、そもそもプレイヤーにとっては、運営が力を入れていたものがなんであろうと、結局は自分の体験がメインストーリーでしょう。
★深堀りコラム:新城カズマ氏がメインストーリーという言い方に困る理由(文・坂東真紅郎)
一応、ここで『蓬萊学園の冒険!』の“メインストーリー”を大まかに説明すると、「地球最後の秘宝をめぐる7人(+1人)の少女たちと、それに共感・応援し手助けするPCたちの物語」であった。
少女たちはおたがい、出会い、ぶつかりあい、ときには理解しあいながら、それぞれの運命へと向き合う。つまり7つのメインストーリーが交錯しつつ進行する作りとなっていた。
ただし、ストーリーはそれだけではない。
なにせ彼女ら7人に関わるさまざまなNPCにもそれぞれの物語や背景があるし、あまり全体の趨勢には関係のない小さな物語(それこそNPCとの初々しいラブコメのような)も無数にあった。さらには、PCのふとした発言に対して、マスターが悪ノリとアドリブで拡大解釈して、とんでもない壮大なストーリーにふくらんだ例もいくつかある。
そもそもグランドマスター(すべてのメインストーリーを統括する総監督)の柳川房彦(新城カズマ)以下、20人ほどのサブマスター(たいてい1本か2本のストーリーを担当する)がそれぞれにストーリーを抱えていた上に、最終回が近づくにしたがいストーリーは複雑に分岐・融合していった。しかも、それらは後年のPBMほど明確なストーリーラインやシナリオはなく、区分も整理もされていなかった。
最終的に『蓬萊学園の冒険!』にいったいいくつのストーリーラインが存在したか――それは、当時の関係者であってもほとんどカウントできない状態なのである。画像はゲーム終了後、中村博文氏が描いた8人のヒロインのイメージ画。
地方の人も楽しませたかった
──まさに前代未聞の物語ですが、その辺はMMOも一緒だといえば一緒ですね。うーん……でも、やはりいくつかの巨大な流れはあるはずだと思うので、解きほぐしてみませんか。
ちょっと僕も不安なのですが……先に少し俯瞰して整理させてください。
まず、この作品は多数のユーザーによるサブストーリーを飲み込みながらも、大きく三つの流れが存在しているように思うんです。一つは、学園モノの本格ミステリ、二つ目は、学園内の政治闘争によるクーデターです。クーデターは最終的にプレイヤーの投票を経て、日本国からの独立の決定にまで展開します。そして三つ目は、応石【※2】を巡る地下洞窟探索の冒険譚ですね。これはミステリ編からの発展で、そっちが一段落するのとほぼ同時に登場してきました。
新城氏:
なるほど。少しスタート前の私の意図を言うと、そもそも『蓬萊学園』で私が当初作り込んでいたのは、実は三つ目の冒険譚の部分だったんです。
あくまでも「学園」は、冒頭でプレイヤーを入り込ませる舞台設定にすぎませんでした。当時は、素早くそこまで展開させたら「昼間は学生やりつつ、夜にはみんなで南部密林に冒険をしていたら、楽しいだろうなあ」と素朴に考えていたのですが、現実は違いました。
なにせプレイヤーさんの盛り上がりの中で、なぜか学園内でクーデターが起きてしまい、ついには世界滅亡の謎へと進行していくという……(苦笑)。
──その辺の、フルスイングでぶっ壊れていく過程は、ここからたっぷり中津さんたちから聞きましょう(笑)。
I.平和期(1〜4月):4月までは平和に遊んでいた……。
1月~4月:巨大学園の変な日常生活や学園ミステリを中心に展開していた「平和期」
オープニング――。
蓬萊学園に向かう船の中で、PCは夢を見た。夢の中で聴こえてきたのは「8人の運命の女生徒を探し出しなさい。彼女たちが地球最後の秘宝へといたる鍵となる」という謎のお告げ【※】。
やがて、蓬萊学園に着いたPCたち。 しかし、学園生活が始まるもすぐに、人気女生徒・白鳥比奈子が、白昼の校庭で「密室殺人」にあってしまう。ここからストーリーは連続殺人事件の開幕へ。
一体、彼女は「運命の8人」なのか? 密室に隠された謎とは? 学園ミステリ調に事件が進行していく中で、少女探偵・蝦夷川濫子が颯爽と登場する!
一方、蓬萊学園がいかに奇妙キテレツな場所であるかという説明も、ふんだんに盛り込まれて、ストーリーは進行していく。おかしな天才集団の教師、大被害をもたらす学校のイベント、それに翻弄される生徒、島の人たちの日常描写。そして、最初にプレイヤーに配布された謎の石「応石」の実践と理論の研究……。
しかも、生徒会は「SS」に牛耳られており、なにやらたくらんでいるらしいことも匂わされる。SSの途方もない軍事力は明らかに危険だ!
そんな中、学園で巻き起こる──無名剣の盗難、海賊騒動、空港前デモ、仮面の学生騎士……など、数々の魅力的な事件にプレイヤーは大喜び。
さらには、仁義礼智忠信孝悌に対応した8人の美少女たちも、アンヘラ国東(孝)、土屋圭絵(信)、中村渠弓美・早苗姉妹(仁)、アンネリ・ランツィラ(義)などが徐々にわかりつつあった。「8人の運命の女生徒」はこのへんじゃないか? と、プレイヤーは盛り上がっていくのだった。
──ただ、当初の学園モノでのミステリが、どういう流れで事前に構想されたのかは先に聞いておきたいですね。
新城氏:
大きな問題意識としては、ソロプレイの人たち──趣味で、もしくは必要に迫られて、集団に加わらないで『蓬萊学園』に参加しているプレイヤーさんたち──を楽しませることですね。
『88』のもう一つの反省として、友達の少ない地方の人でも楽しめるようにしなければいけないという想いがありました。やはり、あのゲームは都市部の友人が多い連中のゲームなんですよ。
齊藤氏:
そういう面が『88』にはあったと思います。逆に、『蓬萊学園』は「巨大学園」というテーマですから、二次創作でイラストや小説も書けて、誰でも楽しみやすいんですね。ここは成功の肝だったと思いますよ。
新城氏:
ええ。当時の私は「ミニマリズム」に徹したんです。準備期間の半年の間に、『88』から「これは不要」、「これはイケる」と判断して取捨選択したもので構成しています。例えば、リアルの要素は大胆に捨てて、二次元での面白さを打ち出すことでプレイヤーを巻き込もう。写真や演劇を使うのはやめて、イラストと文字で勝負しよう──そんな感じですね。
──無骨にリアルで、謎解きやプレイヤー間の対決をさせていた『88』の内容と比較するとよく分かるのですが、『蓬萊学園』はとにかくPBMの敷居を下げて、多くの人を巻き込むための努力を新城さんがしていますよね。でも、それってかなり物議を醸す決定だったと思うのですが……。
新城氏:
当然、準備段階当初は諸先輩がたの反発というか、困惑がありました(笑)。ミニマリズムの部分はそうでもなかったんですが、主に設定面で……「巨大な高校って、なんじゃそりゃ!?」「いや、とにかく大きくて絶海の孤島にあるんです。それで南半分が密林で……」「へ?」「あと、なんか凄い秘宝も出てきます」「???」みたいな。もっともその後でスタッフ全員ノリノリで学園史を作ったりTV番組表で悪ノリし始めるわけですが。
ただ、やっぱり僕は多くのプレイヤーを巻き込みたかった。本格ミステリを選んだのもそうで、ド田舎で周囲に仲間がいなくても、もし謎解きで「名探偵」になれたら、活躍の場が生まれるじゃないですか。仲間が多いほど有利になるゲームだからこそ、僕は完全にロジックで完結する遊びを導入してあげたかったんです。
ただ、そこで本格ミステリを選んだのは、有栖川有栖さんの『月光ゲーム』を読んだのも大きいですね。当時まさに大ブームが始まるタイミングで、これは凄い流れだから、ぜひ取り入れようと思いました。当時のマニアやオタクの間で流行っていたネタを入れ込んだイメージです。
【インタビュー】『428』イシイジロウの、TVドラマをゲームに変える新挑戦。「謎解きLIVE」最新回の本格ミステリ史における文脈とは?【今週土曜:NHK19時】
※上記のインタビュー内では、チュンソフトのサウンドノベル群と「新本格ミステリ」の同時代性に触れながら、当時オタクの必須教養であった「ミステリ」というジャンルの成立条件などについても論じられた。
とはいえ、私の構想では、学園設定は後半の冒険譚に繋げる布石でしかなかったのも事実です。この導入によって、殺人事件や石の謎がミステリの中で解かれて、冒険に興味が向かっていくイメージでした。
実際の進行では、そこを気にしつつ楽しんでいただいていて、ちょうど6月頃のタイミングでみんな解けました。といっても、ミステリをコアに楽しんでいたのは、少なかったですよ。最終的には10人くらいだと思います。ただ、その頃には、もう私の意に反してメインの興味は学園モノの流れになっていましたけどね(笑)!
