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『UNDERTALE』トビー・フォックス×『東方』ZUN×Onion Games木村祥朗鼎談──自分が幸せでいられる道を進んだらこうなった──同人の魂、インディーの自由を大いに語る

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毎年ゲームを出し続けることの大切さ

──「インディーや同人のよさ」という話が出ましたが、そこが皆さんの共通する部分で、実際にインディーとしてゲームを手掛けられ、成功している皆さんにその実際をお伺いできればと思います。

木村氏:
 あのー、『BLACK BIRD』の話をしてもいいでしょうか……(笑)。もうすぐリリースできるから、ふたりにもたくさん遊んでもらえるようになりますし。

ZUN氏トビー氏
 どうぞどうぞ(笑)。

トビー氏:
 『BLACK BIRD』は、木村さんが「これからこんなゲームを作りたい」と言っていた昔から知っていますよ。ずっとブログを読んでいましたから。

木村氏:
 え、恥ずかしい……。それは新しくゲームを作ろうともがいていたころじゃない……。
 しかも、僕が英語で書くブログって、基本的にやさぐれていて、「オレはもう死ぬかもしれない」とか、「オレはインディーゲームで失敗して、無一文になって……」みたいなのばっかりだし。しかし、それを読んでくれていた海外の読者が、いま目の前にいる(笑)。

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トビー氏:
 「木村さん、かわいそうだな」と思っていました……(笑)。

ZUN氏:
 木村さん、大丈夫。そのときはどうあれ、いまはすごく健康的ですよ!(笑)

木村氏:
 (笑)。あのときは本当にやさぐれてたなあ。

──そうやって、書くことで自分の気持ちを維持していたんですね。

ZUN氏:
 木村さんがインディーゲームを作り始めたころのブログはよかったですよね。アメリカでインディーゲームを見て、「このゲームがすごい! なぜか知らないけど涙が流れてきた」とか書かれていて。

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木村氏:
 ……僕自身の話はいいですよ。ZUNさんにまで言われると、余計恥ずかしい(笑)。

ZUN氏:
 でも確かに、いまとあのときのインディーの盛り上がりかたは、ちょっと違いますよね。

木村氏:
 うん。あの当時……つまり2012年から2013年の僕は新しい仕事を探していて。でも日本で見つかるのは、ソシャゲやFacebookの『FarmVille』みたいなものを作る仕事ばかりだったんです。僕はそういうものが作りたいわけじゃなかったので、すっかり行き詰まってしまって。

 「ああもういやだ」と言ってアメリカへ行ったんですね。そうしたら、IGF(インディペンデント・ゲーム・フェスティバル)やBitSummitで見たインディーゲームがみんな華やかで、おまけにすごく儲けている人もいて、「あれ?」となったんです。

──インディーに何かを感じたと。

木村氏:
 それで日本に帰ってきて、みんなに「アメリカのインディーゲームがスゴかった!」と話しているうちに、僕の目の前に日本のインディーゲームの重鎮たちが、人からの紹介やらなんやらでつぎつぎに現れ始めたんですよ。

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(画像は洞窟物語(Cave Story)| PCゲーム、インディーゲームならPLAYISMより)

 最初は『洞窟物語』を手掛けた天谷くん(Pixel 天谷大輔氏)。それからしばらくしてZUNさん。ZUNさんのことを知ったのは、僕がやっているストリーミング放送『ポリポリ☆クラブ』の仲間の丹沢くん(丹沢悠一氏)に、「木村さん、『東方』って知ってる?」と訊かれたことがきっかけでした。

──ああ、結構最近なんですね。

木村氏:
 ええ。それでわかったのは、日本にはインディーゲームというくくりがないだけで、個人制作のゲームはあるということ。しかも華やいでいる。「じゃあなんでオレはその世界にいないんだ?」となったわけ。

 後日ZUNさんが『ポリポリ☆クラブ』に出演してくれて、そこで『東方』や同人ゲームについて学びました。そうして「インディーゲームならやれる」と思って始めるんですが……まあ、『東方』みたいなゲームは作れませんよね(笑)。

──どういう部分が「『東方』みたいな」なんでしょう?

木村氏:
 『東方』のスゴさは、売れているところだけじゃないんですよ。“ZUNさんが毎年出す”というところがスゴいんです。

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 一般的なメーカーでも、インディーでも、同人でも、毎年1本何かを出すということをやり続けるのは難しい。その結果がいま実を結んでいるのであって、「売れていることに嫉妬してもしょうがないぞ」と。
 そこで僕は、「売れようが売れまいが、小さいチームを作ったら絶対に作り続ける」という決意をしないといけないと思い立ちました。ZUNさんからは、そういう真面目なエネルギーをもらったんです。

──ZUNさん自身は、作り続けることについてどのくらい意識的に取り組まれているんですか?

