RPGとしての『Rance』の復活と、新境地を開いた『戦国ランス』
──ここまで『ランス』は『IV』で一度行き詰まり、『5D』が試行錯誤のすえ生まれるころには新しい息吹によってアリスソフトさんの作品の幅は広がり、新機軸が芽吹いていたというお話でした。
そうして迎えた平成16(2004)年。8月27日に発売された『RanceVI -ゼス崩壊-』は3Dダンジョンものでした。「単なる続編ではなく、システムをがらっと変えよう」という意欲は、どこから湧いてくるものなのでしょう?
TADA氏:
自分はゲームを作り終えると、必ず飽きるんですよ。開発中は自分なりに一所懸命に考え、そのゲームシステムで自分が思いつくネタや、その設定で出来るネタなどをすべて突っ込みます。ですから、そうだなあ……飽きるというよりは、もう何も思いつかない状態になるんです。
──空っぽになるまで出し切るからこそ、同じ形での続編は作れないと。
TADA氏:
そう。ゲームシステムを別のものにしないとできないんですよ。
だから『VI』は、それまで手を付けなかった3Dダンジョンなんです。ちょうどそのころから、自社でも3Dの技術を取り入れつつあったんですね。そこで、ちょっとまた無茶をしたわけです。
──「今後はPCゲーム自体がもっと3Dの方向に行くだろう」という考えもあったのでしょうか?
TADA氏:
スタッフのひとりが映像的なインパクトを考え、強く3Dを推してきたんですね。僕は2Dでもぜんぜん構わなかったんですけど(笑)。ただ、それまでにまだ『ウィザードリィ』みたいなものは作っていなかったので、「やってみたい」と思ったんです。
──そのときどきの形に理由があるし、その理由はかなりTADAさんの欲望に忠実ですね。そのつぎの作品である、シミュレーションゲームの『戦国ランス』(平成18年)はどういう理由からあの形になったのでしょう?
──ユーザーからすればこの『戦国ランス』は、待望のシミュレーションゲームであり、それがランスワールドで楽しめるという、『大悪司』と『Rance』がいっしょに来たような、もう堪らない作品となりました。
TADA氏:
じつは『戦国ランス』は、『RanceVII』として、最初はRPGで作っていたんですよ。3Dダンジョンは『GALZOOアイランド』【※】(平成17年)でもやったので、「もう少し普通のゲームがいいな」と思ったんですね。
結局は『イブニクル』(平成27年)になってやっと実現するんですが、広大なフィールドを歩きたいと思って設計したのが、『戦国ランス』の原型、最初の『RanceVII』だったんです。
舞台をJAPANに持ってきたのも、「周りに何もないから範囲を限定できるなあ」【※】なんていう理由です。フィールドRPGを作りたかったんですね。
※ランスワールドのJAPANは虚空に浮かぶ島国で、周囲には海も何もない。大陸とは1ヵ所の橋だけで繋がっている。
──それが、なぜシミュレーションゲームに?
TADA氏:
ぷりんなどから、「RPGは最近いろいろ作ってるから、『大悪司』みたいなシミュレーションのほうがいいんちゃう?」と言われまして、「じゃあ、やっぱりシミュレーションにしよっか」となりました(笑)。
それがまだ開発は進んでおらず、キャラクターを描いていたぐらいのころです。そこからはもう、「いっそランスが日本を征服する話にしよう」ということになりました。
──セールスも好調な作品になりましたね。
TADA氏:
そうですね。でも作っていても途中までは、「これどうなんかなあ?」と不安に思っていました。「作ったことのないものを、とりあえずやってみよう」……というのが毎回ですが、『戦国ランス』では、前例のない無茶をしたものが、上手くいった気はしますね。
ただ、じつは数字としては、売れている実感はあまりありませんでした。『鬼畜王ランス』などと比べても、そんなに変わらなかったので(笑)。むしろ、作品を作り続けられていることと、自分たちも作っていて楽しかったということが、いちばん気持ちとしては大きかったですね。
──お話を伺っていると初期のころから一貫して、TADAさんは、「自分が楽しい」と思うゲームを作るのが重要なテーマですよね。
TADA氏:
そうですね。マーケティングなどの偉そうなことはできないので、自分が楽しいことが唯一の基準だったのかなと思います。それ以外の方法を知りませんでした(笑)。あとは、チーム全体がうまく同じ気持ちに乗ってくれたらいいわけで、それが良いことだったかなと。
──『戦国ランス』のチームは、いまに至る『ランス』チームですか?