──なにせ実はこの頃には、まさかの「学園内クーデター」という大事件が勃発していましたからね(笑)。
II.動乱期(5〜8月):「6.4内戦」勃発! 伝説の裏側を語る
5月~8月:プレイヤーの暴れっぷりが過激化した「動乱期」
4月までは、学園ミステリと「8人の女性」探しで、平和に盛り上がっていた蓬萊学園──。
ところが、5月ぐらいから8人のキャラの「応石」を害する「傷石」というコンピュータウイルスのような存在が突如、明らかに。しかも、旧生徒会役員がそれを保持して学園のみならず世界を支配していたことなども明らかに! しかも、NPCの旧生徒会陣営に、PCの生徒たちは生徒会選挙で大勝利。犀川静による生徒会が成立する。
ところが、NPCの生徒会は学園支配を渡すまいと、抵抗をスタート。武装生活指導委員会(武装SS)の南豪君武というNPCが「学園内戦」を引き起こすことに。これが──かの有名な『蓬萊学園』の「6.4内戦」【※1】である。その後、新生徒会とSS戦力の間で、学園各地を舞台に激しい戦闘が繰り広げられていく。
一方で、連続殺人事件は、無事に事件解決へ。メインの美少女たちの悲惨な過去と現在の話も明らかに。
そこで話題になったのが、6月までに生徒会選挙で「鷹月あやこ」【※2】というNPCが登場したこと。大ボスである南豪君武の妹で、武装SSの女性隊長だった彼女が、実は兄に犯されていて精神的な支配と虐待を受けていたとか、江戸時代から続く衝撃的な家族的な因縁のストーリーが明かされてきて、大盛り上がりとなった。
さて、そんな騒動の最中、「とある出来事」を境に学園内の動乱は一気に収束を迎えていく。
9月以降の話をすると、クーデター事件は、学園の秩序のどのように回復するか(SS台頭以前に巻き戻すのか、それともまったく新たな体制を作り出すのか)といったポリティカルな物語へと発展。やがて幾多の学園勢力を代表するリーダーたちが、新秩序の構築に向けて努力し、最終的には「理想の学園とは?」、「独立とは?」というテーマにまで迫っていくことになった。
では、そんな『蓬萊学園』のストーリーに大いなる深みを与えた「とある出来事」とは? このゲームを伝説に押し上げた、クーデター騒動の顛末を当事者達に聞いていこう。
──ではここで、逆にこの最初の半年に何が起きていたのかを、ユーザー側から聞いてみたいですね。
中津氏:
基本的には、1月から4月くらいまでは、みんな単に楽しい学園生活を送っていたはずで、当初は巨大学園の日常生活や「悪の生徒会」を茶化す程度で、前作のように明確な敵がいて、プレイヤーすべてを巻き込むような話ではなかったと思うんですよ。
ところが5月ぐらいから、8人のキャラの「応石」を害する「傷石」というコンピュータウイルスのような存在が明らかになって、しかも旧生徒会役員がそれを保持して学園のみならず世界を支配していたんですよ。それで、NPCの旧生徒会陣営が、PC生徒たちに生徒会選挙に負けたことで、学園支配を渡すまいと「学園内戦」を引き起こしたんですよね。
確か当時を思い出すと、僕は土曜日に大阪に行って、日曜日に東京へ戻ってきたのですが、既に日曜日には傷石【※】のリプレイが出始めていました。
※傷石
「応石」の一種。「応石」というものをコンピュータプログラムにたとえると、「傷石」はコンピュータウィルスに相当する。他の「応石」を侵食し、支配下においてその所持者を隷属させる性質があり、主に敵役のNPCが所持していた。
──……って、中津さんも土日に関西と関東を往復していたクラスタだったんですね(笑)。
中津氏:
まあ(笑)。
でも、ここで僕たちは初めて──「えっ!」となったんです。この世界に巨大な敵がいたんだ、単に楽しい学園生活ではないんだ、と気づいた瞬間でした。当時の僕らは、まさかこの学園の背後に大きなストーリーがあるなんて想像していなかったです。
新城氏:
なるほど。あそこで持ち出した、傷石と「生徒会の連中は悪であり敵である」という認識が、みんなのテンションを上げたんですね。
いや、僕としてはリアルでの影響を考えて、プレイヤー同士の対立は避けたのですが、やはり物語として二項対立の展開が魅力的なのも、否定できなかったんです。そこで、NPCだけで悪の組織を作るようにして、物語に放り込んでみたのですが、それがバッチリとハマったわけですね。
──でも、だからってここまでの内戦になるのは、やっぱりおかしいですよ(笑)。当時の年譜を見ても、この時期の盛り上がり方は異常ですよね。ただ、よく当時の資料を読んでみると、既に2月の時点で軍事関連の動きがユーザーの間で起き始めているんですよ。
中津氏:
それは……最初の号で中村博文さん【※】に頼んだら、戦車が出てきちゃったのが大きいんじゃないですか。僕らは、「え、戦車あるの?」となってましたから。
※ 中村博文
1959年生まれのイラストレーター、漫画家。代表作に『メルクリウス・プリティ』、『戦国エース』、『ガンバード』など。「どじ」名義で同人活動も行う。蓬萊学園のキービジュアルを担当した人物。その後の蓬萊学園のビジュアルイメージを決定づけたといっても過言ではない。蓬萊学園を描いた絵師はたくさんいるが、いまだに「蓬萊」というと中村画伯の絵を連想する人も多いはずである。鮮やかな色使いや人物の力強い表情が特徴。Twitter:@dozinchi
新城氏:
それだ!
1月号でイラストレーターの中村さんに依頼したら、なぜか戦車を書き込んできたんです。イラストを見れば分かるんですが、どういうわけか学園内の生活指導委員会が、こんな軍事力を持っているわけですよ(笑)。そしたら、「他にもあるのでは」と推論するのが当然ですね。
──そりゃそうでしょう(笑)。
新城氏:
事実として掲載してしまった以上、これをマスターとして否定することは許されない。我々、つまりグランドマスター以下GM【※】陣の、物語世界ひいてはプレイヤーさんたちに対する権限は、無限ではなくて、一度掲載された事実には拘束されねばならないですから。その結果、散々ストーリーを詰めたのに、こんなところからエレガントなロジックが消えていったわけですが(笑)。
※GM
Game Master(ゲームマスター)の略称。。オンラインゲームのGMとは異なり、PBMのGMは「シナリオを作成し、PCのアクションにすべて目を通し、それらのアクションからどのような物語が展開されるのかをアドリブ判定し、できあがった物語を小説風リアクションとして記述する人」を指す。つまり、TRPGのゲームマスターとしての職分に、小説家としての才能まで要求される、なかなか過酷な商売である。しかも、それをわずか1週間程度でこなさねばならない。ひとつのPBMをすべて統括する最高責任者をグランドマスターと呼ぶ。『蓬萊学園の冒険!』のグランドマスターは柳川房彦(新城カズマ氏)である。グランドマスターの元、枝葉となるストーリーを担当するのがサブマスターで、『蓬萊学園の冒険!』の場合、のべ20人ほどのサブマスターが従事していた。
──カオス理論の「バタフライ効果」【※】みたいですね(笑)。でも、いまイラスト見てますけど、「革命的自治会解放戦線、記念講堂に乱入」とか描かれてて、そもそもそういうゲームだと思うだろ! とも思いますが。
※バタフライ効果
力学用語。わずかな力が加わることによって、結果として物体や事象全体にまるで予想もつかなかったほどの大きな変化が訪れる作用を指す。実際、PBMというものはマスターとプレイヤーのかけあいによるアドリブ(と悪ノリ)が及ぼす、まさしくバタフライ効果的な側面から生まれる奇想天外な物語に面白さがある。
新城氏:
まあ……そこは基本的には、私も含めてマスターにミリタリー要素はあったんです。
だって、軍事練習だのSSだのがあって、なぜかふと気づけば整理整頓委員会にカダフィという名のPC【※】が入ってるわけですよ。そりゃミリタリー展開になる要因があったのは否めないです。正直なところ、僕ら自身も悪ノリをユーザーと互いにキャッチボールしていった果てに、ついエスカレートした結果だとは思うんです。
※カダフィ
PCのひとり。本名(自称)はパシャ・アブラハム・ムハンマド・イブン・アリー・アクバル・シュレイマーン・エミール・マフディ・カダフィ。元武装SS元帥。ゲーム序盤から中盤にかけては、元ネタとなった本家リビアのカダフィ大佐よろしく、武装した1部隊を率いて転戦、シナリオのミリタリー路線化に一役買っていた。「6.4内戦」で唐突にSSに反旗をひるがえし独立。以後は、「神の預言者」を勝手に名乗り、「マフディ党」(後述)を立ち上げ、ただでさえ混迷する学園情勢をさらにややこしくした。担当マスターの六行道士(有坂純氏)の悪ノリによって、最終的には「学園太守」の称号を手に入れてしまう。ある意味、もっともおいしい思いをしたPC。その後、ラノベ作家・竹雀綾人氏として集英社ダッシュ文庫よりデビュー。@takesuzume
齊藤氏:
だって、途中から学園内の海洋冒険部【※】の連中とか、普通に潜水艦を持つようになってたでしょ。
──どんな学園なんですか(笑)。
新城氏:
僕らは「潜水艦あるんですか、なるほど。じゃあ……」みたいな感じで、もう面白い返しを考えてただけだったんですけどね。
とはいえ、犀川生徒会【※1】の選出からクーデターまでの流れは、私にも分からないことだらけです。一体、プレイヤーさんの間で何が起こっていたのか……。シモーヌ副会長【※2】が派閥にいかれちゃったという話くらいは聞いてますが……。
※1 犀川生徒会
「犀川静」というPCを筆頭とする1990年時の新生徒会政権。「PCがゲーム途中で新たな生徒会長になる」ことはグランドマスターの構想としては当初から予定されていたようで、生徒会選挙はゲーム前半の大きな話題の一つだった。生徒会選挙は、会長・副会長・第一書記・風紀委員長・非常委員長の5人の候補を集めて、公約を自分で自由に決め、選挙ポスターと称するイラストを描いて投稿することで行われ、ゲーム参加者全員の投票で決められた。ちなみに犀川生徒会の公約は「自存、自衛をまっとうするために日本からの独立を目指す」とあり、以後犀川生徒会が崩れた後も「学園独立問題」は学園の大きな課題として残されることになった。ちなみに犀川静のイラストを描いていたのがのちに『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のキャラクターデザイナーとなった、ことぶきつかさ氏である。Twitter:@t_kotobuki
※2 シモーヌ副会長
PCのひとり、シモーヌ・ウィンド氏のこと。蓬萊学園第73代副生徒会長。当初は犀川生徒会の一員として活動していたが、内戦を機に犀川政権とはたもとを分かつようになり、学園政治家として独自路線を歩む。改革派指導者のNPC「アンネリ・ランツィラ」と協力して学園の秩序回復に尽力した。
クーデター首謀者を近くで見た男
──とすれば、ここからは齊藤さんの出番ですね。実は齊藤さんはこのクーデターの関係者の非常に近いところにいたそうで……そもそも当初、どういう関わりだったのですか?