ZUN氏:
 けっこう長期的な話なので、途中から考えかたは変わっていますよ。まず、いわゆる旧作と言われていた1作目から5作目までは、僕が大学のサークルで作ったものです。
 そのときは、「自分が作りたいものをどこまで実現できるか」を考えて作っていました。ここまでがひと区切りで、僕は「これが最後です」と言って5作目を作り終えて就職するわけです。

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 就職してゲームを作り始めてからも、作りかた自体は変わりません。それはひとりで作ったとしても、企業で作ったとしても。
 ただ、企業では、自分が作りたいものの企画を出してもまず通らないんですね。「絶対に売れる」という自信があるのに。

 ……まあ、いまとなってはそれが若気の至りなんですけどね(笑)。当時はそれがわからないから、だんだんイライラが溜まっていくわけです。
 そのうえ、がんばって作っても、結果的に売れなかったものは作った側のせいにされる。こっちとしては、「命令されたからやったまでじゃん」みたいな感じになっちゃって……。

──うーん、よくわかります。

ZUN氏:
 そんなときに、同人ゲームを見に4年ぶりくらいにコミケへ行ったんです。すると僕が辞めたころよりも人が多くなっていたんですね。
 買いに来ている人もスゴく多いんだけど、売っている数がスゴく少なくて、どこのサークルも売り切れになっているという……。そこで「自分が作ったほうが絶対におもしろい」と思ってしまったのが運の尽きと言いますか(笑)。

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 翌日から、つぎのコミケに出品するためにガーッと作り始めたんです。そのときに作ったのは、言ってしまえば僕の不満を全面にぶつけたようなゲームでした。
 そしてそれはWindowsでのゲーム作りを勉強した習作のようなものだったので、きちんと世界を作って作品として完成させるために、「3作ぐらいは作らないといけない」と考えたんです。

 その3作を作れば、キレイに終わって、僕は満足するはずだったんです。
 でも、ちょうど3作目(『東方永夜抄』)を出したころに、突然ファンの方たちが集まり始めたんですね。つまり、今度は僕自身の自由で作れなくなってしまったという。これはまったく想像していませんでした……。

──でもそれは成果じゃないですか。

ZUN氏:
 そうです。僕がシューティングゲーム以外のものを作ろうとすると敷居が高くなると言いますか、ファンの方が最初に受ける印象が、「あ、『東方』を作った人の作品だ」というものになります。

 そうなると、違うジャンルの作品に取り掛かるよりは、このまま『東方』を続けていったほうが自分にとってプラスになると思ったんです。
 そうして完成したのが2007年発売の『東方風神録』で、それからは「ものを増やしていくのではなく、続けていくことが大切」という考えかたに変わりました。

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東方Project第10弾『東方風神録』

──その転機は大きいですね。同じシリーズを続けていこうと決めたうえで、ZUNさんなりの継続するコツはどんなものでしょうか?

ZUN氏:
 いまでこそあまり言わなくなりましたが、僕は昔、「『東方』はシリーズではない」と、“アンチシリーズ”というような言いかたをしていたことがあります。
 なぜならシリーズにしてしまうと、最新作は前作を超えなくちゃいけませんから。2作目、3作目と続けるうちにきっと行き詰まるから、早い段階でそうではないようにしようと。

 僕としては、「前作よりもおもしろくなくてもいい、続けていたほうがいい」と強く思ったんです。そのために、「毎年規模を大きくしない」、「自分のゲームは同じ規模で作っていく」と考えるようになりました。

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トビー氏:
 スゴくわかります。前作を超えることを考えないだけで、健康的になれますよね。僕はまだ1作品しか作っていないのに、そういうプレッシャーをスゴく感じますから……。

ZUN氏:
 余裕があっても作らない。まあ、基本的に余裕はないんですけど(笑)。……大事なことを言い忘れていました。
 そういう思いに至ったのは、“コミケ”という締切があったからです。
 コミケは自分の力では動かしようのない締切。それがインディーにはない同人の特徴であって、「ここで出さないとつぎに出せない」ということでもあります。場所が取れないんです……。

木村氏:
 インディーだって締切はありますよ? 誤解されないように、いちおう断っておかなくちゃ(笑)。

──(笑)。

インディーか同人か。ふたつを隔てるのは“気持ちの壁”

トビー氏:
 皆さんそうだと思うんですが、僕は昔から、インディーと同人はどう区別すればいいのかわからなくて。「もしかしたら、そういう言葉があるだけなのかな?」と思ってきました。
 強いて言えば、「同人ゲームはアニメのキャラクターがたくさん出るインディーゲームのことを指すのかな?」くらいの感じで。

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ZUN氏:
 あ、その感覚は間違いじゃないです。同人ゲームでは、やっぱり女の子を主役にしたものが売れるので、『東方』も女の子が多いんです。僕の感覚ともあまり変わりませんよ(笑)。

トビー氏:
 そうだったんですか(笑)。

木村氏:
 だいたい5~6年前から、あれはインディーだから、これは同人だからと、みんなが言い争っているところを見てきましたけど、本っっっ当にどっちでもいい。
 「おもしろいゲームを個人で作った」ぐらいまでならほかと区別はつくんですけど。おもしろいのなら、もうどっちでもいいんじゃないのかな。ダメなの?