TADA氏:
『Rance 5D』からは、ずっとそうですね。一貫して、ぷりんは僕をサポートしてくれています。そこに織音やライターのとりさんがいて、音楽のShade【※】がいて。このあたりが中心で、いつもわいわいやりながら作っていましたね。
※Shade
『ALICEの館 3』(平成7年)から参加した作曲家。作品にはノリの良いロック調の楽曲が多く、『鬼畜王ランス』以降の『ランス』シリーズでも活躍し、ボスとの戦闘シーンなどで多くの名曲を生み出した。
『大帝国』での挫折と、そこからの再出発
──その後もアリスソフトさんとしては『超昂閃忍ハルカ』【※1】、『闘神都市 III』【※2】(どちらも平成20年)とヒットが続きますが、この時期TADAさんは、何をご担当されていたのでしょう?
TADA氏:
平成23(2011)年4月28日に発売された『大帝国』……ここで僕が大失敗するんですよ。『戦国ランス』がうまくいったから、ここでもうひとつ大好きなジャンルだった第二次世界大戦ものを作ってみようと思ったんです。
「海戦風で、大好きな戦艦などをいっぱい出そう!」と。もう、自分では「わはははっ!」という勢いで作ってたんですが……失敗しまして。どうしようもなく、立ち行かなくなって。
※1 超昂閃忍ハルカ
『超昂天使エスカレイヤー』に続く、変身ヒロインアドベンチャーゲーム。平凡な学生だった主人公が、閃忍と呼ばれる忍者であるヒロインたちとともに、世界を恐怖で支配せんとするノロイ党との戦いに身を投じていく。
※2 闘神都市 III
ダンジョンが3Dとなり、登場人物も一新された『闘神都市』シリーズ3作目。戦闘も3Dで表現され、リアルタイムバトルとなった。
成長に合わせて覚えるスキル構成や、装備をアイテム付与で強化していくシステムが、ダンジョン探索をより充実させた。
──……どうなったのでしょうか?
TADA氏:
「もう、企画そのものをご破算にするか」というところでしたが、そのときに、いってんちろく【※】が最後の仕上げまで引き継いでくれて。
ですから、開発当初に僕が作ったシステムは使われていないんです。シナリオや根本の設計などは自分が用意したものなんですが、ゲームシステムはまったくの別物です。
ここでもまた背伸びをしたんですね。「ここまでならできるだろう」と意気込んだんですけど、でもできなかった。あのとき、いってんちろくが引き受けてくれなかったら、うちの会社は消えてたかもしれません。
※いってんちろく
企画、ディレクター、ゲームデザイン、ウェブサイト管理など、作品ごとに多くのことを担当しているスタッフ。公式ブログの紹介によれば、「100人目のアリスソフトスタッフ」とのこと。
──大変なプロジェクトだったんですね。
TADA氏:
人生最大の失敗でした。「ここで責任を取って辞めたほうが」なども考えたけど、失敗したまま辞めるのはそれこそ無責任なので、気持ちを切り替え、いまの自分に出来ること、好きなこと、作りたいものをやろうと思い直したんですね。
──『ランス・クエスト』(平成23年)でまたRPGに戻るわけですが、これがTADAさんの「そのとき好きなこと、作りたいもの」だったわけですか?