齊藤氏:
『蓬萊学園』には当初から『88』のコミュニティ【※1】があったのですが、俺はあえて単独行動をしてたんですよ。仲のいい連中と情報収集はしてましたけどね。俺が誘った友達がやたらオフ会を開くので、「面倒くせえな」とか思いながら泊まりのオフ会とかに行ったりしてました。
で、俺は前作からコアにやっていた経験を活かして、犀川静【※2】の懐刀として働いてました。
※1 『88』のコミュニティ
PBMの参加者はおたがいに連絡をとりあい、緊密な情報交換体制をとるため、ゲームが終わってからもそのまま以前に構築されたプレイヤーのネットワークが機能することがある。中には、仲良くなった者同士でゲームに登録する段階からつるんで同じ同好会に所属したり、生徒会選に立候補したりするような者もいた。ごく自然ななりゆきではあるのだが、初めてPBMに参加する人からすると「なんだか古株じみた怖い人たちがいる」という認識だったようだ。このような経緯から、『ネットゲーム’88』出身者の一部は『蓬萊学園の冒険!』当時は「88マフィア」と呼ばれ、敬遠される傾向にあった。この「以前のプレイヤーネットワークをひきずってしまう情報不均衡問題」は、以後のPBMでもしばしば問題視された。
※2 犀川静
PCのひとり。蓬萊学園第73代生徒会長。性愛研所属。いわゆる、えっちなお姉さんキャラ。内戦の頃までは比較的うまく立ち回っていたが、犀川静を操るプレイヤー氏が政治・経済よりも冒険シナリオの方にからみたかったらしく、10万人の学園生徒を代表する指導者という身でありながら、かなり大胆かつ軽はずみともいえるアクションをかける傾向にあった。それが元でとうとう南郷君武の傷石に取り込まれてしまい、最終的には学園の敵として強制的に公開退学刑に処される憂き目(当初は絞首刑だったのが減刑された)に遭うこととなった。犀川静を演じていたプレイヤーは現在、漫画編集者・漫画原作者の山咲まさと氏として活躍中。@m_yama_3
──第一次生徒会長選で選出された人物にして、クーデター騒動の中で11月に逮捕される人間ですね。あれ、でもこの人ってNPCじゃなかったんですか? メチャクチャにキャラが立ってる上に、メインストーリーに絡みまくってるので、てっきり……。
一同:
いやいや(笑)。
中津氏:
そうか、あとから読んだ人にはPCとNPCの区別が付かないんですね。【※】
私も当時のプレイヤーさんに話を聞きましたが、本当に一筋縄でいかない人だったそうですね。その人曰く、「相談を持ちかけているのか、そのふりをしてハメようとしているだけなのか分からない」という(笑)。内戦のときにも、合意事項とはまったく別のことをやり始めるものだから、騙されてるのか計画変更があったのかさえ不明。結局、そのまま退学刑になったので真相を確かめようがない……と話していました。
※『蓬萊学園の冒険!』終了後、PCは「以後、NPCとなるかPCのままでいるか」を選択することができた。NPCとなった者は、遊演体によって今後発売される『蓬萊学園』関連のさまざまな作品に勝手に登場する可能性がある。PCのままだとその特典はないが、今後もTRPG版などで自由にできるというわけである。これにより、多くのPCがNPC登録することになったため、ややこしいが『蓬萊学園』には「元PCのNPC」がたくさんいるというわけである。
齊藤氏:
うーん、彼女は一時期は生徒会を牛耳るところまで行ったけど、あまりにも裏で動きすぎて、最後にやられちゃったんです。
──なるほど……。
齊藤氏:
俺は、犀川さんとオフイベで会ったときに、仲間に誘われたんです。
そのときに「もう、俺は表に出るのは嫌だ。だけど、貴方のお手伝いくらいはしますよ」と約束しました。だから、俺は裏にひそむ暗殺部隊の人間でしかないんです。本当はクーデターの動きがあったキナ臭い月なんて、本来なら単独行動で別の集団にスライドしてもよかったくらいですよ。
でも、やれなかった。その気になれば、俺は彼女を裏切って、殺すことさえ出来たんですけどね。
──そ、そうなんですか。
齊藤氏:
俺は「刃の傷石」という刃を生み出す応石を持ってたんです。なにかあったら、最後はそれで自分諸共、彼女も刺してしまえばいいと思ってました。「死人を悪く言う奴はいない…」というセリフを書いたところまでは覚えています。
でも結局は、俺は彼女のそばで、最後まで見届けたくなっちゃったんですよ。
だから、迷いに迷った挙げ句に、彼女を助ける側に回ることに決めました。最後まで本当に悩んだんですけどね。でも一応、現政権が倒れたとき、彼女は逃げることに成功しています。もう記憶の彼方の出来事だけど、実は彼女は死んではいないはずですよ。
──確かに、最後はあくまでも「公開退学刑」ですね。
……ただ、えっと(苦笑)。なにやらスパイ小説一冊分くらいの劇的なドラマ【※】が、二人の間で展開していたようなのですが……これ、読者はついて来れてるんですかね。一応、齊藤さんはゲバラみたいな革命運動の闘士とかじゃなくて、スクウェア・エニックスという一部上場企業のエラい人です(笑)。
※PBMは「体験」を重視するゲーム性のため、個別のキャラクターをめぐるドラマは、当事者たちの間にしかないということもよくあった。ここでも、犀川氏と齊藤氏の微妙な関係をめぐるドラマは、「蓬萊タイムズ」にもリアクションにも記述されておらず、まさに二人の記憶の中にしかないということになる。語り部がいなくなれば、そこで消えてなくなってしまう物語である。
新城氏:
いやあ、当時は我々もキャラの動きを見て、「この生徒会はヘンだぞ」「会長と副会長が別の動きをしてるぞ」とかは把握していたのですが、そんな我々には分からない感動の展開があったとはね……!
