芝村氏が直接解説する「ガンパレの概要設計書」。細かな仕様やシステムはどう作られたのか
──続いてはこちらの「概要設計書」という資料です。おそらく『ガンパレ』のシステム的な設計が書かれている企画書だと思うのですが……なんだか見ているだけで頭が爆発しそうです。
芝村氏:
(笑)。なぜここまで企画書上でシステム設計を書いていたかというと、この頃はプロトタイピングをしていなかったからなんです。今であればUnityなどを使ってサクッとプロトタイプを作ったりできますが、当時は一旦紙の上にゲームの内容を図示してから本番のプログラミングに取りかかっていました。
そう考えると、『ガンパレ』の頃に比べると開発ツールなどは飛躍的に進化しましたよね。ただ、その分別の手間暇もかかるようになっているので、結果的にかかる時間はそこまで変わっていないような気もします。でもまぁ……やっぱりこの資料を見ると隔世の感を覚えますね。
この頃って、こんな資料まで作らないとゲームを作れなかったんですよね……。
──この企画書内には「ファジー入力」からイベント発生のルーチンに戦闘システムなど……『ガンパレ』のシステム的なところがより子細に書かれていますが、これらのプログラムはおおむね芝村さんが設計されたということでしょうか?
芝村氏:
そうですね、大体私が設計しました。
ファジー入力のシステムは「はい、いいえ」だけの2種類の選択肢だけじゃなく、もっと曖昧な選択肢を用意できるような入力系のシステムを作りたい……という考えから実装されています。
ただ、実際のプレイヤーはファジー入力に極端な数字しか入れなかったので、正直「そこまで入れる意味がなかったかな……」とは思ったりします。
──あぁ、あの上MAXで入力したり……(笑)。
その「はい、いいえだけじゃない選択肢」という発想は、もしかして「提案」システムにも活かされているところなのでしょうか?
芝村氏:
基本的に『ガンパレ』は起きたイベントに対する「あなたの感想」がファジー入力になっています。つまり、「あなたはこの現象にどう思いましたか?」というプレイヤーの感想を入力するシステムですね。
将来的には「提案」システムにも「あなたはどんな雰囲気で質問しますか?」という意図のファジー入力を実装したいと考えていました。無理に会話をせずとも、NPCと2人きりでファジー入力を続けていけばそのキャラとカップルになれるようなシステムが欲しかったんです。
要は、「その身から出る雰囲気をシステム化して、それに合わせたコマンドを入力することでキャラの雰囲気が変わっていく」ようなシステムを作りたかったんですが、それは当時の開発チームにはあまり受け入れられませんでした。時代が早すぎたんでしょうね。
とにかく、「人間って、そんなに“はい”と“いいえ”ばっかりの生き物じゃないでしょ?」という考えからこのシステムは作られています。もう少し時代が進めば、私が「本当にやりたかったファジー入力」を実現できる日は来るかもしれないですね。
──この企画書もところどころで「世界を楽しんでもらうゲーム」ということが念押しされているのが、なんだか当時の苦労がうかがえます。
芝村氏:
そうですね……苦労というか、本当にここまで書かないと周囲がわかってくれませんでした。とにかく「世界観重視」の方針が伝わりにくくて、当時は辛かったです。
ただこれも身から出た錆と言いますか……『ガンパレ』の企画が立ち始める前の別のゲームで、私は「シナリオや世界観を重視するのはクソだ!」といったことを企画書に書いていたんです……(苦笑)。
ディレクターや企画者は制作するゲームによって主張を変えなければならないのは当然なんですが、それにしても当時は大変でしたね。
令和にベールを脱ぐ、幻の「南の島ガンパレ」
──続いてはこちらですが……もうここまで来るとなにがなんだかわからなくなってきますね。
芝村氏:
あぁ、これは「ボタン押下画面」というものを表わした表で……。
……ってうわぁ!? これ本当に出していいやつなんですか!?
──えっ!?これってさっきの資料よりも重要機密だったりするんですか!?
芝村氏:
いや、これは「ガンパレードマーチ・テストエディション」の資料ですよ!
みんなが知っている熊本を舞台にした『ガンパレ』を作る前に、テスト用に南の島を舞台にした『ガンパレ』を作ったんです。それはこの「南の島ガンパレ」のボタン押下画面や、マップ構造などが書かれている企画書です。
──その「ガンパレードマーチ・テストエディション」というものは、今で言うところのバーティカルスライス【※15】的なものなのでしょうか?
