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海賊版を自ら配信したゲームメーカーの真意は、違法コピー問題を真剣に考えた末の強烈な皮肉──企業運営シミュレーションゲームに厳しい現実を追体験する「海賊版モード」を実装

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 長年ビデオゲーム市場を悩ませてきた海賊版問題に、ユニークな方法で一石を投じたゲームがある。2013年にGreenheart Gamesがリリースした、ゲーム開発会社シミュレーションゲーム『Game Dev Tycoon』がそれだ。

海賊版を自ら配信したゲームメーカーの真意は、違法コピー問題を真剣に考えた末の強烈な皮肉──企業運営シミュレーションゲームに厳しい現実を追体験する「海賊版モード」を実装_001
(画像はSteam|Game Dev Tycoonより)

 一見するとシンプルな企業運営ゲームだが、実は『Game Dev Tycoon』には、海賊版でプレイすると「プレイヤーの会社が海賊行為の被害にあって破産する」という仕組みが施されていたのである。
 Greenheart Gamesは『Game Dev Tycoon』を販売すると同時に、その海賊版を自らインターネット上に放流。正規品を購入したプレイヤーは通常どおりプレイできたが、海賊版を入手したプレイヤーは「海賊行為で破産」トラップの餌食となった。

海賊版を自ら配信したゲームメーカーの真意は、違法コピー問題を真剣に考えた末の強烈な皮肉──企業運営シミュレーションゲームに厳しい現実を追体験する「海賊版モード」を実装_002
海賊行為トラップが発生したときのプレイ画面。「ボス、新作ゲームはかなり遊ばれていますが、プレイヤーたちは正規購入せずに海賊版をダウンロードして、ゲームを盗んでいるようです。このままゲームが売れなければ、遅かれ早かれ破産してしまいます。」と表示されている
(画像はGreenheart Games|What happens when pirates play a game development simulator and then go bankrupt because of piracy?より)

 海外ではこの罠にはまった人々が続出。海賊版ユーザーから寄せられた「どうすればゲーム内での海賊行為を避けられるのか」といった質問をGreenheart Gamesが公式サイト上で公開するなど、皮肉たっぷりな方法で海賊版問題を“実験”したことで話題となった。

 そんな『Game Dev Tycoon』が、リリースから5年経つ2018年3月9日のアップデートで、またもや新たな実験を始めた。「海賊版モード(Pirate Mode)」が追加されたのである。

海賊版を自ら配信したゲームメーカーの真意は、違法コピー問題を真剣に考えた末の強烈な皮肉──企業運営シミュレーションゲームに厳しい現実を追体験する「海賊版モード」を実装_003
画像右下の赤枠部分に「海賊版モードでは、ゲーム全体を通して売上が極端に減少します。破産は日常茶飯事。コピープロテクションをかけることもできますが、ファンの怒りを買います。時折、事実をもとにした“ファンメール”が届きます。」と記されている
(画像はSteam コミュニティ|Game Dev Tycoon|グループへのお知らせ|v1.6 Released: New Pirate Mode, New Game Content and Better UIより)

 リリースノートによれば、海賊版モードは「生き残るためにはDRM【※1】の発明・株の売却が必須のウルトラハードモード。海賊行為が蔓延する厳しい現実を生き残れるか、運試し。」と説明されている。
 コピープロテクションをかければファンは不満をつのらせ、プレイヤーの運営する会社に怒りの“ファンメール”【※2】が届くなど、海賊行為がのさばる現実世界をリアルにシミュレートしているようだ。

※1 DRM
デジタル著作権管理(Digital Rights Management)の略称。デジタルコンテンツの著作権を保護し、違法コピーや海賊版の流通を防ぐ技術やシステムを指す。

※2 ファンメール
普通はファンによる感想や応援のメールを指すが、ここでは理不尽な文句や暴言などのメールを、皮肉を込めて意味している。なお、ゲーム内で届く“ファンメール”は実際にGreenheart Gamesに届いたメールをもとにしているとのこと。