でも齊藤さん、当時はどうだったんですか。犀川生徒会と他のプレイヤー同士は、やはり互いにもめ事を収拾させようとしたんですよね。
齊藤氏:
いや、ロジックで話し合う雰囲気はなかったですね。最後は本当に「力技でいくぞ」というムードだった印象しかない。銃が使えない前提の中で、相手が強すぎたこともあって「武力には武力を」【※】という感じでした。
新城氏:
ああ……ああ、政治が起きている。もはや、むき出しの政治ですよ。
中津氏:
でも、誰もがそんな感じで盛り上がってましたよ。プレイヤー同士も、みんな運営からそのくらいの期待はかけられてると思ってて、「誰が将軍で誰が●●だから、お前は殺人するべきだ」とか、普通にそのくらいは会ったときに話していましたから。
──渋谷のファーストキッチンとかのテーブルで、女子高生たちに白い目で見られながら……(笑)。
7月、星祭りで奇跡は起きた…? 事態は急展開
──そして、このクーデター騒動の周辺から物語が複雑化していきます。状況を整理すると、新城さんたちはメインストーリーへの布石として、応石という秘宝を巡る冒険に向けて、本格ミステリの物語を進行させる。一方で、学園内で起こったクーデターは、展開をどんどんきな臭い方向に進めていきます。
でも、ここで7月に早くもターニングポイントになる出来事が起きるんですね。それが8月に月報で送られてきた「星祭り」【※】です。
新城氏:
これは私の記憶に残っている限り、最もエレガントなフリーアクションの解答【※】でした。
学園内で6.4内戦が勃発して、戦いが激化して死人も出るかもしれないという時期に、星祭りという当初から予定していたイベントが開催されたんです。
そこで、とあるプレイヤーが自分の応石に向けて、「武器の使用を止めてくれ」と祈りを捧げたんですよ。応石には「戦闘できる」という設定もある一方で、「物理現象に影響を与えられる」という設定も出していたんです。それを彼は利用しました。とはいえ、そのプレイヤーからすればダメ元ですよね。
でも、その人は1ヶ月分のアクションの権利を費やしてまで、みんなのために命がけで祈りを捧げました。
私からすれば、それは当初の『蓬萊学園』の学則に則った行動であるし、何よりエレガントな解答だと言わざるを得ない。それを採用して武器は動かなくなり、展開は一気に変わりました。本当に素晴らしい出来事でした。
※1 エレガントなフリーアクションの解答
しかも祭りを主催したPCである曖昧模子は、その当時序盤からのフリーアクションの連続で「体力」を使い果たしており(フリーアクションには「体力」というリソースを一定量消費する)、プレイヤー氏は「次も連続してフリーアクションかけたら死んじゃうかも知れない」とかなり戦々恐々としていた。
中津氏:
あの……あれはフリーアクションから出た展開だったんですか。当時はクーデターでの内戦激化から、もう流れるようにビシッと展開が決まっていて、プレイヤーは「すごい! なんか完璧なストーリーができてる!」と思って感動していたのですが……。
新城氏:
そこは、まさに「中の人」との見え方の違いでしょうね。
僕らからすれば、ひたすら毎月「張りぼて」を作っては、プレイヤーの回答で作り直すことの繰り返しですよ。ちょっと先に行って建ててるだけですが、後から来た人には素晴らしいロケーションに見えるわけですね。まあ、僕らも必死ですから、毎月必死になって「これはこういうことだったのさ、ハッハッハ!」みたいには書いてましたけどね(笑)。【※】
ともかく、その回答を読んだ僕は他のマスターに「というわけで、武器の使用はダメになりました」と言い渡しました。意外とフリーアクションで話の方向性がガラッと変わる……というか、ろくに決まってもいなかった展開が決まっていくんですよ。
※『蓬萊学園の冒険!』は後のPBMと比べると、とにかくアドリブ性の強い物語だった。このターンには星祭りによって「地球最後の秘宝」への道筋が示されるが、なんとゲーム開始時には「地球最後の秘宝」の正体がなんであるか、まったく決めていなかったというのである。ゲームが進むにつれて、どこかの時点で「これはどうやら地球空洞説で決まりだな」とアドリブで決めたというのだ。
──まさにユーザーと一緒に物語を作り上げていったんですね。そこで一つお聞きしたいのは、フリーアクションの回答をメインストーリーに採用する際の基準ですね。
新城氏:
大変に理系的な発想ではあるのですが、少ない前提から多くの説明を引き出せる「エレガントな解答」を、なるべく採用していました。例えば、一つのキャラの行動が「ドミノ倒し」的に変化を与えていくような行動は、物語を進行させる上で効率がいい。よって、採用すべきです。
それは、僕たちの運営のメタルールでした。このメタルールは、作っている側をも縛るんです。否定するには、ユーザーのさらに上をゆく上手い言い訳をしなきゃダメでしょう。そうじゃないと、面白くはならない。翌月にいきなり強引に話を切り替えたら、がっかりですから。
齊藤氏:
なるほど。ちなみに、俺には投稿が採用されるための方法論があったんですよ。
それは「送られる側の気持ちになりましょう」ね。汚い字でフリーアクション書くのは、ダメ。俺は常にワープロで書いて、ギリギリ見られるサイズまで文字数を落とした文章を貼り付けてました。あえてセリフも別の場所に書いて、「採用したければどうぞ」程度に入れておいて、運営者の考える手間を減らしてあげてね。
中津氏:
さすがだなあ(笑)。
──後にゲーム会社でプロデューサーになるような人は、さすがプレイヤー時代から抜け目ないですね(笑)!
新城氏:
ハイ、そういう面も否定しがたくあります(笑)。
続けていると、明らかに採用されやすい人がいるんです。その理由を分析していくと……「字が読みやすい」という要素が浮かんできました。達筆である必要はないけど、明快な読みやすい字であるのは強い要因でした。短い時間で主張が伝わるので、印象に残っていくみたいですね。
でも、TwitterでRTされる文章も、やっぱりあの140文字の中で読みやすい内容でしょう。結局のところ、我々は文字で「コミュニケーション」をしているにすぎない。そういう「メディア特性」を意識した配慮ができてるかも含めて、我々は発せられた言葉の信頼性を判断しているのだろうと思います。
──表現において、どこまで「伝わりやすさ」にも配慮できるかは、本質的な話ですよね。それどころか、鳥嶋和彦さん【※】が漫画のコマ割りについて言うように、表現の本質に肉薄するものであるかのかもしれない。
とまれ、ここからは、学園紛争の後のポリティカルフィクション路線と、当初から予定していた冒険譚としての地下空洞説の二段構えの構成でメインストーリーは進行していくことになりました。
【全文公開】伝説の漫画編集者マシリトはゲーム業界でも偉人だった! 鳥嶋和彦が語る「DQ」「FF」「クロノ・トリガー」誕生秘話
※鳥嶋和彦
1952年10月19日生まれ。白泉社代表取締役社長。1976年に集英社へ入社後、『週刊少年ジャンプ』編集部に配属される。編集者として鳥山明、桂正和に代表される多くの漫画家を育成。『ジャンプ放送局』や『ファミコン神拳』といった企画ページも担当し、1993年に『Vジャンプ』を立ち上げた。原稿を容赦なくボツにする“鬼の編集者”としても有名で、『Dr.スランプ』のDr.マシリト、『とっても!ラッキーマン』のトリシマンなど、ジャンプ連載作品に登場するキャラクターのモデルになっている。
★深堀りコラム:『蓬萊学園の冒険!』アクション&リアクションの実際(文・坂東真紅郎)
ここの会話でアクションが採用されるかどうかについて、議論されている。そう、実のところ、フリーアクションをいくら送っても、実は採用される確率は非常に低かったのだ。
そのことを理解する前に、あらためてアクションとリアクションの実際の流れを確認してみよう。例えば、会誌『蓬萊タイムズ』に、
・学園の外で怪獣が暴れている。すでにいくつかのクラブが迎撃を試みているが、まるで歯が立たない
というニュースが載っているとする。すると、その月の定番アクション選択肢には、以下のようなものが並んでいるだろう。プレイヤーは、下記の選択肢から上旬・中旬・下旬の3つまでの行動を選ぶことができるのだ。
A)危険がないように遠くから怪獣をながめに行く
B)武器を手に怪獣討伐隊に加わる
C)怪獣に関する情報が旧図書館にないか調べに行く
D)怪獣など無視してひたすら授業に出て勉強する
すると、それぞれの選択肢に対応した定番リアクションが返ってくる。例えば、「きみは噂の怪獣を見に出かけた。そこにはきみと同じく大勢の野次馬がおしかけて、えらい騒ぎになっている……」といった具合に。ここで次回のヒントとなる簡単な情報と、場合によってはなんらかのアイテムや応石が手に入ることもある。
ただし、PCはその場に集まった「その他大勢」としてあつかわれ、個人的な活躍や描写は一切ない。積極的に物語に関わり、ストーリーを変えていきたければ、定番選択肢を3回とも捨てる代わりに選ぶことができる「フリーアクション」を行うしかないのだ。
では、フリーアクションの方は、どんなものか。こちらは、プレイヤーが思いついた「やりたいこと」を空欄になんでも自由に書いてよい。どんな鋭いことを書いてもいいし、どんなバカげたことを書いてもいい。「腕力で怪獣をねじふせようとする」「怪獣に酒を呑ませて酔い潰す」「アイドル研としては乙女の涙と歌で怪獣を説得して帰ってもらう」「任侠ヤクザ研なので怪獣の舎弟になる」「お料理研のメンツにかけて怪獣を食材として料理する」……実に自由である。
ただし、GMはすべてのフリーアクションに目を通してはいるものの、よほどアイデアに優れたもの、センスの光るもの、情報を正しく分析し、独自の推論にいたっているもの、そしてなによりも「それを採用することで全体のストーリーがより面白くなるもの」でなければ、フリーアクションとして採用しない。
当時のフリーアクションの成功率は、担当マスターと件数にもよるが、約10~20%程度だったと思われる。ストーリーに貢献し、『蓬萊タイムズ』にも名前が載るようなフリーアクションとなると、1%程度だったかも知れない。ほとんどの行動は不採用(ボツ)となり、アクションは空振りとなってしまい、PCは1ヵ月なにもできなかったことになるのだった。このため、1年間ずっと不採用になり続け、一度も出番などなかったというプレイヤーもたくさんいたのである(むしろ、その方が比率的には多かったと思われる)。
……ところで、課外活動はどうだったのか?