※15「バーティカルスライス」
序盤や最初の1ステージだけなど、短く区切って「ゲームがほぼ完成に近い状態で遊べるもの」を指す。
芝村氏:
いえ、これはバーティカルスライスというより、完全に「試作版」として独立したひとつの作品です。
資料に書かれているように「校庭画面」が中心にあり、そこから研究所に行ったり、教室に行ったりする……そういった「画面遷移図」も兼ねているのがこの企画書ですね。
「このボタンを押すとこうなります」、「ここの画面は同じ画面で留まり続けることができます」、「そしてこの画面に戻ってきます」といったような、「ひとつのゲームに、これだけの画面があります」ということを表わした表でもあります。テストエディションではありますが、ひとつひとつの画面を割り出すと、これだけの画面数が存在するんです。
今だったら、こんな図を最初に書かなくてもササっと作れちゃうんですけどね……(笑)。
──うおお……「南の島ガンパレ」というものが存在していたんですね。これ、ヤバいですね……。
芝村氏:
この「南の島ガンパレ」のシナリオの一部は、『ガンパレード・オーケストラ 青の章』【※16】に使われていたりします。ただ、テストエディションの開発も、ちゃんと作ったら中々に楽しかったです。
※16「ガンパレード・オーケストラ 青の章」
『高機動幻想 ガンパレード・マーチ』のストーリー上の続編にあたる「ガンパレード・オーケストラ」三部作の第三弾に当たる作品。「南の島ガンパレのシナリオの一部を使った」とはどういうことなのかがこのあと語られている。余談だが、「電撃ガンパレード・マーチ」や『青の章』の設定資料集などで、この「南の島ガンパレ」及びテストエディションの存在について少し触れられていたりする。
──確かによく見ると、「イルカ処理画面」などが書かれていたりしますね。南の島っぽいです。
芝村氏:
そうそう、南の島だからイルカを出したりしていたんです。
ですが、この時作ったテストエディションは全て破棄し、熊本を舞台にした『ガンパレ』を作り直すことになりました。なぜ、当時の私はそんなことをしていたんでしょうね……?(笑)
一同:
(笑)。
──なぜ、この「南の島ガンパレ」は作り直しになってしまったのでしょう?
芝村氏:
すごく簡単に言えば、予算が出し直されたんです。開発が継続になったというよりも、『ガンパレ』が正式なプロジェクトとして認められ、新しく予算が入ったから作り直したのだと記憶しています。
1度同じプログラムを作るにしても、「1度作った経験がある上で、新しくプログラムを設計する」方が遥かにクオリティが高くなる……という意味でも全然メリットはあるやり方です。
今思うと、エクセル方眼紙を使って企画書を書いているのは中々に恐ろしい時代ですね。今の若い人にエクセル方眼紙の話をしたら、みんなから笑われてしまいますよ……(笑)。
──正直、事前に資料をいただいた時、この企画書だけは意味がよくわからなかったんです。ちょうどいま芝村さんから「南の島ガンパレ」の話を聞いて、全てに合点が行きました。
芝村氏:
今でこそ全然問題ないんですが、これはかなり「出してはいけないもの」寄りの企画書ですね。もう、こちらとしてもこの企画書の存在自体を語っていいのかしら……くらいの資料です(笑)。
ただ、この「南の島ガンパレ」があったからこそ、最終的な製品版のより良い『ガンパレ』を作り出せたのは確かですね。
──このテストエディションの時点で「ロボットを整備する」といったような要素はあったのでしょうか?資料を確認していると、「研究用プール」などのあまり聞き馴染みのない単語が書かれています。
芝村氏:
いや、この頃はロボットなどは登場していません。
テストエディションは「観測用の光学望遠鏡を整備する」という内容のゲームでした。
──えっ、そういうゲームだったんですか!?なんか「航空」とか「冷却」とか書いてあるので、「ロボットじゃないのかな?」とは思っていたんですが……。
芝村氏:
ロボットじゃないんです。怪獣とも戦いません。
「黒い月」を観測するための観測部隊のお話でしたね。
──つまり、これは先ほど見た『ガンパレ』の企画書とは前の時系列の資料なのでしょうか?
芝村氏:
いえ、テストエディションは先ほどの資料よりは後に作られたものです。ある程度『ガンパレ』の方向性が定まった後に「テスト版を試しに作ってみましょう」という話になり、そこから作られたのがこの「南の島ガンパレ」です。
南の島の閉鎖環境の中に7~8人のキャラクターが配置されていて、分校で楽しく天体観測するような、やや軽めのゲームです。とにかく、「テスト版として軽く作ってみましょう」みたいなノリだったと思います。
──こちらはそのテストエディションの資料に付属していたものなのですが……これらの「南の島ガンパレ」用に作られた各プログラムや計算式が製品版の『ガンパレ』に引き継がれたのでしょうか?
