2015年のデビュー以来、世界的なヒットが留まるところを知らないインディーゲーム、『UNDERTALE』は、2018年の今年に至っても去る9月15日にNintendo Switch版が登場するなど、これまでに多くのプラットフォームでリリースされ、いまなおプレイヤーに衝撃を与え続けている。
キュートでありながらブラックで、日本のプレイヤーであればどことなく見覚えのあるようなテイストをふんだんに漂わせたこの作品。
この2DタッチのRPGの大部分をひとりで手掛けた26歳の若きクリエイター、トビー・フォックス氏は、知る人ぞ知る大の『東方Project』(以下、『東方』)ファンだ。
そのトビー氏を、『東方』の生みの親であるZUN氏と引き合わせたのが、Onion Gamesの木村祥朗氏。
木村氏もまた現在、インディーゲームの世界で活躍するクリエイターで、氏が手掛ける新作シューティングゲーム、『BLACK BIRD』(2018年10月18日にNintendo Switchにてリリース/Steam版は近日リリース予定)は、2018年5月に行われたインディーゲームの祭典、BitSummit Vol.6でVERMILION GATE AWARD(最優秀賞のようなもの)とEXELLENCE IN SOUND DESIGN AWARD(サウンド賞のようなもの)をダブルで獲得している。
以下に記しているのは、「トビーとZUN氏、ふたりの会話を何かの形で残したかった」という木村氏のはからいで実現した鼎談である。アメリカ在住のトビー氏が、どうやって日本の同人ゲームである『東方』を知り、そしてどんな影響を受けたのかなど、興味深い話が尽きないものとなった。
話はトビー氏とZUN氏の相思相愛っぷりに始まり、『UNDERTALE』、『東方』それぞれをめぐる互いの感想や影響などが語られ、一転、後半では「ひとりでゲームを作るよさは、とにかく「人に命令しないでいいこと」にある」、「“自分の心を自由にすれば、おもしろいものが作れる”ということが、いちばんパワフル」など、インディーあるいは同人という小規模な場で、「なんのためにゲームを作るのか」という普遍的なテーマを、一線で活躍する3人だからこそ語りうる切実なトーンで論じていただいた。
日本、そして世界のインディー・同人シーンに大きく貢献している世代の異なる3人は、ゲームと真摯に向き合い、お互いに刺激し合って今日も制作を続けている。
お酒を飲みながらざっくばらんに交歓したその様子を、3人や作品のファンはもちろん、いまインディーや同人で活動している方、これから活躍を思い描いている皆さんにご覧いただければ幸いだ。ギュッと切なく、そして読後に晴れ晴れとした気持ちになれるものと思う。
トビー氏の『東方』好きは、ZUN氏のお墨付き
一同:
乾杯!
──先日も3人で食事をされていたそうですね。
ZUN氏:
はい。じつは2017年の年末にも会うチャンスがあり、「『東方』のファンだと仰るトビーさんが、僕にどんな話を聞かせてくれるんだろう?」と楽しみだったんですが、僕の時間が取れずに叶わなかったんです。「つぎこそは会いたい」と思っていたところ、先日実現しまして。
トビー・フォックス(以下、トビー)氏:
ありがとうございます(笑)。
木村祥朗(以下、木村)氏:
あの場では、ZUNさんとトビーが相思相愛で、傍で見ていて微笑ましかったですよ。……まあ、この鼎談もそうなると思いますけど(笑)。
──木村さんは、以前からトビーさんと知り合いだったんですよね?
木村氏:
そうですね。2013年にOnion Gamesが英語版のTwitterアカウントを作ったんですが、すぐにトビーがフォローしてくれたことがきっかけで知り合いました。
彼から「『UNDERTALE』のベータ版を遊びませんか?」と誘いをもらったり、こちらから「『Million Onion Hotel』というゲームを作ったから遊んでよ」なんていうメッセージを送り合っていたんです。
彼は作品をきちんと遊んでくれたあとに、すげー事細かにレビューを書いて送ってくれるんですよね。そういうところに感動して、「日本へ来たら遊びましょう」という話が出ていたんです。
そうそう、「『moon』が好きだ」という話をツイートしてくれたときには、彼のたくさんのフォロワーたちがOnion Gamesをフォローしてくれたんですよ。それにRTもブワーッと増えて……。
──それはいい話ですね!