TADA氏:
そうですね。昔懐かしい『ソーサリアン』(日本ファルコム・昭和62年)をイメージしました。「基本のゲームシステムがあって、そこにどんどんシナリオを足していったら無限に遊べるやん!」と思って。
──なるほど、すると『ランス・クエスト マグナム』(平成24年)が追加シナリオ型な理由も解りますね。そしてこの2作には、最終作にも繋がる重要なキャラクターがたくさん登場します。
TADA氏:
じつは順番からすると、『RanceIX -ヘルマン革命-』(平成26年)のほうが先に出るはずだったんですけどね(笑)。ヘルマン【※1】編は、ぷりんが担当と決まっていたんですよ。
ずっといっしょにやって来たなかで、彼はヘルマン関係の設定を僕が知らないところまで作り込んでいるので、「じゃあもうヘルマン編は君がやりなよ」と(笑)。でも、準備に時間がかかったので発売の順は入れ替わってしまいました。
『ランス・クエスト』は本来なら、リーザス【※2】、ゼス【※3】、JAPAN、ヘルマンの4国すべてが終わってから、ヘルマンのキャラクターも登場する形で作る予定だったんです。全キャラ出揃ってから、好きなキャラで遊べるRPGにしようと。
※ヘルマン
『III』でリーザスに攻め込み、一時はリーザス城を制圧した軍事大国。そのときの総大将であったヘルマン皇子パットンはシリーズ屈指の人気キャラへと成長し、『IX』では独裁国家であった母国の革命を成功させる大活躍を見せた。
※リーザス
1作目ではまだ王女であったリアが女王となり、国家体制の強化が進んだ大国。リアがランスに惚れ、国王となることを望んでいることから、リーザス国は各シリーズ作品内でもつねに重要な味方となった。
※ゼス
最強の魔法使いでもある国王ガンジーに統治される、大陸でもっとも魔法文化が進んだ王国。『VI』の舞台となったことで、『鬼畜王ランス』でのみ語られていたキャラクターや設定の多くが、このゼスから、新生『ランス』としての新たな展開を見せた。
──なるほど。でも『ランス・クエスト』がそうした形だと、ユーザーさんからも、「もっとアペンドディスクを出してほしい」といった要望もあったのでは?
TADA氏:
アペンドというか、そもそも『マグナム』を出した経緯は、どうだったかなあ……。
『ランス・クエスト』は自分では喜んで作っていたんですが、けっこうユーザーさんからのお叱りを受けたところがあり、そうした意見から「そうか、その方向がいいのか」と思って『マグナム』を出したようなところがあります。
ですので、「アペンドを出す」という前提で作っていたわけではなかったかなと思います。
──そうでしたか。
TADA氏:
追加という意味で言うと、『RanceVI』のころから、発売後の追加パッチは積極的に公開していましたね。「そういうのはやっていきたいな」と思い、『マグナム』でもしばらく続けていました。
『RanceVI』『GALZOOアイランド』、『戦国ランス』、『ランス・クエスト』でも、「もっと遊べる追加パッチ」を出していますが、これらの追加パッチは、もともとの開発計画にはないものなんです。自分たちやスタッフが、無理やり開発スケジュールをこじ開けてやっていたんですよね(笑)。
──ああ、初期の「アリスの館」のようなコンセプトが、ずっと残っていたんですね。
TADA氏:
そうですね。「ユーザーの声を聞き、それを活かしたものを出したい」という気持ちが強かったし、楽しかった。あとは当時、MMOなどでもアップデートが多く、それが羨ましくてしかたなかったというか、「あの仕事、きっと楽しいだろうなぁ」と思っていたんです(笑)。
──え、どうしてでしょう?
TADA氏:
アップされた追加や修正を見てユーザーがすぐに反応するのが、「いいなあ、やりてえなあ」と思ったんですね(笑)。そんな気持ちで何度か追加パッチを出すのですが、更新に飽きたらそこで止めています。
──とことん意見を追うわけでもないと(笑)。
TADA氏:
好きでやっていることなので、飽きたら終わりです(笑)。ですので、ソーシャルゲームのようなものも好きなんですが、たぶん私には運営は無理だろうなと。
──お話は少し変わりますが、この2006~2007年の時期は、DreamPartyなどの美少女ゲーム系イベントも多く開催されていました。アリスソフトさんは、イベントへのご参加は?