──というわけで後半の展開に行きたいところですが……その前に一つ。ここまでの会話はあくまでもメインストーリーの話でしかないです。でもプレイバイメールの本領は、まさにプレイヤーが生み出す無数のサブストーリーやリアルでの交流の中にあったと思うんです。
齊藤氏:
部活や委員会があったけど、どこに入るかが大きかったよね。例えば、図書委員会【※】はコアにストーリーに食い込むことになったじゃない。
※図書委員会……学園自治の一環として、学内の図書館の管理をとりしきる委員会。本の購入や整理、修復、貸し出し管理などを行う。キテレツな団体の多い蓬萊学園の中においては、比較的イメージしやすい「普通の」委員会といえる。後述する旧図書館整頓隊を除けば……。
中津氏:
「旧図書館整頓隊」【※1】ですね。後に、赤松健さんの『魔法先生ネギま!』【※2】にも採用された設定です。『蓬萊学園』では図書館に、クトゥルフ神話【※3】ネタから引っ張ってきた魔導書なんかが色々と置かれている設定があったので、プレイヤーが探検したんですよ。第二次はゲーム中で最も参加者の多いイベントになって、メインストーリーにまで絡みました。
「魔法先生ネギま!」の巨大学園設定は、蓬莱学園の影響下にある。31人の美少女はモーニング娘を参考に設定された。投票結果による露出度変更は、ジャンプのキャラ人気投票を意識した。
— 赤松 健 ⋈(参議院議員・全国比例) (@KenAkamatsu) July 14, 2014
※1 旧図書館整頓隊
蓬萊学園には2つの図書館がある。新図書館はごく普通の図書館だが、旧図書館はすでに使われておらず、しかし古い本がそのまま置き去りにされており、しかもなぜか通路や壁が入り組んだダンジョンと化していて、おまけに怪物化した本が襲いかかってくるような人外魔境と化している。過去、数回にわたり図書委員が「整頓隊」と呼ばれるアタックチームを編成し、旧図書館の本の整頓を試みたのだが、浅い階層で遭難・挫折する憂き目にあってきた。実際に命を落としたPCもいる。90年時には第5次、第6次整頓隊が組織され、メインストーリーにもからむ大成果を上げている。その後も数度に渡り、整頓隊が組織されてきた。
※2 魔法先生ネギま!
赤松健が2003年から2012年にかけて「週刊少年マガジン」に連載していた漫画作品のこと。略称は「ネギま」。女子中学生のクラスを魔法使いの少年・ネギが担当するという設定のドタバタラブコメとしてスタートしたが、次第に「父親越え」のテーマのもとバトル路線の側面も登場した。TVアニメ、実写ドラマ、劇場版アニメといったメディアミックスも進んでいる。本作の「図書館探検部」は、「旧図書館整頓隊」同様、図書館にある奇書・魔道書の整理回収のために編成された部活である。
※3 クトゥルフ神話
米国の幻想小説家ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの小説群を元にして作られた架空の神話体系。太古の地球に存在していた強大な力を持つ異形のものが現代に蘇るというモチーフを主体としている。
齊藤氏:
あと、海洋冒険部も盛り上がってた。
中津氏:
さっきも話に出ましたが、海洋冒険部は潜水艦を持っていたんですよ。そうそう、ちょうど『沈黙の艦隊』【※】がビミョーにブームだった時期だから、みんな潜水艦に乗りたかった。みんな次々に潜水艦を作っていくから「なんじゃこりゃ!?」って。
齊藤氏:
そして、次々に沈没していったでしょ。
中津氏:
ええ(笑)。港湾委員会【※】も巡視船を持っていて、やっぱり沈没させられてましたから。当時のプレイヤーが「乗ってた船が1回や2回沈められ、泳いで逃げた経験のない港湾委員なんて一人もいやしませんよ!」と豪語しているのを聞いたことがあります。
※港湾委員会
四方を海に囲まれた蓬萊学園には大きな港があり、そこを管理する委員会。港を護る巡視船をはじめ、数々の装備をもっている。
新城氏:
『沈黙の艦隊』は潜水艦乗りが国際政治の運命を決める物語で、たまたま当時の『蓬萊学園』の状況に近かったんです。作品内でも「次の日本の首相は」という投票【※1】をしていて、当時から「魂の近さ」みたいなものを感じていました。
ただ、潜水艦は六行道士【※2】というマスターのせいですよ。濃いミリタリー趣味で潜水艦を担当していたのが運営にいたんです。
※1 『蓬萊学園』は現代日本を舞台にした時事ネタが展開されるゲームだった。このため、しばしば現実の問題がゲーム中の問題とシンクロすることがあった。とりわけ、次期生徒会をどうするかという問題は、現実の日本の政治ネタをオーバーラップさせて語る人も多く、『沈黙の艦隊』の作品マインドとかぶる部分も多かったと思われる。
※2 六行道士
学園のミリタリー・政治シナリオを一手に引き受けていたサブマスター。実はその正体は『ネットゲーム’88』のグランドマスター、有坂純氏であった。柳川房彦(新城カズマ氏)からすれば先輩であり上司にあたる人なので、ムチャなことを言い出しても逆らいにくいという微妙な力関係があったようで、そのことが学園情勢に多大な影響をもたらした。
──この人、今の中津さんのお話や資料からうかがうに、運営のくせにメインストーリー全体をミリタリー路線に誘導していませんか。凄い暴れっぷりのように思うのですが。
新城氏:
よくぞ言ってくれた(笑)!
海洋冒険部の辺りは、反省がありますよ。僕なんて潜水艦が出てきて「潜水艦がありますよ! どういうことですか、これ!?」と道士に聞いたら、しれっと「ああ、ありますよ」なんて言われて。クーデターにしても、道士から「これだけ武器が揃ってきたら、もうクーデターでしょうね」なんて言われて、僕も「ああ、そしたら仕方ないか」みたいな。
──新城さんを言いくるめて、プレイヤーの動きを扇動しているじゃないですか!
新城氏:
結局、誰が生徒会長になるのかも、我々は全体としては全然コントロールしていなかったですからね。作ったのはプレイヤーさんです。
やはりメタルールとして、あくまでも各々がエレガントな解答を採用していくのは徹底しましたから。クーデターの勃発もそれに基づくものです。いま思えば、クーデター以降、全ての物語はクーデターを前提に組み立てなければいけなかったので、その後に与えた影響は一番大きかったんですけどね。【※】
※クーデター事件は、単に「たがいに兵器を持ち寄ってドンパチするイベント」に終わらず、その後の学園の秩序のどのように回復するか(SS台頭以前に巻き戻すのか、それともまったく新たな体制を作り出すのか)といったポリティカルな物語へと発展していき、その過程で「夢の中の8人」の1人であったアンネリ・ランツィラ(NPC)が物語的に大きく成長・飛躍することになった。アンネリだけでなく、幾多の学園勢力を代表するリーダーたちが、新秩序の構築に向けて努力し、最終的には「理想の学園とは?」、「独立とは?」というテーマにまで迫ろうとしていた。また、この流れが「地球空洞世界を探検する」というもうひとつのストーリーと対極になることで、探検ストーリーの方も引き立つという側面があった。さらに、「ドタバタでヘンな学園生活を楽しみたい!」といういわばストーリーラインとは無縁の層が、自分の所属する部活動の利権という形を通じて物語に絡んでいけるという機能も果たしていた。
──そういう意味では、実は先ほどのクーデター回りの話は、部活動という回路を通じてのメインストーリーへの介入がユーザーからあったとも言えますよね。ちなみに、もっと平和な方向性の部活はなかったんですか(笑)。
新城氏:
僕が担当していたサイドストーリーでは、手製の有人ロケットで月に行こうという同好会はありましたが(笑)。
結局、部活は「自分はこんな部活に所属してるから、こんなことができるはずです」「こういう武器を持ってます」という言い訳として使うためのものでしたからね。
齊藤氏:
そうそう。部活動って、別に所属したから何かをやる義務が生じるものではないんですよ。例えばサバイバルゲーム部なんかに入ってると、内戦のときにそれを口実に「俺はこういう活躍ができるよ」と言えるわけです。
ただ、料理をやってた連中は盛り上がってましたよね。「お茶会をしましょう」とかやってた記憶がある。
中津氏:
あれは正式な活動ではなくて、プレイヤーが独自にやっていた「サークル」ですね。例えば、野尻抱介さんのような『88』の有名プレイヤーがやってた「お料理同好会」【※】が有名だったんです。なんか「癒やしを求めて集結した」そうなのですが、イベントや事件に「部活資金を稼ぐため」参加するという行動指針で、チョコや弁当を売ってました。
※お料理同好会
本文でも触れているが、主催は前述の野尻抱介氏のPC、野尻三奈。『蓬萊学園の冒険!』では、ゲーム開始時に選べるクラブ・委員会活動のほかに、プレイヤーが仲間を集めて独自に団体=同好会を立ち上げることも認められていた。ゲームを通して一定の活動実績があると認められれば、正式に学園団体として予算がおりるようになるというもの。お料理同好会もそのひとつで、いつでもどこでもおいしい食材を求めて乗り出していき、お茶会や食事会を開いてしまう。余談だが蓬萊学園には「緑茶党」という団体があり、これは学園内にある原子力発電所の撤廃を求める自然主義団体なのだが、毎年「単なる緑茶好きの愛好会」と勘違いして入ってくる者が後を絶たない。
──なるほど……!?