木村氏:
いい話というか……、正直に言うと、ちょっとだけ怖かった(笑)。
トビー氏:
どうもすみません(笑)。
──トビーさんは、ZUNさんと会ってどんなお話がしたかったんですか?
トビー氏:
ZUNさんのファンのひとりとして、僕がどういうふうに『東方』を知って楽しんできたのか。なぜ『東方』にインスパイアされたのかを伝えたくて……。あと、僕の友だちのテミー(テミー・チャン氏)が描いた『東方』のイラストも見てもらいたかったんです。
ZUN氏:
もちろん見ました。フフフ。
──ZUNさんは、トビーさんの情熱を目の当たりにしていかがでしたか?
ZUN氏:
いやあ、スゴかったですよー(笑)。まず、「言いたいことをまとめてきました」って、メモを出されて(笑)。
トビー氏:
だって、あの場で何も言えなかったらマズイと思ったから(笑)。
ZUN氏&木村氏:
真面目か!(笑)
──どんなことが書かれていたんでしょう?
トビー氏:
そのメモなら、持ってきています(笑)。
──(メモを見て)おおお、ビッシリ!
ZUN氏:
“私と『東方』との馴れ初め”から始まるんです(笑)。とにかく、僕の想像以上にトビーさんが『東方』オタクで(笑)。
海外のファンが増えてきたのは、2000年後半ぐらいだと認識していたんですが、ちょうど日本と同じ……つまり、日本のファンが盛り上がり始めたような初期のころからプレイしてくださっていたそうで。僕は海外にそんなファンがいるなんて知りませんでした。
──というと、旧シリーズ【※】からということですか?
※旧シリーズ
1996年の『東方靈異伝』に始まる、ZUN氏がZUN SOFTを名乗っていた時代のPC98シリーズ用の作品群。1997年の『東方封魔録』、『東方夢時空』、1998年の『東方幻想郷』、『東方怪綺談』がある。
ZUN氏:
いえ、『妖々夢』(2003年)あたりです。しかもその当時、彼が中学生だったというのでさらに驚いて(笑)。
トビー氏:
『東方』は僕が10歳のときにフリーゲームのWebサイトで知りました。おもしろいゲームだということで、『紅魔郷』(2002年)と『妖々夢』が勧められていたんですね。
3面までしか遊べないものだったんですが、後でそれが体験版だったと知りました。
それでも、弾幕のパターンや音楽がすごく魅力的だったので、生まれて初めてシューティングゲームを好きになったんです。ちなみに、10歳でもイージーモードならなんとかクリアできました(笑)。
──お勧めされていたとはいえ、アメリカではかなりニッチですよね?
トビー氏:
その当時、アメリカやヨーロッパには『東方』のファン・コミュニティーがぜんぜんなくて、人と話題にすることができなかったんですね。
僕はまだ日本語が読めませんでしたけど、作品の情報が知りたくて自力でホームページを探し、毎週チェックしていました。その後やっと輸入ショップに製品版が入荷するようになったので、数作品まとめて手に入れて喜んでいたのを覚えています。
ゲーマーとしての実績は、『妖々夢』のPhantasm【※】ステージをクリアしたことかな? 何週間も挑戦し続けていたから、クリアできたときはものすごく感動しました!