ZUN氏:
 そうですね。でも、なぜみんながそこを区別したがるのかについては考えたいですよね。

木村氏:
 僕がいつも思うのは、だんだん世界が平たくなってきているということです。世界的に大きなゲームメーカーも、個人制作の中学生も、ZUNさんも、トビーも、ゲームを遊ぶお客さんから見たら、みんな同じ地平に並んでいるという。昔とは世界が違うんですよ。

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 この感覚をサッと受け入れて、「オレも勝負する」と言える人は、インディーか同人かで文句を言ったりはしないんです。
 一方で、ふたつを区分けする壁がなくなったことに対して、「土俵が違うんだから、壁は作ったままにしておいてよ!」と言う人もいます。区分けしたい人は、区分けしたい人どうしで言葉を投げかけあっているのかもしれない。

──ああ、なるほど。そういう心持ちの問題なんですね。

木村氏:
 インディーというムーブメントは、「フラットな世界で、大きなデベロッパーでゲームを作るのも、アプリを作るのも、インディーゲームを作るのも、パブリッシャーがいなくても、誰でも自由にSteamやどこかのストアで売れるよ」ということ。

 だから、「パブリッシャーは、宣伝してもらうために手を組むものだ」というふうに、逆転した価値観も生まれています。過去に囚われず、この世界にいきなり誕生した人間は、「なぜそんな区分けでもめてるの?」となるんです。

──同人って、要するに『ホトトギス』などの文芸誌みたいなものですよね。「同人と名乗るからには、同じ趣味や同じ志の人たちがいるんだよ」という表明でもあります。

ZUN氏:
 その話で言うと、同人は同人の側から区分けしたいんですよ。

木村氏:
 壁を破られたくないわけです。

ZUN氏:
 外から見たら「同人レベルだ」と言われるようなものも、壁の中から見て、「ほら、同人だから」と言いたいところもあるという……。あえて壁を作ることで、それを売りにするんですよね。これもある種のブランドです。
 ただ、僕としては、「同人とインディーは違う」と感じてきたのが、そのブランドの根底にあるものの差です。もともとインディーは「オレたちでもゲームは作れる」とか、「小さいゲームが作れる」というインディペンデントなイメージだと思います。

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 同人は、目的が“ゲームを作ること”というよりは、“制作している自分”なんです。つまり、極端なことを言えば、自分が楽しんでいるからゲームは完成しなくてもいい。だから延々と体験版を出し続けている人もいるくらいです。
 そういう人に何度か「完成させてよ」と言ってみたりもしましたが、途中でそれに気づいて思い直しました。……延々と作り続けているだけでも、楽しいんですよ(笑)。

木村氏:
 インディーだと、「完成させて成果として売ってゴール!」みたいなところがありますね。

ZUN氏:
 そう。インディーは売れたものが正義ですけど、同人はそうではないんです。「好きでやってんだよ」というのは、そこなんですね。
 それは、オリジナルでも二次創作でも。二次創作は最終的に売れなくても問題ないんです。だって、自分が好きだから。

木村氏:
 この話、心が揺らぎますね。同人スピリッツがうらやましくなってきました。
 その話は、「だから同人のほうがおもしろいゲームが出る」と言っているのと同じことだと感じます。だって、「メシを食うため」という縛りさえないんだもの。“心が自由”じゃないですか(笑)。

ZUN氏:
 これからは、“インディーの流通で同人マインドで作る”ことが主流になるだけの話で……。
 コミケで売るというあの文化もけっこう限界にきていますし、とくにゲームはそうだと思います。もう同人ショップに買いに来る人もいませんから、そこでものを売るということがけっこう厳しいんです。

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 「流通を考えたら確実にそこで売るのがいい」という定説はもうありませんから、心だけが残っていく感じです。
 その心を持ったままふつうの流通……僕もSteamなどで売っていますが、たぶんそういう感じになっていくんだろうと思います。あとは自分の心をどこへ帰依させるかだけです(笑)。

木村氏:
 うーん、なるほどね。

ZUN氏:
 けっきょく、「僕はたまたま同人だった」というだけのことだと思います。

トビー氏:
 僕の中のインディーゲームには、「ほんの数人が売り上げのために作っている」というイメージがあります。
 もちろん楽しんで作っていますが、最終的な目的は売ること。だから同人のほうがファン精神があると言いますか、二次創作的ですよね。

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ZUN氏:
 そうですね。だから二次創作はインディーではやりづらいんですよね。

木村氏:
 そこは確実に違いますもんね。そこも自由で楽しそうだなあ!!

ひとりで作ることと大勢で作ることの違い

木村氏:
 ZUNさんとトビーの話を聞いていると、うらやましくもあるけど、僕とはぜんぜん違うとも思います。
 と言うのは、ふたりはほぼひとりでゲームを作っていますから。僕も中学、高校時代には、ひとりでパソコンに向かって作っていたこともあるんですけど、大学時代くらいから数人でものづくりするようになったんです。

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 チームの中で僕はディレクターや演出を務めます。要は全部自分でやらないんですね。
 違う人間と合体してひとつのゲームを作るのは、すごくたいへんですが、おもしろくもあります。いまのOnion Gamesみたいな少人数体制だと、限りなくひとりで作っているような感じで小回りも利いて楽しいのですが、ひとりでの開発とはやはり違うんです。

 ひとりでゲームを作るうらやましさは、とにかく「人に命令しないでいいこと」だと思うんですね。誰かに頼んだものがダメだったときに、いちいち「ダメ」と否定しないといけないのは、けっこうしんどいことなんですよ。
 それがないゲーム制作は、心がすり減らなくていいですよね。まあ、僕の場合は結局「ダメ」って言うんですが(笑)。

ZUN氏:
 僕もそれができなくて。人に頼んだものは全部オーケーにしちゃう。

トビー氏:
 僕はちゃんと「こういうふうに変えてください」と言いますよ。それで出来上がったものにまだ不満が残っていたら、自分でいじることもありますが……。でもこれも、小人数のチームだったからできたことだと思っています。