TADA氏:
最初の参加は、東京ドームであった、富士通のFM TOWNSのショウとかです(笑)。
──ずいぶん昔ですね(笑)。イベントでも、ユーザーさんとの新しい交流はあったんでしょうか。
TADA氏:
僕の中では、ああいうイベントは大昔の見本市のイメージだったんですね。だから、他社さんと違って、展示会のつもりでブースを作ってしまって、物販を考えていませんでした。でもだんだん、お客さんはグッズを買いにきてるみたいだぞ、となって。それでグッズも作ったんですが、僕自身はあまりイベントへの興味がなくなっていきましたね。
スタッフのセンス光るリメイク
──さて、このあと『RanceIX -ヘルマン革命-』(平成26年)が発売されますが、その前年から『ランス01 -光をもとめて-』(平成25年)というようなリメイク作品が出始めます。どういう意図があったのでしょう?
TADA氏:
ここまで『Rance』のシリーズも長く続いたので、「最初のほうを遊びたい」という方もいるだろうと考えたのが発端です。でも、改めて触れるとさすがに古すぎて、恥ずかしいというか、「これはひどいよ」と(笑)。
ですから「やってくれるスタッフがいるなら、作ってほしい」というノリでした。結果、このリメイクシリーズはノータッチです。いってんちろくと、魚介【※】に担当してもらいました。
※魚介
原画家。リメイク版の『ランス 01』、『ランス 03』では彩色も担当した。その人気を受けて、開発中の新作『ドーナドーナ(仮題)』にも、原画と彩色で参加している。
──『ランス03 リーザス陥落』が平成27(2015)年発売です。このときも、ディレクターのいってんちろく氏や原画の魚介氏など、『ランス01 -光をもとめて-』と制作メンバーが同じですね。
TADA氏:
はい。『ランス01』も『ランス03』も、すごく面白くアレンジしてくれたので、よかったです。
オリジナルそのままだと、設定的な矛盾や、古すぎるなどの問題が多いので、積極的にアレンジしてもらいました。とくに気に入っているアレンジは、ミリーのような町娘のイベント強化や、アイゼルの使徒などのキャラ関係。
あとは『03』ラストの魔王ジルとの戦いです。この部分の理屈付けはよく考えてくれたと思っています。
──そして平成26(2014)年4月25日に『RanceIX -ヘルマン革命-』が発売されます。これは物語の一翼を担うヘルマン帝国を語るための作品ということですね。
TADA氏:
「ランスワールドの各国をメインにした作品を1回ずつやっていこう」ということは決まっていたので、最後に残ったヘルマンを語らずには先に進めませんでした。メインストーリーとゲーム部分は、全部ぷりんが担当です。ランス側のストーリーは僕が担当しました。
──『RanceIX』でストーリーの主軸になるヘルマンの皇子パットンに関するお話以外のお話ですね。
TADA氏:
そうです。この見せかたというのは、表の主人公ナナスが女の子と仲良くし、その裏でカカロというおっさんが酷いことをするという、『ママトト』(平成11年)のときと同じなんですね。
『ヘルマン』では、表の主人公がパットンで、裏の主人公がランスでした。そのランス側を僕が担当したんです。ですからヒロインのストーリーは、全部独立したものになっています。
──パットン側で描かれたのは、とても格好いいストーリーでした。それはTADAさんのご担当ではなかったからかもしれませんね(笑)。
TADA氏:
ええ、僕だと、どうしてもまっとうな格好よさからズラしたくなってしまいますから。ぷりんは、格好良く正統派の物語でまとめてくれました。ですからズレたほうを楽しみたい方は、ランス側のシナリオをご覧くださいと(笑)。
そして『Rance』も終章へ
──そしてついに最終作『RanceX -決戦-』が2018年2月23日に発売されます。……ちなみにこの「X」の読みは「じゅう」でいいのでしょうか?