先日ZUNさんが『UNDERTALE』のとあるボスとのバトルがクリアできなかったと話してくれたんですが、それを聞いて僕はかなりリベンジした気持ちになりましたね(笑)。
※Phantasm
『東方妖々夢』の隠しステージ「幻想」を指す。ここで流れる音楽が後述の『ネクロファンタジア』。
ZUN氏:
……そうなんです。クリアできなかったんですよ(笑)。
トビー氏:
同時に僕はゲームのサントラを耳コピして、独学で作曲を勉強していました。難しい曲ですが、『妖々夢』の『ネクロファンタジア』をピアノで弾きたくて、中学生のときから練習していたりも。
高校時代に行ったサマーキャンプで教会に集まる機会があったんですが、そこで『ネクロファンタジア』を演奏して、初めて大勢の人からスタンディングオベーションをもらったんですよ! ……ZUNさん、本当にありがとうございます。
ZUN氏:
いえいえ。楽譜はないからトビーさんのアレンジだったんでしょう? それがスゴい。でも『ネクロファンタジア』って、“死人の楽園”ってことですよ? そんな曲を教会で演奏してよかったの?(笑)
トビー氏:
(笑)。
──シューティングゲームとしてだけでなく、音楽にもかなり魅了されたんですね。
トビー氏:
はい。だから『UNDERTALE』の曲でも、“ZUNペット”【※】をリスペクトしています。
※ZUNペット
ファンのあいだでは、ZUN氏の曲に使われるトランペットの独特の音色やメロディを総じて、“ZUNペット”と呼ぶことがある。どのような音色かは、下記の動画に詳しい。
『UNDERTALE』の楽曲では、「アンダイン」のテーマ曲である『Spear of Justice』や『Battle Against a True Hero』などに“ZUNペット”を用いたフレーズが見られる。
ZUN氏:
(笑)。過去のトビーさんのインタビューを読んで、それは知っていました。遊んでみて、どれのことだかすぐにわかりましたよ。
トビー氏:
(幸せそうな笑顔)。
木村氏:
……ほらね、なんかほっこりし始めたでしょ? いいよ、続けてくださいよ。僕は隣りでお父さんみたいな気持ちで聴いてるからさ(笑)。
一同:
(笑)。
ZUN氏:
トビーさんは本当にスゴいなと思って……。さっきも言いましたが、トビーさんがプレイしてくれていたような時期に、海外で『東方』をプレイしている人が存在していること自体を、僕はこれまで知らなかったんですから。
──海外では正式にリリースされていませんしね。
ZUN氏:
公式の流通を始めたのが2017年。『妖々夢』は、もう15年も前のゲームですし。でも、フリーの体験版はWebで公開していましたので、そこから始めてもらったというわけですね。
ちなみに、僕が『UNDERTALE』を知ったのは、『東方』のファンの方たちに勧められたからなんですよ(笑)。「けっこう『東方』に影響を受けてるみたいだよ」という話もあって。
──「どれどれ?」と、触ってみたという。
ZUN氏:
ええ。するとスゴくおもしろくて。でも、みんなが勧めてくれたのとは違う方向でおもしろくて(笑)。
──と、言いますと?
ZUN氏:
いわゆるよくできたストーリーだとか、キレイな世界観を想像していたんですが、奇抜な世界で、奇抜なシステム。最初からすごく不穏な感じがして、最後まで何が起きるか予想がつかなかったんです。
攻略などの情報を極力目にしないようにして手探りで始めたんですが、なんだかみんながやさしすぎて不安になるという……。「そういう感じは、ほかのゲームにはないものだ」と思って。
トビー氏:
ZUNさんに、“奇抜な世界”と捉えていただけてうれしいです。僕がインディーを好きなのは、いわゆるよくできたものではなくて、ちょっと奇抜で、作家性が見えるようなゲーム作りを目指せることだと思っているので。
ZUNさんのキャラクターが、ほかのゲームにはないコスチュームを着ていたり、奇抜なデザインの帽子をかぶっているように。
ZUN氏:
それは……僕がちゃんと勉強していないからかもね(笑)。
トビー氏:
でもそこがいちばん好き!
ZUN氏:
(笑)。あとは、僕としてはなかなか難しい弾幕が出てこなかったのが不安で(笑)。
トビー氏:
(笑)。『UNDERTALE』は、もともと僕と友だちのために作ったゲームなので、『東方』のルナティックレベルをプレイするような人が喜ぶほど難しくなくてもいいかなって……。そうでなくても、弾幕は十分楽しいですから。
ZUN氏:
ちょうどいいバランスで難しくなるのはよかったと思いますよ。
トビー氏:
ありがとうございます! 実際にはどれだけ実現できたかわかりませんが、『UNDERTALE』はいちおうゲームマニアの方に向けて作りました。
だから、シューティングゲームが好きな方や、『東方』が好きな方がプレイしたときに喜んでもらえたらうれしいです。
ZUN氏:
うん。喜んでいる人はきっといますよ。だって、『UNDERTALE』は『東方』よりずっと世界的に有名なんだから。
木村氏:
ほら、これ。ずっとふたりで褒め合ってるの(笑)。
──(笑)。
『UNDERTALE』から日本のRPGの雰囲気を感じる理由
──トビーさんのゲームプレイ歴を拝見すると、『MOTHER』やかつて木村さんが所属していたラブデリックのゲームに繋がるような『スーパーマリオRPG』、『moon』などの名が現れます。『UNDERTALE』のストーリーや世界観は、トビーさんのどこから生まれたんでしょう?