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 テミーが手掛けたスプライトやアニメーションはすばらしいんです! 僕が自分でいじったのは、マップに出たときのキャラクターの顔などで……。だから、もしヘンな見えかたをしていたら、テミーじゃなくて僕のせいなんです。

一同:
 (笑)。

木村氏:
 まあでも、心がすり減るばかりじゃなくて、みんなで作るとやっぱり強烈におもしろいんですよね。お互いに手の届かないところを人に作業してもらっちゃうわけですから。
 それに何人かで作るとすごく勢いがつくんですよ。成功するときも、失敗するときも(笑)。

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ZUN氏:
 (笑)。

木村氏:
 Onion Gamesには7人くらいがメインの開発メンバーとして在籍しているんですけど、この7人でひとりの人間なんですよね。

ZUN氏:
 なるほど。僕も、それくらいの数を超えちゃうと人以外のものでゲームを作っている感覚になるかも。

木村氏:
 これがたぶん30人規模のゲーム開発になった瞬間に、僕はとんでもなくしんどくなって、現場から逃げ出してしまう可能性があります。マネジメントみたいな概念が必要になってくるので。

ZUN氏:
 ひとりひとりが、脳だ、顔だ、手足だと分かれているところでしっちゃかめっちゃかに動いたら、「あ、うまく走れた」みたいな感じになるんですよね(笑)。大きな人間になる。

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トビー氏:
 30人のチームだったら、ひとりの人間に肝臓が30個ある、みたいなことになっちゃいませんか?

ZUN氏:
 肝臓(笑)。ゲームを作る人はつねに脳でありたいはず。でも、脳が何個もあるとちょっとキツいかな。

木村氏:
 肝臓は2個あっても大丈夫かもしれないけど、脳が何個もあるとマズいね(笑)。
 まあ、ひとりで作り続けるのも、7人で作り続けるのもいいじゃない。おもしろいものができれば! あと、僕が感じているのは、「あと何本作れるのかな?」ということで……。

──もしや、残りの人生の話ですか?

木村氏:
 そう。どうしてもカウントし始めちゃうわけ。

ZUN氏:
 それ、わかります(笑)。

木村氏:
 大事な何本かのうちに、心から作りたいと思わないものがあったら相当不幸だなあと思って。だから必死に「何を作りたいのか」と自分に問いかける時間も必要です。

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 そういうときに、ふと「7人じゃなくて3人体制?」だとか、「20人掛かりで作るようなゲームを思いついているけど、オレはまたそんな世界に戻るのか?」だとか、いろいろと思い悩むわけですよ。
 でもZUNさんは、「オレはひとりでいく」みたいな意志がガツンとあるわけじゃないですか。そのスピリッツがうらやましいと言いますか。僕なんかは揺れちゃって……。

ZUN氏:
 そんな(笑)。僕もちょくちょく変わりますよ? 考えかたは。

木村氏:
 そうなの? ZUNさんが20人で大規模ゲームを作るなんて話になったら、もう大騒ぎですよ?

ZUN氏:
 やるかもしれないですよ? それがイヤでこうしてひとりでやっているわけじゃないので、必要に応じて変えたっていいわけですし。トビーさんはどうですか?

トビー氏:
 基本的にひとりですが、不得意な分野は人にお願いしています。『UNDERTALE』のオーバーワールドの主要なキャラクターはテミーに、背景はMerrigoにお願いして、タイル作成はKenjuに担当してもらいました。だけど、みんなが忙しいときは自分もやりました。

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ZUN氏:
 ということは、絵は不得意なの?

トビー氏:
 いちばん不得意なのはプログラミングです。でも、プログラマーを雇ったら、その人を信頼しなきゃいけませんよね?
 その点、絵はいちばん人に任せやすいと思って。

ZUN氏:
 確かにそうかも。

木村氏:
 ダメな場合も直しやすいしね。

ZUN氏:
 Onion Gamesの場合はちょっと違うかもしれませんが、小規模のチームではプログラムをメインでやっている人じゃないとゲームの中をいじれないんですよね。
 だから、ほとんどのインディーゲームや同人ゲームの代表はプログラマーなんです。プログラムが好きじゃなくてもやらざるを得ない(笑)。

トビー氏:
 そうですね。

木村氏:
 プログラムでゲームを作る楽しさを解っていない人が、プログラマーに注文するのは無理ですよね。なんとなくおもしろそうなゲームを思いついたからといって、プログラマーと話をするのは難しいんじゃないかと。
 じつは僕の場合、「ヘンなルールだけど、ホントにおもしろいかなあ?」と思ったとき、家でちょこちょこ作ったりもします。難しくない、簡単なものならですけど。

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 ゲームって結局プログラムなんですよね。自分でゲームの構造を考えてプログラムが書けないと、おもしろさや作っているうちにひらめいた要素を落とし込めません。本当ならゲームを作るときは、手を動かして、全部自分で作るような気合いがないとダメかもしれない。

 鬼ごっこが、実際に遊んでいる人にしかコツはつかめないし、おもしろくなるアイデアが思いつかないように、傍から見ているだけでは生まれないアイデアも、プレイヤー本人なら生み出せます。
 そしてそれは、プログラムを組んでいる最中じゃないと生まれないということがあるとも思うんです。