芝村氏:
いや、全然使われていないですね。
──ええっ、この資料すら「南の島ガンパレ」専用の計算式なんですか!?
芝村氏:
これは「南の島ガンパレ」で一度計算式などを試作してみて、そこで「もう少し複雑な計算式がいいな」と判断して、製品版では別の計算式になっています。具体的には、ここから「プレイヤーがステータスの上昇をもっと直感的に感じられるような計算式」を目指す必要がありました。
なめらかな曲線のようにステータスが上昇するのではなく、もっと階段のように上昇することで、プレイヤーが「あ、レベルが上がった!」と感じられるような計算式にしました。「ファジー入力+4時間」でモリっとステータスが上がるアレですね。
人間ってやっぱり、「レベルアップ」した時が一番嬉しいんです。
そもそも「レベルアップ」というシステムの画期的なところは、「グンと強くなった感じがする」という嬉しさにあります。だからこそ、なめらかな曲線のようにちょっとずつステータスが上がっていくよりも、階段のようにガツンとステータスが上がった方が、感覚的には気持ちいいですよね。
そのステータスの上昇を『ガンパレ』で再現できるように、これらの計算式は書き直されました。
──これもテストエディションの資料ですね。こちらは……イベントリストでしょうか?
芝村氏:
「南の島ガンパレ」のイベントリストですね。そのためのイベントが100個ぐらい書かれています。
ただ、これでもイベント数が全然足りないことがわかったので、「よし!本番は1200個じゃ!」と意気込んでいましたね(笑)。
──100個も作ったイベントが全部なくなっちゃうだなんて……(絶句)。
芝村氏:
でも、これはこれでイベントの書き方の練習になって良かったですよ。テストエディションの頃は「情報や解説を全部書いた方がいいのか?」といったような試行錯誤を重ねていました。
まぁ……今だとこんな作り方はしませんけどね……(笑)。
『ガンパレ』はTRPGを模したリプレイから作られた。芝村氏が構想していた「フルスケール・ガンパレードマーチ」とは?
──続いてはこちらの「デモリプレイ」という資料です。これはどういった資料なのでしょう?
芝村氏:
これは「実際に『ガンパレ』を遊んだらこんな感じのストーリーになりますよ」ということを紙面上にリプレイ形式で書き、スタッフ用に配った資料だと思います。
──なるほど。これは時系列的にはいつ頃の資料なのでしょう?
芝村氏:
テストエディション以前に作られた資料ですね。そもそもの「このゲームってどんな雰囲気なの?」ということを説明するために作った、最初期の資料のひとつです。まだ『ガンパレ』の企画が通過してるかどうかすらも怪しい時期に作ったものなので、もう好き放題ですね(笑)。
とにかく「自分の頭の中にあるゲームは、こんなゲームです」というイメージを書きまくっていた時代の資料です。この頃はまだ具体的なゲームシステムすら生まれていません。
この「こんな感じのゲームです」というリプレイを元に、『ガンパレ』のゲームシステムを作り上げていきました。つまり、「リプレイを最初に書いて、そのリプレイが実際にできるようなゲームをデザインする」という従来とは丸っきり逆の作り方をしていたりします。
──このデモリプレイって具体的にはいくつぐらい制作されたものなのでしょう?
芝村氏:
確か10個以上は作っていたと思います。
──10個以上!しかもこれ、よく見ると主人公もそれぞれのリプレイで違いますよね?