 海賊版問題を強烈に皮肉するのみならず、それをゲームデザインにも折り込んでしまったゲーム『Game Dev Tycoon』。これほどにまで海賊版を意識したゲーム開発会社運営ゲームは、ほかにはないだろう。
 『Game Dev Tycoon』の開発者はどうして海賊版問題をゲームに組み込んだのか。そして、海賊版に対してどのような思いを抱いて強烈な皮肉を生み出したのだろうか。Greenheart Gamesの創設者であり『Game Dev Tycoon』のディレクターでもあるPatrick Klug氏に、その思いの丈を語っていただいた。

聞き手/ishigenn
文/実存


──ゲーム市場における海賊行為についてどう思いますか?

Patrick氏:
 海賊行為に対して正当な理由を話せる人はほぼいません。莫大な数にのぼる海賊版プレイヤーたちのほとんどは、「別に誰かから盗んでいるわけじゃない」と主張するために、あらゆる手段で自身を正当化します。

 我々はそういった正当化の主張をさんざん聞かされてきましたので、それを聞いてどんな気持ちになるのかを、“ファンメール”として「海賊版モード」に織り込むことでプレイヤーたちに示そうとしたのです。

 海賊版プレイヤーたちのさまざまな意見にきちんと向き合えば向き合うほど、海賊行為をただたんに純粋な著作権侵害と見るのはいっそう困難になります。

 やはり結局のところ、我々のゲームはエンターテインメントですから、誰もが購入する必要はないのです。

──『Game Dev Tycoon』ローンチの際、アンチ海賊行為の仕掛けに対する反響はどのようなものでしたか?

Patrick氏:
 『Game Dev Tycoon』の海賊版流通実験を行ったあと、我々は海賊版問題に関する議論の渦中にいまして、多くの海賊版プレイヤーたちの矛先になっていました。幸いなことに、我々のやったことを見た人たちの多くが擁護してくださり、議論のバランスは全体的には取れていました。

 長い目で見れば、『Game Dev Tycoon』の実験によって広まった知名度には助けられましたし、それがなければ今の我々はなかったでしょう。
 もちろん、海賊版プレイヤーがこの文章を読んだら、すぐにでも「海賊行為は宣伝になる。だからむしろゲームデベロッパーは遊んで宣伝してくれる海賊版プレイヤーに感謝すべきだ」と主張するでしょうね。彼らは我々Greenheart Gamesが“外れ値”にすぎないことをちっとも理解していないのです。

 普通に考えれば、ゲームデベロッパーが海賊版プレイヤーによる評価を高く見るとしたら、そもそも海賊行為が問題になりませんし、口コミによる宣伝も海賊版プレイヤーたちの間にだけ広まって、真摯な正規プレイヤーたちには届かないことになるでしょう。

──「海賊版モード」は、ローンチ時のアンチ海賊行為の仕掛けとどう違うのですか?

Patrick氏:
 『Game Dev Tycoon』を遊んでくれたプレイヤーたちに新たなチャレンジを提供したかったのです。生き残るために根本的な戦略の変更を迫られるウルトラハードモード(海賊版モード)は、面白いアイデアに思えました。

 『Game Dev Tycoon』はゲーム市場をリアルに描こうとしたのではありません。1980年代では、シェアウェア形式のほかに、自費開発のゲームを発表する手段はありませんでした。
 コンソール向けのゲームを開発・販売することは容易ではありませんでしたし、販売するとしても、ガレージを月8000ドルで借りてまで販売しようとは思わないでしょう。

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「海賊版モード」ではゲームの売上が少ないため、自社株を売却しなければ資金繰りが厳しくなる
(画像:編集部撮影)

 ゲームを過度にリアルにすることに関して、我々はつねにプレイヤーにとって面白い選択となるものを評価してきました。その考え方で言うと、「海賊版モード」はリアルにはなりませんが、面白くはなるはずです。
 ただそうは言っても、「海賊版モード」でプレイヤーが受け取る“ファンメール”や海賊版プレイヤーによる評価は、我々自身のリアルな体験にもとづいたものです。ただし、それがこの世の真実だと主張するわけではありません。