 ふだんディレクターをしている僕ですが、事情があって自分でプログラムを組んでいるときにふと思い出すんですよ。「ああ、けっきょくはプログラムしている人間がおもしろくないと、ゲームはおもしろくならないな」と。

ZUN氏:
 なるほど(笑)。

木村氏:
 みんなで作ることって、そういうことなんです。プログラムの人だけでなく、絵の人も音楽の人も、みんなそれぞれがおもしろさを発見しないといけない。
 それがもし作業的にToDoをこなしているだけになってしまったら。その瞬間にゲームを作ることがつまらなくなってしまうので。

ZUN氏:
 もっとシンプルに言うと、おもしろいものを考えて、プログラムで再現したのがゲームじゃないんですよね。プログラムは、マシンを自分で操作すること。
 その操作が自由になるほどマシンから出るものがおもしろくなるはずなんです。もしかしたらマシンのほうからおもしろいものを教えてくれるかもしれない。

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木村氏:
 それ! それです。

トビー氏:
 そのとおりですね! テストプレイ中にバグが出たけど、それがおもしろいから活かしたりもします。そういうことも、ゲームから返ってくるもののひとつですよね。

ZUN氏:
 とくに弾幕なんてそればっかりです(笑)。想像して作ったものと違うものが出たけれど、そのほうがおもしろかったり。

木村氏:
 おもしろいバグっていっぱいあるよね。何にせよ、作っているときに感じたものが正義だから。これはプログラムを組んでいる人が最初に感じることかもしれませんね。

『BLACK BIRD』のアイデアは5年前から温存されていた

──木村さん、なぜ『BLACK BIRD』はシューティングゲームなんですか?

木村氏:
 ……僕はふだん質問には正直に答えるようにしているんですが、今回ばかりは答えづらいなあ。
 だって、『東方』と『UNDERTALE』のファンの方が読む記事でしょう? 余計なことは言わないほうがいいんじゃないのかと……。

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ZUN氏トビー氏
 (笑)。

木村氏:
 ……まず、2013年にZUNさんのことを知ったとき、「なぜこの人はシューティングゲームを作れて、オレは作れていないのか」と嫉妬したんです。
 すぐ嫉妬する性格なうえにあまのじゃくなので、そこから弾幕じゃないシューティングを作ってやろうと思い、「シューティングゲームとは何だろう?」と真剣に考えました。

 あんなにものスゴい弾幕を出す敵と、そいつを倒す自機がいる。「台風みたいだな、嵐みたいだな」と、ずーっと思考をくり返していたら、“横スクロールでもなく、縦スクロールでもない、弾幕が出なくてもゲームは作れる”と思い至って……。

 それがZUNさんに会った後ですから、2014年くらい。頭の中のアイデアをまとめて、倉島さん(倉島一幸氏)に頼んで1枚の絵を描いてもらったんです。それはいまの『BLACK BIRD』の画面とほぼ変わらない静止画でした。
 僕は「すぐにでも作りたい」と言っていたんですけど、『Million Onion Hotel』は完成していないし、『勇者ヤマダくん』は作らなきゃいけないしでなかなか着手できず……。

ZUN氏:
 そんなに前から考えてたんですね!

木村氏:
 僕は、作りたいものを1枚の絵にしてずっと温めているタイプなんです。それをもとに2016年にプロトタイプを作ったら、けっこうおもしろかったんですよね。

 「なあんだ、オレ、シューティングゲーム作れるじゃん」と思ってちょっといい気になって(笑)。だから、ZUNさんの影響は多大にありますよ。ただ、そのまま素直に作れない性格で……。こんなこと、ZUNさんやトビーの前で話すのが恥ずかしい……。

一同:
 (笑)。

木村氏:
 僕は嫉妬心でものを作ることが多いんですよ。ZUNさんが毎年ゲームを出すところや、シューティングゲームなのにキャラクターが立っていて、世界観やストーリーが見えるところ。
 ひとりで音楽も何もかも作っちゃうところとか、もう「その考えかたもあるのか!」と感心するばかりなんですよね。しかもそれが大ヒットしている。

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 一般的なメーカーがお金をかけて続けているシリーズ作品に比べて、ZUNさんが地道に続けて、いつの間にかお客さんを巻き込んでスゴいことになっているこの『東方』というものに関しては、奇跡の力すら感じますよね。
 こんなにスゴい作品に対して、よくも「オレだって作れるわ」とやってきたなと自分で自分に思いますよ(笑)。

──けっきょく、ものスゴく正直に答えてくださいましたね(笑)。

木村氏:
 本当は怖いんですよ……。ZUNさんファンの方たちのコメントを見ているとドキドキするの。「この人たちがオレを叩きにきたらどうしよう?」って。
 でも、たくさんの方が『勇者ヤマダくん』を遊んでくれていて。『ヤマダくん』と『東方』のコラボも反響が温かかったです。

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(画像は『勇者ヤマダくん』公式サイト | お知らせより)

ZUN氏:
 基本的に『東方』ファンの皆さんはやさしい方たちばかりですよ。でも僕に対してはけっこう厳しいの。それは愛があるからと思っていますけど(笑)。

木村氏:
 しかし、シューティングゲームを作るのはたいへんですね。あと3年遅かったら作り切れなかったかもしれませんでした。というのも老眼なので弾を避けるのが……(笑)。
 『Million Onion Hotel』のときも厳しかったけど、1/60秒で動いているものを目で捉えていくことが、肉体的にツラくなってきました。

ZUN氏:
 僕なんてとっくにそうですよ(笑)。あの弾幕を避けるのに必死だもの。そりゃあ『UNDERTALE』のアイツも倒せないわけですよ。

トビー氏:
 (笑)。

──トビーさんは木村さんの『BLACK BIRD』を遊ばれていかがでしたか?