芝村氏:
そうですね。主人公も毎回違います。
とはいえ、このリプレイ形式こそが、「『ガンパレ』ではこんな体験ができるぞ」ということを確認した上で、それを共有するための最も手間暇のかからない最適解でした。
このゲームデザインはどうすれば作れるのか、どういうステータスであればこのゲームを表現できるのか……そういった基礎の設計を組み立てていくには「リプレイ形式」が最も適していたんですよね。
──世界観自体はある程度固まっていたから、「このゲームを実際に遊んだ時」を表現するために別々のプレイヤーのリプレイを10個ほど用意してみた……という感じなのですね。
芝村氏:
結局、ゲームは「最終的にどう遊ばれるか」が重要になってきます。だからこそ、「遊ばれた時にどうなるのか」をある程度リプレイ形式で予測する必要がありました。
特に、『ガンパレ』のような前例のないゲームを作る場合は、「前例はないけど何かを参考にする必要がある」という、ある種のなぞなぞのような状態に陥っていましたね。
──『ガンパレ』を遊んだプレイヤーが実際にこのリプレイのようなストーリーを遊んでくれたのは、中々にすごいことですよね。
芝村氏:
そうですね。最終的な形は少し変わったかもしれませんが、私がこのリプレイでやりたかったことは大体できた気がします。
──ちなみに、このリプレイはひとつにつき大体どのくらいの時間をかけて書かれていたのでしょうか?割とこれ、事実上の芝村さんが書かれた小説版『ガンパレ』と言えるものだと思うのですが……。
芝村氏:
ひとつにつき2時間ぐらいだったと思います。
小説は1冊書くのに1ヶ月くらいかかるので、それに比べりゃ楽なもんですよ(笑)。
全体的に、TRPGを参考にしながら書き上げていったものだと記憶しています。
──ちょっと興味本位でお聞きしたいのですが、このリプレイ内に登場するキャラって『ガンパレ』本編とは違うキャラですよね? ここからゲームに登場したようなキャラはいたりするのでしょうか?
芝村氏:
ここからゲームに登場したキャラはあまりいないですね。当初は「フルスケール・ガンパレードマーチ」という企画が別にあったんです。この「フルスケール・ガンパレードマーチ」は1000人単位でNPCを用意するゲームでした。
先ほども説明した「群体型AI」は登場する人間の数を増やせば増やすほど、ゲームのリアリティや面白さが増していくものです。だから、実際の製品版の『ガンパレ』に登場する20人くらいの規模は、当初の予定からかなり削った数でした。
あの「20人くらい」という数は、最小限の規模で群体型AIの面白さを発揮できる数です。本当はもっと潤沢な予算があれば、1000人くらいの規模の「フルスケール・ガンパレードマーチ」を作れたはずなんですよね。
──完全なスペックで再現できていれば、「フルスケール・ガンパレードマーチ」が作れていたかもしれないんですね……。このデモリプレイではない別の企画書に、「ガンパレード・マーチ 世界規模3000人」という言葉が書かれていたんです。あれが「フルスケール・ガンパレードマーチ」のことなのでしょうか?
芝村氏:
そうですね。それが当初企画されていた世界規模1000人の「フルスケール・ガンパレードマーチ」です。生徒が1000人登場するわけではなく、学校の教師や偉い人や敵も含めた1000人規模のNPCをAIで動かす予定でした。
いやぁ、「企画書が出てくる」とは聞いていたものの、本格的な企画書以前の資料が出てくるとは私も思ってませんでした……(笑)。
──リプレイ内には『ガンパレ』のバトルシーンも書かれていますが、これらのバトルシステムなどは芝村さんの脳内シミュレーションで書かれていったものなのでしょうか?
芝村氏:
私は計算式を頭の中で暗算できる派閥の人間なんです。だから、戦闘システムの「こういう計算式で動いていれば、こういう結果になる」という脳内シミュレーションは、ある程度私のセンスによって書けている部分だと思います。
ダメージモデリング、敵のシルエットに対する命中率……そういった計算式の部分は直感的に書いています。そこはある種、プログラマーの職人芸みたいなところかもしれません。
──戦闘周りのステータスなども芝村さんが設計されたのでしょうか?