トビー氏:
そうですね……。『スーパーマリオRPG』は、敵とのバトルが一般的なRPGとは違ってアクション性があるところなど、ゲームシステムがいいと思っています。
だから『UNDERTALE』のバトルは、『スーパーマリオRPG』の『東方』版みたいな感じなんです。
──なるほど!
トビー氏:
ストーリーで影響を受けた作品となると、やっぱり『MOTHER』シリーズになります。奇抜さとユーモア、感動的なシーンなどが全部詰まっていて、僕もこんなストーリーを作りたいと思いました。
『moon』は日本語版しかないので、僕の日本語がもっと上達するなり、英語版が出るなりしないと完全にはやり込めないんですが、“勇者が悪役”ということや、“モンスターは必ずしも悪者ではない”というゲームのコンセプト自体に感銘を受けました。
──それにしても日本のゲームが多いですね。
トビー氏:
うーん。どうしてそうなったかは自分でもわからないですけど、やっぱりJRPGはいろいろと好きですし、持っているゲーム機は全部日本のものなので、そこからきたんじゃないかな……。
木村氏:
彼の作風から日本のゲームばかりが好きだと思われがちですが、そうではなく、純粋におもしろいゲームが好きなんですって。
まあ、トビーはアメリカに住んでるけど、アメリカ人っぽくないもんね。……そういう僕の見かたこそ偏見かな?
ZUN氏:
あ、でも、僕がアメリカへ行ったときに感じたのは、体が僕に比べてふた回りも三回りも大きい人たちばっかりだったということ。トビーさんはそうじゃない(笑)。
──そうえいばZUNさんとトビーさんは体型が似ていますね(笑)。
ZUN氏:
ちなみに今日トビーさんが着ているTシャツ、まったく同じものを持ってますよ。
トビー氏:
ええ、本当ですか? うれしい!
木村氏:
なんだろ? センスが似てるのかな(笑)。
ZUN氏:
(笑)。でも、日本語がわからないのに、JRPGは遊べるなんて不思議。
トビー氏:
英語版がないものは、ファンが訳してWeb上に公開してくれてるんですよ。
ZUN氏:
ああ。『東方』はほとんど英語を使っていないのに、アメリカで全部英語になっていてびっくりしたのを思い出しました。
これはいったい誰が作ってんだろうって(笑)。有志のパッチがあるのが、インディーというか同人のよさのひとつでもありますよね。同じことを一般的なメーカーがやると炎上しかねないんですが……。
トビー氏:
ん? ということは、いまのところ英語版の発売予定はないんですか?
ZUN氏:
公式でですか? 公式ではちょっと難しいところがあって……。それに、いまさら英語版のパッチを出しましたと言って、ファンの皆さんが喜んでくださるかどうか……。
トビー氏:
喜びますよ! ……じゃあ、全作品をSteamで出す予定はありますか?
ZUN氏:
それはぜんぜんあります。新作も海外で出していくと思いますよ。
トビー氏:
OK! ベリーグッドアイデア!(笑)
トビー氏、質問が止まらなくなる
※ここからこのページの終わりまでは、ちょっと濃いめの『東方』の話が続きます。いかにトビー氏が『東方』を愛しているか、ニマニマしながらご覧ください。
2ページ目からは、記事タイトルで語られているような、これまた濃厚なインディー・同人ゲーム制作についてが論じられます。──トビーさん、好きな『東方』のキャラクターは誰でしょう?
トビー氏:
やっぱり八雲紫です! でも、11歳くらいのときは、藍(八雲紫の式神、八雲藍)が好きだったかな。ZUN氏:
藍? どうして?(笑)
トビー氏:
めちゃカワイイ……♡一同:
(笑)。
ZUN氏:
紫と藍はぜんぜん違う特性にしたかったんですけど、紫の攻撃が藍の上位版になっているだけなんですよね……。
──変えられなかったのには、何か事情があるんですか?