中津氏:
私の持論なんですけど、オタクは料理が好きなんですよ。当時は、野尻さんなんて「みんなでモンスター系の料理をしよう」とか、参加前から言ってましたから。つまり現在の野尻さんが、猟師生活をしているのと殆ど変わらなかったりして。
あとは、「裸人倶楽部」【※1】というキリスト教ネタのクラブもありました。後に『リネージュ』【※2】みたいなMMORPGで裸で活動する連中が現れたのは、これがキッカケですね。いつでもどこでも「まっするー!」と裸体で乱入する、聖マッスルという人物が率いてるんです(笑)。
他にも悲劇のヒロインを撲滅しようとする、愉快犯の集団「黄昏のペンギン」【※3】、それから洋上モスクの「マフディー党」【※4】……。
※1 裸人倶楽部
同好会のひとつ。主催は「聖マッスル」こと絶倫太郎(PC)。倶楽部を名乗っているが実態は宗教結社で、男も女も「制服を脱ぎ捨て、裸になること」を唯一の教義とする。全裸ではこころもとないのか、ふんどし一丁だけは着用が許されている。このため、服装違反のカドで風紀委員や校内巡回班ともめるのがお約束になっていた。とはいえ、校則が通用するのは学園の敷地内だけであるため、敷地を一歩でも出てしまうと誰も手出しができないのであった。その分かりやすい教義のおかげか着実に信者を増やし、当時「ふんどし写真集」で世間的に騒がれていた女優の宮沢りえを一方的に「名誉裸人」に認定するなど、やりたい放題であった。ちなみに「聖マッスル」という称号は、画・ふくしま政美、原作・宮崎惇の同名漫画から借用したもの。
※2 リネージュ
1998年からサービスが開始されているMMORPG。韓国のNCSOFTが開発・運営しており、韓国国内では圧倒的な人気を誇った。日本ではNC Japanより2002年からサービスが提供されている。オーソドックスなアクションロールプレイングゲームで、一対一の戦闘から攻城戦などの大規模戦闘が出来るのが特徴。
※3 黄昏のペンギン
同好会のひとつ。主催は上福岡三五八(PC)。「悲劇のヒロインを撲滅する」という謎の理念にしたがって動くテロ組織、というよりは愉快犯の集団である。毎回ドタバタを繰り返してはトホホな結末にいたるという、にぎやかし的な存在。
※4 マフディー党
同好会のひとつ。主催はアブラハム・カダフィ(PC)。カダフィはSS隊員であり、6.4内戦まではSSの一部隊を率いて行動していたが、「アラーの預言者として、アラーのお告げにしたがって行動する」という電波なアクションに基づいて、突如として部隊ごとSSに反乱。これがSS敗北の一因となった。その後、学園祭のアトラクションとしてイスラム研が建築していた洋上モスクを占拠、勝手に「学園太守」を名乗っては学園全土の引き渡しを要求し続けた。最終回は学園勢力の前に敗北し、学園を去る羽目に(ただしTRPG版で、カダフィが学園に帰還するシナリオが存在する)。
──運営が与えた部活や委員会とは全く別に、ユーザーがどんどん団体を作っていくんですね。Twitterの「わさらー団」【※】みたいな……。
※わさらー団
「ニコニコ生放送」の生放送主として著名であったわさらー氏の売名を目的として、Twitterユーザーの有志たちを中心に結成された団体のこと。結成は2011年で、Twitterのユーザー名に「@わさらー団」をつけるだけで加盟できる。上述の売名以外にはあまり目的はなく、団員の特徴としては「わさわさ」というフレーズの多用といったことが挙げられる。
新城氏:
とにかく、色々な文化が流れ込んでいた場所だったよね。
私個人としては、野球部【※1】が盛り上がってたのが、印象的でしたよ。確かマスターの水原くん【※2】が野球好きで、野球部の監督になってスコアを取ってました。結局、ゲームの中で彼らは甲子園に行ったんですよね。だから後に「日本国から独立をするか?」の投票になったとき、「甲子園に行けなくなるので、反対」と言ってました(笑)。
※1 野球部
蓬萊学園の野球部というからには、さぞかし魔球のようなワザを使う超人選手ばかりなのだろうと思いきや、そういった類のものは「女子ソフトボール部」が一手に引き受けており、野球部はごくごく地道に野球を続ける真人間の集団である。当然、女子ソフト部に勝てたことなど一度もない。
中津氏:
ゲームの世界でね。本当に濃密な1年だったよなあ。
──確か9月号でクーデターに部員が参加していたと発覚して、甲子園での優勝が取り消しになってましたよね。まあ、そんな話を言うなら、そもそも内戦やってる高校が出場していたこと自体、問題にならないんかい……と思いますが(笑)。
新城氏:
水原監督がコメントしてました。「監督代行不行き届きであったため責任をとる。しかし、内戦下で日本政府が干渉しなかったのが問題」とか。このあたり、ぶっちゃけマスターの本音がプレイヤーに漏れちゃってますよね。マスターとプレイヤーの距離感は、人それぞれでした。マスターの中にも、かなり前に出てる人もいたんですよ。
★深堀りコラム:『蓬萊学園』における課外活動について(文・坂東真紅郎)
部活・委員会・サークルなどの課外活動について、ここで補足しておこう。
まず、学園生徒であるゲーム参加者は、スタート時に好きなものを4つまで選択できるようになっていた。
これ、いわゆる「スキル」の役目を果す項目だったのだが、その内容はといえば──野球部や図書委員会といったありきたりなものから、路上観察学研、魔導書研、性と愛の科学研、超統一理論あやとり研、狂的科学部、原発管理局、果ては宗教結社・裸人倶楽部に、テロ組織・「黄昏のペンギン」……といったわけのわからないものまで様々だった。
だが、その活動内容は、蓬萊学園の原則に沿ったもの。
生活委員会は電気ガス水道など学園の生活インフラのすべてを管理運営しているし、化学部は洗剤や肥料を自前の工場で自作するし、軍事研には戦車があるし、航空部にはジェット戦闘機、ヨット部は帆走軍艦を所持している──そう、これらは生徒による自治が徹底している。
ちなみに、これらは最初からオフィシャルが設定したものだったが、他にも非公認団体がいくつも登場。最終的には大小150を超える部活・委員会・サークル・非公認団体が乱立する状況になっていた。
III.探検期(9〜12月):物理法則や言語を発明!? 地底を大冒険
9月~12月:ラストに向けて物語が加速した「探検期」
さて、星祭りを経て内戦終結──ラストに向けて物語はどう展開したか。
星祭り以降、8月までの流れを確認すると……まず、星祭りを境にそれぞれの運命は急展。 「夢の中の8人」が1人をのぞき7人までほぼ確定される。
さらに、星祭りにより「地球空洞世界(地球最後の秘宝)」とそこにいたる道が発見された。
一方で、内戦の終結を経てSSは崩壊。その後の学園の政治・軍事バランスをどうするかについて、プレイヤーたちの会議は紛糾していた。
そんな中で、ついにストーリーは新城氏が当初に想定していた「内部空洞をめぐる冒険」へと突入。その一方でクーデター以降の流れをくむ「混迷する学園の秩序をどのように回復するか」の流れも留まることはなく、ストーリーは2極に大きく分化していくことになった。
一つは地球空洞世界「月光洞」【※】の探索と、迫りくる最後の「掛」という決断をどうするかという問題だった。「夢の中の8人」の8番目(悌)のヒロインは、なんと兄を探索の途中で亡くしたPCであったことが判明するなど、驚きの展開も。そして探索の途上、PCの前に立ちはだかる最後にして巨大な敵「大南帝国」の存在が明らかに。
それは『蓬萊学園の冒険』のラスボス、「南郷君武」の一族が地球空洞にたどりつき、応石の力で建設した悪の帝国であった。苦労の末、この世界にたどりついたPCたちの絶望たるや。以後、探検パートは、武力で圧倒する大南帝国との戦いと、60年毎の応石たちの「卦」(世界の予定調和的な命運のようなもの)をどうするのかを主軸に展開していく。
もう一つは各勢力に分裂し、混迷する蓬萊学園の政治的状況をまとめ上げて、以下に再統合するかという問題だった。SS指導者・南郷君武は倒されたものの、傷石の力で犀川生徒会長をとりこんでしまう。生徒会は分裂し、再統合は無理かとも予想されるなか、日本からの学園独立と新憲章採択の是非を問う学園投票へと向かっていく。
奇しくも「地球最後の秘宝」の運命を決する「卦」も、学園の運命もプレイヤーたちの「投票」によって決せられることとなったのだ。
大南帝国との敗色の濃い決戦は、鷹月あやこの弟、鷹月光(NPC)とカップルになっていた紅柄りぼん(PC。『蓬萊学園の初恋』でも活躍)というプレイヤーが、大南帝国皇帝を「物語る力」で倒すという、フロドの様な活躍で奇跡的に勝利。
地球最後の秘宝である地球空洞世界「月光洞」は悪用されることが無きように封印という「掛」の計算がなされ、道具として使われていた応石は、自我をもつ存在となり、人々の前からは一時、姿を消す。
学園政治は、PC、NPCからなる十二月フォーラムの活躍により、日本からの分離独立を目指しつつ、学園の再統合を目指す「九十憲章」が採択された。「地球最後の秘宝」を手に入れるための舞台装置として利用されていた蓬萊学園は、新たな道へと歩み出すのだった。
かくして1年に渡る「蓬萊学園」の日々は終結。見事、物語は収束してめでたしめでたし……。
※月光洞
ゲーム内での目標となった「地球最後の秘宝」の正体。内部太陽の光によって、ちょうど満月の夜と同じ程度の明るさであったことから命名される。物理効果によって地上よりも60倍から3600倍まで時間の流れる速度が早い。そのため地上とは異なる進化を遂げた生態系が存在する。60年ごとに行われる応石の計算「掛」によって、その運命が決せられてきた。
──では、再び『蓬萊学園』のメインストーリーに話を戻して、「星祭り」以降の展開を見ていきましょう。新城さんは学園モノの本格ミステリを終え、ここから当初の予定どおり冒険物語へとメインストーリーを移行させました。資料を見ると、既に7月頃から新城さんたちは設定を詰めだしていますね。
新城氏:
「地球空洞世界」という設定は、当初から「秘宝の正体」案の一つでした。ただ、当時は探検しておしまいの予定だったのですが、私が筆を滑らせて「巨大な悪の帝国が地下にある」と書いちゃったせいで、プレイヤーが盛り上がってしまったんです。誤算と言えば誤算ですが、お陰でクライマックスに向かう盛り上がりも作れたので、しめしめというところですね。
ただ、この設定を表に出す前に、一つ大きな問題が発覚したんです。それは、どうすれば地球が空洞になっていて、かつ真ん中に太陽が存在している世界が可能なのかということでした。
その計算を本格的にスタートしたのが夏だと思います。そして、早い段階で既存の物理学では、この設定は擁護できない。物理法則の再構築が必要だということに気づきました。そこから私たちは、半月ほどの間に、なんとかして物理学を作り直したんですよ。
──この話……当時のオタクの雰囲気が分からない、若い読者の人は「なんで!?」となりそうですね。「別に物語なんだし、どうでもよくね?」と(笑)。
新城氏:
「絵」としてそれを説明するために、世界の理論を再構築するのは、我々のようなSFファンの間では、よくあることですね。
──例えば昨年、Twitterで往年のSFファンが「『君の名は。』の彗星の軌道がおかしい」と怒ってる光景を目撃したのですが(笑)、こういう部分を詰めるのは当時の、とりわけハードSFファンとしては別に珍しくない思考回路なんですよね。
でも、具体的にどういうプロセスで考えたのかは知りたいですね。
新城氏:
(立ち上がってホワイトボードに図を書き始める)簡単に言うと、理想図はこの形になります。
でも、引力だけだと一瞬で外殻が中心に縮退しちゃうから。現実の地球は中身が詰まってるのでそういう危険性はありませんが。なんらかの「つっかえ棒」がなきゃいけない。そこで我々が考えたのは、太陽の中心からガスで斥力が発生していて、外殻側でも重力とか磁力とかが働いているという解決策でした。でも、そうすると、この辺りが斥力だらけになって止まってしまうんです。
結局、突き詰めていくと、ニュートン的な重力とは別の重力を考えなければいけないという話になりました。この辺は既に6月の時点で判明していたと思います。
──でも、この原理をリアルタイムで理解していたユーザーって、いたんですか?