たとえば士魂号と士翼号の性能の違いなんかも……。
芝村氏:
そうですね。士翼号は性能が良すぎて使いにくくなるであろうことも想定して作りました。「使い慣れた士魂号の方が使いやすいわ!」と言い出す人がちゃんと出るようにしています。
──そうなんですね!ということは、もしかして1周目の滝川くんがゲームを進めるにつれ段々とパッとしない性能になっていくというか……若干物足りなくなるようなところまで想定した上で設計されたのでしょうか。
芝村氏:
『ガンパレ』はゲームが進むにつれ、近接戦の方が強くなるように作ってあります。なので、序盤は射撃戦主体で強かったはずの滝川の活躍の場が減り、逆に近接戦主体の壬生屋が後半あたりから強くなります。
ゲーム後半で敵の数が増えるにつれ、プレイヤーが意図せずとも「近接戦を仕掛けるしかない」ような状態になるように作ってあります。弾数の問題でキックやパンチで戦うしかなかったり、もう「最後に頼りになるのはこの刀だけ!」と追い詰められるようにデザインしています。
そうなると、「壬生屋がいてくれて本当に良かった……」という局面がチラチラ出始めるんですよね。もうプレイヤー的には「これまでバカ娘と呼んでいてすいませんでした」と思うような……(笑)。
──滝川くんの「ゲーム序盤は頼りになるけど、進むにつれ段々と……」というあの印象が、戦闘パートと学園パートも大体同じなのが面白いです。あの「戦闘パートも学園パートも含めて、キャラが総合的に設計されている」のが『ガンパレ』のかなりすごいところだと考えています。
芝村氏:
今作において「なんのために戦闘があるのか」と考えると、それはもちろん「キャラクターのシナリオのため」です。そして、世界観を表現するための戦闘システムでもあります。その「シナリオや世界観を戦闘パートでどう見せるのか」ということが、今作の戦闘においては重要でした。
ゲーム側の演出で「このキャラはこんな性能のキャラだ!」と理解させるようなことは簡単にできるのですが、それでは人の心に響かないんですよね。だからこそ、プレイヤーに自然と性能を理解してもらうようなキャラ設計にする必要がありました。ここも「人間の補完機能を働かせる」ことの一例ですね。
つまり、「最初は役に立っていたはずの滝川が、徐々に遠距離戦主体では役に立たなくなってくる」ということがプレイヤーの実感としてわかるようになっています。逆に、戦況が戦乱の世に近付いていくことで、戦国時代の知識で戦っているような近距離戦主体の壬生屋が段々活躍し始めます。
徐々に遠距離が弱くなり、近距離が強くなることで戦闘パートでも「段々とファンタジーが近付いてくる」ようなゲームデザインにしています。まぁ、ゲームデザインの仕事とはこういう仕事だと思います。
──そういうプレイヤーの実感と体験を伴ったキャラの立て方やシナリオの受け取り方は、まさに「ゲームならでは」の表現方法だと思います。芝村さんはこの表現方法でキャラやシナリオを描く時、何を意識されているのでしょうか?
芝村氏:
その「実感を伴ったキャラの立て方」の仕組みを作れるかどうかは、やはり「最初にキャラ設定をどこまで詳しく作れるか」にかかっていると思います。
たとえば、キャラの設定がゲーム開発の最後に上がってきた場合、戦闘システムの方では上手く対応できなくなってしまいます。結局ゲーム開発の基本に戻ってしまいますが、やはり基礎的な順番としてキャラの設定などを含めた企画はしっかり立てるべきですよね。
ただ、これの逆のパターンというか……「ゲームで活躍する性能のキャラだから、コイツのシナリオを盛ってやろう」という作り方を見た時はちょっと面白かったです。
これもある意味合理的な「キャラの立て方」ですし、今のソーシャルゲームはこれに近いキャラの作り方をしていますよね。人気のあるキャラを中心にイベントを作ったり、別バージョンを出したり……。
あの作り方を見た時、「ユーザーからのフィードバックをちゃんと受けられるようになれば、こういうキャラの作り方もできるのか」と感心した覚えがあります。
──なんだか根本的なことをお聞きしてしまうようなのですが……先ほどの雑誌風の資料やテストエディションやリプレイも含めて、そもそも企画書にここまでの情報量を載せるのは一般的なことなのでしょうか? 私の目にはかなり異質な事例に見えるのですが……。
芝村氏:
いやぁ……? 割と普通のことだと思いますよ……?
ただ、流石に『式神の城』のようなシューティングゲームの場合は、これよりはちょっと少ないと思います。ですが、これほどではないにせよ『式神の城』でもかなり情報量の多い企画書を書きました。だから、『ガンパレ』だけが特殊な事例ではないと思います。
私は一切関わっていませんが、同じアルファ内で開発されていた『キアイダン00』【※17】というタイトルでも資料は山ほど作られていました。ある意味、これはアルファの企業性でもあったのかもしれないですね。いや、今『キアイダン00』って言っても誰もわからないか……(笑)。
※17「キアイダン00」
企画・開発をアルファ・システムが担当した、PCエンジンSUPER CD-ROM2用の横スクロールシューティングゲーム。ストーリーやシステムなど、全体的に1970年代ロボットアニメを意識した作りとなっている。
──いやぁ……でも、芝村さんめっちゃ働いてますね……。
芝村氏:
いや、働いてないです!
──……本当ですか?(笑)
芝村氏:
本当ですよ! 毎日定時になると酒を飲みに行っていました。連日連夜飲んでいましたし、あの頃は楽しかったです。もう当時のことは飲んだ酒のことしか覚えていません(笑)。
もうどこにいても「飲みに行きましょう」と言ってくる同僚ばかりだったので、幸せな時代でしたね。どんな仕事をしたのかは覚えてませんが、どんな酒を飲んだのかはよく覚えています!
一同:
(笑)。