トビー氏:
 そうですね……。とても木村さんっぽかったです(笑)。

一同:
 (笑)。

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トビー氏:
 敵はヒゲのある『勇者ヤマダくん』っぽいキャラクターで。最初に少女が死んで、卵になって、その卵からブラックバードが出てきて敵を倒すっていう設定も、すごく奇抜だと思いました。それから……。

木村氏:
 ク、ク、ク……。オーケー(笑)。もっと聞きたいけど、何を言われるのか怖くてしかたがないよ。

ZUN氏:
 さすがにこの場でけなせないでのでは?(笑) まあいろいろな感想は、やさしい『東方』ファンの皆さんが教えてくれますよ(笑)。

応援してくれるファンとの関わりかた

──インディーや同人は、規模感が小さめなだけに、ファン・コミュニティーとの距離感も近いと思います。とくにZUNさんやトビーさんはファンから愛されていると思うのですが。ファンとの関わりかたで、皆さんが思うことはありますか?

ZUN氏:
 僕の場合は、極力他人事にしていると言いますか、ファンの方はファンの方で自由にしていていただいて、こちらからは干渉しないようにしています。

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 もうみんな好きに遊んで、好きにやめて、好きにけなしてくれてかまわない。もちろん僕のほうからは「この人はスゴくいいファンだ」とか、そういうことも言いません。
 ただ、実際の自分はそうではないので、どうしてもファンの影響で作るものも変わっていきますし、ファンがいないと作品は作れないと思っています。だから、つかず離れずがいいと思っています。

トビー氏:
 そうですね。干渉しないのがいいと思っています。たとえば僕が何かをリツイートして「いいね」とコメントしたり、逆に否定的なコメントをしたら、スゴく問題になると思いますし。

──トビーさんがお面をしているのも、そういう一歩引いた姿勢からきているのでしょうか?

トビー氏:
 これは自分の自我を守りたいと言いますか、イベントなどでファンの方に囲まれても困ってしまいますので。

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 あとは僕がもともと不安を感じやすいタイプなので。じつは、家から出るだけでも不安なんですよ。……でも、お面で隠すほどみんなにバレちゃう(笑)。

ZUN氏:
 ミステリアスだから、さらに追及したくなるしね(笑)。
 まあでも、インターネットが当たり前にある若い世代の人たちほど、個人情報をすごく高く見ていると思います。だからできる限り自分の情報を出さないようにしているんですよ。

木村氏:
 えー、気づいたら僕は顔出ししてましたよ……。でも、このふたりほど大量にファンがいるわけではないですしね(笑)。

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 ただ、長年寄り添っていてくれているファンの方は、相当な熱量で応援してくださるので、発売日に売れる量が凄まじいんです。
 これは特殊なことなので、ファンの方たちをスゴく大切にしないといけないと思っています。これからも僕たちが作るゲームを遊んでもらいたいですからね。

──木村さんは皆さんと比べると、比較的積極的にコミュニティーに力を入れていますね。

木村氏:
 まわりから「前へ出ていけ」と言われているから、という理由もあります。というのも、「ゲームを作る時間を減らすのはよくない」と思っているんです。ただその時間をより充実させるためには、ゲームを遊んでくれるお客さんを大事にしなくちゃいけないなと。

 ゲームって、つぎの作品を出すまでにスゴく時間がかかるじゃないですか。仮にそれが1年だったとしても、その時間のぶんだけお客さんを待たせるわけですから。「グッズを出したら喜んでもらえるかな」とかいろいろ考えるんですよ。

ZUN氏:
 木村さんはきちんとファンサービスをしていらっしゃる方だと思いますよ。

3人それぞれの、「ゲームを作る理由」

──今日の話の至るところで断片的に語られていましたが、まとめとして皆さんがインディーや同人をチョイスして、ゲーム作りをされている理由を改めて伺えればと思います。

木村氏:
 難しい質問だなあ。

ZUN氏:
 でも、答えはシンプルですよね。

木村氏:
 身も蓋もない話をすると、僕はゲームを作ること以外でお金を稼ぐ方法を知らないんです。一度ほかの仕事をアルバイト情報誌で探して履歴書を送ったこともあるんですが、ふつうに落とされましたよ。

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トビー氏:
 ジーザス!

一同:
 (笑)。

木村氏:
 2012年のあの時期に、さんざんいろいろなことを試して、「ああもう本当にゲームを作るしかないんだ」とわかったんです。

──ZUNさんはいかがですか?