 残念ながら、少数派の声の大きいプレイヤーたちは「海賊版モード」に怒りの声を上げましたが、幸いなことにほとんどのプレイヤーたちは今回のアップデートをそのままに受け止めてくれました。
 発売5年目になるゲームに導入された、QOL向上のために、そしてゲームをもっと楽しめるようにするために新しいモードが追加された、フリー・アップデートなのだと。

──どうすれば海賊行為を撲滅できるでしょうか?

Patrick氏:
 事実上、ゲームデベロッパーに与えられた選択肢はひとつしかありません。常時オンラインを前提にして、マルチプレイヤーゲームにするか、F2P【※】モデルに完全に適応するか、です。ゲーム業界の大部分がまさにそのとおりにしています。

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Greenheart Gamesが開発中の次回作『Tavern Keeper』プレイ画面
(画像はTavern Keeper – A Fantasy Tavern Simulator by Greenheart Games より)

※F2P
Free-To-Play(フリー・トゥ・プレイ)制の略称。課金制ともいわれる。基本料金が無料のオンラインゲームのことで、ゲームをより有利に楽しくプレイするための有料アイテムへの課金制を敷くことでマネタイズを図っている。

 個人的には、シングルプレイヤーのビジネスシミュレーションゲームが大好きですし、我々の次作『Tavern Keeper』もそのタイプのゲームなのですが、かなり資金をつぎ込んでいます。
 シングルプレイヤーゲームにおいては、我々は海賊行為をただ受け入れるしかありません。そして、真摯なプレイヤーたちが支援し続けてくれることを祈るのみです。(了)

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ゲーム内ではPatrick氏、並びに同じく開発者のDaniel氏から「買ってくれてありがとう」とのメールが届く。海賊版プレイヤーはこのメッセージをどう思うのだろうか?
(画像:編集部撮影)

 Patrick氏の言うとおり、マルチプレイヤー・オンラインタイプのゲームや、F2P制を採用するゲームは増えてきており、そのようなゲームシステムにおいては、そもそも海賊版でプレイする意味が薄れる。
 現代のゲーム開発は、シングルプレイヤーゲームを海賊行為から守るよりも、ゲームデザインやシステムの段階で、海賊版の存在理由を減少させる方向へと向かっていると言えるだろう。

 しかしながら、「シングルプレイヤーゲームにおいては、我々は海賊行為をただ受け入れるしかありません」という言葉は、開発者でなくとも心に突き刺さるものがある。
 海賊行為に悩み、海賊版プレイヤーにトラップを仕掛け、「海賊版モード」で開発側の気持ちをまさしく「ゲーム開発会社シミュレーション」ゲーム内で表現したPatrick氏だからこそ、断言することのできる言葉であろう。

 筆者もシングルプレイヤー・シミュレーションゲームの一ファンとして、ゲーム開発を買い支える真摯なプレイヤーたちが存続することを祈るばかりである。

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インタビュアー
海賊版を自ら配信したゲームメーカーの真意は、違法コピー問題を真剣に考えた末の強烈な皮肉──企業運営シミュレーションゲームに厳しい現実を追体験する「海賊版モード」を実装_009
ニュースから企画まで幅広く執筆予定の編集部デスク。ペーペーのフリーライター時代からゲーム情報サイト「AUTOMATON」の二代目編集長を経て電ファミニコゲーマーにたどり着く。「インディーとか洋ゲーばっかりやってるんでしょ?」とよく言われるが、和ゲーもソシャゲもレトロも楽しくたしなむ雑食派。
Twitter:@ishigenn
著者
哲学科を卒業したのち無職になるが、偶然性により電ファミニコゲーマー編集部の一員となる。『風来のシレン』や『Civilization』など中毒性のあるゲームが好き。

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