TADA氏:
「じゅう」です(笑)。
──よかった。一部でずっと論争になっていたんです(笑)。さて、この作品でシリーズ完結となりますが、そうすることはもう前から決まっていたと。
TADA氏:
はい。10という数字が切りがよいこともあり、だいぶ昔から決めていました。以前、ユーザークラブの会誌でも、僕は「10で完結させる」と書いていた、とTwitterで書かれていたんですが、覚えていないんです(笑)。
でもそれぐらい前から、各国を1回ずつ冒険し、全体の総集編をやり、10あたりでキレイにまとめようと考えていたんだと思います。
──「最終作として、どのような終わりにするか」は、その当時から考えられていたのですか?
TADA氏:
なにしろ全設定をすでに見せた『鬼畜王ランス』もありますので、それとは違うものにしないといけないなと。同じ終わりではいけなかったので。あとは「最後だから派手にしたいね」という気持ちでした。
──最終作に相応しいボリュームだったと思います。そのボリュームをどのように進めたのでしょう?
TADA氏:
じつを言うと、『X』は第一部と第二部を別チームで作る予定でした。それくらいのつもりの規模で企画していたんです。が、いろいろあって1チームで全て作る事となり、「本当に、よく完成したなあ」と今でも思います。
織音がどんどん進めてくれたのと、『ランス・クエスト』からシナリオに入ったヨイドレ・ドラゴン【※】、このふたりがもう、化物のように仕事をして、僕を引っ張ってくれたのでなんとか完成したという感じです。
※ヨイドレ・ドラゴン
シナリオライター。『ランス 02』や『大帝国』(平成23年)に参加の後、『ランス・クエスト』にメインライターとして加わり、完結となる『RanceX』でも、長大な『ランス』ワールドを見事に描いている。
──サービスシーンも充実していますし、既存の『ランス』シリーズから総登場した各キャラクターについてのショートシナリオ、このテキスト量もものすごい。
TADA氏:
尋常じゃない量でした(笑)。それもヨイドレ・ドラゴンが休みの日もずっと会社にいて、ずっと書いてくれたからですね。「ちょっと少なめでもいいよ」と言ったんですが、「やり過ぎ!」というぐらいにやってくれています。シナリオは、彼ともうひとりが本当にがんばってくれました。
第二部もコンパクトに設計し直してシーンを減らしたんですよ。そうしたら織音とヨイドレ・ドラゴンが、それを元に戻した(笑)。しかも、「もっと増やしたい」というノリで。
僕自身はもう、力尽きて「うまく着地しようよ」って感じでしたが、ふたりが「まだやれます!」と(笑)。よくやってくれました。
──スタッフさんの情熱がほとばしっていますね(笑)。
平成を駆け抜けたTADA氏の見据える未来とは……
──お時間をかけて30年を語っていただきました。ありがとうございます。
お伺いしていてあらためて思ったのは、やはりその長さとTADAさんの作品への関わりの深さです。30年間、みっちりとゲーム制作を最前線に立って続けた人というのは、PCだけでなくすべてのゲーム業界でもほかにはあまりいないんじゃないかと思います。だいたい30年続いたシリーズというもの自体がそうありませんし、作られている方も役職が付くともう、あまり作らなくなったりしますよね。
TADA氏:
30年間か……すごいですね。そこまでできるとは思ってもいませんでした。何かものすごい幸運に恵まれていたんだろうなあと思います。業界の黎明期に参加できて、作るのが下手でも実践しながら成長できる機会があり、優れたスタッフに出会い……。ずーっと自分の好きなことをしていた30年間でした。
あ、でも副社長としての仕事はあまりしてないなあ。儲けることとか、会社を大きくすることとか……(笑)。
──(笑)。取材の冒頭にも繋がりますが、『Rance』シリーズは、アリスソフトさんとしても根幹を支える作品だったと思います。
そんな大仕事を30年かけてやりきったTADAさんは、これからどこへ向かわれるのでしょう。ファンも気にされていると思います。
TADA氏:
エロは永久になくならないジャンルですし、続いていくものと思います。でも、いまの形からは業界が変わっていくだろうなと感じています。
そして質問の答えであり、これは日本全体の状況だとは思いますが、疲れた年配の人間はさっさと辞めないと、新しい若い人が活躍できないなと(笑)。
──後進に道を譲るという感じですね。まさに若手の皆さんがいま、『イブニクル』(平成27年)などのシリーズで、『Rance』に変わる新しい世界を作ろうとしています。
TADA氏:
どんどん面白いものができると思います。僕がいたら、ついつい口を出し、余計なことも言ってしまって、むしろ邪魔しかねない(笑)。
──ですがそれでも、まだまだ作りたいものがあるのではないですか?