ZUN氏:
時間的な問題です。制作時間が足りず、しかたなく現状になっているものが多いですね。
トビー氏:
いい機会なのでお訊きしたいんですが、そもそも7作目(『妖々夢』)からPhantasmレベルを入れたのはなぜですか?
ZUN氏:
『紅魔郷』から3作品作るときに、どんな段階で何を増やしていくかを僕の中で決めていたんですよ。連作として、1作目にExtraを用意し、2作目でそのExtraの次(Phantasm)を作ってファンの皆さんを驚かせたくて。
3作目(『東方永夜抄』)にはいろいろなキャラクターを登場させたうえに、“スペルカードプラクティス”を付けると決めていたんですね。でも、それ以上やると単純にボリュームが増えちゃうので、いったんリセットしてシンプルに作り直し、いまも作り続けています。
トビー氏:
なるほどー!
──ちなみに、トビーさんが好きな弾幕はあるんですか?
ZUN氏:
難しいこと訊きますよね? トビーさんは日本語が読めないのに(笑)。
トビー氏:
うーん。最近そこまでやり込めていないし、やっているときはたいてい「これ大キライ!」と思っていますし……。
ZUN氏:
(笑)。いちばん苦労した弾幕が、いちばん印象に残るものですよね。好きっていうより、みんなキライなんじゃないかな?
トビー氏:
あ、『妖々夢』6面の中ボスの弾幕が好きといえば好きです(笑)。
ZUN氏:
ああ、中ボスが出てきてスローになるはずのところが、スローにならないっていう(笑)。
トビー氏:
そうですそうです! それが意外でおもしろかったんですが、どんな意図があったんですか?
ZUN氏:
あれはけっこう狙ってやっている、決め手の演出です(笑)。名前は“一念無量劫”。
その前のボスステージのようにスローがかからず、一瞬スローになる演出があるだけでそこはならないんです。だから同じようには弾が避けられない。焦っている感じを出してみたわけです。※『東方妖々夢』の「魂魄妖夢」の弾幕は、5面(上記動画0:00〜)ではスローになる演出が入るが、6面中ボスとして再登場した際のスペルカード“一念無量劫”(上記動画4:55〜)ではスロー演出が入らない。
トビー氏:
なるほどー! あそこは一見スゴく難しそうですが、いざやってみるとそんなに難しくないですよね?
ZUN氏:
そうなんです。あそこで死ぬとけっこうイライラしますし、ボスが倒しづらくなります。
トビー氏:
全体的に、大きな弾幕も思ったほど当たり判定は大きくないですよね。僕はその緊張感がとても好きです。それから蝶の弾幕はスゴく『東方』的な感じがします。優雅な弾幕でいいですよね!
あと訊きたいのは、八雲紫のステージの、最後からひとつ前のパターンなんですが、基本的に微動するだけで全部の弾幕をズラすことができるはずが、たまにシンクロが狂ってしまって避けられなくて……。バグかどうか、わからないんですけど……。
※『東方妖々夢』Phantasmボス「八雲紫」のスペルカード、“生と死の境界”の動画。トビー氏・ZUN氏が語るように安全地帯は存在するものの、残り30秒を切ると弾速が急激に上昇するとともに自機狙いの弾幕が追加され、微動で調整できる安全地帯は失われてしまう。
ZUN氏:
『東方』は基本的に日本語表示だから、トビーさんはシーンの説明をするのも難しいですよね。……とにかくいっぱい弾が出てくるやつですよね? いちおう安全地帯はあるはずですけど……。
(画面を確認して)ああそうそう、これは単純に難しいんです。『妖々夢』のファンタズムの弾幕結界の1個前、の……あれ、なんていうんだっけ? ほらもう僕が忘れてるくらいなのに、よく覚えてるなあ(笑)。
──“生と死の境界”のことかと……! トビーさんは本当に『妖々夢』が好きなんですね(笑)。
トビー氏:
それからですね、クラウンピースという月の都にいるキャラクターがいますが、彼女は星条旗をまとってトーチを持っていますよね? 自由の女神。東洋的なものを押し出した『東方』に、なぜわざわざアメリカのキャラクターを入れたのでしょう?