ZUN氏:
 うーん。いろいろ思い出してみていますが、確かに「なぜ僕はゲームを作っているのか?」と自問自答しちゃいますよね。「子どものころからゲームが好きで、ゲームばかり遊んでいたからかな?」とか。正直に言うと、それしかないのかもしれません。
 僕は、「将来何をすればいいか」とか、「どこで働けばいいか」ということは、ほぼ考えたことがありませんでした。「どこで働くために何をする」という、実益的な勉強をしたことがないんですね。考えてみれば、ゲーム以外も含めてですけど、自分の好きなものしか見てこなかったなあと……。

『UNDERTALE』トビー・フォックス×『東方』ZUN×Onion Games木村祥朗鼎談_057

 大学時代に初めてパソコンに触れ、音楽も好きだったので「作ってみるか」という感じで音楽を作り。「それをゲームミュージックとして流したい」と思ったので、プログラムを勉強して……とやっていたら、「自分でゲームが作れる!」と気づいたんですね。

 就職に関しても、「じゃあゲーム会社に就職すればいいんじゃないの?」という感じでした。とはいえ就職氷河期なので、みんな必死で就職活動していて。
 なのに僕はわりと気楽で「ダメでもいいんじゃないの?」と……。たまたまうまく就職できたんですが、いままで自分の好きなことしかやってこなかったのが仇になって、会社でなかなかうまくいかないんです(笑)。

木村氏:
 あらー(笑)。

ZUN氏:
 会社での評価は“仕事ができる人”だったので、どんどん自分の仕事量や負担が大きくなってきて。そうなると、現状と自分が本当にやりたいことが少しずつ乖離していくんですよね。そのころから、「ゲーム作りって、こうだったっけ?」と考えるようになり、ようやく「自分の将来に対してどうしたらいいか」と勉強を始めたんです。

『UNDERTALE』トビー・フォックス×『東方』ZUN×Onion Games木村祥朗鼎談_058

 「ゲームを作るって、どういうことなんだろう?」とか、「いまの時代だったら、別に会社に所属して作る必要はないんじゃないかな?」とか。「コミケだったら学生時代に経験してるぞ」ということで、もう一度コミケに行ったという。

 その後はゲームに合った自分の生きかたや考えかたを作って、もう何年もずっとやってきているので、「ゲームをなぜ作っているか」という質問の答えは、僕の場合、“ゲーム自体が人生だから”です。だからもうしょうがない。「運命みたいなものなんだ」と思って(笑)。

木村氏:
 ZUNさんと話をしていると、相当達人だなと思うんですよ。自分の道を究めて、まっすぐ進んでいるから。
 僕はZUNさんよりも相当なオッサンなんですが、いまもなお、「このままゲームを作っていけるのか微妙だ……」と思いながらやっているわけです。だから、なんだろう……1回大ヒット作を作ってみたい(笑)。

ZUN氏:
 それは僕もですよ(笑)。

木村氏:
 してるでしょ!(笑) ZUNさんやトビーみたいに、結果としてこれだけ売れたりすると、「これが僕の人生です」というセリフがすごくカッコイイわけですよ。納得度も高いですし。

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 それに引き換えヤバいのが、僕くらいの年齢で、社長としてのパワーバランスや、会社を運営していくうえでのいろいろな技術をほどほどに得たうえでも、まだもがいているということ。ね? どうしても比べちゃうじゃないですか。
 だから本当に、ゲーム単体で、たくさんの人がそれを支援してくれるという構図にすごく憧れるんです。「ゲームひとつの力でみんなが喜んでくれる!」と。そんなことになったら、本当に心が楽だろうな。

ZUN氏:
 いま楽じゃないんですか?

木村氏:
 ……いや、そうなれば本当に気持ちいいと思う。歳をとってオッサンになった僕がいま思っているのは、「人生を通してゲームを作るのには、やっぱりチームが必要なんじゃないか」ということです。
 「チームじゃないと限界ギリギリまで作って死ねないんじゃないか」って。いや、会社のみんなには「死ぬまで付き合え」とはとても言えないですけど(笑)。

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 そういうことを考えると、けっきょく「ゲームは人生です」みたいな話に帰結せざるを得ないですよね。でもわからないですよね? 突然Onion Gamesが消滅したら……。僕もまた就職活動をするかもしれませんし。

──それでもゲームからは離れないですよね?

木村氏:
 そうですね、たぶん離れないと思います。

ZUN氏:
 僕は10代から『東方』を作り始めて、20代でいちばん盛んに取り組んでいたときに、30代を過ぎたあたりのことを考えていました。ずっと『東方』を作っていくことはないだろう、ということを考えていたころもありました(笑)。

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 意外かもしれませんが、僕は一生ゲームを作りたいわけじゃないんです。人生設計というか、“自分が幸せでいられる道を進む”というだけであって。
 以前は顔出しもしていませんでしたが、それをやめたのもすべてこの流れからです。

木村氏:
 僕はおもしろいゲームを作る人がうらやましいんですが、そういう人たちがどこにいるかと言うと、どこにでもいると思うんです。大きな会社にもいるし、インディーや同人にいるかもしれない。中学生にも、高校生にも、小学生にもいるかもしれない。
 僕はインディーのオッサンとしてがんばっているので、よく「何でインディーゲームをやっているんですか?」と訊かれるんです。中には「会社などの組織がイヤで、自由にやりたいから」と答えさせたくて、そう仕向ける訊きかたをしてくる人もいます。……でもそれはすごく馬鹿げているなと。

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 インディーゲームをやり始めていちばん体感したのは、「自由な気持ちで作ると、けっこうな能力が発揮される」ということでした。
 僕がトビーを見ていてうらやましいところは、心が自由なところ。『UNDERTALE』は、設計したというよりは、たぶんアドリブでいろいろなものをいっぱい足したんだろうなと。

ZUN氏:
 そうそう。トビーさんは自由だよね。

木村氏:
 「自分の心のままにしたら、おもしろいものが作れる」ということが、いちばんパワフルじゃないですか。これが「何かに縛られている」と感じたら発揮されないので。
 だから「大きい会社にいたら自由じゃない」みたいな憶測が生まれるのかもしれないけど、大きい会社にいても自由なヤツはいるのよ(笑)。

──おふたりの話を受けて、トビーさんがこれから、どうゲームと付き合おうとしているのかを聞かせてください!