TADA氏:
「こんなものを作りたい」、「こんなことをやってみたい」という気持ちはありますよ。でも、体力がついてこないし、技術も追いついていないと感じています。
もうひとつは「作りたい」ものが果たして「遊びたい」ものなのか、と思ってしまうんです。昔は「自分が作りたいゲーム」は「自分がやりたいゲーム」だったんです。いまは「作りたい」けど、それを「遊ぶか」といったら、「そこまでは……」という気持ちになっていて。それはユーザーさんに対して不誠実にほかならない。
──今日のここまでお聞きした中でも、『Rance』というものが、TADAさんが作りたい、そして遊びたいゲームだったことが解ります。そこから何かズレてきてしまっているのでしょうか。
TADA氏:
昔は他社さんも含め、本当にたくさんのエロゲーで遊んでいました。いまはそこまでではなく、その熱意が薄れたというかマンネリ感というものが、自分の作品にも出てしまう気がするんですね……ずっと頑張ってきましたが、いまはいったんエロゲー作りから距離を置いてみたいと思っています。
──そういった気持ちが乖離してしまうときがあるのは、クリエイティブな業界の命題のような気もします。
TADA氏:
そうですね。「どんなに好きなこともぶっ続けでやり過ぎたら飽きちゃって当然だよね」と。だから少し離れ、好きになれるものを探したりなど、また「やりたいぞ」という気持ちが湧くようにと思っています。
──何か見つけられそうですか?
TADA氏:
これと言ったものはまだ見つかりませんが、勉強をしたりネタ集めをしたりしています。なにせ30年間アウトプットし続けたので、頭がすっからかんなんですよ。「インプットしないとね」と。
──いつか、また作りたいものが見つかったときには、TADAさんは帰ってくるのでしょうか?
TADA氏:
帰ってきたいとは思うけど、居場所あるかなあ……まあ、チャンスがあれば。
──でも前向きな姿勢が伺えて何よりです。充電後のTADAさんの活躍に、もちろん期待したいと思います。今日は長時間、ありがとうございました。
TADA氏:
ありがとうございました。(了)
「しばらくは自由にやってみたい」と語るTADA氏だったが、いまもまだまだアリスソフトの最新作の現場に、のぞき見気分で顔を出しているのだとか。『RanceX』後も、ゲーム作りをめぐってスタッフとの熱い討論が続いているらしい……との社内の噂もあった。
そうやってつねに「もっと面白く」とアイデアを模索し続け、ファンやスタッフと密に対話しながら、既存のゲームとはひと味違う「ズレ」に拘り続けたTADA氏は、間違いなく、PCゲーム業界屈指のクリエイターのひとりだと解るだろう。
ウォーゲームが、シミュレーションゲームが好きで始まったTADA氏のゲーム作りへの想いは、技術的な制約などを乗り越え、多くのヒット作を生み出し、その中にも、憧れていたそれらのジャンルの匂いが色濃く現れていたようにも思う。
さらにパーティーユニットやアイテム集めをしていても感じる、運の要素やランダム性の高さ。それもまた、「自分が作ったゲームで、自分も遊びたい」というTADA氏にとっては、必然のスタイルだったのではないだろうか。
取材中、謙遜しながらも、作品作りへの情熱的な一面を見せてくれたTADA氏。
氏が考える「ゲームの面白さ」は、数々のヒット作を通してプレイヤーに提案され続け、今回の取材での言葉からもつねに滲んでいた。その一端だけでも、うまくお届けできていれば幸いである。
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