ZUN氏:
僕の中で舞台となっている月の都は中国のイメージなんです。その月の都と戦っている相手はどこかと考えると「アメリカなのかな?」と思って……。そういう発想です。
一同:
(笑)。『東方』の集大成では、ZUN氏自身が歌う?
ZUN氏:
さきほどトビーさんは作曲も独学だと言っていましたが、『UNDERTALE』の曲は、すごく独特だったのでびっくりしました。ああいう音楽は感情に残りやすくていいですよね。
トビー氏:
そうですか? うれしい! ZUNさんも独学ですよね? ZUNさんの音楽はオリジナリティーがあって大好きです。
──おふたりはご自分で作曲もされていますが、ゲームに音楽をつけるときに心がけていることがあれば伺いたいです。
トビー氏:
もともと作り溜めていた曲を使ったりもしていますが、基本的には、どんなシチュエーションで、どんな感情に作用するのかを考えて作曲しました。
曲はゲームを作る前から作っていたので、曲に合わせてストーリーを作った部分もあります。この点は一般的なゲームとは逆の流れかもしれません。
ZUN氏:
じつは『東方』も先に曲を作ることが多いんです(笑)。
トビー氏:
そうなんですか! 『東方』は、曲の流れがステージ展開とシンクロしているところもスゴく好きなんです。ポーズすると、ちゃんと音楽も止まるという……。
ZUN氏:
それは、そうしないとずれちゃうからですよ(笑)。音ゲーみたいに、曲に合わせる感じで敵を最速で倒していくと、いちばん気持ちがいい状態で敵が出てくるようにしています。
トビー氏:
僕はそういうところにすごく影響を受けて、『UNDERTALE』の最悪なルートでは、アンダインのステージと音楽がシンクロするようにしました。
ZUN氏:
あそこカッコイイよね(笑)。そういう演出にする気持ちはよくわかります。
──ZUNペットに代表されるZUNさんの音楽は、どういう狙いで作っているのでしょうか。
ZUN氏:
偉そうな言いかたですが、『東方』の弾幕でミスをするというのは、そもそも不快なものなんです。
不快なゲームなんて基本的に遊びませんよね? その不快さにぶつけるように合わせられるものは、やっぱり快感なんです。
僕には、「難しいシチュエーションほど、いい曲じゃないといけない」という考えがあります。なぜなら、いい曲を聴いているときには、不快さが逆に振れて快感になるから。
だから、ゲームの後半に進めば進むほど、どんどんいい曲を作らないといけないと思うんです。プレイヤーの皆さんの気持ちを、「曲の続きを聴きたいから、がんばって生き残る」というところまで高めることができれば、ゲームの曲としては、本当に価値が高いのだと思っています。
トビー氏:
「曲が聴きたいから生き残る」という気持ちはよくわかります!
──ZUNペットもそうですが、ZUNさんのスネアの入れかたが、あらゆる音楽ジャンルにないような独特なものだと思います。これは何を参考にしたんでしょうか。
ZUN氏:
独学なので、自分で気持ちのいいところに入れています。でも、ほかにない音楽を作ろうとしているわけではないので、こういうスネアの入れかたもどこかで絶対に聴いたことがあると思いますよ。
……と言っても、何か参考にしたものがあるわけではないです。たぶん、自分のリズム感からきているんでしょうね。
トビー氏:
たしかにスネアはクレイジーです(笑)。
ZUN氏:
そうかなあ? ふつうに曲を作っているだけなのに。じゃあ、生まれつきクレイジーなのかな。
トビー氏:
最高!
一同:
(笑)。
ZUN氏:
まあ、自分ひとりで作っているから実現できないんですけど、ラスボスが出てくる最終シーンには歌が流れてほしいくらいですよ(笑)。
曲で快感に浸ってもらいたいんですよね。そうすればきっとゲームがもっとおもしろくなるはずなんです。
トビー氏:
誰かボーカリストを抜擢してもいいんですが……。ZUNさんの歌声もすごく聴きたいです(笑)。
ZUN氏:
ええ? 僕が歌ったら笑われちゃうよ。……まあ、「これぞ集大成!」というときまで、とっておきます(笑)。