トビー氏:
 ノープランです!

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一同:
 (爆笑)。

ZUN氏:
 あー、まだ若いからね。むしろ、ここからだよね? ゲームに対してあれこれ考えていくのは。

木村氏:
 そんなのぜんぜん余裕でしょう。だっていま26歳だよね?

トビー氏:
 はい!

木村氏:
 その若さで「これから一生ゲームを作り続けます!」と答えたら、逆にちょっと心配しちゃうかも(笑)。
 いまはひとつのゲームが大成功したんだから、この後まったく関係ない分野にいきなり飛び立っても、何回でも挑戦できるよ。とりあえずハリウッドでデビューしてみるというのはどう?

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トビー氏:
 ハリウッドですか!?(笑)

ZUN氏:
 しかし26歳か……。僕が『妖々夢』を作った歳ですよ。

木村氏:
 僕も『moon』を作った歳です。

トビー氏:
 オー! でも、光田さん(光田康典氏)『クロノ・トリガー』で作曲家デビューしたのは23歳ですよ。

ZUN氏:
 詳しいね(笑)。まあ20代がいちばん自由で、意欲的に作品が出せるタイミングですよね。
 そこから先は、自分が歩みたい人生に対して、「自分の作品をどう合わせていくか」を考えていくことになるのかな。いままさにトビーさんは自由に作っているタイミング。ここからですよ。

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トビー氏:
 そう言われると緊張します(笑)。

木村氏:
 僕の前にZUNさんが現れたとき、「ZUNさんは自由だなあ」と思って。こういう“出会いのマッサージ”を受けると、頭が柔らかくなって、いろいろな道を見つけやすくなれるよね。
 トビーだって突然現れて、年齢はぜんぜん違うけれど、すごく感じるものがあって。「オレもRPG作れるんじゃないか?」と思うもんね。僕、こんなのばっかりですよ(笑)。

トビー氏:
 僕から影響を受けたんですか? ちょっと意外です(笑)。

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ZUN氏:
 なんか影響の受けかたが……(笑)。

──ZUNさんはトビーさんに多大な影響を与えていらっしゃいますね。

ZUN氏:
 いやいや……。驕っているわけじゃないですが、自分が作ったゲームを遊んでくれた人が、世界的に有名なゲームクリエイターになって。
 そこに至っても「『東方』が好き」と言ってもらえたので、スゴくうれしいです。「僕はスゴいものを作ったんだな」という気持ちにさせてもらえますから。

トビー氏:
 ZUNさんに喜んでもらえて、僕もうれしいです。20年後には、いまのZUNさんと同じような立場になって、「私も20代のころ『UNDERTALE』を作りましたよ」と、何かのインタビューで答えたいですね。

ZUN氏:
 いいですねー! 『UNDERTALE』に影響を受けてゲームを作る人も、将来的に出てくると思いますしね。ああ、そういうのがいいなあ。

トビー氏:
 やっぱり自分が得意なこととなると、ストーリーを考えて、絵を描いて、作曲をすることなので。
 それだけなら映画やアニメも作れそうですけど、僕はプログラムもできますから、やっぱりゲームを作っていくのだなと思っています。(了)

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 「自分が歩みたい人生に対して、自分の作品をどう合わせていくか」というZUN氏の言葉は、やりたいこととやらなければならないことの狭間でバランスを取りつつ作られていく職人的なゲームともまた違った、自由さのにじみ出る同人・インディーならではの言葉に思えた。
 個人が色濃くにじみ出たそれらの作品は、ある意味で人生や生きかたそのものなのだ。

 『UNDERTALE』がそうであったように、好きなゲームや音楽があって、どこかで「好き」と「好き」が繋がり、また新しい自由な心が生まれ、その伸びやかな心から、パワフルで愛らしい作品が生まれる。
 この出会いこそが同人やインディー最大のモチベーションであり、シーンを盛り上げる根源であり、本当に新しいものが現れる数少ない場なのかもしれない。

 そうして“自分が幸せでいられる道”を経て生まれた新しいものは、きっと見たことがないような幸せな形をしていて、触れたプレイヤーの心に必ず何かを残すだろう。
 トビー氏、ZUN氏、木村氏の新作はもちろん、『UNDERTALE』に影響を受けたどこかの誰かの「好き」がたくさん詰まったゲームが芽吹くタイミングが楽しみでならない。

(C) Toby Fox 2015-2018. All rights reserved.

(C) 2018 Onion Games, K.K.

(C) 2002-2007 ZUN. All rights reserved.

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 過日の東方ステーション#14で発表されたとおり、「東方ステーションWEBマガジン presented by 電ファミニコゲーマー」の制作が決定しました。
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インタビュアー・ライター
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奥村キスコ
元週刊ファミ通編集のフリーライター。
インタビュアー・ライター
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週刊ファミ通、ファミ通.comなどを経て、電ファミニコゲーマーに参加。
Twitter:@koyamaondemand

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