新城氏:
いや、12月に開催された最後のオフ会まで、誰もここまで徹底的に考え抜いていたとは気づいてなかったと思います。でも、これがあるだけで、GMの気持ちの落ち着き方が違うんです。例えば、生態系の話になったとしても、「この物理学なら、こういう生態系は十分論理的にあり得るね」みたいに言える。【※】ヘンな世界を作ってツッコまれても、言い訳が利くんですよ。
まあ、でもこれを9月から半月で作った事実は、我ながら凄いと思います。
※「月光洞」と呼ばれる地球空洞世界については、TRPGのサプリメント(追加資料集)、『蓬萊学園の探検!』に詳細な地理・博物誌が掲載されている。
中津氏:
少し補足すると、その後プレイヤー側から「KO理論」というものが出ました。これはPCの頭文字がKOだったのと、「公式の理論をノックアウトする」という意味です(笑)。
プレイヤーがファイナルイベント会場でホワイトボードの前に陣取って、マスターが用意した公式の理論の矛盾点を突いたんですよ。ひと晩かけて新理論を打ち出して、「あの理論は間違っている!」と宣言しちゃって。
──アメリカのSFファンダムで、ラリイ・ニーヴンの「リングワールド」シリーズ【※1】が盛り上がったのと同じですね。日本にもそんな話があったんだ……。
新城氏:
その後、「始源の友」【※2】という団体さんが調査と考察を進めてくれて、分厚い研究本を作ってくれたりしましたよね。
※2 始源の友
同好会のひとつ。主催は武見和斗。探検部の派生グループで、「夢の中の8人」の1人であるアンヘラ国東に協力し、地球空洞世界(「月光洞」)の探検とその博物的な研究に尽力した。新城氏が言及している分厚い研究本とは、「月光洞博物誌」のこと。
異世界の言語をどう設定したか
──この地球空洞説の辺りから、他にも魅力的な架空設定が出てきて、その後も研究本がファンの間で同人誌として頒布されています。その一つが月光洞の中に住む人たちの言語「外ハリン語」【※】 ですね。
新城氏:
私の敬愛するトールキン先生【※】の思想にならって、架空言語も構築すべきだろうと思ったんです。モデルもあって、ウトゥブ語は沖縄の方言(琉球語)を元にして、外ハリン語はフィンランド語の音韻を頂戴しています。この作業を詰めていくのは、私自身が好きだったこともあり、苦ではなかったです。あの時期の僕はたぶん、日本で最初に架空言語を作ることで給料を貰った「職業的架空言語設計家」だったんじゃないかなと。
※トールキン先生
イギリスの作家、英文学者のJ・R・R・トールキン(1892〜1973)のこと。『ホビットの冒険』、『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』などの作品で、「中つ国(Middle-earth)」と呼ばれるファンタジー世界の神話や歴史、架空の言語などを創作した。架空世界をイチからデザインするにあたり、まず架空言語(エルフ語)から設定するという規範を示した第一人者。
一応、フリーアクションへのリアクションにも書いていて、月光洞に突き進んだ人たちの何人かは断片的な情報を入手していたと思います。ただ、その全貌は設定的にも「蓬萊タイムズ」には載せにくい情報でしたので、復刻版で知った人が多かったと思います。
まあ一応、ゲームの終わりに出版した「総集編本」【※】には書いてあって、お金を払えば分かる扱いになってたんですけどね。年末向けの企画でもありました。
──『蓬萊学園』が伝説化した背景に、こういう架空設定の緻密な構築ぶりをユーザーたちが終了後に検証していったこともあると思うんです。先ほどの物理学、架空言語、そして応石と、とにかく色々な本がありますよね……って、先ほどから齊藤さん、熟読されてますね。
齊藤氏:
(応石の本を熟読しながら)いや、この本は凄いですよ。20数年のときを経て知ったことがいっぱい書いてあります。
中津氏:
そうなんですよ。綿密な研究のもとに作られているそうです。
新城氏:
彼らの推測も入ってますが、まあほぼ正しいですよ。少なくとも、文字ベースのところでは、ほとんど嘘はない気がします。まあ、TRPG版登場以降の公式本【※】も、その辺の情報は踏まえていると思いますけども。
※TRPG版登場以降の公式本
蓬萊学園関連のオフィシャル刊行物としては、TPRGの各種サプリメントのほか、蓬萊ファンクラブが刊行する「蓬萊タイムズ」の続刊、また書籍の形で『試験に出る蓬萊学園』、『蓬萊学園ワールドツアー』、『蓬萊学園DX』といった本が刊行され、さらに設定深度が深まったり、あるいは最新のデータに更新されたりなどした。
──こういうユーザーの「蓬萊学園」に対する分析は、ほとんどフィクションの「偽史」に対しての民俗学の様相を呈してますね。
中津氏:
ただ、当時のサブカルチャーの雰囲気もあったと思います。
深夜番組では「カノッサの屈辱」【※1】が流行ってて、「路上観察学会」【※2】なんてのもあった時代です。しかもオタクでは、「ファイブスター・ストーリーズ」【※3】がすごい年表を作ってましたから。80年代後半の角川文化の周辺には、とにかく世界設定をいっぱい作ろうという空気があったんです。
※1 カノッサの屈辱
1990年〜1991年にフジテレビ系列で放映されていた深夜番組。ディスコ、デパート、ハンバーガーといった現代日本の消費文化を、実際の歴史上の事件になぞらえてユーモアを組み込みながら解説するもので、若者を中心に人気を博し、1990年代前半のフジテレビの深夜番組黄金期の頂点をきわめた番組のひとつと目された。放映終了後も、何度か特番枠で復活を果たしている。
※3 ファイブスター・ストーリーズ
永野護の漫画作品。角川書店刊「月刊ニュータイプ」の看板連載作品で、1986年の発表以来30年以上も続いている。ジョーカー太陽星団を舞台とするサイエンス・ファンタジーだが、物語の開幕と同時にビッシリ記載された年表がドンと提示され、設定マニアをうならせた。30年以上たった今でも、その設定の全貌は明らかにされていない。直近では9年の長期休載を経て、2013年より連載を再開した。
──「ガンダム」シリーズに架空年表の遊びを持ち込んで、村上春樹を面白がった【※】のがこの世代……とでも言えば、少しは若い人にも想像がつくでしょうか。お聞きしていると、まだ携帯電話もなくて、テレビや雑誌のようなマスコミがメディア体験を占有していた時代には、今では考えられないくらいフィクションへの没入感があったのだろうなあ、と思いますね。
※『機動戦士ガンダム』(1979年)をはじめとする「ガンダム」シリーズは、「宇宙世紀」という架空の暦を導入した。架空年表はSFやファンタジーの分野では既に見られたが、ロボットアニメとしては非常に斬新な設定であり、この世界観にのめり込んだファンたちは自主的に年表をつくっていった。また、1979年に『風の歌を聴け』でデビューした村上春樹は、従来のリアリズムに基づいた日本の純文学とは異なり、独自のファンタジー世界を展開する小説を次々に発表し、若い世代に受け入れられていった。この両者に共通しているのは、現実と切り離されたフィクションへの態度であると言える。
そして大団円へ……
──で、だいぶ駆け足になってしまったのですが、ついに11月~12月の大団円の展開ですね。既にプレイヤー各々が色々な動きをしていたのだと思いますが、ここでもメインストーリーに話を絞ると……まずは、クーデター以降の学園闘争がポリティカルフィクションに転じて、遂には『蓬萊学園』の日本からの独立をめぐって、投票する流れになっています。
一方で運営サイドとしては、大風呂敷を畳むための苦労があったんじゃないかと思うのですが……。
新城氏:
いや、正直なところ、この頃には「楽」だったんです。
むろん、プレイヤーさんは空気を読んで「最後盛り上げようぜ!」「最後まで死なずに頑張ろうぜ!」みたいに頑張っていたと思います。特に月光洞に行った人たちはそうでしょう。一方で地上に残った人たちは、「日本からの独立」の投票も迫っていた。
でも、僕らからすれば、みんなが盛り上がれる大イベントが最後に生まれちゃっていたわけで、安心感はありましたよね。
中津氏:
畳み方みたいなモノは、当初から決めていたんですか?
新城氏:
いやあ(笑)。
内戦が終わって、学園紛争がポリティカルフィクション化していくうちに、独立問題が出てきちゃった時点で、「これを解決することで、学園モノのパートは締められるな」とは思いました。地球空洞世界の方も私が筆を滑らせたお陰で、「これと戦うのか! ひゃ~」みたいな展開でプレイヤーが大喜び。そこも最後のクライマックスに利用できた。
僕としては、とにかくハッピーエンドになるかはともかく、最大限の大きな盛り上がりは作りたかったので、上手く行きましたよね。
──なるほど。ただ、こういう風にストーリー展開が絶妙に調整されていった過程で、やはり「応石」という設定の柔軟さが、要所要所で便利に機能している気がしたんですよ。まさに星祭りが典型ですが。
新城氏:
はい、それはあるんですよ。
これは、私が架空世界を設計するときの経験則なんですが、徹底的に精密に作り込んだ上で一箇所だけ穴を空けておくのがコツなんです。
──一個だけ穴を空ける? それが応石の「万能感」のある設定だったと言うことですか?
新城氏:
そうですね。すると、この穴によって、何か辻褄が合わなくなったら、この場所のせいに出来るんです。まあ、マクガフィン【※】のようなものですね。これは架空世界を設計するときには、必ず保険としてやるようにしています。
※マクガフィン
作劇用語。シナリオを作るにあたって、登場人物の動機・目的がそれに集中するような小道具のこと。米映画監督のアルフレッド・ヒッチコックが、自身の映画を解説するときに用いた“MacGuffin”という語に由来する。マクガフィンを設定することにより、「それを追いかけて手に入れる」などのストーリーの流れを自然に生み出すことができる。たとえば「怪盗がねらうダイヤ」といったものがそうである。
──なるほど。たぶん、見ていると応石の柔軟さはプレイヤーにとっても、ストーリーを生成しやすかったように思いますね。
新城氏:
そういう面はあったでしょうね。
ちなみに、もう一つやり方があって、最初に大きく嘘をついておいて、そこから後は徹底的にロジカルに組み立てて、誰がやっても同じ正解に行き着くように作るんです。
すると、どこか一箇所でミスがあっても、オフィシャル側とプレイヤー側のロジックを遡っていって「あ、ここからズレたのか、じゃあプレイヤーの言い分の方が合理的だな」と判定しやすいし、最悪の場合でも大元の「大きな嘘」に全責任を押し付けて「実はそういうことも可能な設定なの(と解釈できなくもない)です」と逃げ切ることもできる。誰かプレイヤーがツッコミを入れてもすぐに回復できるんです。こういうテクニックは結構、重要なんですよ。
ただ、根本的には巨大学園という設定【※】が「筋が良かった」ですね。学園での活動や組織の話にみんな燃えだして、ストーリーが拡散していきました。そうなれば、そんなに応石を持ち出して説明する必要はない。学園という色々な楽しみ方を許す設定の中で、自由に遊べた面はあると思います。
※巨大学園という設定
『蓬萊学園』以前にも巨大学園を舞台にした漫画作品は存在した。しかしゲームの世界では巨大学園どころか、「学園物をRPGにする」こと自体がイレギュラーな時代だった。当時はRPGといえば“剣と魔法のファンタジー”というのが世間の常識だったのである。そんな中で巨大学園という舞台仕立ては、PBMというゲームのもつ特性やゲーム性の観点から見ても便利で、システムと世界観がマッチしやすかったといえる。
プレイヤーサイドの大団円に向けた盛り上がり
齊藤氏:
ところで今、最終号を読んでたんだけど、第110回通常会議【※】で提出された予算の内訳総額が出てるんですよ。
2993億蓬萊円が来期の予算で、学費が437億で、8万人が徴収見込みになった、と。単体学費が380億、生徒会雑収入が750億、今年度繰越金が478億。歳出の概要が生活で468億、保健が390億、鉄道・港湾・飛行が220億、何やかんやで海洋冒険部で290億……こんな細かい数字、誰が決めてたの?
一同:
(笑)。
新城氏:
これは、たぶん当時のプレイヤーが出してきたのを、ブラッシュアップしてますね。
中津氏:
当時のゲーマーは、実際に計算するんです。だから、容易にはガチャの確率には騙されない(笑)。
齊藤氏:
これはフリーアクションで出してきたんだと思うけど……もう終わりだよね。予算を出してもその人には何のメリットもないですよね。
一同:
(笑)。
中津氏:
それでも載ると嬉しいんですって! まさに最終回ですからね。
新城氏:
そうそう、載ると嬉しい。もう、みんなそういう心理だったんじゃないかな。
──ちなみに、この終盤の展開ってどうだったんでしょうか。実は今ある資料では、意外とラスト2ヶ月になって怒濤の展開のような大きな出来事はなくなってるんですよね。
齊藤氏:
いやいや、個人のリプライとしては、GMのいないところで相当に盛り上がってるんですよ。
新城氏:
全部を最後に落ち着けないといけないので、それはプレイヤーさんは細々やってたと思いますよ。我々の方は大団円に向けて畳んでいく展開に入ってましたけども。
──ああ、もうある意味で運営の燃料投下なんて不要なくらい、プレイヤーが熱くなっていたんですね。
中津氏:
当時はメインストーリーに絡んでいたキャラクター同士が「契約結婚ですけど、結婚しました!」とかやってましたよね。
新城氏:
最終ターンになって、私は人間ってこういうものかとつくづく思ったのが、二つの行動がやたらと増えたことなんですよ── 一つは、「結婚します」と言ってくるPC、そしてもう一つは「●●の建物に放火します」と言ってくるPCです。
一同:
(笑)。
新城氏:
これ、僕たちは何も言ってないんですよ! それなのに同時多発的にそういうフリーアクションが送られてくるんです。ちなみに、同時に同じことが書かれてくるのは他にもあって、最初のキャラメイクで自分のキャラに、やたらと口癖の欄に「まあ、いいか」という言葉をみんな書いてきたりとか。
──ああ(苦笑)、時代を感じますね。
新城氏:
そっちは当時、なにかで流行っていたんでしょうね。
でも、最後の最後に放火や結婚をするのは、人間心理として分かりますよ。きっと全てが終わる前に、自分の痕跡を世の中に残したくなるんですよ、人間って。
一同:
(笑)。
新城氏:
だから、これから日本がどんどん高齢化して、年金生活の高齢者が増えると、色んな形で痕跡を残そうとする人間が出てきますよ……間違いなく! これは本当に思います。絶対に間違いないです。
齊藤氏:
なるほどね。実社会で、爪痕を残そうとするんだ。
ところで、クーデター後の齊藤Pは……
──もはや最後は、社会実験みたいな場になってますね(笑)。そういえば、クーデターまでの動きの凄さは分かったのですが、齊藤さんはその後何をしていたのでしょうか。後半の行動がイマイチわからず……。
齊藤氏:
クーデターのあとは、もうあまり記憶がないです。特に目立った活動をしてない気がする。部活も海洋冒険部とかは盛り上がってたけど、俺は新体操部【※】だったから……特に何もない。
※新体操部
本文ではサラッと流されているが、蓬萊学園の新体操部は並大抵のものではない。見た目は普通のレオタードの新体操なのだが、20kgもあるボール、10kgのクラブ、超高張鋼製リボンなどを軽々とあつかう怪力ぞろいなのである。だからといって戦闘力が高いわけでもないらしいのが、ますます怪しい。
──新体操部って何ですか、それ(笑)。
齊藤氏:
今だったら絶対に錬金術研【※】とかを選ぶのに、何で俺は新体操部に入ったんだろう。
(本を開きながら)これだけの部活があるのに、なぜ新体操部に入ったのか当時の俺が全く分からない。マイノリティを目指したのかな……。
一同:
(爆笑)。
※錬金術研
中世ヨーロッパの錬金術を実践する魔術クラブ。悪魔召喚や賢者の石生成を目指しているとかいないとか。
新城氏:
当時は流行ってたのかね?
齊藤氏:
流行ってないですね、絶対に。
中津氏:
ないない(笑)。